最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「恋愛の神様」ケータイコンテンツプログラム事件(控訴審)
知財高裁平成23.2.28平成22(ネ)10051損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子
*裁判所サイト公表 2011.3.14
*キーワード:創作性、翻案権、プログラム、ソフトウェア、一般不法行為、営業秘密、誤認混同惹起行為
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■事案
携帯電話コンテンツのソフトウェアの著作物性や利用許諾契約違反性などが争点となった事案の控訴審
原告(控訴人・被控訴人):ソフトウェア開発販売会社
被告(被控訴人・控訴人):モバイルコンテンツ開発配信会社ら
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■結論
原告控訴棄却、被告敗訴部分取り消し
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2条1項10号の2、10条3項、不正競争防止法2条6項、2条1項4号、7号、1号、民法709条
1 プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無
2 美術(画像)の著作物性
3 不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
4 不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
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■事案の概要
『原告が被告らに対して,携帯端末又はパソコン向けコンテンツ配信用ソフトウェアに関連して,被告らの行為が,原告の有する著作権,著作者人格権侵害の不法行為又は債務不履行を構成するなどと主張して,損害賠償金の支払を求めた事案』(3頁)
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■判決内容
<争点>
1 プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無
控訴審では、原判決の争点1から25までの判断を付加訂正の上引用しています(39頁以下)。
そして、原告が控訴審において追加した争点として1から4があり(原審においても主張されたが、控訴審で特に主張した点も含む)、判断を示しています。
まず、プログラムの創作性と翻案権侵害性の有無について判断しています(44頁以下)。
この点について、裁判所は、著作物の意義(著作権法2条1項1号)、プログラムにおける創作性の意義(2条1項10号の2、10条3項)に言及した上で、著作権侵害性の判断について、
『後に作成されたプログラムが先に作成されたプログラムに係る複製権ないし翻案権侵害に当たるか否かを判断するに当たっては,プログラムに上記のような制約が存在することから,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比し,創作性のある表現における同一性があるか否か,あるいは,表現上の創作的な特徴部分を直接感得できるか否かの観点から判断すべきであり,単にプログラム全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない』(45頁)
とした上で個別にプログラムを検討。
星座を求めるプログラムや日干計算プログラム、九星を求めるプログラムなどについて、ありふれたもので創作性がなく著作物といえない、モジュールの選択・配列はアイデアにとどまる、あるいは、表現上の本質的な特徴部分において共通するものではない、などとして侵害性を否定しています。
なお、原告は、『本件において,原告が作成したプログラムには,プログラム言語としてPHP言語が使用されているが,平成10年当時,類を見なかった「携帯端末用占いコンテンツ」の創作に当たり,その表現にPHP言語を選択すること自体が非常に特殊であったから,PHP言語で表現されたプログラムが「ありふれた表現手法」とはいえない』(7頁)と主張しました。
しかし、裁判所は、『著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約,解法には,著作権法による保護は及ばず(同法10条3項),一般的でないプログラム言語を使用していることをもって,直ちに創作性を肯定することはできない』(45頁)とした上で、『プログラムの作成当時,多用されていなかったPHP言語を使用したという事情があるからといって,作成者の個性を認める理由とはならない』(46頁)などとして、原告の主張を容れていません。
結論として、原審と同様、プログラム部分の創作性、著作権侵害性を否定しています。
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2 美術(画像)の著作物性
(ア)白黒画像について
携帯電話画面上に表示される白黒画像の創作性について、原審同様、否定されています(51頁以下)。
(イ)カラー画像について
白黒画像に着色を施し、ルーン文字及びルーン石に影を付けたカラー画像について、原審では『加工を原告白黒画像に加えたことにより,原告カラー画像は,既存のモチーフを離れた新たな創作性が付与されたものというべき』(原判決PDF186頁)であるとして、著作物性が認められていました。
