最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「模様入りおにぎり具」実用新案手続補正書編集著作物事件
東京地裁平成23.4.27平成22(ワ)35800損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本 岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 寺田利彦
*裁判所サイト公表 2011.5.9
*キーワード:言語、美術、図形の著作物性、創作性、編集著作物性
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■事案
実用新案登録出願の際の手続補正書の文面等の著作物性が争点となった事案
原告:個人
被告:日用品雑貨販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項1号、4号、6号、12条1項、75条3項
1 本件手続補正書の編集著作物性
2 本件手続補正書の言語の著作物性
3 著作権法75条3項の推定の肯否
--------------------
■事案の概要
『原告が,被告の商品台紙(乙1の1,2。以下「本件台紙」という。)の裏面に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載1。以下「被告説明1」という。)並びに同商品のリーフレット(乙2の1,2。以下「本件リーフレット」といい,本件台紙と併せて「本件台紙等」という。)に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載2〜5。以下「被告説明2〜5」という。)は,いずれも原告の著作物である「手続補正書」(甲6の2。原告が実用新案登録出願の願書に添付した明細書及び図面を補正するため特許庁に提出した同庁昭和57年1月7日受付の手続補正書。以下「本件手続補正書」といい,このうち明細書部分を「本件明細書」,図面部分を「本件図面」といい,その写しを別紙2として添付する。)を複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行為は,原告の有する本件手続補正書の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円,合計300万円の損害賠償の支払を求める事案』
(1頁以下)
特許庁 実開昭57−112736考案「模様入りおにぎり具」
文化庁 登録第31616号−1 題号「模様入りごはん」
被告商品:ポリスチレン製ご飯抜き型(熊の顔)「ふりかけフレーム ポポロ」
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■判決内容
<争点>
1 本件手続補正書の編集著作物性
原告は、被告商品の台紙とリーフレットに掲載した取扱説明文と写真が、原告の実用新案登録出願の際の手続補正書を複製、翻案しているとして被告の掲載行為の著作権侵害性及び著作者人格権侵害性を争点としました。
その前提として本件手続補正書の著作物性について、まず編集著作物性(著作権法12条1項)が検討されています(11頁以下)。
この点について、原告は、本件手続補正書は、「ごはん」、「おにぎり」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり、その選択及び配列に創作性が認められると主張しましたが、裁判所は、
『編集著作物とは,編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの(著作権法12条1項)をいうところ,本件手続補正書は,本件願書に添付した明細書及び図面を補正するために作成されたものであって,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」の各用語も,本件明細書の本文中において,使用する器具又は具材を示すものとして通常の意味,方法で用いられているにすぎず,それ以上に,何らかの編集方針に基づいて,上記各用語が編集の対象である素材として選択され又は配列されているとは認められない。したがって,本件手続補正書は編集著作物とは認められない』(11頁)
として、本件手続補正書の編集著作物性を否定しています。
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2 本件手続補正書の言語の著作物性
次に、本件手続補正書の言語等の著作物性(創作性)について検討がされています(12頁以下)。
(1)本件明細書A部分
例1 おにぎり(5’)の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)をとりのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出されて美しいおにぎりとなっている。
この点について、裁判所は、
『A部分は,実施例についての記述であり,実施例に表れた技術的思想や実施例に示された実施方法それ自体は,アイデアであって表現ではないから,それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とならない』
とした上で、
『A部分の具体的表現も,(1)おにぎりの上に型当て板を当て,(2)上から,ふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等の粒状の具をくり抜き部に埋め込んで,(3)型当て板を取り除くと,(4)おにぎりに花や動物等の絵,模様や,字が描き出されて,(5)美しいおにぎりができあがるということを,一般に使用されるありふれた用語で表現したものにすぎず,表現上の創作性を認めることはできない』
として、言語の著作物性(創作性)を否定しています。
(2)本件明細書B部分
「1:型当て板」,「5:ごはん」,「6:具」
この点について、裁判所は、
『B部分は,明細書中の図面の簡単な説明の部分であって,願書に添付した図面に図示された符号の説明を記載したものにすぎず,その具体的表現にも創作性を認めることはできない。』
として、言語の著作物性(創作性)を否定しています。
(3)本件図表C部分
本件図面のうち第5図〜第7図
この点について、裁判所は、
