最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

増田足株価チャートソフト事件

東京地裁平成23.1.28平成20(ワ)11762著作権侵害差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      大西勝滋
裁判官      石神有吾

*裁判所サイト公表 2011.2.7
*キーワード:著作物性、職務著作、複製、翻案、公衆送信、著作者人格権、使用料相当額

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■事案

退職従業員が作成した高機能株価分析チャートソフトの複製権侵害性などが争点となった事案

原告:投資顧問業、ソフトウェア開発会社
被告:ソフトウェア開発会社、取締役A1


原告ソフト:「NEW増田足」
被告ソフト:「ベクター・チャート2007」V1.4

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、21条、27条、15条2項、19条、20条1項、114条3項、115条

1 原告プログラムについての著作権及び著作者人格権侵害の有無
2 原告の損害額
3 謝罪広告請求の可否

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■事案の概要

『「NEW増田足」という名称の株価チャートを作成,分析するためのソフトウェア(以下「原告ソフト」という。)を顧客に提供する事業を行っている原告が,別紙ソフト目録記載のソフトウェア(以下「被告ソフト」という。)を制作し,これを複製した上で,自己のホームページ上において顧客への公衆送信を行っている被告有限会社アルス・ノーヴァ(以下「被告会社」という。)及びその唯一の取締役である被告A1(以下「被告A1」という。)に対し,被告ソフトに係るプログラム(以下「被告プログラム」という。)及びこれにより表示される画面(以下「被告ソフト表示画面」という。)は,それぞれ原告ソフトに係るプログラム(以下「原告プログラム」という。)及びこれにより表示される画面(以下「原告ソフト表示画面」という。)の著作物を複製又は翻案したものであるから,被告ソフトを制作し,これを複製,販売,公衆送信する被告らの行為は,原告の原告プログラム及び原告ソフト表示画面についての著作権(複製権又は翻案権,譲渡権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害する旨主張し,著作権法112条1項に基づき,被告プログラムの複製,翻案,公衆送信,その複製物の譲渡の各差止めを,同条2項に基づき,被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めるとともに,民法709条に基づき,著作権侵害の不法行為による損害賠償として530万円及び遅延損害金の支払を,著作権法115条又は民法723条に基づき,原告の名誉回復措置として謝罪広告の掲載を求めた事案』
(2頁以下)

<経緯>

H13 原告が「増田足」旧ソフト開発販売
H14 被告A1が原告に入社
H16 原告が「NEW増田足」ソフト販売
H18 被告A1が原告を退社
H19 被告が被告ソフトを販売

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■判決内容

<争点>

1 原告プログラムについての著作権及び著作者人格権侵害の有無

原告プログラムについての著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害の有無について、

(1)原告プログラムの著作物性

A4判約1000頁の分量のソースコードとなる原告プログラムについて、全体として創作性(著作権法2条1項1号)のあるプログラム著作物であると認められています(29頁以下)。

(2)原告プログラムの著作者性(職務著作の成否)

被告A1は原告プログラムの作成に社員として従事していましたが、職務著作の要件(15条2項)a.原告の発意に基づくものであること、b.職務上作成されたものであること、c.別段の定めがないことのいずれの要件も具備するものとして職務著作性が肯定され、原告の著作者性が認められています(32頁以下)。

(3)複製又は翻案の成否

a 類否

原告プログラムと被告プログラムを対比してみると、そのソースコードの記述内容の大部分が共通するものであり、両者の間にはプログラムとしての表現において実質的な同一性ないし類似性が認められると判断されています(40頁以下)。

b 依拠性

被告A1が現に原告プログラムのソースコードを保有していること、退社後数ヶ月の間に被告プログラムを完成させていること、原告プログラムのソースコードの記述内容の大部分と共通すること等から、被告A1は原告プログラムに依拠して被告プログラムを完成させたと認められています。

結論として、被告A1による被告ソフトの制作、複製、被告会社のホームページ上における公衆送信行為について、著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)侵害が肯定され、複製の差止(112条1項)や廃棄請求(112条2項)が認められています。

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2 原告の損害額

被告会社と被告A1は連帯して使用料相当額の損害賠償責任を負うとして、200万円が損害額として認められています(民法709条、719条、著作権法114条3項)。
なお、弁護士費用は、20万円認められています(47頁以下)。

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3 謝罪広告請求の可否

謝罪広告について、その必要性が認められていません(52頁以下)。

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■コメント

退職従業員が作成した個人投資家向け、高機能株価解析チャートソフトの複製権侵害性や原告ソフトの職務著作性などが争点となった事案です。
原告会社の取締役は、「増田足」を考案された方です。

なお、原告はソフトの表示画面の著作物性、侵害性も争点としましたが、裁判所は正面から答えていません(47頁、52頁)。

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■参考サイト

原告サイト
デイトレードや株価(日経平均−225先物)に強い株価チャートソフト増田足

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■追記(2011.2.14)

企業法務戦士の雑感
企業法務][知財]様々な要素が詰まった著作権侵害紛争の一事例〜「NEW増田足」事件