最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

街宣ビラ肖像写真事件

東京地裁平成23.2.9平成21(ワ)25767等損害賠償等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官      鈴木和典
裁判官      寺田利彦

*裁判所サイト公表 2011.2.22
*キーワード:肖像写真、著作物性、複製権、譲渡権、送信可能化権、著作者人格権、引用

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■事案

都議会議員の肖像写真を無断でビラや看板、ブログに掲載した行為の著作権、著作者人格権侵害性が争点となった事案

原告:写真家
被告:政治活動家

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、26条の2、23条、20条、32条

1 本件写真の著作物性及び著作権の帰属
2 著作権侵害の成否
3 著作者人格権侵害の成否
4 差止め、廃棄の必要性
5 損害論
6 反訴請求に係る不法行為の成否

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■事案の概要

本訴は、『原告が,被告に対し,公明党所属のB都議会議員(以下「B議員」という。)のウェブサイト(以下「本件サイト」という。)から本件写真の電子データ(以下「本件画像データ」という。)をダウンロードし,これを利用して別紙被告写真目録1の写真(以下「被告写真1」という。被告写真1は縦横の比率が変更され,かつ,色調がカラーからモノクロに変更されている。)を甲3のビラ(以下「本件ビラ1」という。)に,同目録2の写真(以下「被告写真2」という。)を甲4のビラ(以下「本件ビラ2」という。)に,同目録3の写真(以下「被告写真3」という。被告写真3は色調がカラーからモノクロに変更されている。)を甲5のビラ(以下「本件ビラ3」といい,「本件ビラ1」〜「本件ビラ3」を総称して「本件各ビラ」という。)に掲載して街頭で通行人に頒布し,同目録4の写真(以下「被告写真4」という。)を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして自己のブログ( 以下「本件ブログ」という。)に掲載し,同目録5の写真(以下「被告写真5」といい,「被告写真1」〜「被告写真5」を総称して「被告各写真」という。被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されている。)を街宣車(登録番号「<省略>」。以下「本件街宣車」という。)の車体上部に設置された看板(以下「本件看板」という。)に掲載した被告の行為は,原告の有する本件写真の著作権(複製権,譲渡権,公衆送信権〔送信可能化権〕)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき,(1)本件写真を掲載したビラの頒布の差止めと廃棄,(2)被告写真4をインターネット上のウェブサイトで送信可能化することの差止めを求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,(3)損害賠償金400万円(著作権侵害による財産的損害200万円,著作者人格権侵害による精神的損害150万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する平成21年8月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案』(2頁以下)

<経緯>

H21.6 被告が街宣活動
      原告が本件ビラ1の頒布差止め等を求める仮処分申立、差止め決定
      B議員が街宣活動の禁止を求める仮処分申立、禁止決定
      原告が被告を著作権法違反で刑事告訴
H21.7 原告が本訴提起

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■判決内容

<争点>

1 本件写真の著作物性及び著作権の帰属

B都議会議員の広報活動用のイメージ写真としてスタジオで原告により撮影された本件肖像写真について、裁判所は、

『原告は,本件写真の撮影に当たり,撮影の趣旨,目的を踏まえて,照明,撮影の角度,ポーズ,服装等に創意工夫を凝らして撮影したことが認められ,本件写真には,原告の思想,感情が創作的に表現されていると評価することができる』

として、その著作物性を肯定しています(著作権法2条1項1号)。
また、本件写真の創作者は原告であって、その著作権は原告に帰属すると認定されています(18頁以下)。

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2 著作権侵害の成否

被告は、本件写真のデータをB都議会議員のウェブサイトからダウンロードしてその複製物である被告写真を作成、利用して本件ビラや看板を作成・頒布し、また自らが管理するウェブサイトにアップロードしていました。
これらの行為について、裁判所は被告の各行為は本件写真の複製権、譲渡権、公衆送信権、送信可能化権を侵害すると判断しています(20頁以下)。
なお、被告は被告各写真の掲載行為は報道、広報目的で引用(著作権法32条1項)に当たると反論しましたが、裁判所は、

『そもそも,本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと,本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと,本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば,本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても,これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが,「公正な慣行」に合致するものということはできず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。』(26頁以下)

として、引用の成立を否定しています。

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3 著作者人格権侵害の成否

被告が本件写真から被告各写真を作成する際に、(1)色調をカラーからモノクロに変更、(2)縦横の比率を変更、(3)B議員の両目部分に目隠し様の白いテープを貼付しており、この点が本件写真の著作者である原告の意に反する改変(20条1項)であると認められています(27頁以下)。

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4 差止め、廃棄の必要性

本件写真を掲載したビラの頒布差止、ウェブサイトで送信可能化することの差止、また、本件各ビラの廃棄の各請求が認められています(112条1項、2項 28頁以下)。

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5 損害論

損害論としては、

(1)著作権侵害による損害額
  ・本件各ビラによる損害 18万円
  ・本件ブログによる損害 10万5000円
  ・本件看板による損害  30万円
(2)著作者人格権侵害による損害額 10万円
(3)弁護士費用      10万円

合計78万5000円と認定されています(29頁以下)。

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6 反訴請求に係る不法行為の成否

被告は、反訴において原告の本訴提起や刑事告訴の違法性を問題としましたが、裁判所に容れられていません(31頁以下)。

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■コメント

いくつかのキーワードで検索すると、被告の方が管理しているブログがヒットしますが、特定政党、宗教団体批判の激しい論調となっています。

被告の表現の自由、政治活動の自由の保障も重要ですが、被告による写真の利用態様は利益調整規定である「引用」(著作権法32条1項)に当たらないというのが今回の裁判所の判断でした(24頁以下)。

ところで、写真をパロディ作品として利用する場面まで広げて考えてみますと、権利制限の一般規定導入議論については、法制問題小委のabc類型案が著作権分科会の報告書として文化審議会に1月31日に上程されていますが、パロディ作品の取扱いについては、まだ未解決なままです。