最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

女性用ストッキング販促ツールデザイン事件

大阪地裁平成24.1.12平成21(ワ)3102著作権侵害差止等請求事件等PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2012.1.30
*キーワード:著作物性、請負契約、契約締結上の過失

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■事案

女性用ストッキングなどの販促ツール(ポスターや陳列ボード等の)制作に関してツールのデザイン画の著作物性などが争点となった事案

本訴原告・反訴被告:販促企画制作会社
本訴被告・反訴原告:販促企画制作会社
本訴被告        :衣料繊維会社

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■結論

請求棄却(本訴・反訴)

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■争点

条文 著作権法条2条1項1号、民法641条

1 著作権侵害に基づく損害賠償請求等
2 民法641条の解除に伴う損害賠償請求
3 契約締結上の過失に基づく損害賠償請求
4 08SSツールにおける原告の債務不履行に基づく損害賠償請求
5 08SSツールにおける原告の不法行為に基づく損害賠償請求

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■事案の概要

『当事者の請求
(本訴請求1)
 原告は,被告らが,本件デザイン画の著作権や同一性保持権を侵害しているとして,被告らに対し,著作権に基づき,本件デザイン画の複製,翻案の差止めと,著作者人格権に基づき,謝罪広告を求め,著作権侵害を理由に,2356万5396円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(本訴請求2)
 原告は,被告プラスアイが,08AWツールの製造にかかる契約を途中解除したことに伴い,解除による原告の損害(契約が継続された場合の得べかりし利益)を賠償する義務があるとして,被告プラスアイに対して,1521万8274円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(本訴請求3)
 原告は,仮に,本訴請求2が認められない(08AWツールの製造契約の成立が認められなかった場合)としても,被告プラスアイが,08AWツールの製造契約が締結されないかも知れないことについての説明を怠ったため,原告は08AWツールの製造契約も締結されると信じ,不要なディスカウントをしたとして,被告プラスアイに対して,契約締結上の過失に基づき,1015万9250円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(反訴請求)
 被告プラスアイは,原告に対し,原告が虚偽の利益率を報告し,不当に高額な製造費を支払わせたなどとして,付随義務違反や二次下請禁止義務違反などを理由とする債務不履行(選択的請求1),又は,虚偽の利益率を報告したことなどを理由とする不法行為(選択的請求2)に基づき,443万6230円の損害賠償及びこれに対する年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている』事案(7頁以下)

<経緯>

H19.7 被告プラスアイと原告が08SSツールの制作請負について交渉、発注。印刷は、訴外エスアート
H19.12契約書作成
H20.1 被告プラスアイが原告と08AWツールの制作請負について交渉、発注
       原告が制作費の見積書を提出。制作開始
H20.3 原告が製造費の見積書を提出。被告プラスアイが他社に相見積り
H20.5 被告プラスアイが原告に対してラフ案制作までの発注とすることを通告
H20.6 原告が被告プラスアイに対して複製禁止の通告書面送付

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■判決内容

<争点>

1 著作権侵害に基づく損害賠償請求等

原告は、販促ツール(展示会や店頭において商品を陳列する際に商品を紹介、宣伝するためのポスターやトップボードなど、販売促進用に使用するもの)のラフ案(本件デザイン画)について、これらは著作物性を有するものであり、制作した原告に著作権が帰属すると主張しました(35頁以下)。

この点について、裁判所は、商品イメージやキャッチフレーズ、モデルの写真などの素材は、被告らから提供されたものであって、原告が制作過程において行った作業は、デザイン、レイアウト(素材のレイアウト)、配色、仕上げの各作業に過ぎず、本件デザイン画に著作物性(著作権法2条1項1号)を認めることはできないと判断しています。
また、原告は、被告らの指示に従って本件デザイン画を制作しなければならず、少なくとも被告らの意向に反して創作性を発揮することはおよそ許されない関係にあったとして、この点も踏まえて原告の作業による新たな創作の余地も否定しています。

なお、念のためとして、仮に本件デザイン画に著作物性があり原告に著作権が帰属していた場合についても検討されています(39頁以下)。
この点について裁判所は、原告から被告らへの著作権の譲渡の事実は認められないものの、原被告間では、原告が少なくとも被告らに対しては本件デザイン画について著作物性を主張したり、著作権や著作者人格権を行使したりしない合意があったと認定しています。

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2 民法641条の解除に伴う損害賠償請求

原告は、08AWツール(2008年秋冬用の販促ツール)の製造についても契約が締結され、これを被告プラスアイが解除(民法641条 請負における注文者による契約の解除)したと主張しました。
しかし、裁判所は、制作についての請負契約は成立しているものの、製造については、請負契約が締結されたとは認めず、その解除も否定しています(41頁以下)。

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3 契約締結上の過失に基づく損害賠償請求

原告は、製造も一体となった契約であると考えて制作費を前年比80%減のディスカウントをしたものであるとして、被告プラスアイは契約が制作についてであって、製造を含まないものでありディスカウントが製造契約の締結に影響がないことを説明するべきであったと主張しました。
しかし、裁判所は、製造費見積り提出のタイミングやディスカウント率などから、被告プラスアイの契約締結上の過失を認めていません(44頁以下)。

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4 08SSツールにおける原告の債務不履行に基づく損害賠償請求

被告プラスアイは、原告が08SSツールについて、利益率に関するの報告義務を怠り、また、二次下請の禁止義務に違反して、二次下請を用いたことにより損害を被ったと主張(反訴請求)しましたが、裁判所は認めていません(45頁以下)。

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5 08SSツールにおける原告の不法行為に基づく損害賠償請求

被告プラスアイは、原告が08SSツールについて、虚偽の製造費を報告したことなどにより損害を与えたとも主張しましたが、この点も認められていません(47頁以下)。

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■コメント

既存の取引関係を踏まえ、販促ツールの制作から製造までを従前のように依頼しようとしたものの、他社見積もりの低廉さから、製造部分の発注は他社に変更したため、クライアント先まで巻き込んでの紛争となった事案です。
原告のサイトを拝見すると、紙製のパネル什器、ディスプレイスタンドが印象的で、今回の事案でどのようなボード等のデザイン画が利用されたのか、見てみたいところです。