しかし、控訴審では、ルーン石やルーン文字の形状は白黒画像と変わるところがなく、また、配色のしかたについても、特段の創意があるとまではいえない、として創作性が否定されています(51頁以下)。
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3 不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
原告は、被告の複製行為などが著作権侵害とならない場合であっても法的保護に値する利益を違法に侵害する一般不法行為が成立すると新たに主張しましたが、原告主張の「法的保護に値する利益」の内容が明らかでないこと、また、行為と損害の間の因果関係についての主張・立証が無い、として原告の主張を容れていません(52頁)。
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4 不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
原告は、プログラムが営業秘密に該当し、その不正取得行為などがあった(不正競争防止法2条6項、1項4号、7号)、また、誤認混同惹起行為(2条1項1号)があったとして不正競争行為性を新たに争点としました(52頁以下)。
結論としては、2条1項4号、7号については、プログラムが秘密管理性を欠き営業秘密にあたらないこと、また、1号については、原告自らが「恋愛の神様」の番組名で携帯電話用プログラムコンテンツの公衆配信を行っていたことを認めるに足りる証拠はない、としていずれも認められていません。
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■コメント
一審では、携帯電話画面に表示されるカラー画像の部分についてだけ著作権侵害、契約違反が認められていましたが、知財高裁ではその部分についての著作権侵害性も否定され、原告の完全敗訴となりました。
原告は、平成10年当時はまだ珍しかった携帯端末向けプログラム制作でのPHP言語(動的にHTMLデータを生成することによって、動的なウェブページを実現することを主な目的としたプログラミング言語、およびその言語処理系)の使用の点の創作性を強調しましたが、認められませんでした。
なお、判決文別紙にプログラムのソース内容の対比が掲載されています(58頁以下参照)。
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■過去のブログ記事
2010年5月31日記事
「恋愛の神様」ケータイコンテンツプログラム事件
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■参考サイト
IR情報 株式会社インデックス(平成23年2月28日)
訴訟の判決(控訴審判決)に関するお知らせPDF
「恋愛の神様」ケータイコンテンツプログラム事件(控訴審)
知財高裁平成23.2.28平成22(ネ)10051損害賠償請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子
*裁判所サイト公表 2011.3.14
*キーワード:創作性、翻案権、プログラム、ソフトウェア、一般不法行為、営業秘密、誤認混同惹起行為
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■事案
携帯電話コンテンツのソフトウェアの著作物性や利用許諾契約違反性などが争点となった事案の控訴審
原告(控訴人・被控訴人):ソフトウェア開発販売会社
被告(被控訴人・控訴人):モバイルコンテンツ開発配信会社ら
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■結論
原告控訴棄却、被告敗訴部分取り消し
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、2条1項10号の2、10条3項、不正競争防止法2条6項、2条1項4号、7号、1号、民法709条
1 プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無
2 美術(画像)の著作物性
3 不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
4 不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
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■事案の概要
『原告が被告らに対して,携帯端末又はパソコン向けコンテンツ配信用ソフトウェアに関連して,被告らの行為が,原告の有する著作権,著作者人格権侵害の不法行為又は債務不履行を構成するなどと主張して,損害賠償金の支払を求めた事案』(3頁)
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■判決内容
<争点>
1 プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無
控訴審では、原判決の争点1から25までの判断を付加訂正の上引用しています(39頁以下)。
そして、原告が控訴審において追加した争点として1から4があり(原審においても主張されたが、控訴審で特に主張した点も含む)、判断を示しています。
まず、プログラムの創作性と翻案権侵害性の有無について判断しています(44頁以下)。