『C部分のうち図自体は,言語若しくはそれに類する表現手段による表現がなされているものではないから,そもそも言語の著作物には当たらない。
また,C部分の図について美術又は図形としての著作物性をみても,第5図は「模様を入れている側面透視図」,第6図は「模様入りおにぎりの正面図」,第7図は「模様入りおにぎりの側面図」であって,いずれもおにぎりの上に型当て板が載っている様子又はおにぎりの上に具が載っている様子を正面ないし側面から極めてありふれた手法で図示したにすぎず,何ら個性のある表現とはいえないから,創作性を認めることはできない。
C部分のうち,日本語で「第5図」,「第6図」及び「第7図」と記載されている部分は,単に図の番号を記載したものにすぎず,創作性を認めることはできない。』
として、言語、美術又は図形としての著作物性を否定しています。
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3 著作権法75条3項の推定の肯否
原告は、本件手続補正書は、本件願書と実質的に同一の著作物であるところ、本件願書は著作物として登録がされているから、著作権法75条3項により著作物と推定されると主張しましたが、裁判所は、本件願書の登録は、著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって、同法75条の登録(実名の登録)ではないこと、また、著作権法75条3項で推定されるのは、当該登録に係る著作物の著作者であること、同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって、登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるものではないとして、原告の主張を容れていません(14頁以下)。
結論として、原告の請求は認められませんでした。
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■コメント
被告商品の「ふりかけフレーム ポポロ」は、お弁当のご飯にふりかけを掛けたりする際に枠を作ったり、型を抜いたりするのに役立つ道具で可愛らしい仕様です。
ふりかけフレーム ポポロ-アーネスト株式会社
裁判では、この商品の台紙とリーフレットに掲載した取扱説明文や写真(使用上の注意、手入れ方法、使用方法、レシピ等)と本件手続補正書との類否判断に入ることなく、本件手続補正書の著作物性の部分で原告の主張が否定される判断となりました。
この種の道具の使用方法の記載例としては、似通った表現になりますし(8頁被告説明1参照)、著作権侵害性の争点について言えば、そもそも手続補正書への被告側の依拠性自体さえあったのかどうか、疑問となる事案でした。
なお、原告の実用新案登録出願(昭和56年)は、請求期間内での出願審査請求が無く、取下げたものとみなされています(3頁)。
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■過去のブログ記事
・ウェブサイトの説明文などの著作物性が争点となった事案
2011年2月14日記事
データSOS事件
・カタログ掲載説明図の著作物性が争点となった事案
2010年1月29日記事
マットレス形態模倣事件
・ウェブサイト上の写真や文章の著作物性が争点となった事案
2006年4月3日記事
スメルゲット事件
・商品に添付された取扱説明書の著作物性が争点となった事案
2005年12月29日記事
浴湯保温器取扱説明書著作権侵害事件
「模様入りおにぎり具」実用新案手続補正書編集著作物事件
東京地裁平成23.4.27平成22(ワ)35800損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本 岳
裁判官 鈴木和典
裁判官 寺田利彦
*裁判所サイト公表 2011.5.9
*キーワード:言語、美術、図形の著作物性、創作性、編集著作物性
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■事案
実用新案登録出願の際の手続補正書の文面等の著作物性が争点となった事案
原告:個人
被告:日用品雑貨販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、10条1項1号、4号、6号、12条1項、75条3項
1 本件手続補正書の編集著作物性
2 本件手続補正書の言語の著作物性
3 著作権法75条3項の推定の肯否
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■事案の概要
『原告が,被告の商品台紙(乙1の1,2。以下「本件台紙」という。)の裏面に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載1。以下「被告説明1」という。)並びに同商品のリーフレット(乙2の1,2。以下「本件リーフレット」といい,本件台紙と併せて「本件台紙等」という。)に掲載した取扱説明文及び写真(別紙1被告説明目録記載2〜5。以下「被告説明2〜5」という。)は,いずれも原告の著作物である「手続補正書」(甲6の2。原告が実用新案登録出願の願書に添付した明細書及び図面を補正するため特許庁に提出した同庁昭和57年1月7日受付の手続補正書。以下「本件手続補正書」といい,このうち明細書部分を「本件明細書」,図面部分を「本件図面」といい,その写しを別紙2として添付する。)を複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行為は,原告の有する本件手続補正書の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円,合計300万円の損害賠償の支払を求める事案』
(1頁以下)
特許庁 実開昭57−112736考案「模様入りおにぎり具」
文化庁 登録第31616号−1 題号「模様入りごはん」
被告商品:ポリスチレン製ご飯抜き型(熊の顔)「ふりかけフレーム ポポロ」
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■判決内容
<争点>
1 本件手続補正書の編集著作物性
原告は、被告商品の台紙とリーフレットに掲載した取扱説明文と写真が、原告の実用新案登録出願の際の手続補正書を複製、翻案しているとして被告の掲載行為の著作権侵害性及び著作者人格権侵害性を争点としました。
