1.ニュース
2010年2月18日付毎日新聞の報道では、日本ビジュアル著作権協会(JVCA)に対して検察当局が弁護士法違反で捜査していると伝えています。
「非弁活動:著作権代行会社、訴訟あっせんで報酬か 容疑で検察当局が捜査」
『 著名な作家らの著作物使用の許諾代行をしている株式会社「日本ビジュアル著作権協会」(東京都新宿区)が、作家らを原告とする著作権絡みの訴訟を提携先の弁護士にあっせんし、賠償金の一部などを報酬として得ていた疑いのあることが関係者の話で分かった。弁護士以外が報酬目的で法律事務をあっせんするのは非弁活動として弁護士法で禁止されており、検察当局が同法違反容疑で捜査している模様だ。』
(毎日新聞 2010年2月18日 東京朝刊 毎日jp(毎日新聞))
2.一般社団法人日本ビジュアル著作権協会と株式会社日本ビジュアル著作権協会
JVCAはサイトを見ると(日本ビジュアル著作権協会)、一般社団法人と株式会社の二枚看板。一般社団法人が「著作権等知的財産権の保護と確立のための啓蒙・広報活動」などを行い、株式会社が「著作権等知的財産権に関する管理、あっせん、許諾代行」など著作権に係わる管理やコンサルティング業務を行っているという業務分担になっています。一般社団法人の会員(作家ら)は、紛争事案や二次使用許諾の際には、株式会社のほうに個別に業務を委託することになるのでしょうか。利用者向け著作物二次利用等申請書(サイト上のPDF)を拝見しても書類の提出先が一般社団法人宛なのか株式会社宛なのか、単に「日本ビジュアル著作権協会」とあって法人格名称が不分明で良く分かりません。
3.弁護士法72条の問題(非弁活動の禁止)
もし、会員から著作権管理費用を一般的に徴収せずに、訴訟で得た損害賠償額の半分を株式会社がその都度弁護士から、あるいは会員から貰っていた、というビジネススキームだと弁護士法72条の法律事務の「取り扱い」又は「周旋」となり問題になるかもしれません。
(なお、2月21日現在、報道があった当初はサイトに掲載されていた提携先の弁護士事務所の表示が削除されています。)
弁護士法72条の問題は、行政書士のような隣接士業にとっても重要な規定です。また、弁護士がこれから魅力的な法務サービスの展開を考えた場合、非弁提携・非弁活動として色々な議論を生じさせるかと思われます。
例えば、最近では、「弁護士バー」などが話題となったのが記憶に新しいところです(「弁護士バー」身内が待った 「民間との仲介業は法に抵触」 - MSN産経ニュース 2009.11.29 22:03)。
弁護士自身、自らの業務展開の足かせとならないような弁護士法の解釈・規定の見直しの必要がある時期なのかもしれません。
4.著作権等管理事業法との関係
ところで、JVCAのサイトを見ると、文化庁の非一任型の実態調査の際に「特に教育産業からの二次利用申請については、侵害行為が多いことや、作者の意図しない改変が多数行われている現状から、現時点では一任型ではなく、権利者の意向が反映されやすい非一任型での著作権管理の有効性を訴えた」とあるように(JVCAニュース 第6号 -JVCA 日本ビジュアル著作権協会(2008年3月31日記事))、JVCAの従来のビジネスモデルは非一任型(会員である作家に使用料などの決定権が留保されている)の事業内容となります。
この点、JVCAは株式会社のほうは、昨年、著作権管理事業法上の「著作権等管理事業者」登録を文化庁にしています(2009年6月5日登録 文化庁サイト)。
一任型(委託者が使用料の額を決定することとされているもの以外)管理事業を行う場合、文化庁長官に対して事業者登録をしなければなりません(著作権等管理事業法)。
ただ、実際の著作権管理ビジネスモデルとなる管理委託契約約款、使用料規程ともにまだ文化庁に未提出(2010年2月21日現在)です。管理委託契約約款と使用料規程は、登録時あるいは登録後に提出すれば良いわけですが、現状の非一任型事業であれば登録は不要ですのでJVCAは登録当初どのようなビジネスモデルを想定して登録したのか。
このようにJVCAは現状では、一任型ではなく、非一任型での著作権管理となりますが、著作権管理委託費をどう会員から徴収していたのか、今回の事件との関係ではこの非一任型ビジネスモデルの適法性が争点となります。
万が一、刑事事件に発展して役員が懲役刑で処断されることにでもなると、JVCAは著作権等管理事業法上の登録自体の取消し(21条1項、6条1項5号、弁護士法77条)の可能性も出てきます。
