最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マンモスCT画像3DCG事件

東京地裁平成23.11.29平成22(ワ)28962著作権侵害差止等請求事件PDF
別紙

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.12.3
*キーワード:著作物性、著作者、複製権、譲渡権、著作者人格権、使用許諾

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■事案

マンモス標本のCT画像を加工した3DCG画像の著作物性、使用許諾の有無などが争点となった事案

原告:研究者
被告:出版社

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、19条、20条、21条、26条の2

1 本件各画像の著作物性
2 本件各画像の著作権侵害性の成否
3 本件各画像の著作者人格権侵害の成否
4 原告の損害額

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■事案の概要

『原告が,別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を発行及び頒布した被告に対し,本件書籍の本文中に掲載された別紙1記載の各画像(以下,同目録記載の上段の画像を「被告画像1」,下段の画像を「被告画像2」という。)及び本件書籍の表紙カバーに掲載された別紙2記載の画像(以下「被告画像3」といい,被告画像1ないし3を併せて「被告各画像」という。)は,原告が「マンモス」の標本のX線CTデータ等を基に3次元コンピュータグラフィックス(以下「3DCG」という。)により作成した著作物である別紙3記載の各画像(以下,同別紙記載の「1」の画像を「本件画像1」,同別紙記載の「2」の画像を「本件画像2」といい,これらを併せて「本件各画像」という。)を原告に無断で一部改変して複製したものであり,かつ,本件書籍の表紙カバーに原告の氏名が表示されていないから,被告による本件書籍の発行及び頒布は,原告が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)の侵害に当たる旨主張して,著作権法112条1項に基づき,本件書籍から被告各画像を削除しない限り本件書籍の発行又は頒布の差止めを,同条2項に基づき,本件書籍からの被告各画像の削除を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案』(2頁)

<経緯>

H15 愛知万博でのマンモス展示プロジェクト開始
H17 記者会見で原告が本件画像を公表
     愛知万博開催
H19 被告社員が原告に画像の提供と使用許諾を求めるメールを送信
     原告が被告社員に画像データと借用書を送信
H21 被告が本件書籍を刊行

本件書籍 藤井正司著「CTは魔法のナイフ」

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■判決内容

<争点>

1 本件各画像の著作物性

(1)本件各画像の著作物性

マンモスの頭部標本のX線CT画像(二次元)を元に三次元再構築モデルを作成、これらに基づいて作成された3DCG画像の著作物性(著作権法2条1項1号)がまず争点となっています(23頁以下)。
被告は、本件各画像上の原告の工夫は、ごくありふれた表現方法であったり、画像を見やすくするための技術的調整等にすぎないとして、これらの点は本件各画像の創作性の根拠とはならないと反論しました。
これに対して、裁判所は、いずれの画像も自動的に生成されるものではなく(本件画像1)、また、合成するなどして作成したもので(本件画像2)、美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されていると判断。創作性(著作物性)を肯定しています。

(2)本件各画像の著作者及び著作権者

本件各画像の作成には、原告及び研究所スタッフが関与していたことから、原告の著作者性及び著作権の帰属が次に争点となっています(29頁以下)。
この点について、裁判所は、具体的な作成作業を主導的に行った者は原告であり、本件スタッフは、原告の指示、監督の下で与えられた作業に従事していた補助者であったと認定。原告の著作者性を肯定するとともに、著作権についても原告に帰属していると判断しています。

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2 本件各画像の著作権侵害性の成否

被告画像1ないし3が本件各画像を複製したものであることが認められ、また、本件書籍の本文中に掲載することについて原告の許諾があったとも認められないとして、被告の本件書籍の発行、頒布行為による著作権(複製権、譲渡権)侵害性が肯定されています(31頁以下)。

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3 本件各画像の著作者人格権侵害の成否

被告各画像においてカラー画像を白黒画像に改変するなどしている点が、著作者の意に反する改変(20条1項)に該当し原告の同一性保持権を侵害すると判断されています。また、本件書籍の表紙カバーに掲載された被告画像3には原告の氏名が表示されていなかったことから、氏名表示権(19条1項)侵害性も肯定されています(40頁以下)。

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4 原告の損害額

裁判所は、被告の過失を認めた上で、慰謝料(30万円)及び弁護士費用相当額(20万円)の合計50万円を損害額として認定しています(43頁)。

結論として、損害賠償請求のほか、本件各画像についての著作権及び著作者人格権の侵害行為の停止又は予防のために著作権法112条1項及び2項に基づき、本件書籍のうち、被告各画像部分を削除しない限りでの本件書籍の発行等の差止め及び本件書籍からの被告各画像部分の削除を求める請求が認められています。

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■コメント

50014

本件書籍の表紙カバーより(右上のマンモス画像)

本件書籍は、CT技術開発者である筆者が一般向けにCTが非破壊検査や事故解析に利用されていることを解説する内容のものですが、画像提供者である原告と被告出版社の編集者との間のやりとりの経緯を判決文で見る限り、ずいぶんと出版社の編集者も配慮を欠く仕事をしている印象を受けます(33頁以下参照)。
争点は、原告が本件書籍への画像の掲載使用を許諾したかどうかですが、あとがきには、画像提供先への謝辞も名前を挙げて述べられており(本件書籍174頁)、これで事足りると編集者としては考えたのかもしれません。しかし、最終稿確認を画像使用の条件とする原告の意向に沿わないままメールでのやりとりに終始し、最終稿確認対応を放置して本書を出版した被告出版社側の過失は、認められても仕方がないと思われます。