最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「キミへ続く空」歌詞無断改変事件
東京地裁平成23.6.29平成22(ワ)16472損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 菊池絵理
裁判官 森川さつき
*裁判所サイト公表 2011.8.31
*キーワード:著作者性、作詞、作曲、翻案、包括的許諾、著作者人格権、氏名表示権、同一性保持権
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■事案
エイズチャリティコンサートでの楽曲の使用に関して歌詞の翻案を含めた包括的許諾があったかどうかが争点となった事案
原告:シンガーソングライター
被告:芸能プロダクション会社、歌手B
原告楽曲:「キミへ続く空」(本件著作物)
被告楽曲:「僕たちにできる事−キミへ続く空−」
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項2号、22条、23条、19条、20条、115条
1 本件著作物の歌詞の著作者
2 本件著作物の楽曲の著作者
3 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否(依拠性)
4 楽曲の使用に関して包括的許諾があったか
5 故意過失
6 損害
7 名誉回復等の措置請求の成否
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■事案の概要
『本件は,原告が,芸能プロダクションである被告有限会社エスジーケー(以下「被告会社」という。)及びその取締役かつ所属する歌手である被告B(以下「被告B」という。)に対し,原告が,作詞作曲し著作権・著作者人格権を有すると主張する音楽の著作物について,被告らが共同して,原告の許諾を受けずに,(1)同著作物を演奏,歌唱して,原告の演奏権(著作権法22条)を侵害した,(2)被告Bの管理するブログに同著作物を掲載し,原告の公衆送信権(送信可能化権を含む)(同法23条)を侵害した,(3)同掲載に当たり,作詞作曲者を「C」と表示し,原告の氏名表示権(同法19条)を侵害した,(4)同掲載に当たり,題名・歌詞の一部を改変し,原告の同一性保持権(同法20条)を侵害したと主張して,著作権及び著作者人格権の侵害に基づく損害賠償請求(民法709条,710条,719条,著作権法114条3項)として,連帯して,(1),(2)について使用料相当額5万円,(3),(4)について慰謝料95万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する最終の不法行為日である平成21年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告Bに対し,名誉回復等の措置(同法115条)として,上記ブログへの謝罪文の掲載を求める事案』(2頁)
<経緯>
H18.8 原告が本件著作物をライブハウスで歌唱
H18.10原告、被告会社代表者等で本件著作物の使用に関する協議
H18.12被告Bがチャリティコンサートで被告楽曲を演奏、歌唱
H21.11被告B名義のサイトに被告楽曲の演奏の映像等を掲載
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■判決内容
<争点>
1 本件著作物の歌詞の著作者
まず、本件音楽著作物の作詞の著作者性について、裁判所は、原告が作詞者であると認定しています(10頁以下)。
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2 本件著作物の楽曲の著作者
次に原告は楽曲制作にあたり訴外Eに対してパソコンソフトへの打ち込みなどを依頼しており、楽譜の署名表示とともに楽曲の著作者性に疑義が生じました。
しかし、この点についても裁判所は、原告が楽曲の著作者であると認定しています(11頁以下)。
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3 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否(依拠性)
本件著作物の著作権及び著作者人格権侵害行為の成否について、依拠性が争点となっています(12頁以下)。
この点について、裁判所は、被告楽曲の歌詞37行のうち21行が本件著作物の歌詞と同一又はほぼ同一であること、楽曲が同一であること、本件著作物の音源の複製物などが資料として提供されていたこと等から被告楽曲が本件著作物に依拠していることを肯定しています。
その上で、被告楽曲の楽曲部分については、本件著作物を複製し、作詞部分については翻案したものであると認めています。
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4 楽曲の使用に関して包括的許諾があったか
被告らは、本件著作物の使用に関してエイズチャリティコンサートでの使用や同コンサートの性質に応じた歌詞の改変を含む包括的な承諾を得ていたと反論しました(17頁以下)。
