最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ポリカーボネート製造装置営業秘密事件
東京地裁平成22.3.30平成19(ワ)4916等不正競争行為差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 関根澄子
*裁判所サイト公表 2010.4.13
*キーワード:営業秘密、一般不法行為
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■事案
ポリカーボネート製造装置(PCプラント)に関する図表等の営業秘密性が争点となった事案
原告:石油化学工業会社
被告:プラント設備工事会社ら
--------------------
■結論
請求一部認容(第2事件)、請求棄却(第1事件)
--------------------
■争点
条文 不正競争防止法2条1項8号、2条6項、9条、民法709条
1 本件情報の営業秘密性
2 被告らによる不正競争行為の有無
3 損害論
4 一般不法行為の成否
--------------------
■判決内容
<経緯>
H14 被告ビーシー工業が中国企業から協力要請
H14.12.13 中国企業が出光石油化学に申入れ
H14年末 被告Bが三共プロセスと相談
H15.1.17 中国企業と出光石油化学が打ち合わせ
H15.1.24 中国企業が出光石油化学に交渉白紙通知
H15.4 被告ビーシー工業が技術支援元を三共プロセスに決定
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<争点>
1 本件情報の営業秘密性
ポリカーボネート製造装置(PCプラント)に関する機器、配管、計器類をダイアグラム形式で工程毎に表した図表や図面に記載された情報(本件情報)を原告会社従業員から不正に開示させて取得し、その取得した本件情報を中国の企業に開示した行為の不正競争行為性(不正競争防止法2条1項8号 不正開示行為の悪意者の使用・開示行為)が争点となりました(29頁以下)。
まず、本件情報の営業秘密性(2条6項)について、
(1)秘密管理性:フロッピーディスクがロッカー内で管理、立入り制限
(2)有用性:PCプラントの運転、管理等に不可欠の技術情報
(3)非公知性:秘匿性が高い独自技術で開示も予定されていない
以上の点から、営業秘密性を肯定しています。
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2 被告らによる不正競争行為の有無
(1)被告P商事(代表者B)及び被告Bの不正競争行為の有無
(第2事件 40頁以下)
(A)持ち出した図面について
(ア)図面の対比
三共プロセス側提供の図面(甲16別紙図面8ないし14)が本件情報の各図面の一部を複製したものかどうかについて、大学教授作成による「技術鑑定結果報告」などにより酷似性が認められる(41頁以下)。
(イ)入手経路
被告Bが千葉工場勤務の従業員Hに対して機器図の一部を提供するよう働きかけて同人にそのコピーを持ち出させて取得したことなどを総合して、被告Bが図面にアクセスしうる従業員に働きかけてその複製図面あるいは電子データを千葉工場から持ち出させたとの事実を推認することができる(46頁以下)。
(ウ)持ち出させた図面等の範囲
持ち出させた図面として具体的に認めることができるものは、別紙営業秘密目録1ないし3記載のうちの一部である(52頁以下)。
(B)不正開示行為
雇用契約に付随する信義則上の義務として秘密保持義務を負う従業員が、被告Bに本件持ち出し図面のコピー等を交付する行為は不正開示行為(8号括弧書き後段)に該当する。
(C)取得、開示行為
被告Bの当該従業員から本件持ち出し図面を取得した行為及び三共プロセスに開示した行為は、知情取得、開示行為に該当する。
以上から、被告P商事(代表者B)及び被告Bについて不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為性を肯定しています。
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(2)被告ビーシー工業(代表者A)及び被告Aの不正競争行為の有無
(第1事件 56頁以下)
原告は、被告ビーシー工業及び被告Aが不正取得情報を三共プロセスを介して中国企業に開示したとしてその不正競争行為性を争点としました(第1事件)。
しかし、結論としては、被告Aにおいて受け取った情報に不正開示営業秘密が含まれていることや被告Bに対する従業員の不正開示行為の介在を知っていたとは認められない(重過失もない)として、不正競争行為性が否定されています。
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(3)差止等の必要性
結論として、被告P商事及び被告Bに対して、不正競争防止法3条1項に基づき本件持ち出し図面の使用、開示の差止、同条2項に基づき本件持ち出し図面が記録された記録媒体の廃棄が認められています(62頁以下)。
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3 損害論
不正競争防止法9条(相当な損害額の認定)により1000万円と算定。弁護士費用100万円と併せて1100万円が損害額として認められています(63頁以下)。
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4 一般不法行為の成否
原告は、予備的に被告らの行為が自由競争原理を逸脱した違法行為と評価される行為に当たるとして一般不法行為(民法709条)を構成すると主張しました(66頁以下)。
結論としては、第2事件で不正競争防止法違反が認められた他に一般不法行為性の成立は否定されています。
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■コメント
被告Bから協力者である従業員Hへ報酬570万円が支払われた事実関係や電気エンジニアリングマネージャーDからの情報取得の違法収集証拠性など、訴訟に至る背景事情も含め興味深い事案です。
第2事件の被告Bは、永年に亘って原告側会社で働いており、退職後個人でプラスチック樹脂を中国に輸出する事業を始め被告P商事を設立。P商事は古巣と取引関係もありました。多数の元同僚や部下などの知人がいて営業秘密情報の取得を働きかける対象となる人物がいたと推認されています(48頁以下)。
もっとも、本命となる第1事件の関係者とBとのやりとりなどが詰め切れず、第1事件は差止も含め棄却の結果となりました。
