最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「あたたかい場所」CD原盤制作契約事件

東京地裁平成23.7.21平成21(ワ)37303損害賠償請求事件、レコード複製・譲渡禁止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      上田真史
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.8.15
*キーワード:原盤制作契約、ジャケットデザイン制作契約、原盤権、著作隣接権

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■事案

音楽CDの原盤制作契約やCDジャケットデザイン制作契約の成否や報酬額が争点となった事案

原告(反訴被告):音楽家
原告        :イラストレーター
被告(反訴原告):個人

本件CD:「あたたかい場所」(全11曲)

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■結論

請求一部認容(本訴/反訴)

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■争点

条文 民法415条

1 原告X1の本件CDの原盤の制作代金請求
2 原告X2のジャケットデザインの制作代金請求
3 反訴請求について

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■事案の概要

『本訴原告(反訴被告)(以下「原告X1」という。)が,本訴被告(反訴原告)(以下「被告」という。)との間で,被告が作詞作曲し,歌唱した楽曲についてCDの原盤を制作する旨の制作契約を締結し,別紙CD目録記載のCD(以下「本件CD」という。)の各収録曲をマスタリングした音源の記録媒体である原盤(以下「本件CDの原盤」という。)を制作し,これを被告に引き渡した旨主張して,被告に対し,その制作代金の支払を求め(主位的請求),仮に原告X1主張の制作契約の成立が認められない場合には,原告X1が本件CDのレコード製作者としての著作隣接権(譲渡権)及び本件CDの原盤の所有権を有する旨主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件CDの販売の差止めを求めるとともに,所有権に基づき,本件CDの原盤の引渡しを求め(予備的請求),本訴原告(以下「原告X2」という。)が,被告から本件CDのジャケットデザインの作成の発注を受け,その作成を行った旨主張して,被告に対し,その作成代金の支払を求めた事案』

『また,本件反訴は,被告が,本件CDのレコード製作者としての著作隣接権(複製権及び譲渡権)を有し,また,原告X1が保管する本件CDの複製物(282枚)の所有権は被告に帰属する旨主張して,原告X1に対し,著作権法112条1項に基づき,本件CDの複製等の差止めを求めるとともに,所有権に基づき,本件CDの上記複製物の引渡しを求めた事案』(2頁以下)

<経緯>

H20.4 原告X1と被告が面会
       原告X1がCD原盤制作開始
       歌入れ33回実施
H20.11被告が原告X2にジャケットデザイン制作を依頼
H21.1 本件CD原盤制作完了
       30万円の領収書を被告が受領
H21.2 印刷業者からCD1000枚の引渡し
       CD発売記念ライブ開催
H21.3 原告X1が被告に書面通知
H21.3 被告代理人が原告X1に内容証明書通知
H21.9 本訴提起
H21.12反訴提起

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■判決内容

<争点>

1 原告X1の本件CDの原盤の制作代金請求

被告が作詞作曲した楽曲11曲の原盤制作に関して、原告X1と被告との間で契約の成否やその内容について争点となっています(19頁以下)。

(1)原盤制作契約の成否、内容

この点について、裁判所は、販売目的のないCD原盤制作の場合は制作代金60万円で、販売目的のCD制作の場合は、プロデュース料等が1曲当たり30万円、エンジニア料が1曲当たり5万円とする内容の制作契約(本件制作契約(1))が締結されていることを否定。
制作の経緯や当事者の合理的意思解釈から、「原告X1が,被告が作詞作曲し,歌唱した楽曲についてアレンジ,演奏,レコーディング,トラックダウン,マスタリングをして,CDの原盤を制作し,被告が原告X1に対し相当な額の報酬を支払う旨の契約(本件制作契約(2))」が成立していると判断しています(25頁以下)。

(2)相当な報酬額

その上で本件制作契約(2)に基づく相当な報酬額について判断(26頁以下)。
結論としては、8万円(1曲当たりの編曲料、各演奏料、コンピュータープログラミング料、トラックダウン料の合計額)×11曲+マスタリング料5万円+レコーディング料30万円の合計123万円と認定。

既に支払済みの30万円を差し引いた残額93万円について請求が認められています。

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2 原告X2のジャケットデザインの制作代金請求

次に原告X2と被告との間で代金10万円の約定で本件CDのジャケットデザインを制作する旨の契約(本件ジャケットデザイン契約)が締結されていたかどうかについて争点とされています(28頁以下)。

この点について、裁判所は、原告X2の主張を容れて本件ジャケットデザイン契約の成立を肯定しています。
結論として、ジャケットデザインのデータを納品した事実があり、制作代金10万円の請求が認められています。

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3 反訴請求について

(1)レコード製作者(著作隣接権者)としての差止請求について

被告(反訴原告)は、原告X1(反訴被告)との間で原盤や演奏等に関する著作権、著作隣接権等の一切の権利を被告に帰属させる旨の合意(本件合意)をした旨主張しましたが、本件合意の成立は認められていません(30頁以下)。

(2)本件複製CDの所有権に基づく引渡請求について

本件複製CDを製造した印刷会社への支払は、すべて被告がしていること、また、1000枚の引渡しの際に量が多かったことから被告が700枚、原告X1が300枚を保管することになった経緯などから、本件複製CDの所有権を被告に認めた上で、原告X1占有のCD282枚の被告への引渡請求が認められています(31頁以下)。

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■コメント

原盤制作の内容が変遷したことから、制作契約の成否や内容が争点となった事案です。

レコード製作者(原盤制作者)側は、発注者側で制作費の支払が困難であればと、原盤権(レコード製作者の著作隣接権)や音源の売上分配を折半する譲歩案(契約書案)を提案しましたが(16頁以下)、発注者側と折り合いませんでした。

判決文にもあるように、CD原盤の制作費については、「インディーズ系とか、ピンからキリまで」(23頁)となりますが、本件での、被告が作詞作曲した11曲について、編曲し、「オケ録り」し、33回に亘って「歌入れ」した上でトラックダウン(ミキシング)しマスタリングする、といった一連の作業が果たしていくらの報酬になるものだったのか。

原被告間で当初から制作費について詰めた話をする機会が持たれておらず、「良いモノを創る」ということと同じ位に「お金の話し」が重要であることを再認識する事案となりました。

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■過去のブログ記事

最近の音楽制作を巡る紛争事案として、

2011年8月15日記事
TBS「愛の劇場」オープニングテーマ曲不当利得返還請求事件(控訴審)

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■参考文献

安藤和宏『よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編 4th Edition』(2011)81頁以下