結論としては、原告は被告会社に対してコンサートのエンディングにおいて、メロディラインのない伴奏部分を使用することについて許諾したものの、それ以外は何ら許諾をしなかったとして、本件著作物の使用に関する原告による包括的許諾の事実は認められていません。
以上から、(1)被告らによる被告楽曲のコンサートでの演奏、歌唱による演奏権侵害、(2)被告ブログへの演奏映像や歌詞の掲載による公衆送信権侵害、(3)別人名の記載による氏名表示権侵害、(4)題名、歌詞の一部改変による同一性保持権侵害、が認められています。
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5 故意過失
芸能プロダクションとしての注意義務違反などが認められ、被告会社、被告Bいずれについても過失が肯定されています(19頁以下)。
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6 損害
(1)演奏権侵害による損害 2万円
(2)公衆送信権侵害による損害 3万円
(3)氏名表示権、同一性保持権侵害による損害 50万円
(4)弁護士費用 5万円
以上の合計60万円が損害額として認定されています(20頁以下)。
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7 名誉回復等の措置請求の成否
損害賠償が認められていることや本件訴訟手続前に被告会社において原告に対して謝罪文が送付されていることなどの事情から、名誉回復措置(115条)としての被告ウェブサイトへの謝罪文掲載は認められていません(22頁)。
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■コメント
被告芸能プロダクションに所属する被告歌手Bが主催メンバーの「世界エイズデーチャリティーコンサート−僕たちにできる事−」で使用する楽曲の外部者からの提供に関して、その使用態様に関して楽曲提供者と事前の確認がしっかりされておらず紛争になった事案です。
原告である楽曲提供者は他人が本件著作物を歌唱することに抵抗を感じ使用を当初は断りましたが、被告側との協議の結果としてメロディラインのない伴奏部分だけの使用許諾といった、極めて限定的な使用態様での許諾をしましたが(15頁参照)、その趣旨が被告側に充分理解されなかった結果となっています。
歌詞を翻案したり、氏名表示を違える取扱い(二次的著作物の著作者の氏名の表示方法)をする以上は、特に慎重な事前の原著作者との確認作業が必要になるところです。
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■参考サイト
世界エイズデーチャリティーコンサート 〜僕たちにできる事〜 (一部修正済)|小泉真也オフィシャルブログ「やっぱり犬が好き」Powered by Ameba(2009−11−16 23:00:11記事)
「キミへ続く空」歌詞無断改変事件
東京地裁平成23.6.29平成22(ワ)16472損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 菊池絵理
裁判官 森川さつき
*裁判所サイト公表 2011.8.31
*キーワード:著作者性、作詞、作曲、翻案、包括的許諾、著作者人格権、氏名表示権、同一性保持権
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■事案
エイズチャリティコンサートでの楽曲の使用に関して歌詞の翻案を含めた包括的許諾があったかどうかが争点となった事案
原告:シンガーソングライター
被告:芸能プロダクション会社、歌手B
原告楽曲:「キミへ続く空」(本件著作物)
被告楽曲:「僕たちにできる事−キミへ続く空−」
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項2号、22条、23条、19条、20条、115条
1 本件著作物の歌詞の著作者
2 本件著作物の楽曲の著作者
3 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否(依拠性)
4 楽曲の使用に関して包括的許諾があったか
5 故意過失
6 損害
7 名誉回復等の措置請求の成否
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■事案の概要
『本件は,原告が,芸能プロダクションである被告有限会社エスジーケー(以下「被告会社」という。)及びその取締役かつ所属する歌手である被告B(以下「被告B」という。)に対し,原告が,作詞作曲し著作権・著作者人格権を有すると主張する音楽の著作物について,被告らが共同して,原告の許諾を受けずに,(1)同著作物を演奏,歌唱して,原告の演奏権(著作権法22条)を侵害した,(2)被告Bの管理するブログに同著作物を掲載し,原告の公衆送信権(送信可能化権を含む)(同法23条)を侵害した,(3)同掲載に当たり,作詞作曲者を「C」と表示し,原告の氏名表示権(同法19条)を侵害した,(4)同掲載に当たり,題名・歌詞の一部を改変し,原告の同一性保持権(同法20条)を侵害したと主張して,著作権及び著作者人格権の侵害に基づく損害賠償請求(民法709条,710条,719条,著作権法114条3項)として,連帯して,(1),(2)について使用料相当額5万円,(3),(4)について慰謝料95万円及び弁護士費用10万円の合計110万円並びにこれに対する最終の不法行為日である平成21年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告Bに対し,名誉回復等の措置(同法115条)として,上記ブログへの謝罪文の掲載を求める事案』(2頁)
