最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

YG性格検査用紙出版契約事件

大阪地裁平成23.11.24平成21(ワ)20132著作権に基づく差止権不存在確認等請求事件等PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官      達野ゆき
裁判官      西田昌吾

*裁判所サイト公表 2011.12.1
*キーワード:出版契約、共有著作権、正当な理由、訴えの利益

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■事案

共有者による出版契約の更新拒絶が「正当な理由」(著作権法65条3項)を有するかどうかが争点となった事案

甲事件原告兼乙事件被告:実験心理学器械製作販売会社
甲事件原告         :共有著作権者ら
甲事件被告、乙事件原告:共有著作権者ら

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■結論

請求一部認容(甲事件)
請求棄却   (乙事件)


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■争点

条文 著作権法65条3項

1 甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるか
2 本件更新拒絶に正当な理由があるか等

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■事案の概要

『原告竹井機器は,亡P5(以下「P5」という。)との間で,平成12年1月1日に別紙1商品目録記載1ないし4の各検査用紙(以下,順に「本件検査用紙1」ないし「本件検査用紙4」といい,併せて「本件各検査用紙」という。)について,別紙2の著作物出版販売契約書に係る著作物出版契約(以下「本件出版契約」という。)を締結して本件各検査用紙を出版,販売していたところ,同契約で定められた当初の利用期間が満了したことから,原告竹井機器及び本件各検査用紙の著作権の相続人ら間で,同契約の存続を巡って紛争が生じた。
 本件のうち甲事件は,主位的に,原告竹井機器,原告P1及び同P2(以下「原告ら」という。)らと被告P3との間で,本件出版契約が存在していることの確認を求め,予備的に,原告竹井機器が,被告P3との間で,被告P3が,P5から相続した著作権の持分権に基づき,原告竹井機器がする本件出版契約に基づく出版,販売行為に対する差止請求権を有しないことの確認を求め,原告P1及び同P2が,被告P3に対し,著作権法65条3項に基づき,本件出版契約の更新に合意することを求める事案である。
 本件のうち乙事件は,被告P3及び乙事件原告P4(以下「被告P3ら」という。)が,本件出版契約について契約期間満了により終了したことを前提として,原告竹井機器に対し,被告P3らが有する本件各検査用紙の著作権の持分権に基づき,本件各検査用紙の出版,販売の差止等を求めるとともに,不法行為に基づき,それぞれ2200万円の損害賠償及びこれらに対する不法行為の日の後である平成22年3月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(3頁以下)

<経緯>

S32 P5が論文「矢田部・Guilford性格検査」発表
    原告竹井機器が検査用紙を発行
S33 共同著作者P6が死去、P10が相続
S40 P5が用紙を改訂、原告竹井機器が改訂版(昭和41年用紙)を発行
H12 原告竹井機器とP5が本件出版契約を締結
H13 P5が死去、P1、P3、P4、P9が相続
H15 日本心理テスト研究所がYG性格検査用紙を販売開始
H17 原告P1及び原告竹井機器が提訴(平成17(ワ)153著作権侵害差止等請求事件)
    日本心理テスト研究所及び被告P3が提訴(同2317商標権侵害差止等請求事件)
H18 P10が提訴(平成18(ワ)3174著作権持分確認請求事件)
H18 P10が死去、P2が相続
H21 被告P3が原告竹井機器に対し出版契約更新拒絶を通知

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■判決内容

<争点>

1 甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるか

甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるかどうかについて(17頁以下)、裁判所は、現在、原告竹井機器と原告P1との間の契約関係、原告竹井機器と被告P3との間の契約関係、原告竹井機器と原告P2との間の契約関係があり、これらの契約関係は、共有に係る著作権の利用に関する契約であることから、著作権法65条等によってその権利行使が相互に規制される面があるものの、法律的にはそれぞれ独立した関係であると説示。
その上で、原告P1及び同P2には、被告P3と間で原告竹井機器と被告P3間の権利関係の存否について確認を求める利益は認められないと判断。
甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えは、確認の利益がなく不適法と判断しています。

