最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

船舶情報管理システム事件(控訴審)

知財高裁平成23.3.15平成20(ネ)10064著作権確認等請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官      清水節
裁判官      古谷健二郎

*裁判所サイト公表 2011.3.16
*キーワード:プログラム、著作物性、職務著作、確認の利益、翻案

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■事案

船舶の塗料管理システムの著作権の帰属が争われた事案の控訴審

原告(控訴人) :被告会社元従業員
被告(被控訴人):船舶用塗料製造販売会社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項10号の2、10条1項9号、15条2項

1 控訴人の本件システムの著作権の確認を求める請求
2 本件システムと被控訴人において稼働していた「船舶情報管理システム」との関係
3 控訴人の開発寄与分の割合の確認を求める訴え

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■事案の概要

『1 原判決別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」(本件システム)を開発作成し,その著作権を有すると主張する控訴人(原告)は,元の勤務先である被控訴人(被告)が同システムを使用しているとして,被控訴人に対し,(1)本件システムについて,控訴人が著作権を有することの確認を求めるとともに,(2)控訴人による開発寄与分の確認を求めた。
 2 原判決は,本件システムはプログラムの著作物であるが,仮に同システムが控訴人の著作に係るものと認めるとしても,著作権法15条2項の職務著作に該当するとして,その著作権を有することの確認請求を棄却するとともに,本件システムについての開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める請求については,訴えの利益がないとして,その訴えを却下した。
 控訴審では,(1)の請求については,控訴人が単独で著作権を有することの確認を主位的請求とし,予備的に,被控訴人又は信友株式会社(信友)及び中国塗料技研株式会社(中国塗料技研)と共同で著作権を有することの確認を請求した。』(2頁)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人の本件システムの著作権の確認を求める請求

新造船建造時の塗料から現在就航中の船舶の修繕塗料まで、その船舶や塗料、塗装に関する情報を管理する本件システムの著作物性(著作権法2条1項10号の2、10条1項9号)及び本件システムの職務著作性(15条2項)について、控訴審は、原審の判断を引用の上原審同様、本件システムの職務著作性を肯定して原告(控訴人)に著作権があることを否定しています(8頁以下)。

原告は、本件システムについて、被告(被控訴人)から何らの開発指示・命令がなく、「法人等の発意」がなかったと主張しましたが、被告の社内稟議を経て代表者の決裁という明確な発意に基づいて開発が開始され、被告が全額出資する完全子会社らに開発業務を担わせていた等の事情から原告の主張を裁判所は容れていません。

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2 本件システムと被控訴人において稼働していた「船舶情報管理システム」との関係

原告が在職中に開発や運用に係わった本件システムと平成22年まで稼働していたシステム(NECシステム)の同一性又は実質的同一性の有無について、裁判所は、画面入力の可否といった違いからプログラムの表現において両者は異なると判断しています(12頁以下)。

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3 控訴人の開発寄与分の割合の確認を求める訴え

本件システムに対する原告の開発寄与分の割合の確認を求めた部分について、裁判所は、『この割合自体が現在の権利又は法律関係となるものではなく,単なる事実関係の範疇に属するものであり,その事実関係から直截に現在の権利又は法律関係が導かれ,紛争を抜本的に解決するような事実関係ということもできないので,この訴えは,確認の利益を欠くものといわなければならない。』として、不適法却下の判断をしています(14頁)。

結論として、原告の控訴は棄却されています。

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■コメント

雇用関係があるなかで従業員が職務としてシステム開発を行っている場合に、会社から開発過程において具体的な指示、命令がない場合であっても職務著作の発意要件に欠けるところはないとした事案となります。

原審では、『「法人等の発意」があったというためには,著作物作成に向けた意思が直接又は間接に法人等の判断にかかっていればよいと解すべきであり,明示の発意がなくとも,黙示の発意があれば足りるものというべきである』(原審PDF32頁)として、加戸後掲書144頁と同旨の判断を示していましたが、控訴審でも原審の判断を維持しています(8頁)。
立法者意思としては、発意とは、単に企画を立てたということだけではなく、最後の段階までイニシアチブを持って全体の創作行為についてのコントロールを及ぼしていくことと捉えていますが(佐野後掲雑誌参照)、本事案では、当初の社内稟議による代表者決裁、必要に応じた資金援助、追加プログラムのリース契約などの事情から発意性を肯定しています。

元従業員としては、会社から具体的な指示がないなかで、ひとりで設計仕様書作成から発注、検収、納入、運営などを行ったのに成果が報われていないという思いがあった訳ですが(原審PDF23頁以下参照)、職務発明制度の「相当の対価」を受ける権利といった代償措置が特許法にあるのと比較すると、著作権法の職務著作制度には代償措置がないところが制度としては異なる部分です。

なお、平成22年にはNECシステムも旧式として廃棄され、富士通製にとって変わられていて、初代の本件システムも隔世の感があります。

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■過去のブログ記事

2008年7月31日記事 原審

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■参考文献

加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(2006)144頁
伊藤正己、佐野文一郎ほか「新著作権法セミナー第3回−著作者(つづき)、著作者人格権−」『ジュリスト』470号(1971)98頁以下
半田正夫、松田政行編『著作権法コンメンタール1』(2009)675頁以下(作花文雄)