この点について、裁判所は、著作物の意義(著作権法2条1項1号)、プログラムにおける創作性の意義(2条1項10号の2、10条3項)に言及した上で、著作権侵害性の判断について、
『後に作成されたプログラムが先に作成されたプログラムに係る複製権ないし翻案権侵害に当たるか否かを判断するに当たっては,プログラムに上記のような制約が存在することから,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比し,創作性のある表現における同一性があるか否か,あるいは,表現上の創作的な特徴部分を直接感得できるか否かの観点から判断すべきであり,単にプログラム全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない』(45頁)
とした上で個別にプログラムを検討。
星座を求めるプログラムや日干計算プログラム、九星を求めるプログラムなどについて、ありふれたもので創作性がなく著作物といえない、モジュールの選択・配列はアイデアにとどまる、あるいは、表現上の本質的な特徴部分において共通するものではない、などとして侵害性を否定しています。
なお、原告は、『本件において,原告が作成したプログラムには,プログラム言語としてPHP言語が使用されているが,平成10年当時,類を見なかった「携帯端末用占いコンテンツ」の創作に当たり,その表現にPHP言語を選択すること自体が非常に特殊であったから,PHP言語で表現されたプログラムが「ありふれた表現手法」とはいえない』(7頁)と主張しました。
しかし、裁判所は、『著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約,解法には,著作権法による保護は及ばず(同法10条3項),一般的でないプログラム言語を使用していることをもって,直ちに創作性を肯定することはできない』(45頁)とした上で、『プログラムの作成当時,多用されていなかったPHP言語を使用したという事情があるからといって,作成者の個性を認める理由とはならない』(46頁)などとして、原告の主張を容れていません。
結論として、原審と同様、プログラム部分の創作性、著作権侵害性を否定しています。
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2 美術(画像)の著作物性
(ア)白黒画像について
携帯電話画面上に表示される白黒画像の創作性について、原審同様、否定されています(51頁以下)。
(イ)カラー画像について
白黒画像に着色を施し、ルーン文字及びルーン石に影を付けたカラー画像について、原審では『加工を原告白黒画像に加えたことにより,原告カラー画像は,既存のモチーフを離れた新たな創作性が付与されたものというべき』(原判決PDF186頁)であるとして、著作物性が認められていました。
しかし、控訴審では、ルーン石やルーン文字の形状は白黒画像と変わるところがなく、また、配色のしかたについても、特段の創意があるとまではいえない、として創作性が否定されています(51頁以下)。
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3 不法行為(法的保護に値する利益侵害)に基づく損害賠償責任の有無
原告は、被告の複製行為などが著作権侵害とならない場合であっても法的保護に値する利益を違法に侵害する一般不法行為が成立すると新たに主張しましたが、原告主張の「法的保護に値する利益」の内容が明らかでないこと、また、行為と損害の間の因果関係についての主張・立証が無い、として原告の主張を容れていません(52頁)。
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4 不正競争防止法に基づく損害賠償責任の有無
原告は、プログラムが営業秘密に該当し、その不正取得行為などがあった(不正競争防止法2条6項、1項4号、7号)、また、誤認混同惹起行為(2条1項1号)があったとして不正競争行為性を新たに争点としました(52頁以下)。
結論としては、2条1項4号、7号については、プログラムが秘密管理性を欠き営業秘密にあたらないこと、また、1号については、原告自らが「恋愛の神様」の番組名で携帯電話用プログラムコンテンツの公衆配信を行っていたことを認めるに足りる証拠はない、としていずれも認められていません。
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■コメント
一審では、携帯電話画面に表示されるカラー画像の部分についてだけ著作権侵害、契約違反が認められていましたが、知財高裁ではその部分についての著作権侵害性も否定され、原告の完全敗訴となりました。
原告は、平成10年当時はまだ珍しかった携帯端末向けプログラム制作でのPHP言語(動的にHTMLデータを生成することによって、動的なウェブページを実現することを主な目的としたプログラミング言語、およびその言語処理系)の使用の点の創作性を強調しましたが、認められませんでした。
なお、判決文別紙にプログラムのソース内容の対比が掲載されています(58頁以下参照)。
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■過去のブログ記事
2010年5月31日記事
「恋愛の神様」ケータイコンテンツプログラム事件
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■参考サイト
IR情報 株式会社インデックス(平成23年2月28日)
訴訟の判決(控訴審判決)に関するお知らせPDF