最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「読むサプリシリーズ」出版契約事件
東京地裁平成22.9.30平成21(ワ)16620著作権使用料等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 上田真史
裁判官 石神有吾
*裁判所サイト公表 2010.10.6
*キーワード:出版契約、印税、在庫本売買
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■事案
健康情報書籍の出版契約関係を巡って売買代金や著作権使用料の支払い内容が争点となった事案
原告:医療用具製造販売会社
被告:出版会社、代表取締役
原告書籍:読むサプリシリーズ(全24種)
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■結論
請求認容
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■争点
条文 民法415条
1 本件覚書2、3の合意の有無
2 原稿の引渡の有無
3 本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務額
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■事案の概要
『原告が,被告株式会社環健出版社(以下「被告会社」という。)との間で別紙書籍目録(1)記載の著作物「読むサプリシリーズ」(全24種。以下「本件著作物」という。)について原告が印刷した書籍の在庫本等の被告会社への売買及びその書籍を増刷する出版権の設定を内容とする覚書を締結し,その際,被告A(以下「被告A」という。)が被告会社の原告に対する上記覚書に係る債務を連帯保証した旨主張して,被告らに対し,上記覚書に係る売買代金及び著作権使用料の残金の連帯支払及び上記書籍の原稿の引渡しを求めた事案』(2頁)
<経緯>
H16 原告が書籍制作を企画
H17.4.1 原告書籍(第1刷)刊行
H18.1.30 原被告間で出版権設定契約締結
H18.3 被告が修正シールを貼付して販売開始
H18.7.25 原被告間で覚書1(在庫本売買)締結
H18.8.5 原被告間で覚書2(未精算金確認)締結
H18.8.8 原被告間で覚書3(分割払い)締結
H18.9.20 被告が第2刷を発行
H20.1.10 被告が第3刷を発行
H21.5.20 本訴提起
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■判決内容
<争点>
1 本件覚書2、3の合意の有無
原告と被告会社との間での在庫本の売買契約等に係わる未精算金に関する合意(覚書2)と分割払いに関する合意(覚書3)の有無について、裁判所は、これらの合意に基づき被告会社が原告に対して上記未清算金及び著作権使用料の支払債務を含む本件覚書2、3の各条項記載の債務を負っていること、また、被告会社代表取締役Aは、被告会社の上記支払債務を含む本件覚書2の各条項記載の債務について原告に対して連帯保証したことを認定しています(9頁以下)。
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2 原稿の引渡の有無
覚書2には原告から被告会社への完全な原稿の引渡を定めた規定がありましたが(2条)、被告会社は、編集可能なオリジナルデータではない本文PDFしか受け取っていないとして、その引渡があるまで原告主張の残金の支払いを拒絶すると反論しました。
しかし、裁判所は、ここでいう「本著作物の完全な原稿」とは『被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷用に修正した原告書籍の原稿データであって,その増刷(印刷)が可能なデータを意味するものと解するのが相当である』と判断。
そのうえで、改変可能なデータは第2刷を増刷するために必ずしも必要でなかったこと、また、本文のPDFデータ引渡に対して被告Aが異議を述べなかったことなどから、完全な原稿の引渡があったと認定して、被告の反論を容れていません(20頁以下)。
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3 本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務額
原告書籍の在庫本の売却代金等の未精算金について、残債務額は590万3461円と認定されています(23頁以下)。
結論として、原告の主張である残債務の連帯支払い(覚書2、3)、原稿の返還(覚書2 5条)が認められています。
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■コメント
DHC向けに制作された健康情報書籍の在庫本売買等の残債務の支払いを巡る争いです。
判決文20頁以下で書籍のデータとして引渡しの対象となるデータが何か、という争点が興味を引くところです。
インデザインやクォークといった、編集可能なデータ形式で印刷所等へ納品することが書籍編集の現場では多いと思いますが、今回の案件では、PDF形式のデータでも契約上の完全な原稿の引渡があったと認定されています。
少し話が逸れますが、今後利用の増える電子書籍出版での納品データの形式、編集者・デザイナーの役割についてここで触れてみたいと思います。
電子書籍データはPDF形式、EPUB形式、アプリ形式(iPhone、iPad向けなど)と大きく分ければ3つの形式で利用されます。編集作業では、たとえばEPUB形式では、テキストの編集やEPUB書き出し可能なインデザインでのデータを制作するだけでは編集の仕事は半分も終わったことにはなりません。EPUBのデータファイルの内容を見てみると分かるようにWEBのデザインデータ(EPUBのプログラムデータ、画像データ)などの制作も含まれています。
EPUBデータの「完全な原稿」としての納品にあたっては、「各主要ビュワー閲覧でどのレベルのクオリティが要求されるか」が編集・デザインの際のポイントとなります。
