最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ウルトラマン海外ライセンス契約事件(控訴審)
知財高裁平成23.7.27平成22(ネ)10080譲受債権請求承継参加申立控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 池下 朗
裁判官 武宮英子
*裁判所サイト公表 2011.7.28
*キーワード:ライセンス契約、損害、損失、補助参加
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■事案
ウルトラマンキャラクターの海外ライセンス契約に関して従前の独占的利用許諾契約との抵触が争われた事案の控訴審
控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人)
:キャラクター企画デザイン会社
被控訴人・控訴人(第1審被告):円谷プロダクション
上記補助参加人 :株式会社バンダイ
第1審脱退原告 :タイ王国人
被参加事件 平成18年(ワ)10273損害賠償請求事件
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■結論
第1審被告敗訴部分取消し、請求棄却
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■争点
条文 民訴法248条、民法415条、703条
1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
6 当審における当事者の主張についての判断(脱退原告と補助参加人との契約について)
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■事案の概要
『参加人が,別紙第二目録記載の各著作物(本件著作物)の著作権者である被告に対し,(1)第1審脱退原告(脱退原告)は,別紙第一目録添付の契約書(本件契約書)に記載された内容の契約(本件契約)に基づき,被告から,本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(本件独占的利用権)の許諾を受けた,(2)被告は,日本以外の国において,第三者に対し,本件著作物や,同著作物の製作後に被告が製作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している,(3)上記(2)の被告の行為は,本件契約に違反するものであり,被告は,脱退原告に対し,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記(2)の第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う,(4)参加人は,脱退原告から,上記の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた,と主張して,上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求(選択的請求)として,1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。
原判決は,参加人主張の被告の債務不履行のうち,被告が,バンダイ(当審における被告補助参加人。以下「補助参加人」という。)に対し,平成8年9月1日から平成9年12月31日まで,別紙一覧表記載(1)の各キャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に属する5個のキャラクターについて韓国等の外国における利用権をライセンスし,当該ライセンス期間を現在に至るまで更新している行為が本件契約の債務不履行に当たり,脱退原告にライセンス料相当額の損害が発生しており,かつ,当該ライセンス料相当額について脱退原告に損失が生じ,被告が利得したと認定した上,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権については一部商事消滅時効が成立するため,不当利得返還請求権に基づく認容額の方がより高額であるとして,参加人の請求のうち,被告に対する不当利得返還請求に基づき1636万3636円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
参加人及び被告は,それぞれ控訴し,控訴の趣旨記載の判決を求めた。なお,参加人の控訴の趣旨(上記第1の1)は,原判決中参加人敗訴部分である損害賠償金又は不当利得金8363万6364円及びこれに対する年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,年5分の割合による法定利息。)の請求のうちの一部である3400万円及びこれに対する年5分の割合による金員の支払請求についてのみ控訴するというものである。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
争点1から5について、控訴審も原審の判断を維持して、被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約(1)を締結し更新したことが債務不履行に当たると認定。
ただ、損害論については原審と異なり、
『上記各ライセンス契約のライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれるとしても,それらの内容,ライセンス対象物全体に占める割合,ライセンス期間,ライセンス料等について明らかにする証拠はない。そうすると,脱退原告がいかなるライセンス料を得る機会を失ったのかが不明であり,脱退原告に損害が生じたとの事実自体を認定するに足りないというべきである。したがって,民事訴訟法248条に基づいて相当な損害額を認定すべきであるとの参加人の主張は採用できない。』(19頁)
として、損害の発生を否定しています。
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5 当審における当事者の主張についての判断(脱退原告と補助参加人との契約について)
