最高裁判所HP 最高裁判所判例集より
ロクラク2事件(上告審)
最高裁平成23.1.20平成21(受)788著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件PDF
裁判長裁判官 金築誠志
裁判官 宮川光治
裁判官 櫻井龍子
裁判官 横田尤孝
裁判官 白木勇
*裁判所サイト公表 2011.1.20
*キーワード:間接侵害論、カラオケ法理
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■事案
国内放送番組を海外でもネットで視聴可能にするハウジングサービス(「ロクラク2ビデオデッキレンタル」)がテレビ局の番組の著作権、著作隣接権を侵害するかどうかが争われた事案の上告審
上告人 :放送会社ら
被上告人:インターネットサービス事業会社
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■結論
破棄差戻し
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■争点
条文 著作権法21条、30条1項、98条
1 被上告人による複製行為の有無
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■事案の概要
『放送事業者である上告人らが,「ロクラク2」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダー(以下「ロクラク2」という。)を用いたサービスを提供する被上告人に対し,同サービスは各上告人が制作した著作物である放送番組及び各上告人が行う放送に係る音又は影像(以下,放送番組及び放送に係る音又は影像を併せて「放送番組等」という。)についての複製権(著作権法21条,98条)を侵害するなどと主張して,放送番組等の複製の差止め,損害賠償の支払等を求める事案』(1頁)
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■判決内容
裁判要旨
『放送番組の複製物の取得を可能にするサービスの提供者が,その管理,支配下において,アンテナで受信した放送を複製機器に入力し,当該機器に録画指示がされると放送番組の複製が自動的に行われる場合,当該サービスの提供者はその複製の主体である』
<争点>
1 被上告人による複製行為の有無
本件サービスでテレビ局の番組や放送に係る音楽又は影像の複製行為を行っているのは、サービス提供事業者(被上告人)なのか、あくまで利用者が複製を行っているのか、という複製行為の主体性について、原審の知財高裁では、
『控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。』
(原審PDF27頁以下)
として、被上告人の複製行為主体性を否定していました。
しかし、最高裁第一小法廷では、
『放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。』(3頁以下)
サービス提供者が複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしていると判断。
『本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある』
として、原審に差し戻しています。
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■コメント
まねきTV事件に続き、ロクラク2事件についても最高裁の判断が出されました。
ロクラク2事件最高裁判決では金築裁判長の補足意見(5頁以下)が付されていて、
(1)管理支配の点について
『放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。』
『ロクラク2の機能からすると,これを利用して提供されるサービスは,わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが,そのような者にとって,受信可能地域に親機を設置し自己管理することは,手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ,この種の業態が成り立つのであって,親機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得ない。』
(2)利益の帰属について
『さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。』
として、
『原判断は,こうした総合的視点を欠くものであって,著作権法の合理的解釈とはいえないと考える。』
ばっさり知財高裁の判断を切り捨てています。
知財高裁第4部(田中信義裁判長)は以下のように政策的価値判断を明確に示していましたが、最高裁第一小法廷では受け容れられませんでした。
『かつて,デジタル技術は今日のように発達しておらず,インターネットが普及していない環境下においては,テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後,これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが,当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら,我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し,国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中,デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して,海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして,技術の飛躍的進展に伴い,新たな商品開発やサービスが創生され,より利便性の高い製品が需用者の間に普及し,家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても,利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから,かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく,もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない。』
(原審PDF31頁以下)
著作物の私的利用目的の場面でのインターネットサービスの有り方については、技術の進歩、海外の動向も踏まえながら(後掲論文等参照)、また著作権分科会法制問題小委の司法救済ワーキングチームでは、まねきTV事件、ロクラク2事件の各最高裁の判断を今後検討するなど、間接侵害論について引続き議論する旨報告されていますので(平成23年1月17日法制問題小委第12回で経過報告)、議論の行方に注目したいと思います。
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■過去のブログ記事
2009年1月29日記事
ロクラク事件(控訴審)
2008年5月29日記事
ロクラク事件(一審)
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■参考文献
田村善之「著作権の間接侵害」『知的財産法政策学研究』(2010)26号35頁以下(知的財産法政策学研究26号)
佐藤 豊「著作物の適法利用のための手段提供の是非−ロクラク2事件控訴審判決を題材に−」同上書75頁以下
Branislav HAZUCHA、佐藤 豊(訳)「ロクラク事件とオンデマンド放送−新技術とオンラインサービスの規制のおける法、市場、裁判所の役割−」同上書113頁以下
藤本孝之「ファイル共有ソフトの開発提供と著作権侵害罪の幇助犯の成否−Winny事件−」同上書180頁以下
李扬、丁文杰(訳)「著作権の間接侵害に関する日本の裁判例、学説と中国への示唆 」同上書(2010)32号119頁以下
奥邨弘司「著作権の間接侵害−日米裁判例の動向と実務への影響、今後の課題−」『コピライト』49巻582号2頁以下
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■参考サイト
被上告人サイト
日本デジタル家電(NYX)
企業法務戦士の雑感