5.著作権管理ビジネスの新しい展開の可能性
JVCAがこの先、いわばアメリカ流の「紛争掘り起こし型」(俗に言うambulance chaserの様な)著作権管理の新しいビジネスモデルの可能性を探っていくのか(非一任型)、あるいは、侵害事例の減少を見越して既存の他の著作権管理団体と同じようなサービスメニューに落ち着くのか(一任型)。
JVCAの事業展開も含め、今後の事件の成り行きが注目されます。
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6.弁護士法73条・信託法10条(訴訟信託)との関係(追記10.2.22)
大家重夫先生とこの事件についてお話をする機会を得ましたが、大家先生は、今後のビジネスモデルとして弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)・信託法10条(訴訟信託)などの規定との関係についてもご指摘でおいででした。
音楽著作権に関する管理団体であるジャスラック(JASRAC)のように信託譲渡で管理するのであれば、管理団体が単独で訴訟の当事者となることができますが、訴訟行為を主たる目的として設定される信託の場合は信託法10条の訴訟信託の禁止規定に抵触することになります。また、弁護士法73条との関係でも問題となります。
文芸作品の作家さんが、著作権を管理目的で信託譲渡するかといえば、日本文藝家協会さんの例(管理委任契約)を見るまでもなく、しないのではないか、と思われるところです。
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■追記10.2.22
関連記事(2010.2.18〜2.19)
「しみじみと朗読に聴き入りたい」
(1)検察がビジュアル著作権協会を非弁活動容疑で捜査中との報道
(2)
(3)
(4)
毎日新聞 2010年2月20日 大阪朝刊(毎日jp)
日本ビジュアル著作権協会:他業者解約で引き抜き 書面用意、作家に署名させ
「教育関連著作権の使用料の25%を出版社などから手数料として徴収。日文協の場合は5%」
2010年2月18日付毎日新聞の報道では、日本ビジュアル著作権協会(JVCA)に対して検察当局が弁護士法違反で捜査していると伝えています。
「非弁活動:著作権代行会社、訴訟あっせんで報酬か 容疑で検察当局が捜査」
『 著名な作家らの著作物使用の許諾代行をしている株式会社「日本ビジュアル著作権協会」(東京都新宿区)が、作家らを原告とする著作権絡みの訴訟を提携先の弁護士にあっせんし、賠償金の一部などを報酬として得ていた疑いのあることが関係者の話で分かった。弁護士以外が報酬目的で法律事務をあっせんするのは非弁活動として弁護士法で禁止されており、検察当局が同法違反容疑で捜査している模様だ。』
(毎日新聞 2010年2月18日 東京朝刊 毎日jp(毎日新聞))
2.一般社団法人日本ビジュアル著作権協会と株式会社日本ビジュアル著作権協会
JVCAはサイトを見ると(日本ビジュアル著作権協会)、一般社団法人と株式会社の二枚看板。一般社団法人が「著作権等知的財産権の保護と確立のための啓蒙・広報活動」などを行い、株式会社が「著作権等知的財産権に関する管理、あっせん、許諾代行」など著作権に係わる管理やコンサルティング業務を行っているという業務分担になっています。一般社団法人の会員(作家ら)は、紛争事案や二次使用許諾の際には、株式会社のほうに個別に業務を委託することになるのでしょうか。利用者向け著作物二次利用等申請書(サイト上のPDF)を拝見しても書類の提出先が一般社団法人宛なのか株式会社宛なのか、単に「日本ビジュアル著作権協会」とあって法人格名称が不分明で良く分かりません。
3.弁護士法72条の問題(非弁活動の禁止)
もし、会員から著作権管理費用を一般的に徴収せずに、訴訟で得た損害賠償額の半分を株式会社がその都度弁護士から、あるいは会員から貰っていた、というビジネススキームだと弁護士法72条の法律事務の「取り扱い」又は「周旋」となり問題になるかもしれません。
(なお、2月21日現在、報道があった当初はサイトに掲載されていた提携先の弁護士事務所の表示が削除されています。)
弁護士法72条の問題は、行政書士のような隣接士業にとっても重要な規定です。また、弁護士がこれから魅力的な法務サービスの展開を考えた場合、非弁提携・非弁活動として色々な議論を生じさせるかと思われます。