被告と補助参加人は、補助参加人が脱退原告らと権利行使放棄を内容とする契約(平成10年契約)を締結しており、脱退原告に損害・損失がなく、また、債務不履行の違法性を欠くと主張しました(19頁以下)。
この点について控訴審は、平成10年契約について、
『平成10年契約第2.3条の内容からすると,脱退原告は,同契約時以降,本件契約上の一切の権利に関し,補助参加人との間で,平成10年契約とは別にライセンス契約を締結してライセンス料を得ることはできないと解されるのみならず,仮に,平成10年契約以前に,補助参加人が脱退原告の承諾なく本件契約上の権利を利用したために脱退原告がライセンス料を得る機会を逸していたとしても,平成10年契約において,そのライセンス料相当額の損害ないし損失を全て精算する意思の下に,平成10年契約を締結したものと解される。そして,平成10年契約に基づいて脱退原告が受領した1億円は,同契約の有効期間中,脱退原告が原則として本件契約上の権利に基づく商品の製造,使用,販売をせず,いかなる国・地域においても,同権利のライセンス,譲渡,質入等の処分をしないことの対価であるほか,同契約以前に,補助参加人の行為により脱退原告の本件契約上の権利に関し何らかの損害ないし損失が発生していた場合は,その補償をも含む趣旨であったと考えるのが合理的である』(23頁)
として、こうした平成10年契約の内容から、脱退原告は、補助参加人との間で別途ライセンス契約を締結してライセンス料を得る機会を有しないと判断。そうであれば被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約(1)(そのライセンス期間の更新を含む)を締結したとしても、脱退原告に債務不履行による損害又は被告のライセンス料取得による損失が発生したことを認めることはできない、としています。
結論として、債務不履行が認められた部分についても脱退原告の損害・損失の発生が否定され、第1審脱退原告承継参加人の主張は認められませんでした。
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■コメント
円谷プロがバンダイと締結した「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」など旧ウルトラマンキャラクターに関する海外ライセンス契約が、円谷側と脱退原告との間で締結していた海外独占利用許諾契約に抵触するとして一審では損害も認定されていました。
しかし、控訴審ではバンダイの補助参加も得て損害論で否定されて円谷プロ勝訴の結果となりました。
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■過去のブログ記事
2010年11月4日記事
ウルトラマン海外ライセンス契約事件
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■追記(2011.8.12)
参考文献
中国におけるウルトラマン関連訴訟の上訴審(中国広州高級人民法院2010年12月30日判決)についての論考として、
夏 雨「中国における7件の初代『ウルトラマン』作品の著作権独占使用権の帰属とその根拠」『マーチャンダイジングライツレポート』610号(2011)64頁以下
ウルトラマン海外ライセンス契約事件(控訴審)
知財高裁平成23.7.27平成22(ネ)10080譲受債権請求承継参加申立控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 池下 朗
裁判官 武宮英子
*裁判所サイト公表 2011.7.28
*キーワード:ライセンス契約、損害、損失、補助参加
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■事案
ウルトラマンキャラクターの海外ライセンス契約に関して従前の独占的利用許諾契約との抵触が争われた事案の控訴審
控訴人・被控訴人(第1審脱退原告承継参加人)
:キャラクター企画デザイン会社
被控訴人・控訴人(第1審被告):円谷プロダクション
上記補助参加人 :株式会社バンダイ
第1審脱退原告 :タイ王国人
被参加事件 平成18年(ワ)10273損害賠償請求事件
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■結論
第1審被告敗訴部分取消し、請求棄却
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■争点
条文 民訴法248条、民法415条、703条
1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
6 当審における当事者の主張についての判断(脱退原告と補助参加人との契約について)
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■事案の概要
『参加人が,別紙第二目録記載の各著作物(本件著作物)の著作権者である被告に対し,(1)第1審脱退原告(脱退原告)は,別紙第一目録添付の契約書(本件契約書)に記載された内容の契約(本件契約)に基づき,被告から,本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(本件独占的利用権)の許諾を受けた,(2)被告は,日本以外の国において,第三者に対し,本件著作物や,同著作物の製作後に被告が製作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している,(3)上記(2)の被告の行為は,本件契約に違反するものであり,被告は,脱退原告に対し,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記(2)の第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う,(4)参加人は,脱退原告から,上記の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた,と主張して,上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求(選択的請求)として,1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。
