最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
マンション完成予想図改変事件
知財高裁平成22.5.25平成21(ネ)10019損害賠償等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 東海林保
裁判官 矢口俊哉
*裁判所サイト公表 2010.5.27
*キーワード: 著作者人格権、同一性保持権、名誉毀損
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■事案
テレビ番組で放送されたマンション建設報道の際に使用されたマンション完成予想図の改変行為の著作者人格権侵害性などが争点となった事案
原告(被控訴人、附帯控訴人):マンション専有卸会社
被告(控訴人、附帯被控訴人):テレビ局
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■結論
控訴、附帯控訴棄却
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■争点
条文 著作権法20条
1 放送による名誉毀損の成否
2 完成予想図改変による著作者人格権侵害の成否
3 損害論
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■事案の概要
『マンションの専有卸を業としている被控訴人兼附帯控訴人(一審原告。以下「被控訴人」という。)が,放送事業等を目的とする控訴人兼附帯被控訴人(一審被告。以下「控訴人」という。)に対し,被控訴人が,平成14年5月,横浜市中区本牧満坂所在の土地にマンション(以下「本件マンション」という。)を建設する計画を立案し,ディベロッパーに対する販売活動等に当たっていたところ,控訴人は,平成15年6月17日,同月23日,同年9月10日,同年12月19日及び平成16年3月16日の5回にわたって放送された番組「スーパーモーニング」(以下「スーパーモーニング」という。)並びに同年5月4日に放送された番組「スーパーJチャンネル」(以下「スーパーJチャンネル」といい,「スーパーモーニング」と併せて「本件各放送」という。)において,本件マンション計画を取り上げ,これに反対する周辺住民らと結託して,本件マンションが危険なマンションであり,被控訴人が悪徳業者である旨を一般視聴者に印象付ける報道を行ったことにより,被控訴人の社会的評価は低下し,その結果,上記マンション建設予定地(以下「本件土地」という。)の売買の話が解消され,その後も,長期間売却先が見つからなかったばかりか,ようやく見つかった売却先には解消された上記売買よりも低い代金額で売却せざるを得なくなり,これによって,被控訴人は,売却代金減額等の損害,売買決済の遅れによる損害,無形損害,弁護士費用として少なくとも合計1億0802万0177円の損害を被ったと主張し,また,控訴人は,被控訴人が交付した本件マンションの完成予想図(以下「本件完成予想図」という。)を被控訴人の了解なく加工して放送に使用して被控訴人の著作者人格権を侵害し,それによって被控訴人は少なくとも50万円の損害を被ったと主張して,不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき,上記合計1億0852万0177円の一部である2000万円及びこれに対する不法行為の最終日である平成16年5月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
『原審は,控訴人は,本件各放送において,本件マンションの建築が法を潜脱する実質的に違法な行為であると論評したとして名誉毀損の成立を認め,本件各放送によって被控訴人に生じた名誉・信用の低下に対する損害賠償金300万円及び弁護士費用30万円の限度で被控訴人の請求を一部認容したので,控訴人が,これを不服として,控訴人敗訴部分の取消し及び被控訴人の請求の全部棄却を求めて本件控訴を提起した。
これに対し,被控訴人は,被控訴人敗訴部分の取消しを求めて附帯控訴した。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 放送による名誉毀損の成否
テレビ朝日「スーパーモーニング」と「スーパーJチャンネル」で放送されたマンション計画に関する報道がマンション専有卸会社に対する名誉毀損として不法行為を構成するとした原審の判断を維持しています(21頁以下)。
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2 完成予想図改変による著作者人格権侵害の成否
業者側はマンション完成予想図をテレビカメラで写すことについて承諾していましたが、テレビ局側が完成予想図の色彩を加工したり動画編集するといった点についてまで業者側が同意していたかどうかが争点となっています。
この点について裁判所は、
