最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
保安用品総合カタログ事件
大阪地裁平成23.4.28平成21(ワ)7781損害賠償等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 北岡裕章
裁判官 山下隼人
*裁判所サイト公表 2011.5.13
*キーワード:職務著作、共同著作物、信義則、複製権、翻案権、著作者人格権、営業誹謗行為、営業秘密、一般不法行為
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■事案
職務著作が成立し原被告各会社の共同著作物として位置付けられる保安用品総合カタログの利用関係について、原告による被告カタログの利用行為に関する差止請求が信義則により否定されるなどした事案
原告:繊維、雑貨等輸出入販売会社
被告:保安用品販売会社
原告退職従業員ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法15条1項、64条、65条、21条、27条、19条、不正競争防止法2条1項14号、7号、2条6項、民法709条
1 被告らは原告の営業上信用を害する虚偽の別紙告知行為目録記載の各事実を第三者に告知したか
2 被告らは原告の営業秘密を開示し、あるいは使用しているか
3 被告らの不正競争により原告に生じた損害の額
4 被告らの行為は民法709条の不法行為を構成するか
5 被告らによる被告カタログの作成利用行為は、原告が原告カタログについて有する著作権ないし著作者人格権の侵害行為であるか
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■事案の概要
『1 本件は,原告が,かつて原告の取引先であった被告株式会社エース神戸(以下「被告会社」という。),原告のもと取締役である被告P1及びもと社員である被告P2に対し,下記請求をした事案である。
記
(1)被告らが共同して原告の営業上の信用を害する虚偽の別紙告知行為目録記載の各事実を第三者に告知する同行為が不正競争防止法2条1項14号に該当することを理由とする同法3条1項に基づくその行為の差止請求(請求の第1項)
(2)上記(1)の事実関係に基づき,同法14条に基づく信用回復措置の請求(請求の第2項)
(3)上記(1)を原因とする信用毀損の不法行為に基づく損害賠償として300万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(4)上記(1)のほか,原告が原告在職中の被告P1及び被告P2(以下,両名を合わせて「個人被告ら」という。)に対して原告の営業秘密である取引先情報を示したところ,個人被告らが,原告を退職後,不正の競業その他の不正の利益を得る目的で,又は原告に損害を与える目的で,その営業秘密を被告会社に開示し,被告会社はその事情を知ってその営業秘密を使用したとして,これら個人被告らの行為が不正競争防止法2条1項7号に,被告会社の行為は同項8号に該当することを理由とする同法4条,民法719条に基づく損害賠償として1978万円及びこれに対する平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(5)上記(4)が認められないとしても,被告らの行為が自由競争の枠を逸脱した違法な競業行為であることを理由とする民法709条,719条に基づく損害賠償として1978万円及びこれに対する平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(6)被告らの上記不正競争又は不法行為と因果関係のある弁護士費用相当の損害賠償として220万円及びこれに対する平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(7)被告らが営業に用いている別紙カタログ目録(ロ号)保安用品総合カタログ(被告)記載のカタログ(以下「被告カタログ」という。)は,原告の著作物である別紙カタログ目録(イ号)[保安用品](原告)記載のカタログ(以下「原告カタログ」という。)を利用するものであるとして,著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく,その複製・頒布の差止請求(請求の第4項)
(8)上記(7)の事実関係に基づく同条2項に基づく被告カタログの廃棄請求(請求の第5項)』
(2頁以下)
<経緯>
S56.9 被告P1が原告会社に入社
H10.5 被告P2が原告会社に入社
H16.9 P3が被告会社設立
H20.9 被告P1が原告会社退社、被告会社に入社
H20.10被告P2が原告会社退社、被告会社に入社
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■判決内容
<争点>
1 被告らは原告の営業上信用を害する虚偽の別紙告知行為目録記載の各事実を第三者に告知したか
被告らが原告会社を退職して被告会社に入社して以降、原告の取引先に対してFAXを送信したり、直接訪問したりして別紙告知行為目録記載の事実を述べるなどしたとして虚偽事実告知行為性(不正競争防止法2条1項14号)が争点となっています(15頁以下)。
結論としては、別紙目録記載の6つの事実のうち、「粉飾決算」についてのみ、14号該当性が肯定されています。但し、同行為を対象とする差止請求は認められていません。
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2 被告らは原告の営業秘密を開示し、あるいは使用しているか
原告の取引先の名称、郵便番号、住所又は所在地、電話番号及びファクシミリ番号のほか、保安用品の国内外の仕入先の名称、住所、電話番号、ファクシミリ番号及びその仕入商品に関する情報(認定顧客情報)の開示・使用行為について、そもそも認定顧客情報は、秘密管理性を欠き「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当しないと判断されています(21頁以下)。
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3 被告らの不正競争により原告に生じた損害の額
被告P1の「粉飾決算」告知部分について、原告に対する信用毀損の損害賠償額として10万円、弁護士費用相当損害額として3万円が認定されています(23頁以下)。
