最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

岡三証券ソフトウェア譲渡契約法人税更正処分取消事件

知財高裁平成22.5.25平成21(行コ)10001法人税更正処分取消等請求控訴事件PDF


*裁判所サイト公表 2010.5.26
*キーワード:創作者主義、黙示の譲渡合意、通謀虚偽表示

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■事案

グループ間でのソフトウェア著作権の譲渡契約が通謀虚偽表示によるものかどうかが争点となった事案(行政訴訟)の控訴審

原告(控訴人) :証券会社グループ
被告(被控訴人):国
処分行政庁   :日本橋税務署長

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■結論

請求認容

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■争点

条文 著作権法2条1項2号、17条、民法94条1項

1 控訴人が子会社に対して本件ソフトウェアの著作権等の譲渡対価であるとして支払った29億4324万円が法人税法81条の6第2項及び同条6項が準用する法人税法37条7項が定める「寄附金」に当たるか

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■事案の概要

『連結親法人である控訴人が,平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について,連結所得金額を49億4765万6093円として法人税の連結確定申告をしたところ,処分行政庁が,控訴人に対し,上記申告に係る連結所得金額について,控訴人が連結子法人である岡三情報システム株式会社(以下「OIS」という。)に支払った29億4324万円は,著作権等の対価ではなく,法人税法81条の6(ただし,平成18年法律第10号改正前の規定である。以下同じ。)が定める「寄附金」に該当し,また,控訴人の連結子法人である岡三証券株式会社(以下「新岡三証券」という。)が支払った7743万1963円は,租税特別措置法68条の66第1項(平成18年法律第10号改正前の規定である。以下同じ。)が定める「交際費」に該当するから,いずれも損金に算入すべきでなく,これらの合計79億6832万8056円を連結所得金額に加算すべきであるとして,平成17年7月29日付けで,控訴人の平成15年4月1日から同16年3月31日までの連結事業年度分の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び当該法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をしたため,控訴人が,本件更正処分のうち,連結所得金額が49億4765万6093円を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案』(3頁)

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■判決内容

<争点>

1 控訴人が子会社に対して本件ソフトウェアの著作権等の譲渡対価であるとして支払った29億4324万円が法人税法81条の6第2項及び同条6項が準用する法人税法37条7項が定める「寄附金」に当たるか

控訴人(平成15年9月30日以前の控訴人:旧岡三証券。法律上は同一会社)と子会社(OIS)は、平成15年に旧岡三証券の委託に基づき開発してきた本件ソフトウェアの著作権を関連説明資料等とともに30億円で譲渡する旨の「ソフトウェア等譲渡契約書」を取り交わし、30億円が支払われていました。
これに対して処分行政庁である日本橋税務署長は、実際には著作権の譲渡がされておらず、法人税法81条の6第2項により損金の額に算入しないとされている「寄附金」に当たるとして本件更正処分をしていました。
原審では、控訴人が子会社に支払った本件ソフトウェアの著作権の対価分と解される29億4324万円は「寄附金」に該当すると判断していました。

国側は、本件ソフトウェアの著作権の帰属関係について、旧岡三証券が子会社に対してSEサービス料として合計32億8000万円を支払っていたことから、著作権は開発費を支出した旧岡三証券に帰属すると主張していました。
しかし、控訴審では、『明示の特約があるか,又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り,旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても,そのことをもって,直ちに,その開発費を負担した部分のソフトウェアの著作権が,その都度,委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである』(40頁)などと判断。
結論としては、本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前に子会社から旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたとの事実は認められず、旧岡三証券が子会社に支払った本件ソフトウェアの譲渡代金は「寄附金」に当たらないと判断されています(31頁以下)。

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■コメント

岡三証券グループが平成15年頃に子会社等と行った情報処理システムのソフトウェア譲渡取引などについてなされた法人税の更正及び加算税の賦課決定処分に対する取消請求訴訟の控訴審です。
原審(東京地裁平成21.2.5判決平成19(行ウ)621)では請求棄却の判断でしたが、子会社であるシステム開発会社との取引について、当該子会社に著作権が帰属していたとして譲渡契約は虚偽で作出されたものではないとして、原審の結論が覆されています。

子会社の巨額の不動産の含み損(77億円)による債務超過状態が背景にあり、親子会社間の本件譲渡取引を債務超過状態を解消するための虚偽の外形のものと税務当局は判断しましたが、控訴審裁判所は国側の主張を認めませんでした。

ソフトウェアの資産計上の経緯などが著作権譲渡取引の事実認定でどのように裁判所に評価されるか(46頁以下)、また、著作権に関する法的な理論(著作権は創作者に帰属するという創作主義)と税務当局の思い描くシナリオ(開発費を払ったほうに著作権が帰属する)のズレなど興味深い事案です。

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■参考サイト

株式会社岡三証券グループ ニュースリリース(2010年6月10日)
法人税更正処分取消請求訴訟の判決の確定について

知財情報局(2010年5月27日)
ソフトの著作権は開発子会社に帰属、岡三証券への課税取消し命ずる判決 2010-05-27(木) 182000