原判決は,参加人主張の被告の債務不履行のうち,被告が,バンダイ(当審における被告補助参加人。以下「補助参加人」という。)に対し,平成8年9月1日から平成9年12月31日まで,別紙一覧表記載(1)の各キャラクター(旧ウルトラマンキャラクター)に属する5個のキャラクターについて韓国等の外国における利用権をライセンスし,当該ライセンス期間を現在に至るまで更新している行為が本件契約の債務不履行に当たり,脱退原告にライセンス料相当額の損害が発生しており,かつ,当該ライセンス料相当額について脱退原告に損失が生じ,被告が利得したと認定した上,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権については一部商事消滅時効が成立するため,不当利得返還請求権に基づく認容額の方がより高額であるとして,参加人の請求のうち,被告に対する不当利得返還請求に基づき1636万3636円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
参加人及び被告は,それぞれ控訴し,控訴の趣旨記載の判決を求めた。なお,参加人の控訴の趣旨(上記第1の1)は,原判決中参加人敗訴部分である損害賠償金又は不当利得金8363万6364円及びこれに対する年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,年5分の割合による法定利息。)の請求のうちの一部である3400万円及びこれに対する年5分の割合による金員の支払請求についてのみ控訴するというものである。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
争点1から5について、控訴審も原審の判断を維持して、被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約(1)を締結し更新したことが債務不履行に当たると認定。
ただ、損害論については原審と異なり、
『上記各ライセンス契約のライセンス対象物の一部に本件著作物又は旧ウルトラマンキャラクターが含まれるとしても,それらの内容,ライセンス対象物全体に占める割合,ライセンス期間,ライセンス料等について明らかにする証拠はない。そうすると,脱退原告がいかなるライセンス料を得る機会を失ったのかが不明であり,脱退原告に損害が生じたとの事実自体を認定するに足りないというべきである。したがって,民事訴訟法248条に基づいて相当な損害額を認定すべきであるとの参加人の主張は採用できない。』(19頁)
として、損害の発生を否定しています。
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5 当審における当事者の主張についての判断(脱退原告と補助参加人との契約について)
被告と補助参加人は、補助参加人が脱退原告らと権利行使放棄を内容とする契約(平成10年契約)を締結しており、脱退原告に損害・損失がなく、また、債務不履行の違法性を欠くと主張しました(19頁以下)。
この点について控訴審は、平成10年契約について、
『平成10年契約第2.3条の内容からすると,脱退原告は,同契約時以降,本件契約上の一切の権利に関し,補助参加人との間で,平成10年契約とは別にライセンス契約を締結してライセンス料を得ることはできないと解されるのみならず,仮に,平成10年契約以前に,補助参加人が脱退原告の承諾なく本件契約上の権利を利用したために脱退原告がライセンス料を得る機会を逸していたとしても,平成10年契約において,そのライセンス料相当額の損害ないし損失を全て精算する意思の下に,平成10年契約を締結したものと解される。そして,平成10年契約に基づいて脱退原告が受領した1億円は,同契約の有効期間中,脱退原告が原則として本件契約上の権利に基づく商品の製造,使用,販売をせず,いかなる国・地域においても,同権利のライセンス,譲渡,質入等の処分をしないことの対価であるほか,同契約以前に,補助参加人の行為により脱退原告の本件契約上の権利に関し何らかの損害ないし損失が発生していた場合は,その補償をも含む趣旨であったと考えるのが合理的である』(23頁)
として、こうした平成10年契約の内容から、脱退原告は、補助参加人との間で別途ライセンス契約を締結してライセンス料を得る機会を有しないと判断。そうであれば被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約(1)(そのライセンス期間の更新を含む)を締結したとしても、脱退原告に債務不履行による損害又は被告のライセンス料取得による損失が発生したことを認めることはできない、としています。
結論として、債務不履行が認められた部分についても脱退原告の損害・損失の発生が否定され、第1審脱退原告承継参加人の主張は認められませんでした。
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■コメント
円谷プロがバンダイと締結した「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」など旧ウルトラマンキャラクターに関する海外ライセンス契約が、円谷側と脱退原告との間で締結していた海外独占利用許諾契約に抵触するとして一審では損害も認定されていました。
しかし、控訴審ではバンダイの補助参加も得て損害論で否定されて円谷プロ勝訴の結果となりました。
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■過去のブログ記事
2010年11月4日記事
ウルトラマン海外ライセンス契約事件
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■追記(2011.8.12)
参考文献
中国におけるウルトラマン関連訴訟の上訴審(中国広州高級人民法院2010年12月30日判決)についての論考として、
夏 雨「中国における7件の初代『ウルトラマン』作品の著作権独占使用権の帰属とその根拠」『マーチャンダイジングライツレポート』610号(2011)64頁以下