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4 被告らの行為は民法709条の不法行為を構成するか
原告はさらに退職従業員らによる取引先の獲得などの競業行為の不法行為性(民法709条)を争点としましたが、結論としては、裁判所は被告らの行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできないとして、不法行為の成立を否定しています(24頁以下)。
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5 被告らによる被告カタログの作成利用行為は、原告が原告カタログについて有する著作権ないし著作者人格権の侵害行為であるか
原告は、被告P1、P2がその職務として原告在職中に作成した商品写真や原告カタログといった著作物の著作権及び著作者人格権は、職務著作(著作権法15条1項)として原告会社に帰属するものであって、被告会社が被告カタログとしてこれを複製利用する行為は著作権等を侵害すると主張しました(30頁以下)。
この点について、被告会社は、原告と密接な関係を持って保安用品の取引を行っており、その取引関係の中で営業に用いるカタログとして、被告P1、被告P2、被告会社代表者が共同して商品の写真撮影をし、その写真データをカタログ用データに造り替えたりして共同で作成しており、この商品カタログを基本として、表紙の会社名だけを原告と被告会社で入れ替えて使用してきた経緯などを裁判所は検討。そして、商品カタログは、原告、被告各会社に職務著作物として両社の共同著作物に位置付けられると判断しています。
その上で両社の商品カタログの利用関係についての合理的意思解釈や商品カタログの性質などから、営業上の協力関係が終了した後であっても従前通りの使用は許されるものであるとして、被告会社に対して原告がその共同著作物の著作権者及び著作者人格権者としての権利を行使して被告カタログの利用行為の差止めを求めることは、信義に照らし、許されないと判断しています。
結論として、「粉飾決済」虚偽事実告知に基づく信用毀損の損害賠償請求についてのみ、認められているに留まっています。
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■コメント
本件は、退職従業員らの退職後の競業行為の営業誹謗行為性や営業秘密開示行為性といった不正競争防止法上の争点とともに、著作権法上の争点として職務著作(法人著作 著作権法15条1項)が成立し原被告各会社の共同著作物として位置付けられる保安用品総合カタログの利用関係について、原告による被告カタログの利用行為に関する差止請求が信義則で否定された事案となります。
問題となったカタログですが、原告サイトに掲載されている保安用品のPDFカタログによると、道路に設置するコーンや回転灯、合図灯などの道路保安用品のようです。
三ツ星貿易株式会社|電子カタログ(PDF)
こうした商品写真や商品説明文がそもそも著作権法上保護される著作物かどうか(著作権法2条1項1号)は、今回直接の争点とはなりませんでしたが、1点1点を個別に取り上げたような場合は微妙な判断となりそうです。
保安用品総合カタログ事件
大阪地裁平成23.4.28平成21(ワ)7781損害賠償等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 北岡裕章
裁判官 山下隼人
*裁判所サイト公表 2011.5.13
*キーワード:職務著作、共同著作物、信義則、複製権、翻案権、著作者人格権、営業誹謗行為、営業秘密、一般不法行為
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■事案
職務著作が成立し原被告各会社の共同著作物として位置付けられる保安用品総合カタログの利用関係について、原告による被告カタログの利用行為に関する差止請求が信義則により否定されるなどした事案
原告:繊維、雑貨等輸出入販売会社
被告:保安用品販売会社
原告退職従業員ら
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法15条1項、64条、65条、21条、27条、19条、不正競争防止法2条1項14号、7号、2条6項、民法709条
1 被告らは原告の営業上信用を害する虚偽の別紙告知行為目録記載の各事実を第三者に告知したか
2 被告らは原告の営業秘密を開示し、あるいは使用しているか
3 被告らの不正競争により原告に生じた損害の額
4 被告らの行為は民法709条の不法行為を構成するか
5 被告らによる被告カタログの作成利用行為は、原告が原告カタログについて有する著作権ないし著作者人格権の侵害行為であるか
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■事案の概要
『1 本件は,原告が,かつて原告の取引先であった被告株式会社エース神戸(以下「被告会社」という。),原告のもと取締役である被告P1及びもと社員である被告P2に対し,下記請求をした事案である。
記
(1)被告らが共同して原告の営業上の信用を害する虚偽の別紙告知行為目録記載の各事実を第三者に告知する同行為が不正競争防止法2条1項14号に該当することを理由とする同法3条1項に基づくその行為の差止請求(請求の第1項)
(2)上記(1)の事実関係に基づき,同法14条に基づく信用回復措置の請求(請求の第2項)
(3)上記(1)を原因とする信用毀損の不法行為に基づく損害賠償として300万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(4)上記(1)のほか,原告が原告在職中の被告P1及び被告P2(以下,両名を合わせて「個人被告ら」という。)に対して原告の営業秘密である取引先情報を示したところ,個人被告らが,原告を退職後,不正の競業その他の不正の利益を得る目的で,又は原告に損害を与える目的で,その営業秘密を被告会社に開示し,被告会社はその事情を知ってその営業秘密を使用したとして,これら個人被告らの行為が不正競争防止法2条1項7号に,被告会社の行為は同項8号に該当することを理由とする同法4条,民法719条に基づく損害賠償として1978万円及びこれに対する平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(5)上記(4)が認められないとしても,被告らの行為が自由競争の枠を逸脱した違法な競業行為であることを理由とする民法709条,719条に基づく損害賠償として1978万円及びこれに対する平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(6)被告らの上記不正競争又は不法行為と因果関係のある弁護士費用相当の損害賠償として220万円及びこれに対する平成20年9月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求(請求の第3項(一部))