例えば、最近では、「弁護士バー」などが話題となったのが記憶に新しいところです(「弁護士バー」身内が待った 「民間との仲介業は法に抵触」 - MSN産経ニュース 2009.11.29 22:03)。
弁護士自身、自らの業務展開の足かせとならないような弁護士法の解釈・規定の見直しの必要がある時期なのかもしれません。
4.著作権等管理事業法との関係
ところで、JVCAのサイトを見ると、文化庁の非一任型の実態調査の際に「特に教育産業からの二次利用申請については、侵害行為が多いことや、作者の意図しない改変が多数行われている現状から、現時点では一任型ではなく、権利者の意向が反映されやすい非一任型での著作権管理の有効性を訴えた」とあるように(JVCAニュース 第6号 -JVCA 日本ビジュアル著作権協会(2008年3月31日記事))、JVCAの従来のビジネスモデルは非一任型(会員である作家に使用料などの決定権が留保されている)の事業内容となります。
この点、JVCAは株式会社のほうは、昨年、著作権管理事業法上の「著作権等管理事業者」登録を文化庁にしています(2009年6月5日登録 文化庁サイト)。
一任型(委託者が使用料の額を決定することとされているもの以外)管理事業を行う場合、文化庁長官に対して事業者登録をしなければなりません(著作権等管理事業法)。
ただ、実際の著作権管理ビジネスモデルとなる管理委託契約約款、使用料規程ともにまだ文化庁に未提出(2010年2月21日現在)です。管理委託契約約款と使用料規程は、登録時あるいは登録後に提出すれば良いわけですが、現状の非一任型事業であれば登録は不要ですのでJVCAは登録当初どのようなビジネスモデルを想定して登録したのか。
このようにJVCAは現状では、一任型ではなく、非一任型での著作権管理となりますが、著作権管理委託費をどう会員から徴収していたのか、今回の事件との関係ではこの非一任型ビジネスモデルの適法性が争点となります。
万が一、刑事事件に発展して役員が懲役刑で処断されることにでもなると、JVCAは著作権等管理事業法上の登録自体の取消し(21条1項、6条1項5号、弁護士法77条)の可能性も出てきます。
5.著作権管理ビジネスの新しい展開の可能性
JVCAがこの先、いわばアメリカ流の「紛争掘り起こし型」(俗に言うambulance chaserの様な)著作権管理の新しいビジネスモデルの可能性を探っていくのか(非一任型)、あるいは、侵害事例の減少を見越して既存の他の著作権管理団体と同じようなサービスメニューに落ち着くのか(一任型)。
JVCAの事業展開も含め、今後の事件の成り行きが注目されます。
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6.弁護士法73条・信託法10条(訴訟信託)との関係(追記10.2.22)
大家重夫先生とこの事件についてお話をする機会を得ましたが、大家先生は、今後のビジネスモデルとして弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)・信託法10条(訴訟信託)などの規定との関係についてもご指摘でおいででした。
音楽著作権に関する管理団体であるジャスラック(JASRAC)のように信託譲渡で管理するのであれば、管理団体が単独で訴訟の当事者となることができますが、訴訟行為を主たる目的として設定される信託の場合は信託法10条の訴訟信託の禁止規定に抵触することになります。また、弁護士法73条との関係でも問題となります。
文芸作品の作家さんが、著作権を管理目的で信託譲渡するかといえば、日本文藝家協会さんの例(管理委任契約)を見るまでもなく、しないのではないか、と思われるところです。
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■追記10.2.22
関連記事(2010.2.18〜2.19)
「しみじみと朗読に聴き入りたい」
(1)検察がビジュアル著作権協会を非弁活動容疑で捜査中との報道
(2)
(3)
(4)
毎日新聞 2010年2月20日 大阪朝刊(毎日jp)
日本ビジュアル著作権協会:他業者解約で引き抜き 書面用意、作家に署名させ
「教育関連著作権の使用料の25%を出版社などから手数料として徴収。日文協の場合は5%」