最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ウルトラマン海外ライセンス契約事件
東京地裁平成22.9.30平成21(ワ)6194譲受債権請求承継参加申立事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門優
裁判官 柵木澄子
*裁判所サイト公表 2010.10.8
*キーワード:翻案権、二次的著作物、条理、信義則、ライセンス契約、債権譲渡、商事時効消滅
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■事案
ウルトラマンキャラクターの登場する映画作品や商品の海外での独占的利用許諾契約の有効性などを巡って争われた事案
脱退原告承継参加人:キャラクター企画デザイン会社
被告 :円谷プロダクション
脱退原告:タイ王国人
被参加事件 平成18年(ワ)10273損害賠償請求事件
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項11号、27条、法例7条2項、11条1項、民法1条3項、信託法10条、弁護士法73条、商法522条
1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
6 脱退原告は参加人に請求権を有効に譲渡したか
7 商事消滅時効の成否
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■事案の概要
『被告は,別紙第二目録記載の各著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者である。参加人は,(1)脱退原告は,後記1(2)の契約に基づき,被告から,本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(以下「本件独占的利用権」という。)の許諾を受けた,(2) 被告は,日本以外の国において,第三者に対し,本件著作物や,同著作物の制作後に被告が制作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している,(3) 上記(2)の被告の行為は,上記(1)の許諾契約に違反するものであり,被告は,脱退原告に対し,上記契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う,(4) 参加人は,脱退原告から,上記(3)の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた,と主張する。
本件は,参加人が,被告に対し,上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求として,1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。なお,本件は,脱退原告が被告に対して提起した当庁平成18年(ワ)第10273号損害賠償請求事件に参加人が独立当事者参加した訴訟であり,脱退原告は,本件訴訟から脱退した。』(2頁以下)
<経緯>
昭和51.3.4 海外独占的利用権に関するライセンス契約(本件契約)締結
平成8.9.1 被告がバンダイとライセンス契約
平成9.7 被告が脱退原告を東京地裁に提訴(東京訴訟)
平成9.12 被告が脱退原告らをタイで提訴(タイ訴訟)
平成17.9.30脱退原告らが被告らを中国で提訴(中国訴訟)
平成19.3.4 脱退原告とBが本件独占的利用権の決定権限の授権合意
平成20.11.18 参加人会社設立
平成20.12.24 Bと参加人が本件独占的利用権の譲渡合意
平成21.2.9 本件損害賠償請求権等を参加人に譲渡、脱退原告が被告に譲渡通知
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■判決内容
<争点>
1 本件訴訟の国際裁判管轄
脱退原告と被告の間で締結されたキャラクター海外独占的利用許諾契約(本件契約)について、参加人は、被告が日本国外において外国法人等にライセンスを付与した行為が債務不履行に当たると主張したことから、本件訴訟について我が国が国際裁判管轄を有するか否かがまず問題となっています。
この点について、裁判所は、結論として我が国に国際裁判管轄を認めています(39頁以下)。
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2 本件の準拠法
次に、債務不履行に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求について、結論として日本法が準拠法となると判断されています(40頁以下)。
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3 本件契約の成否、効力及び存否
本件契約については、それが偽造されたものである、また被告の取締役会の決議を経ておらず無効との主張が被告からされていましたが、本件契約書は真正に成立したものであること、また役会の決議を経ないで重要な財産を処分した場合でも契約自体は有効であると判断した別訴での主張の実質上の蒸し返しであるとして信義則上後訴における主張は許されないと判断。結論としては、別訴での判断と同様、本件契約は有効に成立したものと認めるのが相当であるとされています(42頁以下)。
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4 本件契約に基づく被告の債務の内容
本件契約の内容については、特定された映画についての独占的な利用権を脱退原告にライセンスするものであり、旧ウルトラマンキャラクターを素材とするキャラクター商品を複製、販売等する権利も含まれ、本契約に基づき被告が日本以外の国において第三者に対して本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターの利用を許諾することも禁じているものと裁判所は判断しています(44頁以下)。
なお、本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画及び新ウルトラマンキャラクターについては、本件契約では本件著作物の二次的著作物に登場するウルトラマンキャラクターが許諾の対象として想定していないこと、また、本件独占的利用権の内容に本件著作物の翻案権が含まれていないことから、被告が類似キャラクターの許諾について制限を受けるとの参加人の主張は裁判所に容れられていません。
