最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

診療報酬DPC分析プログラム職務著作事件

東京地裁平成22.12.22平成18(ワ)17244著作権確認請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎


*裁判所サイト公表 2011.2.16
*キーワード:業務委託契約、職務著作

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■事案

診療報酬(DPC制度)のコンサルティングツールとなる分析プログラムの職務著作性などが争点となった事案

原告:医療コンサルティング会社
被告:原告会社の元取締役

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法15条2項

1 DAVE042の職務著作物性
2 DAVE042の著作権譲渡の合意の成否
3 DAVE−Pro等についての別段の定めの有無

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■事案の概要

『医療に関するコンサルティング業務等を行う会社である原告が,原告の取締役であった被告が取締役就任前後に作成した,診療報酬に関するDPC(Diagnosis Procedure Combination,診断群分類別包括評価)制度の下でコンサルティング業務を行うために用いられるDPC分析プログラムである別紙著作物目録記載1ないし4の各プログラム(以下,これらの各プログラムを,それぞれその名称に従い,「DAVE042」,「DAVE−Pro」,「DAVE−DRUG」及び「DAVE−CP」といい,これらのプログラムを総称して「本件各プログラム」という。)について,本件各プログラムが著作権法15条2項所定の職務著作に該当するなどと主張して,被告に対し,原告が本件各プログラムについて著作権を有することの確認を求める事案』(2頁)

<経緯>

H6.4  被告がNTTデータに入社
H16.4 原告の依頼により被告がDAVE042を開発
H17.8 被告がNTTデータ退社、原告会社の取締役に就任
H17.9 原告の発意により被告がDAVE−Proを開発
H18.3 被告が原告会社の取締役退任
H18.4 原被告間で退任後の知財取り扱い合意書締結

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■判決内容

<争点>

1 DAVE042の職務著作物性

被告が制作した本件各プログラムのうち、原著作物となるDAVE042について、被告が原告の「業務に従事する者」(著作権法15条2項)に該当し原告の職務著作が成立するか否かが争点となっています(63頁以下)。

裁判所は、原被告間で形式的には雇用関係があったと認めるに足りる証拠がない本事案について、RGBアドベンチャー事件最高裁事件判決(最高裁平成15.4.11平成13(受)216)を引用した上で、

『被告がDAVE042を作成した当時,原告と被告との関係を実質的にみて,被告が原告の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,原告が被告に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して』(64頁)

「業務に従事する者」に当たるかどうかを実質的に検討。

諸事情の検討の結果、個人的な友人関係に基づいてプログラムの作成が始まっており、原被告間で原告が被告の指揮監督を行うという関係は認められませんでした。
また、原被告間で業務委託契約が数回に亘って締結されていましたが、その都度業務内容や報酬額が各別に決められており、原告が被告に支払った対価は、成果に対する対価の性質を有するものであり、労務の対価を有するということはできないとされています。

結論として、原告は著作権法15条2項の「業務に従事する者」に当たらず、DAVE042の職務著作物性は認められず、原告の職務著作成立の主張は容れられていません。

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2 DAVE042の著作権譲渡の合意の成否

原被告間でDAVE042の著作権譲渡の合意が成立していたかどうかについて、裁判所は、原被告間での著作権譲渡の合意の成立を認めていません(74頁以下)。

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3 DAVE−Pro等についての別段の定めの有無

次に、DAVE042をバージョンアップするなどしたDAVE042の二次的著作物に位置付けられるDAVE−Pro、DAVE−DRUG及びDAVE−CPの各プログラムは、被告が原告会社の取締役に就任後に作成したもので、原告の発意に基づき原告の業務に従事する被告が職務上作成したプログラムでした。そこで被告は、これらのプログラムについては「別段の定め」(著作権法15条2項)があったと反論しました(76頁以下)。

しかし、裁判所は、制作時の契約、勤務規則、その他に別段の定めがあるとはいえないとして、原告がこれらの著作者であるとして被告の反論を容れていません。

結論として、原告の請求のうちDAVE−Pro、DAVE−DRUG及びDAVE−CPの各プログラムについて著作権を有することの確認を求める限度で認容されています。

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■コメント

知人を介した制作依頼で当初は金銭のほとんど絡まないプログラムの制作となっており、プログラムの権利関係について明確な取決めをしておかなかったことが紛争の一因となっています。
制作者は当初は気軽に依頼を受けて本業とは別にプログラムを開発していましたが、後に原告会社の取締役として本格的に開発業務に携わる訳ですが、報酬面で不満が募ったようです(59頁)。

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■過去のブログ記事

2010年1月23日記事
オートバイレース写真職務著作事件(控訴審)

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■参考判例

RGBアドベンチャー事件最高裁事件判決
最高裁平成15.4.11判決平成13(受)216著作権使用差止請求事件

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■参考文献

浅野 卓「職務著作要件論―職務著作成立の許容性を探る」『パテント』(2010)63巻9号91頁以下
論文PDF