最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

バイナリーオートシステム図面事件

東京地裁平成23.6.10平成22(ワ)31663損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本 岳
裁判官      坂本康博
裁判官      寺田利彦

*裁判所サイト公表 2011.6.13
*キーワード:創作性、アイデア、図形、言語、連鎖販売取引

別紙1
別紙2
別紙3

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■事案

マルチレベルマーケティング(連鎖販売取引)の手法を説明した図面の著作物性が否定された事案

原告:個人
被告:健康器具販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、特商法37条2項

1 原告図面の著作物性

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■事案の概要

『2つの図及び説明文から成る「バイナリーオートシステム」との表題が付された別紙1記載の図面(ただし,赤字,赤枠部分を除く。同部分は原告主張の被侵害部分を特定するための表示であって,同図面を構成するものではない。以下,同図面を「原告図面」という。)について第一発行年月日の登録を得た原告が,被告のプラウシオン・エージェントクラブ契約書面(甲3。以下「被告契約書面」という。)は原告図面と同一又は類似の表現を用いており,これを作成,使用する被告の行為は原告が有する原告図面の著作権(複製権,二次的著作物の利用権)を侵害するとして,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益3億円のうち900万円及びこれに対する平成22年9月19日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(1頁以下)

【原告図面】
文化庁登録:第19287号−1「バイナリーオートシステム」(平成15年5月13日)

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■判決内容

<争点>

1 原告図面の著作物性

バイナリーオートシステム(本件システム)は、「ある物品やサービス等を購入又は販売する人の集団内における報酬の算出方法を定めたものであり,Aが紹介した2人の人物B,Cを必ず左右2つのグループに振り分け,更にB,Cを起点とする2つのグループにA,B又はCが紹介した人物D,E,F,G…を振り分けていき,各人の下に2つのグループの形成を繰り返していくことで,最初に形成された左右2つのグループを維持していき,最終的に同2グループ内のメンバー全員が一定期間内に購入して得られたポイントを合計し,同2グループを比較して合計の少ない方又は多い方のポイントを基準としてAに支払われる報酬額を決める」(3頁以下)といった概要のシステムでした。

本件システムを基に少ない方のポイントを基準にして報酬を算出する方法を採用するビジネスモデルを説明する図表(図A)と説明文(文A)について、被告がその契約書面(特商法33条1項、37条2項 連鎖販売取引における契約書面の交付)で使用したとして、その図表等の創作性(著作権法2条1項1号)が前提として争点となっています(12頁以下)。

原告図面(別紙1より)
A1







被告図面(別紙2より)
B1図表

被告図面(別紙3より)
文B2

被告図面(別紙3より)
図B2


原告は、本件システム、本件ビジネスモデルの内容や報酬の計算方法について、視覚的、直感的に感得できるように工夫されて表現されているとして図表等の創作性を主張しました。

この点について裁判所は、アイデアや着想自体は著作権法の保護の対象とならないことに言及した上で、組織図様の図形である図Aに関して、ありふれた表現形式であって何ら個性のある表現とはいえないとして図形の著作物(10条1項6号)としての創作性を否定しています。
また、文Aについても、「左右小数の方で計算し支払いを決める。」といった極めて短い1文であり、かつ、一般に使用されるありふれた用語で表現されたものであるとして、言語の著作物(10条1項1号)としての創作性を否定しています。

結論として、被告が被告契約書面を作成する行為が原告図面の複製権侵害等に当たるとすることはできないと判断されています。

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■コメント

特定商取引法の対象となる連鎖販売取引で、いわゆるネットワークビジネス、マルチレベルマーケティングの手法を説明した図表や説明文の著作物性が争点となった事案となります。
別紙のように極めて単純な内容になっており、これだけで著作権法上の創作性を肯定するには厳しい事案であったと考えられます。