最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
スポニチ写真二次使用事件
大阪地裁平成22.9.9平成20(ワ)2813損害賠償請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章
*裁判所サイト公表 2010.9.14
*キーワード:撮影委託契約、返還約束、複製権、損害論
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■事案
スポーツ新聞紙用に撮影依頼された際のフィルムの返還や写真の二次使用を巡って外部カメラマンと争いとなった事案
原告:写真フィルム管理会社、カメラマンら
被告:スポーツ新聞社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、114条3項
1 フィルム等の返還約束の有無
2 著作権譲渡又は二次使用許諾の有無
3 消滅時効の成否
4 損害論
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■判決内容
<争点>
1 フィルム等の返還約束の有無
被告新聞社から依頼を受けて撮影した後のフィルムは、未現像のまま被告担当者に交付され、被告写真部において現像されるなどしていました(11頁以下)。原告会社及び原告カメラマンらは、被告新聞社に交付したフィルム等(ネガ、ポジ、プリント)が返還されないとして、損害賠償を請求しました(13頁以下)。
原告らと被告の間でフィルム等の返還約束があったかどうかについて、裁判所は、
(1)パブリシティ権、プライバシー権が問題となるので、当該写真は被告新聞へ掲載する場合の使用のみが想定されており、原告会社において使用収益を期待すべきものではない
(2)二次使用の価値がある写真についても返還請求が放置されている
(3)被告写真部では後日の利用に備えてフィルムを保管している
などの原告、被告双方の保有の必要性の有無の点、またフィルム等の取扱いの実態から、原被告間の撮影委託契約の解釈として、
『同契約に基づき撮影し,提供されたフィルムである限り,著作権,著作者人格権が撮影者に帰属するとしても,これらの権利による制限の及ばない限り,未感光フィルムの所有権の帰属にかかわらず,撮影後,被告にフィルムを交付することにより,その現像,掲載,トリミング,保管の要否などを含め,フィルムの一切を被告に委ねたと認めることができる』(20頁)
と判断。
結論として、返還約束があったとの事実は認められていません。
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2 著作権譲渡又は二次使用許諾の有無
(1)著作権の譲渡の有無
原被告間で写真の著作権の譲渡があったかどうかが争点となっていますが、認められていません(23頁以下)。
(2)二次使用許諾の有無
(A)再掲載
同一写真を複数回にわたって掲載したり、一定期間継続して掲載することは、日刊新聞の性格から通常は予定していないとして、使用許諾は、合理的な期間内における1回的なものとみるべきであると裁判所は判断しています(25頁以下)。
(B)別カット写真掲載
別カットの写真の使用については、被告が受けた使用許諾の内容としては、『「フィルムに感光された写真を,全て1回ずつ使用することができる」というものではなく,「撮影に係る出来事を記事にする際に,フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」』というものであると裁判所は判断。
記事に使用しなかった写真を、後に別の記事に転用することは、許諾の範囲を超えるものとしています(26頁以下)。
結論として、再掲載や別カット写真掲載についての二次使用許諾の存在(被告の抗弁)は認められていません。
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3 消滅時効の成否
被告の抗弁として、原告側が掲載の事実を知ってから3年経過しているとして消滅時効が主張されていますが、いまだ時効は完成していないと判断されています(27頁)。
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4 損害論
被告が無断で本件写真を使用もしくは再使用したことがカメラマンP1、P2の著作権(複製権)の侵害にあたることを前提に損害論が検討されています(27頁以下)。
損害については、再使用にあたっての許諾料(再使用料相当額)としたうえで、複数の写真コンテンツ提供業者の使用料を勘案して本件写真についての使用料相当額をカラー使用は2万1千円、モノクロ使用は1万4700円と判断。
カメラマンP1の損害額は、弁護士費用を含め10万0400円、P2については、45万0300円と認定しています。