<経緯>
H18.8 原告が本件著作物をライブハウスで歌唱
H18.10原告、被告会社代表者等で本件著作物の使用に関する協議
H18.12被告Bがチャリティコンサートで被告楽曲を演奏、歌唱
H21.11被告B名義のサイトに被告楽曲の演奏の映像等を掲載
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■判決内容
<争点>
1 本件著作物の歌詞の著作者
まず、本件音楽著作物の作詞の著作者性について、裁判所は、原告が作詞者であると認定しています(10頁以下)。
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2 本件著作物の楽曲の著作者
次に原告は楽曲制作にあたり訴外Eに対してパソコンソフトへの打ち込みなどを依頼しており、楽譜の署名表示とともに楽曲の著作者性に疑義が生じました。
しかし、この点についても裁判所は、原告が楽曲の著作者であると認定しています(11頁以下)。
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3 著作権及び著作者人格権侵害行為の成否(依拠性)
本件著作物の著作権及び著作者人格権侵害行為の成否について、依拠性が争点となっています(12頁以下)。
この点について、裁判所は、被告楽曲の歌詞37行のうち21行が本件著作物の歌詞と同一又はほぼ同一であること、楽曲が同一であること、本件著作物の音源の複製物などが資料として提供されていたこと等から被告楽曲が本件著作物に依拠していることを肯定しています。
その上で、被告楽曲の楽曲部分については、本件著作物を複製し、作詞部分については翻案したものであると認めています。
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4 楽曲の使用に関して包括的許諾があったか
被告らは、本件著作物の使用に関してエイズチャリティコンサートでの使用や同コンサートの性質に応じた歌詞の改変を含む包括的な承諾を得ていたと反論しました(17頁以下)。
結論としては、原告は被告会社に対してコンサートのエンディングにおいて、メロディラインのない伴奏部分を使用することについて許諾したものの、それ以外は何ら許諾をしなかったとして、本件著作物の使用に関する原告による包括的許諾の事実は認められていません。
以上から、(1)被告らによる被告楽曲のコンサートでの演奏、歌唱による演奏権侵害、(2)被告ブログへの演奏映像や歌詞の掲載による公衆送信権侵害、(3)別人名の記載による氏名表示権侵害、(4)題名、歌詞の一部改変による同一性保持権侵害、が認められています。
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5 故意過失
芸能プロダクションとしての注意義務違反などが認められ、被告会社、被告Bいずれについても過失が肯定されています(19頁以下)。
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6 損害
(1)演奏権侵害による損害 2万円
(2)公衆送信権侵害による損害 3万円
(3)氏名表示権、同一性保持権侵害による損害 50万円
(4)弁護士費用 5万円
以上の合計60万円が損害額として認定されています(20頁以下)。
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7 名誉回復等の措置請求の成否
損害賠償が認められていることや本件訴訟手続前に被告会社において原告に対して謝罪文が送付されていることなどの事情から、名誉回復措置(115条)としての被告ウェブサイトへの謝罪文掲載は認められていません(22頁)。
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■コメント
被告芸能プロダクションに所属する被告歌手Bが主催メンバーの「世界エイズデーチャリティーコンサート−僕たちにできる事−」で使用する楽曲の外部者からの提供に関して、その使用態様に関して楽曲提供者と事前の確認がしっかりされておらず紛争になった事案です。
原告である楽曲提供者は他人が本件著作物を歌唱することに抵抗を感じ使用を当初は断りましたが、被告側との協議の結果としてメロディラインのない伴奏部分だけの使用許諾といった、極めて限定的な使用態様での許諾をしましたが(15頁参照)、その趣旨が被告側に充分理解されなかった結果となっています。
歌詞を翻案したり、氏名表示を違える取扱い(二次的著作物の著作者の氏名の表示方法)をする以上は、特に慎重な事前の原著作者との確認作業が必要になるところです。
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■参考サイト
世界エイズデーチャリティーコンサート 〜僕たちにできる事〜 (一部修正済)|小泉真也オフィシャルブログ「やっぱり犬が好き」Powered by Ameba(2009−11−16 23:00:11記事)