『被控訴人は,本件完成予想図がテレビで報道される番組の中で使用されることを十分認識した上でその使用に同意していたのであるから,控訴人が報道番組の制作編集に当たって色彩の変更や動画編集などの改変を加えることは,当然にその同意の内容として含まれていたものというべきであり,被控訴人ないしその担当者が同意する際に有していた期待や実際にその言動に現れていた個々の意向等に左右されるものではない。控訴人による本件完成予想図の利用の態様等には,その使用の同意を得る経緯等にやや不適切な点は認められるものの,著作者人格権の侵害をいうほどの違法は認めにくい。被控訴人の主張は,本件完成予想図の内容の改変ではなく,むしろ,報道された内容そのものを問題にしているものと考えられるが,報道番組の制作者は,報道の具体的な内容が取材を受ける者の個別的な意向,期待等に沿うものを制作報道しなければならないというような拘束を受けるべきものではない。
以上のとおりであるから,被控訴人の主張は,著作物の改変を理由として著作者人格権の侵害をいうが,その実質においては,報道された番組の内容が結果的に被控訴人の意向,期待等に沿わなかったことをいうものであって,相当ではない』(32頁以下)
との部分を原判決に付加して、改変が同意の内容に含まれていたと判断しています。
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3 損害論
原審の判断を引用しています(33頁)。
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■コメント
原審(横浜地裁平成16(ワ)3897)の判断が維持されています。
原審にあたれていないので完成予想図の著作物性(著作権法2条1項1号)や20条1項の「意に反する改変」、同条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」の解釈論の展開が分かりませんが、同一性保持権侵害性については、改変の同意の有無というところで処理されています。
問題となったマンションは、建築基準法上、山側に設けられた玄関を1階とする地上3階、地下6階の構造であるものの、反対側から見ると9階建てに見えるいわゆる「地下室マンション」で(二審もテレ朝に賠償命令…「地下室マンション」めぐり2010年5月25日14時11分 スポーツ報知)、原告のマンション業者は、「「専有卸」と呼ぶ業態をとっている。マンションを建設する土地を購入したうえで設計し、開発許可や建築確認の取得などの手続きをした後、土地と計画を一括してデベロッパーに売却する。」(横浜・地下室マンション報道で荒川建設工業が勝訴、テレ朝に賠償命令 建設:最新ニュース nikkei BPnet 〈日経BPネット〉2008年12月19日記事)という事業形態のようです。
マンション完成予想図改変事件
知財高裁平成22.5.25平成21(ネ)10019損害賠償等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 東海林保
裁判官 矢口俊哉
*裁判所サイト公表 2010.5.27
*キーワード: 著作者人格権、同一性保持権、名誉毀損
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■事案
テレビ番組で放送されたマンション建設報道の際に使用されたマンション完成予想図の改変行為の著作者人格権侵害性などが争点となった事案
原告(被控訴人、附帯控訴人):マンション専有卸会社
被告(控訴人、附帯被控訴人):テレビ局
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■結論
控訴、附帯控訴棄却
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■争点
条文 著作権法20条
1 放送による名誉毀損の成否
2 完成予想図改変による著作者人格権侵害の成否
3 損害論
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■事案の概要
『マンションの専有卸を業としている被控訴人兼附帯控訴人(一審原告。以下「被控訴人」という。)が,放送事業等を目的とする控訴人兼附帯被控訴人(一審被告。以下「控訴人」という。)に対し,被控訴人が,平成14年5月,横浜市中区本牧満坂所在の土地にマンション(以下「本件マンション」という。)を建設する計画を立案し,ディベロッパーに対する販売活動等に当たっていたところ,控訴人は,平成15年6月17日,同月23日,同年9月10日,同年12月19日及び平成16年3月16日の5回にわたって放送された番組「スーパーモーニング」(以下「スーパーモーニング」という。)並びに同年5月4日に放送された番組「スーパーJチャンネル」(以下「スーパーJチャンネル」といい,「スーパーモーニング」と併せて「本件各放送」という。)において,本件マンション計画を取り上げ,これに反対する周辺住民らと結託して,本件マンションが危険なマンションであり,被控訴人が悪徳業者である旨を一般視聴者に印象付ける報道を行ったことにより,被控訴人の社会的評価は低下し,その結果,上記マンション建設予定地(以下「本件土地」という。)