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■コメント
スポーツ新聞紙掲載写真の外注カメラマンとの取引の実情について良く分かる判決です。
撮影補助作業の報酬値上げの交渉があったものの、受け入れられなかった経緯があったようです(6頁、12頁)。
ネガやポジの返還約束の有無は、媒体によって違う取扱いかと思います。たとえば、ファッション系雑誌であれば、返還されるのが現場では一般的でした。
ただ、現在ではデジタルで画像データが納品され、また、雑誌社も包括的使用許諾をカメラマンに求めて紙媒体に限らずネットでの利用も含めてマルチユースを要望している状況ですので、画像データの返還ということについては、現実問題として困難な状況になっているかもしれません。
一般論ですが、レタッチ作業も含めカメラマンの作業量が増加している、また、使用範囲が広範化しているにもかかわらず、その点の適正な報酬の評価がされていない、という強い不満がカメラマン側にはあるのではないでしょうか。
話は逸れますが、雑誌記事の二次利用(電子雑誌)については、日本雑誌協会、日本文藝家協会、日本写真著作権協会の間でガイドラインが策定され10月に公表予定となっています(朝日新聞2010年9月12日付東京13版3頁高重治香。なお、文藝家協会は15日の理事会で承認)。
このガイドラインでは、電子雑誌利用にあたって期間限定で画像等の著作権が出版社側に譲渡されるというものです。
ガイドラインに沿った運用が行われれば、使用期間や使用範囲の明確化に繋がるため、写真家を含めた著作権者にメリットがあるところです。
ただ、雑誌出版各社(わたしが把握している限りで10社ほど)はここ1、2年で包括的使用許諾を内容とする承諾書や要望書を写真家などに送付している現実があり、ガイドラインがどの程度出版社に採用されるのか、いまとなっては未知数なところです。
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■追記 2010/11/07
原告の方から丁寧なメールで御連絡を頂きました。
過去に雑誌「編集会議」(株式会社宣伝会議)との間で撮影請負契約上の撮影料の不払い等で損害賠償請求訴訟を行ったこともあるとのことで、写真家の地位向上のためにも言うべきことは言うとの姿勢を貫かれておいでです。
大阪地裁平成17.3.31平成15(ワ)12075、平成16(ワ)5010損害賠償請求事件(なお、控訴審で和解)
雑誌「編集会議」請負契約未払事件判決PDF
スポニチ写真二次使用事件
大阪地裁平成22.9.9平成20(ワ)2813損害賠償請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章
*裁判所サイト公表 2010.9.14
*キーワード:撮影委託契約、返還約束、複製権、損害論
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■事案
スポーツ新聞紙用に撮影依頼された際のフィルムの返還や写真の二次使用を巡って外部カメラマンと争いとなった事案
原告:写真フィルム管理会社、カメラマンら
被告:スポーツ新聞社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、114条3項
1 フィルム等の返還約束の有無
2 著作権譲渡又は二次使用許諾の有無
3 消滅時効の成否
4 損害論
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■判決内容
<争点>
1 フィルム等の返還約束の有無
被告新聞社から依頼を受けて撮影した後のフィルムは、未現像のまま被告担当者に交付され、被告写真部において現像されるなどしていました(11頁以下)。原告会社及び原告カメラマンらは、被告新聞社に交付したフィルム等(ネガ、ポジ、プリント)が返還されないとして、損害賠償を請求しました(13頁以下)。
原告らと被告の間でフィルム等の返還約束があったかどうかについて、裁判所は、
(1)パブリシティ権、プライバシー権が問題となるので、当該写真は被告新聞へ掲載する場合の使用のみが想定されており、原告会社において使用収益を期待すべきものではない
(2)二次使用の価値がある写真についても返還請求が放置されている
(3)被告写真部では後日の利用に備えてフィルムを保管している
などの原告、被告双方の保有の必要性の有無の点、またフィルム等の取扱いの実態から、原被告間の撮影委託契約の解釈として、
『同契約に基づき撮影し,提供されたフィルムである限り,著作権,著作者人格権が撮影者に帰属するとしても,これらの権利による制限の及ばない限り,未感光フィルムの所有権の帰属にかかわらず,撮影後,被告にフィルムを交付することにより,その現像,掲載,トリミング,保管の要否などを含め,フィルムの一切を被告に委ねたと認めることができる』(20頁)
