最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
TBS「愛の劇場」オープニングテーマ曲不当利得返還請求事件
東京地裁平成23.3.24平成21(ワ)43011不当利得返還請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門 優
裁判官 柵木澄子
*裁判所サイト公表 2011.4.7
*キーワード:音楽著作権、委嘱楽曲、買取り、使用料、制作費、著作権譲渡、信託契約、ジャスラック
--------------------
■事案
昼ドラのオープニングBGM楽曲制作委託が買取り(著作権譲渡)だったかどうかが争点となった事案
原告:作曲家ら
被告:TBSテレビ
楽曲名:「愛の劇場」オープニングテーマ
―ホワイトチャイム―
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 民法703条、704条
1 原告らは、被告に対して本件使用を許諾したか
--------------------
■事案の概要
『原告らが,同人らの作曲した楽曲が株式会社東京放送(以下「東京放送」という。)の制作するテレビ番組のオープニングテーマとして長期間にわたって使用されたものの,一部の期間については原告らの許諾を得ずに上記使用がされたと主張して,会社分割により東京放送の権利義務を包括的に承継した被告に対し,上記楽曲の使用料相当額の不当利得の返還及びこれに対する民法704条所定の法定利息の支払を求めた事案』(2頁)
<経緯>
H15.11 東京放送がケネック社にドラマオープニング用CG映像制作を依頼
H15.12 ケネック社が原告Aに映像への音付け制作依頼
原告A、Bが本件楽曲をケネック社に納品
H16.1 東京放送が本件楽曲を平成21年3月まで使用
H18.4 原告らが本件楽曲の著作権を日音に譲渡
日音がジャスラックに信託譲渡
日音はジャスラックから受領した使用料を原告らに再分配
H21.2 原告Aが被告に対して使用料支払い通知
H21.3 被告が原告Aに対して回答
H21.4 被告は会社分割により東京放送から権利義務を包括承継
--------------------
■判決内容
<争点>
1 原告らは、被告に対して本件使用を許諾したか
原告らが制作した楽曲の著作権について、原告らが音楽出版社である日音との間で著作権譲渡契約を締結した平成18年4月1日以前の期間(平成16年1月1日から18年3月31日)の楽曲使用料の支払いを被告TBSテレビに対して原告らは求めました(10頁以下)。
この点について裁判所は、
(1)東京放送とケネック社との間で権利処理されたうえで納品することが確認されている
(2)原告らは、楽曲使用の事実を知りながら5年間使用料を請求していない
(3)7秒程度のごく短い楽曲であり、20万円という金額は、使用料を含むものと考えても特段不自然ではない
(4)ジャスラックへの信託譲渡の経緯は着メロ配信のためで、東京放送が原告らに使用料の支払義務があることを前提としたものではなかった
などの諸点から、原告らは20万円を対価として本件オープニング映像に使用することを許諾していたとして、原告らの使用料の請求を認めていません。
--------------------
■コメント
2009年に40年の歴史の幕を閉じたテレビドラマシリーズ「愛の劇場」のオープニング楽曲の委嘱制作を巡って争われた事案です。
当初、依頼主である映像制作会社が買取り(とっぱらい)を念頭に取り扱っていた楽曲を、途中から着メロ配信処理を目的に音楽出版社からジャスラック経由の使用料分配のルートに変更、作曲家らに使用料が分配されるようになったことから、著作権の有り様について話がこじれました。
原告側の主張によると、音制作の内容としては、「候補曲4曲の作曲及び演奏,これらの候補曲の中からクライアントが選択した1曲についての,音色・楽器違いの5バージョンの制作,当該5バージョンの中から,クライアントが選択した最終候補である2バージョンについてのマスタリング作業,最終的に選択された1バージョンについてのMA作業(CG,音楽,ナレーションを合わせて編集する作業)への立会い」(6頁以下)といったものだったようですが、この作業がどの程度の量なのか、20万円では、手を動かした分(制作費)だけで、使用料までは含まれていない、という主張も一方では成り立つわけですが、詳細はわかりません。
そこで、音制作の現場の作家さん(作曲、編曲、実演、原盤制作)に本事案の感想を聞いてみました。
BGMなのか「ジングル(サウンドロゴ)」なのかの認識でも違うし(後者だと「買取り」が少なくない)、外部演奏者や外部スタジオを使ったかどうかによって制作費も違ってくる、また、媒体によって使用頻度も違う、さらに、編集立ち会いなどは、別途ディレクション料がある場合かどうか様々、作家の知名度、ということで、買取りか否かは、ケースバイケースのようです(1度限りのイベント使用目的なら20万円での買取りも現場感覚的にはおかしくない)。
私の取引先の音制作会社の例でいえば、有名どころの作家さんのCF委嘱楽曲であれば、委嘱費1000万、対して無名の作家さんだとあとから買取りの合意書を取り付けることもしばしば。音制作会社の権利処理調整の力量に掛かっています。
当初の楽曲買取りの権利関係の実態に合わせるのであれば、映像制作会社のケネック社を著作権者として、日音との間で使用料を分配してしまえば良かったわけで(原告らはジャスラックとは無信託関係。作品コード132−8226−3)、作曲家らへの配慮が逆に作曲家らに著作権があるように誤解させる、中途半端な結果を生じさせてしまっています。
楽曲委嘱制作契約が著作権譲渡の趣旨を含むのかどうか、双方にとって最初が肝心であることを印象付ける事案でした。
なお、原告のお一人は、ギタリストで独自の音楽理論で教育活動にも取り組まれ、特許出願されておいでです(特許公開2010−91993 発明の名称:音楽教習部材、音楽教習具、音楽教習装置、作曲支援具、作曲支援装置及びコンピュータプログラム)。
