最高裁判所HP 最高裁判所判例集より

「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)上告審

最判平成24.1.17平成22(受)1884著作権侵害差止等請求事件PDF

裁判長裁判官 那須弘平
裁判官      田原睦夫
裁判官      岡部喜代子
裁判官      大谷剛彦
裁判官      寺田逸郎

*裁判所サイト公表 2012.1.17
*キーワード:映画の著作物、著作者、旧著作権法、保護期間、過失論

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■事案

『旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの)の下において興行された映画の複製物を輸入し,頒布する行為をした者がその著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,同行為について同人に少なくとも過失があるとされた事例』(裁判要旨より)

上告人 :映画会社
被上告人:格安DVD製造販売会社

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■結論

破棄差戻し

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、旧法6条、民法709条

1 被告(被上告人)の過失の有無

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■事案の概要

『本件は,上告人が,著作権法(昭和45年法律第48号)の施行日である昭和46年1月1日より前に公開された映画の著作権侵害を理由として,上記映画のDVD商品である原判決別紙「被告商品目録」記載の各商品(以下「本件商品」という。)を海外において製造して輸入し,頒布する被上告人に対し,民法709条,著作権法114条3項に基づき,損害賠償を求める事案である。被上告人は,上記映画の著作権の存続期間につき旧著作権法(昭和45年法律第48号による改正前のもの。以下「旧法」という。)6条が適用されると考え,既に上記映画の著作権の存続期間は満了したと誤信していたと主張するところ,被上告人が,本件商品の輸入及び頒布をしたことにつき,過失が認められるか否かが争点となっている』事案(1頁)

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■判決内容

<争点>

1 被告(被上告人)の過失の有無

原審では、被告(被上告人)の著作権侵害行為に関する過失を否定して、損害賠償請求を認めていませんでした。
この点について、最高裁第三小法廷は、

『旧法下の映画の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを基準として判断すべきであるところ(最高裁平成20年(受)第889号同21年10月8日第一小法廷判決・裁判集民事232号25頁),一般に,監督を担当する者は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し得る者であり,本件各監督について,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,本件各映画の冒頭部分やポスターにおいて,監督として個別に表示されたり,その氏名を付して監督作品と表示されたりしていることからすれば,本件各映画に相当程度創作的に寄与したと認識され得る状況にあったということができる。』
『他方,被上告人が,旧法下の映画の著作権の存続期間に関し,上記の2(7)アないしウの考え方を採ったことに相当な理由があるとは認められないことは次のとおりである。
 すなわち,独創性を有する旧法下の映画の著作権の存続期間については,旧法3条〜6条,9条の規定が適用される(旧法22条ノ3)ところ,旧法3条は,著作者が自然人であることを前提として,当該著作者の死亡の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間を定めるとしているのである。旧法3条が著作者の死亡の時点を基準に著作物の著作権の存続期間を定めることを想定している以上,映画の著作物について,一律に旧法6条が適用されるとして,興行の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間が定まるとの解釈を採ることは困難であり,上記のような解釈を示す公的見解,有力な学説,裁判例があったこともうかがわれない。また,団体名義で興行された映画は,自然人が著作者である旨が実名をもって表示されているか否かを問うことなく,全て団体の著作名義をもって公表された著作物として,旧法6条が適用されるとする見解についても同様である。最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決・民集61巻9号3460頁は,自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく,上記判断を左右するものではない。そして,旧法下の映画について,職務著作となる場合があり得るとしても,これが,原則として職務著作となることや,映画製作者の名義で興行したものは当然に職務著作となることを定めた規定はなく,その旨を示す公的見解等があったこともうかがわれない。加えて,被上告人は,本件各映画が職務著作であることを基礎付ける具体的事実を主張しておらず,本件各映画が職務著作であると判断する相当な根拠に基づいて本件行為に及んだものでないことが明らかである。』

『そうすると,被上告人は,本件行為の時点において,本件各映画の著作権の存続期間について,少なくとも本件各監督が著作者の一人であるとして旧法3条が適用されることを認識し得たというべきであり,そうであれば,本件各監督の死亡した時期などの必要な調査を行うことによって,本件各映画の著作権が存続していたことも認識し得たというべきである。』(4頁以下)

として、被上告人が本件各映画の著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても、少なくとも過失があると判断。
原審の前記判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決中の上告人敗訴部分を破棄、原審に差し戻すとしています。

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■コメント

「暁の脱走」「また逢う日まで」「おかあさん」映画作品の保護期間を巡り、映画の著作者が各監督なのか映画会社であるのかが争われた事案の上告審となりますが、争点は、控訴審で否定された格安DVD製造販売業者(被告・被上告人)の過失の有無でした。

同一被告に対する下級審での訴訟は、最高裁判所サイト内検索で13件あって、損害賠償請求を内容とする訴訟では、すべて被告の過失が認定され損害賠償が認められていました。知財高裁第2部(中野裁判長)担当の損害賠償請求附帯控訴事件でも過失が認定されています(対松竹控訴審)。
本件の原審となる知財高裁第1部(塚原裁判長)の判断だけが過失否定の判断となっていましたが、破棄差し戻しという結果となりました。

あわせて後掲の企業法務戦士の雑感さんの記事をご覧いただけたらと思います。
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■過去のブログ記事

2010.6.28記事
「暁の脱走」格安DVD事件(対東宝)控訴審

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■参考判例

原審
知財高裁平成22.6.17平成21(ネ)10050著作権侵害差止等請求控訴事件

チャップリン「モダンタイムス」事件
最判平成21.10.8平成20(受)889著作権侵害差止等請求事件

「シェーン」事件
最判平成19.12.18平成19(受)1105著作権侵害差止等請求事件

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■参考サイト

企業法務戦士の雑感(2012.1.18)
たった一度だけだった奇跡。