「大局的判断」かそれとも素人的発想か?(後編)〜ロクラク2事件最高裁判決〜
ロクラク2事件(上告審)
最高裁平成23.1.20平成21(受)788著作権侵害差止等請求控訴、同附帯控訴事件PDF
裁判長裁判官 金築誠志
裁判官 宮川光治
裁判官 櫻井龍子
裁判官 横田尤孝
裁判官 白木勇
*裁判所サイト公表 2011.1.20
*キーワード:間接侵害論、カラオケ法理
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■事案
国内放送番組を海外でもネットで視聴可能にするハウジングサービス(「ロクラク2ビデオデッキレンタル」)がテレビ局の番組の著作権、著作隣接権を侵害するかどうかが争われた事案の上告審
上告人 :放送会社ら
被上告人:インターネットサービス事業会社
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■結論
破棄差戻し
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■争点
条文 著作権法21条、30条1項、98条
1 被上告人による複製行為の有無
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■事案の概要
『放送事業者である上告人らが,「ロクラク2」という名称のインターネット通信機能を有するハードディスクレコーダー(以下「ロクラク2」という。)を用いたサービスを提供する被上告人に対し,同サービスは各上告人が制作した著作物である放送番組及び各上告人が行う放送に係る音又は影像(以下,放送番組及び放送に係る音又は影像を併せて「放送番組等」という。)についての複製権(著作権法21条,98条)を侵害するなどと主張して,放送番組等の複製の差止め,損害賠償の支払等を求める事案』(1頁)
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■判決内容
裁判要旨
『放送番組の複製物の取得を可能にするサービスの提供者が,その管理,支配下において,アンテナで受信した放送を複製機器に入力し,当該機器に録画指示がされると放送番組の複製が自動的に行われる場合,当該サービスの提供者はその複製の主体である』
<争点>
1 被上告人による複製行為の有無
本件サービスでテレビ局の番組や放送に係る音楽又は影像の複製行為を行っているのは、サービス提供事業者(被上告人)なのか、あくまで利用者が複製を行っているのか、という複製行為の主体性について、原審の知財高裁では、
『控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。』
(原審PDF27頁以下)
として、被上告人の複製行為主体性を否定していました。
しかし、最高裁第一小法廷では、
『放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。』(3頁以下)
サービス提供者が複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしていると判断。
『本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある』
として、原審に差し戻しています。
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■コメント
まねきTV事件に続き、ロクラク2事件についても最高裁の判断が出されました。
ロクラク2事件最高裁判決では金築裁判長の補足意見(5頁以下)が付されていて、
(1)管理支配の点について
『放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。』
『ロクラク2の機能からすると,これを利用して提供されるサービスは,わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが,そのような者にとって,受信可能地域に親機を設置し自己管理することは,手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ,この種の業態が成り立つのであって,親機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得ない。』
(2)利益の帰属について
『さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。』
として、
『原判断は,こうした総合的視点を欠くものであって,著作権法の合理的解釈とはいえないと考える。』
ばっさり知財高裁の判断を切り捨てています。
知財高裁第4部(田中信義裁判長)は以下のように政策的価値判断を明確に示していましたが、最高裁第一小法廷では受け容れられませんでした。
『かつて,デジタル技術は今日のように発達しておらず,インターネットが普及していない環境下においては,テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後,これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが,当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら,我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し,国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中,デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して,海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして,技術の飛躍的進展に伴い,新たな商品開発やサービスが創生され,より利便性の高い製品が需用者の間に普及し,家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても,利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから,かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく,もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない。』
(原審PDF31頁以下)
著作物の私的利用目的の場面でのインターネットサービスの有り方については、技術の進歩、海外の動向も踏まえながら(後掲論文等参照)、また著作権分科会法制問題小委の司法救済ワーキングチームでは、まねきTV事件、ロクラク2事件の各最高裁の判断を今後検討するなど、間接侵害論について引続き議論する旨報告されていますので(平成23年1月17日法制問題小委第12回で経過報告)、議論の行方に注目したいと思います。
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■過去のブログ記事
2009年1月29日記事
ロクラク事件(控訴審)
2008年5月29日記事
ロクラク事件(一審)
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■参考文献
田村善之「著作権の間接侵害」『知的財産法政策学研究』(2010)26号35頁以下(知的財産法政策学研究26号)
佐藤 豊「著作物の適法利用のための手段提供の是非−ロクラク2事件控訴審判決を題材に−」同上書75頁以下
Branislav HAZUCHA、佐藤 豊(訳)「ロクラク事件とオンデマンド放送−新技術とオンラインサービスの規制のおける法、市場、裁判所の役割−」同上書113頁以下
藤本孝之「ファイル共有ソフトの開発提供と著作権侵害罪の幇助犯の成否−Winny事件−」同上書180頁以下
李扬、丁文杰(訳)「著作権の間接侵害に関する日本の裁判例、学説と中国への示唆 」同上書(2010)32号119頁以下
奥邨弘司「著作権の間接侵害−日米裁判例の動向と実務への影響、今後の課題−」『コピライト』49巻582号2頁以下
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■参考サイト
被上告人サイト
日本デジタル家電(NYX)
企業法務戦士の雑感
「大局的判断」かそれとも素人的発想か?(後編)〜ロクラク2事件最高裁判決〜