その前提として本件手続補正書の著作物性について、まず編集著作物性(著作権法12条1項)が検討されています(11頁以下)。
この点について、原告は、本件手続補正書は、「ごはん」、「おにぎり」、「ふりかけ」、「具」、「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり、その選択及び配列に創作性が認められると主張しましたが、裁判所は、
『編集著作物とは,編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの(著作権法12条1項)をいうところ,本件手続補正書は,本件願書に添付した明細書及び図面を補正するために作成されたものであって,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」の各用語も,本件明細書の本文中において,使用する器具又は具材を示すものとして通常の意味,方法で用いられているにすぎず,それ以上に,何らかの編集方針に基づいて,上記各用語が編集の対象である素材として選択され又は配列されているとは認められない。したがって,本件手続補正書は編集著作物とは認められない』(11頁)
として、本件手続補正書の編集著作物性を否定しています。
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2 本件手続補正書の言語の著作物性
次に、本件手続補正書の言語等の著作物性(創作性)について検討がされています(12頁以下)。
(1)本件明細書A部分
例1 おにぎり(5’)の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)をとりのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出されて美しいおにぎりとなっている。
この点について、裁判所は、
『A部分は,実施例についての記述であり,実施例に表れた技術的思想や実施例に示された実施方法それ自体は,アイデアであって表現ではないから,それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とならない』
とした上で、
『A部分の具体的表現も,(1)おにぎりの上に型当て板を当て,(2)上から,ふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等の粒状の具をくり抜き部に埋め込んで,(3)型当て板を取り除くと,(4)おにぎりに花や動物等の絵,模様や,字が描き出されて,(5)美しいおにぎりができあがるということを,一般に使用されるありふれた用語で表現したものにすぎず,表現上の創作性を認めることはできない』
として、言語の著作物性(創作性)を否定しています。
(2)本件明細書B部分
「1:型当て板」,「5:ごはん」,「6:具」
この点について、裁判所は、
『B部分は,明細書中の図面の簡単な説明の部分であって,願書に添付した図面に図示された符号の説明を記載したものにすぎず,その具体的表現にも創作性を認めることはできない。』
として、言語の著作物性(創作性)を否定しています。
(3)本件図表C部分
本件図面のうち第5図〜第7図
この点について、裁判所は、
『C部分のうち図自体は,言語若しくはそれに類する表現手段による表現がなされているものではないから,そもそも言語の著作物には当たらない。
また,C部分の図について美術又は図形としての著作物性をみても,第5図は「模様を入れている側面透視図」,第6図は「模様入りおにぎりの正面図」,第7図は「模様入りおにぎりの側面図」であって,いずれもおにぎりの上に型当て板が載っている様子又はおにぎりの上に具が載っている様子を正面ないし側面から極めてありふれた手法で図示したにすぎず,何ら個性のある表現とはいえないから,創作性を認めることはできない。
C部分のうち,日本語で「第5図」,「第6図」及び「第7図」と記載されている部分は,単に図の番号を記載したものにすぎず,創作性を認めることはできない。』
として、言語、美術又は図形としての著作物性を否定しています。
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3 著作権法75条3項の推定の肯否
原告は、本件手続補正書は、本件願書と実質的に同一の著作物であるところ、本件願書は著作物として登録がされているから、著作権法75条3項により著作物と推定されると主張しましたが、裁判所は、本件願書の登録は、著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって、同法75条の登録(実名の登録)ではないこと、また、著作権法75条3項で推定されるのは、当該登録に係る著作物の著作者であること、同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって、登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるものではないとして、原告の主張を容れていません(14頁以下)。
結論として、原告の請求は認められませんでした。
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■コメント
被告商品の「ふりかけフレーム ポポロ」は、お弁当のご飯にふりかけを掛けたりする際に枠を作ったり、型を抜いたりするのに役立つ道具で可愛らしい仕様です。
ふりかけフレーム ポポロ-アーネスト株式会社
裁判では、この商品の台紙とリーフレットに掲載した取扱説明文や写真(使用上の注意、手入れ方法、使用方法、レシピ等)と本件手続補正書との類否判断に入ることなく、本件手続補正書の著作物性の部分で原告の主張が否定される判断となりました。
この種の道具の使用方法の記載例としては、似通った表現になりますし(8頁被告説明1参照)、著作権侵害性の争点について言えば、そもそも手続補正書への被告側の依拠性自体さえあったのかどうか、疑問となる事案でした。
なお、原告の実用新案登録出願(昭和56年)は、請求期間内での出願審査請求が無く、取下げたものとみなされています(3頁)。
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