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2 本件更新拒絶に正当な理由があるか等

本件出版契約の3条には、契約期間の規定として、以下のように書かれていました。

3条
本件各検査用紙の出版権の利用期間は,平成12年1月1日から10年間とし,双方から異議のないときは,さらに同期間延長する。


契約当事者である被告P3は、上記終了時期の前である平成21年12月11日頃、原告竹井機器に対して本件出版契約の更新について異議を述べる本件更新拒絶をしました(18頁以下)。

本件更新拒絶に「正当な理由」(著作権法65条3項)があるかどうかについて、被告P3らは、本件各検査用紙に問題がある点、また、原告竹井機器の問題などから本件更新拒絶には正当な理由があり、更新拒絶によって出版契約は期間満了により終了していると主張しました。
この点について裁判所は、65条2項、3項について言及した上で各問題点を検討。本件各検査用紙の質問事項と回答欄の構成に問題があるという事実や著作権の利用許諾を受けた出版業者が著作権者に無断で第三者に利用許諾をして対価を得るといった事実は、本件更新拒絶について正当な理由があることを基礎付ける事実になり得るとしたものの、被告P3らの主張する諸事実は、いずれも本件出版契約の更新拒絶についての「正当な理由」を基礎付ける事実としては十分なものではないと判断。
結論として、被告P3による本件更新拒絶は有効なものではなく、本件出版契約は同契約3条により更新され存続しているものと認定。その結果、原告竹井機器は、本件出版契約に基づき本件各検査用紙を出版、販売する権利を有することが認められています。

以上から、
(1)原告竹井機器と被告P3との間において、本件各検査用紙の出版、販売に関して、本件出版契約が存在することの確認を求める甲事件主位的請求は、原告竹井機器の請求については理由があるから認容
原告P1及び同P2の請求に係る訴えは確認の利益がなく不適法であるから却下
(2)原告P1及び同P2の予備的請求は、本件出版契約が存続している以上、被告P3に対し、さらに同契約更新の合意をするよう求めることはできないから理由がなく棄却
(3)乙事件各請求は、いずれも本件出版契約が終了したことを前提とするものであるから、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がなく棄却

と判断されました。

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■コメント

YG性格検査用紙を巡る紛争として最高裁判所ウェブサイトで公表されている事案としては、3件目となります。
共有著作権の行使については、共有者全員の合意が要求されますが(著作権法65条2項)、その合意の成立を妨げる場合は、「正当な理由」が共有者になければならず(同3項)、反対する共有者側で反対理由を明らかにしなればなりません(加戸後掲書395頁。なお、批判説として、三村後掲書272頁以下参照)。本件は、「正当な事由」の判断に関する事例判断として参考になります。

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■過去のブログ記事

2007年6月8日記事
YG性格検査用紙事件
2008年6月21日記事
YG性格検査項目事件(第3事件)
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■参考判例

日本経済の分析を内容とする書籍の増刷や韓国語へ翻訳出版を望まない被告の主張が認められた事案として、翻訳出版同意請求事件(東京地裁平成12.9.28平成11(ワ)7209著作物発行同意請求事件)があります。
日本ユニ著作権センター/判例全文・2000−09−28d
また、ゲームソフトの利用許諾契約の解除に関する事案で傍論として触れるものとして、ゲームソフトLUNAR事件(東京高裁平成15.3.13平成13(ネ)5780著作権使用料等請求控訴事件等)参照。判決文PDF

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■参考文献

加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(2006)394頁以下
三村量一「共同著作物」牧野利秋、飯村敏明編『著作権関係訴訟法』(2004)265頁以下
半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール2』(2009)636頁以下
著作権法令研究会編『著作権関係法令実務提要1巻』831頁以下