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5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
ライセンス契約の1から20について、被告の債務不履行及び不当利得の有無が検討されていますが、その一部については、債務不履行及び不当利得の成立が否定されています(46頁以下)。
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6 脱退原告は参加人に請求権を有効に譲渡したか
脱退原告が参加人に対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有効に譲渡したかどうかも争点となっていますが、有効性が肯定されています(54頁以下)。
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7 商事消滅時効の成否
平成8年5月17日から13年5月17日までに生じた損害賠償請求権については、商事消滅時効の成立が肯定されています(57頁以下)。
参加人は、本件損害賠償請求権と不当利得返還請求権を選択的に請求しており、不当利得返還請求権に基づく認容額のほうが損害賠償請求権に基づく請求より高額となること(損害賠償請求権は商事時効消滅が成立)から、不当利得返還請求権に基づく請求が認容されています。
結論として、バンダイから被告が得たライセンス料相当額に関して不当利得返還請求権に基づき1636万3636円余の損失が認められています。
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■コメント
本件は、脱退原告(タイ人のソムポート・センゲンチャイ氏)が日本法人である被告円谷プロに対してキャラクター海外独占的利用許諾契約(本件契約)の債務不履行に基づく損害賠償請求等を求めた訴訟(被参加事件)について、参加人(損害賠償請求権等を含め事業を譲受けた会社)が独立当事者参加したものです。
ウルトラマンの海外ライセンス契約書の真偽を巡って日本の最高裁(真正性肯定)とタイの最高裁(真正性否定。中国の下級審訴訟でも真正性否定。広東省広州市中級人民法院平成21年9月16日)とで異なる判断が下されるといったねじれ状況もあって、いまなおウルトラマンキャラクターの海外での利用許諾関係が落ち着かない印象です。
なお、参加人から平成22年10月12日付けで声明文が出されていて、円谷プロ側との早期の和解を求める内容となっています(後掲Livedoorニュース参照)。
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■過去のブログ記事
2010年1月6日記事
ウルトラマン営業誹謗抗告事件
2009年1月20日記事
新刊案内 安藤健二「封印作品の憂鬱」(洋泉社)
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■参考サイト
牛木理一先生(牛木内外特許事務所)
ウルトラマンの著作権の帰属と海外独占利用権
2010年10月12日19時20分 提供Livedoor
タイ人側「円谷プロと和解したい」ウルトラマン裁判勝訴で声明(Livedoor)Livedoorニュース
ウルトラマン海外ライセンス契約事件
東京地裁平成22.9.30平成21(ワ)6194譲受債権請求承継参加申立事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門優
裁判官 柵木澄子
*裁判所サイト公表 2010.10.8
*キーワード:翻案権、二次的著作物、条理、信義則、ライセンス契約、債権譲渡、商事時効消滅
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■事案
ウルトラマンキャラクターの登場する映画作品や商品の海外での独占的利用許諾契約の有効性などを巡って争われた事案
脱退原告承継参加人:キャラクター企画デザイン会社
被告 :円谷プロダクション
脱退原告:タイ王国人
被参加事件 平成18年(ワ)10273損害賠償請求事件
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項11号、27条、法例7条2項、11条1項、民法1条3項、信託法10条、弁護士法73条、商法522条
1 本件訴訟の国際裁判管轄
2 本件の準拠法
3 本件契約の成否、効力及び存否
4 本件契約に基づく被告の債務の内容
5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
6 脱退原告は参加人に請求権を有効に譲渡したか
7 商事消滅時効の成否
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■事案の概要
『被告は,別紙第二目録記載の各著作物(以下「本件著作物」という。)の著作権者である。参加人は,(1)脱退原告は,後記1(2)の契約に基づき,被告から,本件著作物の日本以外の国における独占的利用権(以下「本件独占的利用権」という。)の許諾を受けた,(2) 被告は,日本以外の国において,第三者に対し,本件著作物や,同著作物の制作後に被告が制作したいわゆるウルトラマンキャラクターの登場する映画作品及びこれらを素材にしたキャラクター商品の利用を許諾している,(3) 上記(2)の被告の行為は,上記(1)の許諾契約に違反するものであり,被告は,脱退原告に対し,上記契約の債務不履行に基づく損害賠償義務ないし上記第三者から得た許諾料につき不当利得返還義務を負う,(4) 参加人は,脱退原告から,上記(3)の損害賠償請求権及び不当利得返還請求権を譲り受けた,と主張する。
本件は,参加人が,被告に対し,上記損害賠償請求権の一部請求又は上記不当利得返還請求権の一部請求として,1億円及びこれに対する平成18年5月26日(被参加事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金(不当利得返還請求の場合は,民法704条前段所定の年5分の割合による法定利息。)の支払を求めた事案である。なお,本件は,脱退原告が被告に対して提起した当庁平成18年(ワ)第10273号損害賠償請求事件に参加人が独立当事者参加した訴訟であり,脱退原告は,本件訴訟から脱退した。』(2頁以下)
<経緯>