と判断。
結論として、返還約束があったとの事実は認められていません。
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2 著作権譲渡又は二次使用許諾の有無
(1)著作権の譲渡の有無
原被告間で写真の著作権の譲渡があったかどうかが争点となっていますが、認められていません(23頁以下)。
(2)二次使用許諾の有無
(A)再掲載
同一写真を複数回にわたって掲載したり、一定期間継続して掲載することは、日刊新聞の性格から通常は予定していないとして、使用許諾は、合理的な期間内における1回的なものとみるべきであると裁判所は判断しています(25頁以下)。
(B)別カット写真掲載
別カットの写真の使用については、被告が受けた使用許諾の内容としては、『「フィルムに感光された写真を,全て1回ずつ使用することができる」というものではなく,「撮影に係る出来事を記事にする際に,フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」』というものであると裁判所は判断。
記事に使用しなかった写真を、後に別の記事に転用することは、許諾の範囲を超えるものとしています(26頁以下)。
結論として、再掲載や別カット写真掲載についての二次使用許諾の存在(被告の抗弁)は認められていません。
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3 消滅時効の成否
被告の抗弁として、原告側が掲載の事実を知ってから3年経過しているとして消滅時効が主張されていますが、いまだ時効は完成していないと判断されています(27頁)。
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4 損害論
被告が無断で本件写真を使用もしくは再使用したことがカメラマンP1、P2の著作権(複製権)の侵害にあたることを前提に損害論が検討されています(27頁以下)。
損害については、再使用にあたっての許諾料(再使用料相当額)としたうえで、複数の写真コンテンツ提供業者の使用料を勘案して本件写真についての使用料相当額をカラー使用は2万1千円、モノクロ使用は1万4700円と判断。
カメラマンP1の損害額は、弁護士費用を含め10万0400円、P2については、45万0300円と認定しています。
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■コメント
スポーツ新聞紙掲載写真の外注カメラマンとの取引の実情について良く分かる判決です。
撮影補助作業の報酬値上げの交渉があったものの、受け入れられなかった経緯があったようです(6頁、12頁)。
ネガやポジの返還約束の有無は、媒体によって違う取扱いかと思います。たとえば、ファッション系雑誌であれば、返還されるのが現場では一般的でした。
ただ、現在ではデジタルで画像データが納品され、また、雑誌社も包括的使用許諾をカメラマンに求めて紙媒体に限らずネットでの利用も含めてマルチユースを要望している状況ですので、画像データの返還ということについては、現実問題として困難な状況になっているかもしれません。
一般論ですが、レタッチ作業も含めカメラマンの作業量が増加している、また、使用範囲が広範化しているにもかかわらず、その点の適正な報酬の評価がされていない、という強い不満がカメラマン側にはあるのではないでしょうか。
話は逸れますが、雑誌記事の二次利用(電子雑誌)については、日本雑誌協会、日本文藝家協会、日本写真著作権協会の間でガイドラインが策定され10月に公表予定となっています(朝日新聞2010年9月12日付東京13版3頁高重治香。なお、文藝家協会は15日の理事会で承認)。
このガイドラインでは、電子雑誌利用にあたって期間限定で画像等の著作権が出版社側に譲渡されるというものです。
ガイドラインに沿った運用が行われれば、使用期間や使用範囲の明確化に繋がるため、写真家を含めた著作権者にメリットがあるところです。
ただ、雑誌出版各社(わたしが把握している限りで10社ほど)はここ1、2年で包括的使用許諾を内容とする承諾書や要望書を写真家などに送付している現実があり、ガイドラインがどの程度出版社に採用されるのか、いまとなっては未知数なところです。
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■追記 2010/11/07
原告の方から丁寧なメールで御連絡を頂きました。
過去に雑誌「編集会議」(株式会社宣伝会議)との間で撮影請負契約上の撮影料の不払い等で損害賠償請求訴訟を行ったこともあるとのことで、写真家の地位向上のためにも言うべきことは言うとの姿勢を貫かれておいでです。
大阪地裁平成17.3.31平成15(ワ)12075、平成16(ワ)5010損害賠償請求事件(なお、控訴審で和解)
雑誌「編集会議」請負契約未払事件判決PDF