(7)被告らが営業に用いている別紙カタログ目録(ロ号)保安用品総合カタログ(被告)記載のカタログ(以下「被告カタログ」という。)は,原告の著作物である別紙カタログ目録(イ号)[保安用品](原告)記載のカタログ(以下「原告カタログ」という。)を利用するものであるとして,著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害を理由とする著作権法112条1項に基づく,その複製・頒布の差止請求(請求の第4項)
(8)上記(7)の事実関係に基づく同条2項に基づく被告カタログの廃棄請求(請求の第5項)』
(2頁以下)
<経緯>
S56.9 被告P1が原告会社に入社
H10.5 被告P2が原告会社に入社
H16.9 P3が被告会社設立
H20.9 被告P1が原告会社退社、被告会社に入社
H20.10被告P2が原告会社退社、被告会社に入社
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■判決内容
<争点>
1 被告らは原告の営業上信用を害する虚偽の別紙告知行為目録記載の各事実を第三者に告知したか
被告らが原告会社を退職して被告会社に入社して以降、原告の取引先に対してFAXを送信したり、直接訪問したりして別紙告知行為目録記載の事実を述べるなどしたとして虚偽事実告知行為性(不正競争防止法2条1項14号)が争点となっています(15頁以下)。
結論としては、別紙目録記載の6つの事実のうち、「粉飾決算」についてのみ、14号該当性が肯定されています。但し、同行為を対象とする差止請求は認められていません。
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2 被告らは原告の営業秘密を開示し、あるいは使用しているか
原告の取引先の名称、郵便番号、住所又は所在地、電話番号及びファクシミリ番号のほか、保安用品の国内外の仕入先の名称、住所、電話番号、ファクシミリ番号及びその仕入商品に関する情報(認定顧客情報)の開示・使用行為について、そもそも認定顧客情報は、秘密管理性を欠き「営業秘密」(不正競争防止法2条6項)に該当しないと判断されています(21頁以下)。
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3 被告らの不正競争により原告に生じた損害の額
被告P1の「粉飾決算」告知部分について、原告に対する信用毀損の損害賠償額として10万円、弁護士費用相当損害額として3万円が認定されています(23頁以下)。
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4 被告らの行為は民法709条の不法行為を構成するか
原告はさらに退職従業員らによる取引先の獲得などの競業行為の不法行為性(民法709条)を争点としましたが、結論としては、裁判所は被告らの行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできないとして、不法行為の成立を否定しています(24頁以下)。
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5 被告らによる被告カタログの作成利用行為は、原告が原告カタログについて有する著作権ないし著作者人格権の侵害行為であるか
原告は、被告P1、P2がその職務として原告在職中に作成した商品写真や原告カタログといった著作物の著作権及び著作者人格権は、職務著作(著作権法15条1項)として原告会社に帰属するものであって、被告会社が被告カタログとしてこれを複製利用する行為は著作権等を侵害すると主張しました(30頁以下)。
この点について、被告会社は、原告と密接な関係を持って保安用品の取引を行っており、その取引関係の中で営業に用いるカタログとして、被告P1、被告P2、被告会社代表者が共同して商品の写真撮影をし、その写真データをカタログ用データに造り替えたりして共同で作成しており、この商品カタログを基本として、表紙の会社名だけを原告と被告会社で入れ替えて使用してきた経緯などを裁判所は検討。そして、商品カタログは、原告、被告各会社に職務著作物として両社の共同著作物に位置付けられると判断しています。
その上で両社の商品カタログの利用関係についての合理的意思解釈や商品カタログの性質などから、営業上の協力関係が終了した後であっても従前通りの使用は許されるものであるとして、被告会社に対して原告がその共同著作物の著作権者及び著作者人格権者としての権利を行使して被告カタログの利用行為の差止めを求めることは、信義に照らし、許されないと判断しています。
結論として、「粉飾決済」虚偽事実告知に基づく信用毀損の損害賠償請求についてのみ、認められているに留まっています。
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■コメント
本件は、退職従業員らの退職後の競業行為の営業誹謗行為性や営業秘密開示行為性といった不正競争防止法上の争点とともに、著作権法上の争点として職務著作(法人著作 著作権法15条1項)が成立し原被告各会社の共同著作物として位置付けられる保安用品総合カタログの利用関係について、原告による被告カタログの利用行為に関する差止請求が信義則で否定された事案となります。
問題となったカタログですが、原告サイトに掲載されている保安用品のPDFカタログによると、道路に設置するコーンや回転灯、合図灯などの道路保安用品のようです。
三ツ星貿易株式会社|電子カタログ(PDF)
こうした商品写真や商品説明文がそもそも著作権法上保護される著作物かどうか(著作権法2条1項1号)は、今回直接の争点とはなりませんでしたが、1点1点を個別に取り上げたような場合は微妙な判断となりそうです。