ポリカーボネート製造装置営業秘密事件
東京地裁平成22.3.30平成19(ワ)4916等不正競争行為差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 関根澄子
*裁判所サイト公表 2010.4.13
*キーワード:営業秘密、一般不法行為
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■事案
ポリカーボネート製造装置(PCプラント)に関する図表等の営業秘密性が争点となった事案
原告:石油化学工業会社
被告:プラント設備工事会社ら
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■結論
請求一部認容(第2事件)、請求棄却(第1事件)
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■争点
条文 不正競争防止法2条1項8号、2条6項、9条、民法709条
1 本件情報の営業秘密性
2 被告らによる不正競争行為の有無
3 損害論
4 一般不法行為の成否
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■判決内容
<経緯>
H14 被告ビーシー工業が中国企業から協力要請
H14.12.13 中国企業が出光石油化学に申入れ
H14年末 被告Bが三共プロセスと相談
H15.1.17 中国企業と出光石油化学が打ち合わせ
H15.1.24 中国企業が出光石油化学に交渉白紙通知
H15.4 被告ビーシー工業が技術支援元を三共プロセスに決定
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<争点>
1 本件情報の営業秘密性
ポリカーボネート製造装置(PCプラント)に関する機器、配管、計器類をダイアグラム形式で工程毎に表した図表や図面に記載された情報(本件情報)を原告会社従業員から不正に開示させて取得し、その取得した本件情報を中国の企業に開示した行為の不正競争行為性(不正競争防止法2条1項8号 不正開示行為の悪意者の使用・開示行為)が争点となりました(29頁以下)。
まず、本件情報の営業秘密性(2条6項)について、
(1)秘密管理性:フロッピーディスクがロッカー内で管理、立入り制限
(2)有用性:PCプラントの運転、管理等に不可欠の技術情報
(3)非公知性:秘匿性が高い独自技術で開示も予定されていない
以上の点から、営業秘密性を肯定しています。
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2 被告らによる不正競争行為の有無
(1)被告P商事(代表者B)及び被告Bの不正競争行為の有無
(第2事件 40頁以下)
(A)持ち出した図面について
(ア)図面の対比
三共プロセス側提供の図面(甲16別紙図面8ないし14)が本件情報の各図面の一部を複製したものかどうかについて、大学教授作成による「技術鑑定結果報告」などにより酷似性が認められる(41頁以下)。
(イ)入手経路
被告Bが千葉工場勤務の従業員Hに対して機器図の一部を提供するよう働きかけて同人にそのコピーを持ち出させて取得したことなどを総合して、被告Bが図面にアクセスしうる従業員に働きかけてその複製図面あるいは電子データを千葉工場から持ち出させたとの事実を推認することができる(46頁以下)。
(ウ)持ち出させた図面等の範囲
持ち出させた図面として具体的に認めることができるものは、別紙営業秘密目録1ないし3記載のうちの一部である(52頁以下)。
(B)不正開示行為
雇用契約に付随する信義則上の義務として秘密保持義務を負う従業員が、被告Bに本件持ち出し図面のコピー等を交付する行為は不正開示行為(8号括弧書き後段)に該当する。
(C)取得、開示行為
被告Bの当該従業員から本件持ち出し図面を取得した行為及び三共プロセスに開示した行為は、知情取得、開示行為に該当する。
以上から、被告P商事(代表者B)及び被告Bについて不正競争防止法2条1項8号の不正競争行為性を肯定しています。
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(2)被告ビーシー工業(代表者A)及び被告Aの不正競争行為の有無
(第1事件 56頁以下)
原告は、被告ビーシー工業及び被告Aが不正取得情報を三共プロセスを介して中国企業に開示したとしてその不正競争行為性を争点としました(第1事件)。
しかし、結論としては、被告Aにおいて受け取った情報に不正開示営業秘密が含まれていることや被告Bに対する従業員の不正開示行為の介在を知っていたとは認められない(重過失もない)として、不正競争行為性が否定されています。
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(3)差止等の必要性
結論として、被告P商事及び被告Bに対して、不正競争防止法3条1項に基づき本件持ち出し図面の使用、開示の差止、同条2項に基づき本件持ち出し図面が記録された記録媒体の廃棄が認められています(62頁以下)。
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3 損害論
不正競争防止法9条(相当な損害額の認定)により1000万円と算定。弁護士費用100万円と併せて1100万円が損害額として認められています(63頁以下)。
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4 一般不法行為の成否
原告は、予備的に被告らの行為が自由競争原理を逸脱した違法行為と評価される行為に当たるとして一般不法行為(民法709条)を構成すると主張しました(66頁以下)。
結論としては、第2事件で不正競争防止法違反が認められた他に一般不法行為性の成立は否定されています。
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■コメント
被告Bから協力者である従業員Hへ報酬570万円が支払われた事実関係や電気エンジニアリングマネージャーDからの情報取得の違法収集証拠性など、訴訟に至る背景事情も含め興味深い事案です。
第2事件の被告Bは、永年に亘って原告側会社で働いており、退職後個人でプラスチック樹脂を中国に輸出する事業を始め被告P商事を設立。P商事は古巣と取引関係もありました。多数の元同僚や部下などの知人がいて営業秘密情報の取得を働きかける対象となる人物がいたと推認されています(48頁以下)。
もっとも、本命となる第1事件の関係者とBとのやりとりなどが詰め切れず、第1事件は差止も含め棄却の結果となりました。