最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「SL世界の車窓」DVD事件
東京地裁平成22.4.21平成20(ワ)36380損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 坂本三郎
裁判官 岩崎慎
*裁判所サイト公表 2010.5.11
*キーワード:複製権、著作者人格権、使用料相当額、過失相殺
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■事案
百円ショップで販売されたSL鉄道映像のDVD販売等の著作権侵害性が争点となった事案
原告:写真家
被告:百円ショップ流通業者
補助参加人:テレビ番組映像制作会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、18条、19条、20条、45条1項、114条3項
1 本件映像の著作権譲渡又は利用許諾等の有無
2 本件DVD販売差止の要否
3 故意過失の有無
4 過失相殺について
5 損害論
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■事案の概要
世界各地のSLのビデオ映像を撮影した原告が、原告に無断で当該ビデオ映像を編集して作成されたDVD「SL世界の車窓」を被告が販売等したとして被告(百円ショップ)に対して販売差止めや廃棄、損害賠償等を求めました。動画撮影を依頼したテレビ番組制作会社は補助参加人(民訴法42条)として本件訴訟に関与しています。
<経緯>
H14〜 原告が世界の鉄道動画を撮影
H17.12 本件映像を利用した放送番組が地方テレビ局でOA
H19.9.1 映像制作会社が製造卸会社とDVDの販売合意
H19.10 被告がDVDを販売
H19.12.22 原告が被告に販売中止を通告
H20.2.4 被告が販売中止、回収指示
映像の流れ:
原告→映像制作会社(補助参加人)→製造卸会社→被告(百円ショップ)
テレビ放送番組:30分番組「SL世界の車窓1」、「SL世界の車窓2」
DVD製品:「SL世界の車窓 World scenery from Steam Locomotives window」
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■判決内容
<争点>
1 本件映像の著作権譲渡又は利用許諾等の有無
原告が世界各地で撮影したSL鉄道映像について、原告は補助参加人であるテレビ番組映像制作会社から機材一式を貸与され、また撮影のアドバイスを受け、さらに撮影済みDVテープを渡すなどしていました。また、映像のDVD製品化までに本件映像が地方テレビ局で放送されるといった経緯もありました。
こうした経緯などを踏まえた上で、裁判所は、原告が本件映像の著作権を放棄したり、若しくは映像制作会社に著作権を譲渡することについて黙示的に合意したり、又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたとは認められないと判断。
結論として、映像制作会社(補助参加人)の本件DVDの作成や百円ショップ小売業者(被告)の販売行為は、複製権(著作権法21条)、公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)を侵害に当たるとしています(18頁以下)。
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2 本件DVD販売差止の要否
被告の本件DVDの在庫品が既に返品されていることなどから、裁判所は、販売継続が認められず、また、販売のおそれも認めることはできないと判断。
結論として、本件DVDの販売等の差止め及びその廃棄の請求は容れられていません(30頁以下)。
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3 故意過失の有無
被告において、本件DVDに関する著作権の帰属やその処理について確認した形跡が認められないとして、本件映像の著作権及び著作者人格権侵害について被告の過失が認められています(31頁)。
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4 過失相殺について
放送番組制作企画段階での原告の対応(本件DVテープを保管させたまま特段の連絡等もしなかった)について、原告の過失が認められ、過失相殺として原告の損害額の1割が減じられています(31頁以下)。
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5 損害論
(1)財産的損害
原告は、主位的主張として本件映像に関する別のDVD制作販売会社とのライセンス交渉の経緯を踏まえて損害額を算定しましたが、裁判所は原告主張の著作権料の合意がこの会社と具体的に成立していたとは認めることはできないと判断。こうした合意の成立を前提とする原告の逸失利益の主張を容れていません(32頁以下)。
次に、予備的主張として、著作権法114条3項(使用料相当額)による損害額の算定について判断しています。
DVD1枚当たりの販売価格は、同種のDVD商品の価格等を参考にすると4000円が相当であり、被告による本件DVDの販売価格である315円(税込み)は相当程度低廉であるなどとして、被告による販売価格は著作権料相当額を算定する基準としては相当ではないとしています。
その上で、著作権料相当額は8%が相当であるとして、
4000円(1枚の販売価格)×6581枚(販売枚数)×8%(著作権料率)=210万5920円
と判断しています。
(2)精神的損害
原告の氏名の不表示、無断編集での本件DVDの発売の点で著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)侵害があり、慰謝料として100万円が相当であると判断されています(35頁以下)。
(3)過失相殺後の額
310万5920円×(1ー0.1)=279万5328円
(4)弁護士費用
28万円
以上、合計して307万5328円
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■コメント
映像制作会社としては、旅費や機材の提供をしているのに、撮影素材を一切利用できないというのでは不合理な話となります。ただ、撮影者である原告と映像制作会社の間で素材の利用についてコミュニケーションがほとんど取られておらず、映像制作会社が勝手に商品化企画を進めてしまった側面がありました。
本事案では原告側のビジネスに対する不誠実な態度から過失相殺が認められている点に双方の事情が端的に表れているところです。
本判決では、小売店(百円ショップ)の過失が容易に認められている点、それと、百円ショップで取扱われる廉価商品での使用料相当額の算定(著作権法114条3項)についての裁判所の判断が参考になります。
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■過去のブログ記事
格安DVDのように標準品と比較して販売価格に差がある商品での損害額算定の基礎となるべき販売価格や使用料率をどう捉えるかについて、
2009年5月14日記事
黒澤明監督作品格安DVD(対角川)損害賠償請求事件
2009年10月7日記事
黒澤明監督作品格安DVD(対角川)事件(控訴審)
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■参考文献
寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)179頁以下
「SL世界の車窓」DVD事件
東京地裁平成22.4.21平成20(ワ)36380損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 坂本三郎
裁判官 岩崎慎
*裁判所サイト公表 2010.5.11
*キーワード:複製権、著作者人格権、使用料相当額、過失相殺
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■事案
百円ショップで販売されたSL鉄道映像のDVD販売等の著作権侵害性が争点となった事案
原告:写真家
被告:百円ショップ流通業者
補助参加人:テレビ番組映像制作会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法21条、18条、19条、20条、45条1項、114条3項
1 本件映像の著作権譲渡又は利用許諾等の有無
2 本件DVD販売差止の要否
3 故意過失の有無
4 過失相殺について
5 損害論
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■事案の概要
世界各地のSLのビデオ映像を撮影した原告が、原告に無断で当該ビデオ映像を編集して作成されたDVD「SL世界の車窓」を被告が販売等したとして被告(百円ショップ)に対して販売差止めや廃棄、損害賠償等を求めました。動画撮影を依頼したテレビ番組制作会社は補助参加人(民訴法42条)として本件訴訟に関与しています。
<経緯>
H14〜 原告が世界の鉄道動画を撮影
H17.12 本件映像を利用した放送番組が地方テレビ局でOA
H19.9.1 映像制作会社が製造卸会社とDVDの販売合意
H19.10 被告がDVDを販売
H19.12.22 原告が被告に販売中止を通告
H20.2.4 被告が販売中止、回収指示
映像の流れ:
原告→映像制作会社(補助参加人)→製造卸会社→被告(百円ショップ)
テレビ放送番組:30分番組「SL世界の車窓1」、「SL世界の車窓2」
DVD製品:「SL世界の車窓 World scenery from Steam Locomotives window」
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■判決内容
<争点>
1 本件映像の著作権譲渡又は利用許諾等の有無
原告が世界各地で撮影したSL鉄道映像について、原告は補助参加人であるテレビ番組映像制作会社から機材一式を貸与され、また撮影のアドバイスを受け、さらに撮影済みDVテープを渡すなどしていました。また、映像のDVD製品化までに本件映像が地方テレビ局で放送されるといった経緯もありました。
こうした経緯などを踏まえた上で、裁判所は、原告が本件映像の著作権を放棄したり、若しくは映像制作会社に著作権を譲渡することについて黙示的に合意したり、又は本件映像を利用することを黙示的に許諾していたとは認められないと判断。
結論として、映像制作会社(補助参加人)の本件DVDの作成や百円ショップ小売業者(被告)の販売行為は、複製権(著作権法21条)、公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)を侵害に当たるとしています(18頁以下)。
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2 本件DVD販売差止の要否
被告の本件DVDの在庫品が既に返品されていることなどから、裁判所は、販売継続が認められず、また、販売のおそれも認めることはできないと判断。
結論として、本件DVDの販売等の差止め及びその廃棄の請求は容れられていません(30頁以下)。
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3 故意過失の有無
被告において、本件DVDに関する著作権の帰属やその処理について確認した形跡が認められないとして、本件映像の著作権及び著作者人格権侵害について被告の過失が認められています(31頁)。
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4 過失相殺について
放送番組制作企画段階での原告の対応(本件DVテープを保管させたまま特段の連絡等もしなかった)について、原告の過失が認められ、過失相殺として原告の損害額の1割が減じられています(31頁以下)。
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5 損害論
(1)財産的損害
原告は、主位的主張として本件映像に関する別のDVD制作販売会社とのライセンス交渉の経緯を踏まえて損害額を算定しましたが、裁判所は原告主張の著作権料の合意がこの会社と具体的に成立していたとは認めることはできないと判断。こうした合意の成立を前提とする原告の逸失利益の主張を容れていません(32頁以下)。
次に、予備的主張として、著作権法114条3項(使用料相当額)による損害額の算定について判断しています。
DVD1枚当たりの販売価格は、同種のDVD商品の価格等を参考にすると4000円が相当であり、被告による本件DVDの販売価格である315円(税込み)は相当程度低廉であるなどとして、被告による販売価格は著作権料相当額を算定する基準としては相当ではないとしています。
その上で、著作権料相当額は8%が相当であるとして、
4000円(1枚の販売価格)×6581枚(販売枚数)×8%(著作権料率)=210万5920円
と判断しています。
(2)精神的損害
原告の氏名の不表示、無断編集での本件DVDの発売の点で著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)侵害があり、慰謝料として100万円が相当であると判断されています(35頁以下)。
(3)過失相殺後の額
310万5920円×(1ー0.1)=279万5328円
(4)弁護士費用
28万円
以上、合計して307万5328円
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■コメント
映像制作会社としては、旅費や機材の提供をしているのに、撮影素材を一切利用できないというのでは不合理な話となります。ただ、撮影者である原告と映像制作会社の間で素材の利用についてコミュニケーションがほとんど取られておらず、映像制作会社が勝手に商品化企画を進めてしまった側面がありました。
本事案では原告側のビジネスに対する不誠実な態度から過失相殺が認められている点に双方の事情が端的に表れているところです。
本判決では、小売店(百円ショップ)の過失が容易に認められている点、それと、百円ショップで取扱われる廉価商品での使用料相当額の算定(著作権法114条3項)についての裁判所の判断が参考になります。
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■過去のブログ記事
格安DVDのように標準品と比較して販売価格に差がある商品での損害額算定の基礎となるべき販売価格や使用料率をどう捉えるかについて、
2009年5月14日記事
黒澤明監督作品格安DVD(対角川)損害賠償請求事件
2009年10月7日記事
黒澤明監督作品格安DVD(対角川)事件(控訴審)
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■参考文献
寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)179頁以下