日々新しい電子書籍閲覧用ビュワーも生まれていて、どの範囲のビュワーで表示可能なものとするかも含め、編集者・デザイナーには従来の印刷デザインの技術に加え、WEBのスキルとセンスが求められる訳です。
「読むサプリシリーズ」出版契約事件
東京地裁平成22.9.30平成21(ワ)16620著作権使用料等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 上田真史
裁判官 石神有吾
*裁判所サイト公表 2010.10.6
*キーワード:出版契約、印税、在庫本売買
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■事案
健康情報書籍の出版契約関係を巡って売買代金や著作権使用料の支払い内容が争点となった事案
原告:医療用具製造販売会社
被告:出版会社、代表取締役
原告書籍:読むサプリシリーズ(全24種)
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■結論
請求認容
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■争点
条文 民法415条
1 本件覚書2、3の合意の有無
2 原稿の引渡の有無
3 本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務額
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■事案の概要
『原告が,被告株式会社環健出版社(以下「被告会社」という。)との間で別紙書籍目録(1)記載の著作物「読むサプリシリーズ」(全24種。以下「本件著作物」という。)について原告が印刷した書籍の在庫本等の被告会社への売買及びその書籍を増刷する出版権の設定を内容とする覚書を締結し,その際,被告A(以下「被告A」という。)が被告会社の原告に対する上記覚書に係る債務を連帯保証した旨主張して,被告らに対し,上記覚書に係る売買代金及び著作権使用料の残金の連帯支払及び上記書籍の原稿の引渡しを求めた事案』(2頁)
<経緯>
H16 原告が書籍制作を企画
H17.4.1 原告書籍(第1刷)刊行
H18.1.30 原被告間で出版権設定契約締結
H18.3 被告が修正シールを貼付して販売開始
H18.7.25 原被告間で覚書1(在庫本売買)締結
H18.8.5 原被告間で覚書2(未精算金確認)締結
H18.8.8 原被告間で覚書3(分割払い)締結
H18.9.20 被告が第2刷を発行
H20.1.10 被告が第3刷を発行
H21.5.20 本訴提起
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■判決内容
<争点>
1 本件覚書2、3の合意の有無
原告と被告会社との間での在庫本の売買契約等に係わる未精算金に関する合意(覚書2)と分割払いに関する合意(覚書3)の有無について、裁判所は、これらの合意に基づき被告会社が原告に対して上記未清算金及び著作権使用料の支払債務を含む本件覚書2、3の各条項記載の債務を負っていること、また、被告会社代表取締役Aは、被告会社の上記支払債務を含む本件覚書2の各条項記載の債務について原告に対して連帯保証したことを認定しています(9頁以下)。
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2 原稿の引渡の有無
覚書2には原告から被告会社への完全な原稿の引渡を定めた規定がありましたが(2条)、被告会社は、編集可能なオリジナルデータではない本文PDFしか受け取っていないとして、その引渡があるまで原告主張の残金の支払いを拒絶すると反論しました。
しかし、裁判所は、ここでいう「本著作物の完全な原稿」とは『被告会社の書籍(第1刷)の第2刷の増刷用に修正した原告書籍の原稿データであって,その増刷(印刷)が可能なデータを意味するものと解するのが相当である』と判断。
そのうえで、改変可能なデータは第2刷を増刷するために必ずしも必要でなかったこと、また、本文のPDFデータ引渡に対して被告Aが異議を述べなかったことなどから、完全な原稿の引渡があったと認定して、被告の反論を容れていません(20頁以下)。
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3 本件覚書3に係る合意に基づく被告会社の残債務額
原告書籍の在庫本の売却代金等の未精算金について、残債務額は590万3461円と認定されています(23頁以下)。
結論として、原告の主張である残債務の連帯支払い(覚書2、3)、原稿の返還(覚書2 5条)が認められています。
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■コメント
DHC向けに制作された健康情報書籍の在庫本売買等の残債務の支払いを巡る争いです。
判決文20頁以下で書籍のデータとして引渡しの対象となるデータが何か、という争点が興味を引くところです。
インデザインやクォークといった、編集可能なデータ形式で印刷所等へ納品することが書籍編集の現場では多いと思いますが、今回の案件では、PDF形式のデータでも契約上の完全な原稿の引渡があったと認定されています。
少し話が逸れますが、今後利用の増える電子書籍出版での納品データの形式、編集者・デザイナーの役割についてここで触れてみたいと思います。
電子書籍データはPDF形式、EPUB形式、アプリ形式(iPhone、iPad向けなど)と大きく分ければ3つの形式で利用されます。編集作業では、たとえばEPUB形式では、テキストの編集やEPUB書き出し可能なインデザインでのデータを制作するだけでは編集の仕事は半分も終わったことにはなりません。EPUBのデータファイルの内容を見てみると分かるようにWEBのデザインデータ(EPUBのプログラムデータ、画像データ)などの制作も含まれています。
EPUBデータの「完全な原稿」としての納品にあたっては、「各主要ビュワー閲覧でどのレベルのクオリティが要求されるか」が編集・デザインの際のポイントとなります。
日々新しい電子書籍閲覧用ビュワーも生まれていて、どの範囲のビュワーで表示可能なものとするかも含め、編集者・デザイナーには従来の印刷デザインの技術に加え、WEBのスキルとセンスが求められる訳です。