の売買の話が解消され,その後も,長期間売却先が見つからなかったばかりか,ようやく見つかった売却先には解消された上記売買よりも低い代金額で売却せざるを得なくなり,これによって,被控訴人は,売却代金減額等の損害,売買決済の遅れによる損害,無形損害,弁護士費用として少なくとも合計1億0802万0177円の損害を被ったと主張し,また,控訴人は,被控訴人が交付した本件マンションの完成予想図(以下「本件完成予想図」という。)を被控訴人の了解なく加工して放送に使用して被控訴人の著作者人格権を侵害し,それによって被控訴人は少なくとも50万円の損害を被ったと主張して,不法行為を理由とする損害賠償請求権に基づき,上記合計1億0852万0177円の一部である2000万円及びこれに対する不法行為の最終日である平成16年5月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。』
『原審は,控訴人は,本件各放送において,本件マンションの建築が法を潜脱する実質的に違法な行為であると論評したとして名誉毀損の成立を認め,本件各放送によって被控訴人に生じた名誉・信用の低下に対する損害賠償金300万円及び弁護士費用30万円の限度で被控訴人の請求を一部認容したので,控訴人が,これを不服として,控訴人敗訴部分の取消し及び被控訴人の請求の全部棄却を求めて本件控訴を提起した。
これに対し,被控訴人は,被控訴人敗訴部分の取消しを求めて附帯控訴した。』(2頁以下)
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■判決内容
<争点>
1 放送による名誉毀損の成否
テレビ朝日「スーパーモーニング」と「スーパーJチャンネル」で放送されたマンション計画に関する報道がマンション専有卸会社に対する名誉毀損として不法行為を構成するとした原審の判断を維持しています(21頁以下)。
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2 完成予想図改変による著作者人格権侵害の成否
業者側はマンション完成予想図をテレビカメラで写すことについて承諾していましたが、テレビ局側が完成予想図の色彩を加工したり動画編集するといった点についてまで業者側が同意していたかどうかが争点となっています。
この点について裁判所は、
『被控訴人は,本件完成予想図がテレビで報道される番組の中で使用されることを十分認識した上でその使用に同意していたのであるから,控訴人が報道番組の制作編集に当たって色彩の変更や動画編集などの改変を加えることは,当然にその同意の内容として含まれていたものというべきであり,被控訴人ないしその担当者が同意する際に有していた期待や実際にその言動に現れていた個々の意向等に左右されるものではない。控訴人による本件完成予想図の利用の態様等には,その使用の同意を得る経緯等にやや不適切な点は認められるものの,著作者人格権の侵害をいうほどの違法は認めにくい。被控訴人の主張は,本件完成予想図の内容の改変ではなく,むしろ,報道された内容そのものを問題にしているものと考えられるが,報道番組の制作者は,報道の具体的な内容が取材を受ける者の個別的な意向,期待等に沿うものを制作報道しなければならないというような拘束を受けるべきものではない。
以上のとおりであるから,被控訴人の主張は,著作物の改変を理由として著作者人格権の侵害をいうが,その実質においては,報道された番組の内容が結果的に被控訴人の意向,期待等に沿わなかったことをいうものであって,相当ではない』(32頁以下)
との部分を原判決に付加して、改変が同意の内容に含まれていたと判断しています。
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3 損害論
原審の判断を引用しています(33頁)。
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■コメント
原審(横浜地裁平成16(ワ)3897)の判断が維持されています。
原審にあたれていないので完成予想図の著作物性(著作権法2条1項1号)や20条1項の「意に反する改変」、同条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」の解釈論の展開が分かりませんが、同一性保持権侵害性については、改変の同意の有無というところで処理されています。
問題となったマンションは、建築基準法上、山側に設けられた玄関を1階とする地上3階、地下6階の構造であるものの、反対側から見ると9階建てに見えるいわゆる「地下室マンション」で(二審もテレ朝に賠償命令…「地下室マンション」めぐり2010年5月25日14時11分 スポーツ報知)、原告のマンション業者は、「「専有卸」と呼ぶ業態をとっている。マンションを建設する土地を購入したうえで設計し、開発許可や建築確認の取得などの手続きをした後、土地と計画を一括してデベロッパーに売却する。」(横浜・地下室マンション報道で荒川建設工業が勝訴、テレ朝に賠償命令 建設:最新ニュース nikkei BPnet 〈日経BPネット〉2008年12月19日記事)という事業形態のようです。