TBS「愛の劇場」オープニングテーマ曲不当利得返還請求事件
東京地裁平成23.3.24平成21(ワ)43011不当利得返還請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門 優
裁判官 柵木澄子
*裁判所サイト公表 2011.4.7
*キーワード:音楽著作権、委嘱楽曲、買取り、使用料、制作費、著作権譲渡、信託契約、ジャスラック
--------------------
■事案
昼ドラのオープニングBGM楽曲制作委託が買取り(著作権譲渡)だったかどうかが争点となった事案
原告:作曲家ら
被告:TBSテレビ
楽曲名:「愛の劇場」オープニングテーマ
―ホワイトチャイム―
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 民法703条、704条
1 原告らは、被告に対して本件使用を許諾したか
--------------------
■事案の概要
『原告らが,同人らの作曲した楽曲が株式会社東京放送(以下「東京放送」という。)の制作するテレビ番組のオープニングテーマとして長期間にわたって使用されたものの,一部の期間については原告らの許諾を得ずに上記使用がされたと主張して,会社分割により東京放送の権利義務を包括的に承継した被告に対し,上記楽曲の使用料相当額の不当利得の返還及びこれに対する民法704条所定の法定利息の支払を求めた事案』(2頁)
<経緯>
H15.11 東京放送がケネック社にドラマオープニング用CG映像制作を依頼
H15.12 ケネック社が原告Aに映像への音付け制作依頼
原告A、Bが本件楽曲をケネック社に納品
H16.1 東京放送が本件楽曲を平成21年3月まで使用
H18.4 原告らが本件楽曲の著作権を日音に譲渡
日音がジャスラックに信託譲渡
日音はジャスラックから受領した使用料を原告らに再分配
H21.2 原告Aが被告に対して使用料支払い通知
H21.3 被告が原告Aに対して回答
H21.4 被告は会社分割により東京放送から権利義務を包括承継
--------------------
■判決内容
<争点>
1 原告らは、被告に対して本件使用を許諾したか
原告らが制作した楽曲の著作権について、原告らが音楽出版社である日音との間で著作権譲渡契約を締結した平成18年4月1日以前の期間(平成16年1月1日から18年3月31日)の楽曲使用料の支払いを被告TBSテレビに対して原告らは求めました(10頁以下)。
この点について裁判所は、
(1)東京放送とケネック社との間で権利処理されたうえで納品することが確認されている
(2)原告らは、楽曲使用の事実を知りながら5年間使用料を請求していない
(3)7秒程度のごく短い楽曲であり、20万円という金額は、使用料を含むものと考えても特段不自然ではない
(4)ジャスラックへの信託譲渡の経緯は着メロ配信のためで、東京放送が原告らに使用料の支払義務があることを前提としたものではなかった
などの諸点から、原告らは20万円を対価として本件オープニング映像に使用することを許諾していたとして、原告らの使用料の請求を認めていません。
--------------------
■コメント
2009年に40年の歴史の幕を閉じたテレビドラマシリーズ「愛の劇場」のオープニング楽曲の委嘱制作を巡って争われた事案です。
当初、依頼主である映像制作会社が買取り(とっぱらい)を念頭に取り扱っていた楽曲を、途中から着メロ配信処理を目的に音楽出版社からジャスラック経由の使用料分配のルートに変更、作曲家らに使用料が分配されるようになったことから、著作権の有り様について話がこじれました。
原告側の主張によると、音制作の内容としては、「候補曲4曲の作曲及び演奏,これらの候補曲の中からクライアントが選択した1曲についての,音色・楽器違いの5バージョンの制作,当該5バージョンの中から,クライアントが選択した最終候補である2バージョンについてのマスタリング作業,最終的に選択された1バージョンについてのMA作業(CG,音楽,ナレーションを合わせて編集する作業)への立会い」(6頁以下)といったものだったようですが、この作業がどの程度の量なのか、20万円では、手を動かした分(制作費)だけで、使用料までは含まれていない、という主張も一方では成り立つわけですが、詳細はわかりません。
そこで、音制作の現場の作家さん(作曲、編曲、実演、原盤制作)に本事案の感想を聞いてみました。
BGMなのか「ジングル(サウンドロゴ)」なのかの認識でも違うし(後者だと「買取り」が少なくない)、外部演奏者や外部スタジオを使ったかどうかによって制作費も違ってくる、また、媒体によって使用頻度も違う、さらに、編集立ち会いなどは、別途ディレクション料がある場合かどうか様々、作家の知名度、ということで、買取りか否かは、ケースバイケースのようです(1度限りのイベント使用目的なら20万円での買取りも現場感覚的にはおかしくない)。
私の取引先の音制作会社の例でいえば、有名どころの作家さんのCF委嘱楽曲であれば、委嘱費1000万、対して無名の作家さんだとあとから買取りの合意書を取り付けることもしばしば。音制作会社の権利処理調整の力量に掛かっています。
当初の楽曲買取りの権利関係の実態に合わせるのであれば、映像制作会社のケネック社を著作権者として、日音との間で使用料を分配してしまえば良かったわけで(原告らはジャスラックとは無信託関係。作品コード132−8226−3)、作曲家らへの配慮が逆に作曲家らに著作権があるように誤解させる、中途半端な結果を生じさせてしまっています。
楽曲委嘱制作契約が著作権譲渡の趣旨を含むのかどうか、双方にとって最初が肝心であることを印象付ける事案でした。
なお、原告のお一人は、ギタリストで独自の音楽理論で教育活動にも取り組まれ、特許出願されておいでです(特許公開2010−91993 発明の名称:音楽教習部材、音楽教習具、音楽教習装置、作曲支援具、作曲支援装置及びコンピュータプログラム)。