最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

QCサークルテキスト事件

大阪地裁平成22.2.18平成20(ワ)172著作権侵害差止等請求事件PDF


*裁判所サイト公表 2010/3/1
*キーワード:当事者能力、アイデア、著作物性、創作性

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■事案

職場での問題点をテーマ候補とする選定マトリックスやQCサークル活動記録表の著作物性が争点となった事案

原告:QCサークル協会、専務理事X
被告:社会福祉法人、原告協会元事務局員Yら

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■結論

請求却下・棄却

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■争点

条文 著作権法2条1項1号、民法709条

1 原告協会の当事者能力の有無
2 本件テキストの著作物性
3 共催中止の原告Xへの不法行為の成否

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■判決内容

<経緯>

S58.10   原告協会設立、原告専務理事X就任
H18.9.10  原告協会が「事務局交代のお知らせ」送付
H18.10.13 原告協会が「理事・事務局長解任の件」送付
H18.10.24 被告府社協らが共催中止書面を送付
H20.1.10  本件訴訟提起

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<争点>

1 原告協会の当事者能力の有無

原告協会は、被告社会福祉法人大阪府社会福祉協議会(府社協)とのQCサークル活動の共催を被告府社協に中止されたことについて債務不履行又は不法行為などに基づく損害賠償を請求しました。
その前提として、原告協会の当事者能力(民事訴訟法29条)の有無が争点となっています。
この点について、裁判所は、団体としての実質的な活動がないことや規約に従った理事会が開催されていないことから、

原告協会は,現時点で団体として存続しているとは認めがたい上,多数決の原則が採用されているとも,団体としての主要な点が確定しているとも認められない

として、原告協会が民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるということはできないと判断しています(18頁以下)。

結論として、原告協会の訴え部分は不適法として却下されています。

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2 本件テキストの著作物性

原告専務理事Xが作成したテキスト(本件テキスト)を原告協会の元事務局員である被告Yが模倣したとして、原告Xは本件テキストの使用の差止め等を求めています。
なお、原告Xは、本件テキストの中で職場等での問題点をテーマ候補とする選定マトリックスとQCサークル活動記録表(本件テキスト)に限定して著作物性(著作権法2条1項1号)を主張しています。

この点について裁判所は、

【1】テーマ選定マトリックス

テーマ選定マトリックスは,職場等における問題点をテーマ候補として選び,そのテーマ候補について「利用者の満足」等の評価項目毎に順位付けを行って5から1までの数字を記載し,記載された数字を用いて一定の計算(計算方法については別紙著作物目録1−1に記載のとおり。)を行ってテーマ候補の選定順位を決めるというものであるが,このようなテーマ候補の選定順位の決定方法自体はアイデアであって表現ではない。そして,テーマ選定マトリックスの表は,縦線と横線を交差させて作成した単純な表に「評価項目」や「テーマの候補」などを記入するという極めてありふれたものであり,上記アイデアを表現する表としての表現上の創作性を認めることは到底できない。

【2】QCサークル活動記録表

QCサークル活動記録表1は,四角で囲まれた空欄の左上に「現状把握? 縮小して貼付する。」などと記載されているだけのものであり,QCサークル活動記録表2も,「現状把握の結果から分かったこと(1)〜(5)」,「目標値の設定」と記載されているだけで他の部分が空欄となっているものであり,QCサークル活動表3も,対策立案実施について,「特性要因図の対策要因の番号順に対策要因図を書き挙げる。」,「対策要因毎にマトリックスの項目毎の検討をしまとめる。」と記載された下に,縦線と横線を交差させて作成した表に「対策要因」,「どうする」,「具体的な方法」,「担当者」,「場所」,「何時迄に」と記載されているだけであって,いずれもQCサークル活動の内容を記録する個所を設けた単純な表であり,このような記録表は,その内容(アイデア)の独創性いかんはともかく,表現としては極めてありふれたものであるから,これらについても表現上の創作性を認めることはできない。

として、テーマ選定マトリックス及びQCサークル活動記録表いずれもありふれたものとして著作物性を否定しています(27頁以下)。

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3 共催中止の原告Xへの不法行為の成否

被告府社協が原告協会との共催を中止した行為が原告Xに対する不法行為に該当するかどうかが争点となりましたが、結論的には被告府社協が共催を中止した理由に不合理な点は認められず、また相当の配慮もあるとして、裁判所は原告Xの主張を容れていません(28頁以下)。

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■コメント

QCサークル活動(職場などでのクオリティコントロール/品質管理についての小集団活動)で講師を派遣していた原告協会内部での紛争をきっかけに被告府社協との福祉QCサークル共催活動が中止となっており、これが本件訴訟の契機となっています。
著作物性が争点となったテキスト(「CS−QCリーダー養成3日コース」)中の表自体が判決資料として添付公開されていないので雰囲気が伝わりませんが、アイデアの独創性はともかく、表現としてはありふれたものと判断されています。