最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

浄水器取扱説明書事件

大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)11439著作権侵害差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2011.12.28
*キーワード:取扱説明書、編集著作物性、著作物性、一般不法行為論

*関連事件
大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)11862商標権侵害差止等請求事件
大阪地裁平成23.12.15平成22(ワ)13746意匠権侵害差止等請求事件

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■事案

逆浸透膜浄水器の取扱説明書の著作物性や編集著作物性が争点となった事案

原告:浄水器・浄水装置等輸入製造販売会社
被告:浄水器・浄水装置等の輸出入販売会社、建設会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条1項、2条1項1号、民法709条

1 原告各取扱説明書は編集著作物か
2 原告各取扱説明書は著作物か
3 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か

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■事案の概要

『原告は,被告取扱説明書1,3の作成・頒布が,原告取扱説明書1に係る編集著作権(主位的主張),全体の著作権(予備的主張1),各頁の著作権(予備的主張2),法的に保護された利益(予備的主張3)を侵害し,被告取扱説明書2の作成・頒布が,原告取扱説明書2に係るこれらの権利・利益を侵害するとして,(1) 被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告各取扱説明書の作成・頒布の差止めを,(2)被告NMT販売に対し,不法行為に基づき,283万2000円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を,(3)被告大倉に対し,不法行為に基づき,168万6300円の損害賠償及びこれに対する平成22年8月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの遅延損害金の支払を,それぞれ求め』た事案(3頁以下)

<経緯>
H19.6 原告と被告NMT販売が総販売代理店契約締結
       被告NMT販売が製造した商品を販売開始
H21.9 原告が注意喚起文書を送付

原告製品1の1:CV−1500EX(原告取扱説明書1の1)
原告製品1の2:CV−1500SR(原告取扱説明書1の2)
原告製品2:CVQ−2000(原告取扱説明書2)
被告製品1:GW−1500EX(被告取扱説明書1、被告取扱説明書3)
被告製品2:CVQ−2000EX(被告取扱説明書2)

意匠権:1218817
商標権:4054568、4539857、4054569

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■判決内容

<争点>

1 原告各取扱説明書は編集著作物か

編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには、素材の選択、配列に係る具体的な表現形式において創作性があることが必要とされますが(著作権法12条1項)、取扱説明書における編集著作物としての保護性について、裁判所は、その性質上、製品概要や取扱方法、タイトルやイラストといった一定の表記方法が要求され、かつ、広く採用されていると考えられるとして、製品の取扱説明書に係る編集著作物性を判断するにあたっては、これらの内容や表記方法は、「原則としてありふれた表記である」ということができると説示。
その上で、原告各取扱説明書の創意工夫について、原告が指摘した、

(1) 図面、記号、マーク、具体例の使用
(2) 各種団体公認の表記
(3) 取扱説明書の趣旨及び安全上の遵守事項の記載の先行
(4) 文字サイズ、文字飾り、インパクトのある単語、マークによる強調
(5) イラスト図面・記号の使用、記載場所、大きさ等

の諸点に関して、通常行われているありふれたものあったり、そもそも「素材の選択」にも「素材の配列」にも該当しないものである、としてその創作性を否定。
また、写真、図面、説明文の配置やその他の表記もレイアウト上の工夫としてありふれたものと判断。原告各取扱説明書の編集著作物性を否定しています(23頁以下)。

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2 原告各取扱説明書は著作物か

1.全体としての著作物性

原告各取扱説明書全体の著作物性について、その記載内容が逆浸透膜浄水器の説明、各部の名称、取扱説明書の説明、安全上の注意、設置方法、使用方法、メンテナンス、トラブル対処法、保証の範囲外といった客観的事実に係るもので、それらが箇条書きあるいは短い文章で正確を期した説明がされていることから、その表現は必然的にありふれたものとならざるを得ないとして、全体としての著作物性を否定しています(25頁)。

2.各頁の著作物性

さらに原告が著作物性を有するとした各頁の個別の記載を検討しています(25頁以下)。
結論としては、いずれもありふれた表現方式であるなどとして、その著作物性を否定しています。

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3 被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か

原告は、原告各取扱説明書が様々な創意工夫をし、多大な時間と労力を費やして作成されたものであることから、これらをデッドコピーした被告各取扱説明書を原告が営業活動を行う地域で頒布することは、取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し、法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものだと主張しました(29頁以下)。
しかし、裁判所は、被告各取扱説明書は対象製品から独立して頒布されるものではないこと、また、原告各取扱説明書は著作権法上の保護を受けられず、その利用は許されるものであることから、被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為法上違法になるとは認めていません。

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■コメント

総販売代理店契約に違反して代理店が類似商品を販売したという事案です。著作権、商標権、意匠権に関する各侵害行為についてそれぞれ別訴提起となっていますが、3つの事件では契約違反に基づく損害賠償請求の点は争点になっていません。
原告取扱説明書2と被告取扱説明書2の類否を被告が争っていないなど(17頁以下)、被告販売会社設立の経緯や契約内容の詳細は不明な部分です。
結論としては、著作権侵害性は否定されたものの、商標権と意匠権の各侵害性は別訴で肯定されていて、差止めや損害賠償請求が認められています。

なお、商品の取扱説明書の著作物性については、先例として風呂バンス事件(後掲の浴湯保温器取扱説明書事件参照)がありますが、ここでも取扱説明書の編集著作物性は否定されています。

ところで、商品の取扱説明書については、商品開発者の思いを受け止めながら、客観的事実を正確に、また、利用者に読み易く、法令遵守で作成する必要があり、取扱説明書の著作物性の有無はともかくとして、その制作には文章表現のみならず、編集、レイアウト、デザイン、DTP技術など、創意と技術と労力が要求されます。
取扱説明書の作成を担当するテクニカルライターさん方は、日々その研鑽を重ねておいでです(たとえば、テクニカルライターの会参照)。
工夫を凝らした取扱説明書の先例があれば、そのエッセンスを吸収してより良い説明書を作成していく、という意味では、模倣の、そのさらに上を目指しておいでなのが、テクニカルライターのお仕事ぶりといえます。

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■過去のブログ記事

2005年12月29日記事
浴湯保温器取扱説明書事件

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■参考判例

浴湯保温器取扱説明書事件
大阪高裁平成17.12.15平成17(ネ)742不正競争行為差止等請求控訴事件
大阪地裁平成17.2.8平成15(ワ)12778不正競争行為差止等請求事件

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■参考サイト

原告サイト
ご購入に関してのご注意。ニューメディカテック株式会社のクリスタルヴァレー逆浸透膜浄水器