最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「やわらかい生活」脚本事件(控訴審)

知財高裁平成23.3.23平成22(ネ)10073出版妨害禁止等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      齊木教朗
裁判官      武宮英子

*裁判所サイト公表 2011.3.29
*キーワード:交換的変更、確認の利益、二次的著作物、権利濫用

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■事案

映画の原作者である小説家に対して映画の脚本を制作した脚本家とシナリオ作家協会が協会刊行の「年鑑代表シナリオ集」への脚本の掲載を妨害しないよう求めた事案の控訴審

原告(控訴人) :脚本家X、(社)シナリオ作家協会
被告(被控訴人):小説家

脚本:「やわらかい生活」
原作:「イッツ・オンリー・トーク」

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■結論

控訴棄却、却下

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■争点

条文 著作権法28条、民法1条3項

1 出版差止請求権不存在確認の訴えにおける原告Xの訴えの利益(本案前の答弁)について
2 権利濫用の主張について

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■事案の概要

【事案の概要】

『別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を発行している控訴人社団法人シナリオ作家協会(1審原告。以下「原告協会」という。)と,小説「イッツ・オンリー・トーク」(以下「本件小説」という。)を原作とする映画(以下「本件映画」という。)の製作のために別紙著作物目録記載の脚本(以下「本件脚本」という。)を執筆した控訴人X(1審原告。以下「原告X」という。)が,本件脚本の本件書籍への収録及びその出版を承諾しなかった本件小説の著作者である被控訴人(1審被告。以下「被告」という。)に対し,被告の委託を受けて本件小説の著作権を管理している株式会社文藝春秋(以下「文藝春秋」という。)と,本件映画の企画製作プロダクション会社である有限会社ステューディオスリー(以下「ステューディオスリー」という。)との間で締結された本件小説の劇場用実写映画化に係る原作使用契約(以下「本件原作使用契約」という。)において,著作物の二次的利用については,「文藝春秋は,一般的な社会慣行並びに商習慣等に反する許諾拒否は行わない」との条項があることに照らすと,本件脚本を本件書籍に収録して出版することについては原告X及び原告協会(以下「原告ら」という。)と被告との間で許諾合意が成立していたと認めるべきであり,被告の前記不承諾は不法行為に当たる旨主張し,上記許諾合意に基づき,原告らにおいては本件脚本の本件書籍への収録及びその出版を妨害してはならないことを求めるとともに,原告協会においては原告協会と被告との間において前記出版の被告に対する著作権使用料が3000円であることの確認を求め,原告ら各自において前記各不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料及び弁護士費用相当額の各損害金400万円の内各1円及びこれに対する平成21年8月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めたという事案』(2頁以下)

【原判決の概要】

『原判決は,(1)原告らは,本件原作使用契約の当事者ではないから,本件原作使用契約の二次的利用許諾条項に基づく許諾合意の成立を主張することはできず,許諾合意に基づく主張は失当である,(2)なお,二次的著作物の利用について共同著作物に関する著作権法65条3項は類推適用されないから,同項の類推適用を根拠に許諾合意の成立を主張することもできない,(3)二次的著作物である本件脚本の利用に関し,原著作物の著作者である被告は本件脚本の著作者である原告Xが有するものと同一の種類の権利を専有し,原告Xは被告との合意によらなければ自らの権利を行使することができないと解されるから,被告の不承諾は,原著作物の著作権者として有する正当な権利の行使であって,不法行為には当たらない,旨判断して,原告ら主張の許諾合意又は不法行為損害賠償請求権に基づく各請求を全部棄却した』(3頁)

【控訴の概要】

『原告らは,原判決を不服として本件控訴を提起した。そして,当審において,原告らは,請求及び請求の原因を交換的に変更した。すなわち,原告Xにおいては出版妨害禁止請求に係る訴えを取り下げ,原告協会においては著作権使用料額の確認請求に係る訴えを取り下げ,原告らにおいて各不法行為損害賠償請求に係る訴えを取り下げた。その上で,原告協会は,出版妨害禁止請求に係る訴えを維持し,また,原告らにおいて出版差止請求権不存在確認請求に係る訴えを追加した。いずれの訴えにおいても,原告らは,原告協会の出版行為に対して,被告が許諾を与えないことが権利濫用に当たるとの主張,すなわち,原著作物の著作権(著作権法28条,112条1項)に基づく出版差止請求権の存在を主張すること(抗弁)が権利濫用に当たるとの主張(再抗弁)をするに至った』(3頁)

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■判決内容

<争点>

1 出版差止請求権不存在確認の訴えにおける原告Xの訴えの利益(本案前の答弁)について

脚本家である原告Xは、「原告協会が,本件脚本を本件書籍に収録し,出版しようとする行為について,被告が原告協会に対して行使することが予想される差止請求権」の不存在の確認を求めましたが、裁判所は、出版の主体は原告協会であって、出版禁止によって原告Xは事実上の影響を受けるに止まること、また、原告協会が現に不存在確認請求等を提起しており即時確定の必要性がなく訴えの利益を欠くとして却下の判断をしています(26頁)。

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2 権利濫用の主張について

原告協会が、原著作者である被告の許諾を得ることなく本件脚本を本件書籍に収録し、出版しようとする行為について、被告が許諾を与えないことが権利濫用に当たる旨の原告協会の主張(原告協会の被告に対する出版妨害禁止請求及び出版差止請求権不存在確認請求において、被告が著作権法28条、112条1項に基づく出版差止請求権を有すると抗弁として主張することが権利濫用に該当するとの再抗弁の主張、として整理される原告協会の主張)に関して、裁判所は、正当な権利行使の範囲内のものであって、権利濫用には当たらないと判断しています(26頁以下)。

結論として、原告側の主張を認めませんでした。

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■コメント

シナリオ作家協会と脚本家は、一審で代理人を担当された協会顧問弁護士を交代させた上で請求及び請求の原因を交換的に変更して権利濫用論で控訴審にあたりましたが、棄却の結論は変わりませんでした(脚本家については、門前払い)。

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■過去のブログ記事

2010年9月24日記事 原審

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■参考サイト

シナリオ作家協会 控訴審判決文
判決文PDF