昭和51.3.4 海外独占的利用権に関するライセンス契約(本件契約)締結
平成8.9.1 被告がバンダイとライセンス契約
平成9.7 被告が脱退原告を東京地裁に提訴(東京訴訟)
平成9.12 被告が脱退原告らをタイで提訴(タイ訴訟)
平成17.9.30脱退原告らが被告らを中国で提訴(中国訴訟)
平成19.3.4 脱退原告とBが本件独占的利用権の決定権限の授権合意
平成20.11.18 参加人会社設立
平成20.12.24 Bと参加人が本件独占的利用権の譲渡合意
平成21.2.9 本件損害賠償請求権等を参加人に譲渡、脱退原告が被告に譲渡通知
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■判決内容
<争点>
1 本件訴訟の国際裁判管轄
脱退原告と被告の間で締結されたキャラクター海外独占的利用許諾契約(本件契約)について、参加人は、被告が日本国外において外国法人等にライセンスを付与した行為が債務不履行に当たると主張したことから、本件訴訟について我が国が国際裁判管轄を有するか否かがまず問題となっています。
この点について、裁判所は、結論として我が国に国際裁判管轄を認めています(39頁以下)。
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2 本件の準拠法
次に、債務不履行に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求について、結論として日本法が準拠法となると判断されています(40頁以下)。
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3 本件契約の成否、効力及び存否
本件契約については、それが偽造されたものである、また被告の取締役会の決議を経ておらず無効との主張が被告からされていましたが、本件契約書は真正に成立したものであること、また役会の決議を経ないで重要な財産を処分した場合でも契約自体は有効であると判断した別訴での主張の実質上の蒸し返しであるとして信義則上後訴における主張は許されないと判断。結論としては、別訴での判断と同様、本件契約は有効に成立したものと認めるのが相当であるとされています(42頁以下)。
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4 本件契約に基づく被告の債務の内容
本件契約の内容については、特定された映画についての独占的な利用権を脱退原告にライセンスするものであり、旧ウルトラマンキャラクターを素材とするキャラクター商品を複製、販売等する権利も含まれ、本契約に基づき被告が日本以外の国において第三者に対して本件著作物及び旧ウルトラマンキャラクターの利用を許諾することも禁じているものと裁判所は判断しています(44頁以下)。
なお、本件著作物が制作された後に制作されたウルトラマン映画及び新ウルトラマンキャラクターについては、本件契約では本件著作物の二次的著作物に登場するウルトラマンキャラクターが許諾の対象として想定していないこと、また、本件独占的利用権の内容に本件著作物の翻案権が含まれていないことから、被告が類似キャラクターの許諾について制限を受けるとの参加人の主張は裁判所に容れられていません。
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5 被告の債務不履行及び不当利得の有無
ライセンス契約の1から20について、被告の債務不履行及び不当利得の有無が検討されていますが、その一部については、債務不履行及び不当利得の成立が否定されています(46頁以下)。
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6 脱退原告は参加人に請求権を有効に譲渡したか
脱退原告が参加人に対して損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権を有効に譲渡したかどうかも争点となっていますが、有効性が肯定されています(54頁以下)。
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7 商事消滅時効の成否
平成8年5月17日から13年5月17日までに生じた損害賠償請求権については、商事消滅時効の成立が肯定されています(57頁以下)。
参加人は、本件損害賠償請求権と不当利得返還請求権を選択的に請求しており、不当利得返還請求権に基づく認容額のほうが損害賠償請求権に基づく請求より高額となること(損害賠償請求権は商事時効消滅が成立)から、不当利得返還請求権に基づく請求が認容されています。
結論として、バンダイから被告が得たライセンス料相当額に関して不当利得返還請求権に基づき1636万3636円余の損失が認められています。
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■コメント
本件は、脱退原告(タイ人のソムポート・センゲンチャイ氏)が日本法人である被告円谷プロに対してキャラクター海外独占的利用許諾契約(本件契約)の債務不履行に基づく損害賠償請求等を求めた訴訟(被参加事件)について、参加人(損害賠償請求権等を含め事業を譲受けた会社)が独立当事者参加したものです。
ウルトラマンの海外ライセンス契約書の真偽を巡って日本の最高裁(真正性肯定)とタイの最高裁(真正性否定。中国の下級審訴訟でも真正性否定。広東省広州市中級人民法院平成21年9月16日)とで異なる判断が下されるといったねじれ状況もあって、いまなおウルトラマンキャラクターの海外での利用許諾関係が落ち着かない印象です。
なお、参加人から平成22年10月12日付けで声明文が出されていて、円谷プロ側との早期の和解を求める内容となっています(後掲Livedoorニュース参照)。
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■過去のブログ記事
2010年1月6日記事
ウルトラマン営業誹謗抗告事件
2009年1月20日記事
新刊案内 安藤健二「封印作品の憂鬱」(洋泉社)
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■参考サイト
牛木理一先生(牛木内外特許事務所)
ウルトラマンの著作権の帰属と海外独占利用権
2010年10月12日19時20分 提供Livedoor
タイ人側「円谷プロと和解したい」ウルトラマン裁判勝訴で声明(Livedoor)Livedoorニュース