最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「月刊ネット販売」編集著作物事件

東京地裁平成22.1.27平成20(ワ)32148損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎

*裁判所サイト公表 10/2/8
*キーワード:創作性、編集著作物性、引用

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■事案

月刊誌に掲載された図表の編集著作物性や引用の成否が争点となった事案

原告:出版社
被告:出版社

原告雑誌:月刊誌「月刊ネット販売」2007年9月号
被告書籍:「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本」

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 著作権法12条、32条1項、21条

1 原告各図表が編集著作物といえるか
2 被告各図表の掲載は引用にあたるか

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■判決内容


<争点>

1 原告各図表が編集著作物といえるか

被告書籍書籍に掲載された図表1から9について、原告雑誌図表を無断で掲載して出版、販売したとして原告の各図表の編集著作物に対する複製権侵害性(著作権法21条)などが争点となりました(30頁以下)。

原告図表1は、ネット通販販売実施会社の年間販売実績である、

「PC+携帯売上高(百万円)」
「増減率(%)」
「携帯売上高(百万円)」
「月間アクセス数(PV:万)」
「累積会員数(万人 )」
「決算期」
「主要商材」


という項目について、「PC+携帯売上高」の順に150社分を社名ごとにまとめて配列した図表のうち、1位から50位までの50社を掲載した部分でした。

原告図表1の編集著作物性(著作権法12条1項)について、裁判所は、

通信販売,通信教育,訪問販売の業界に限らず,特定の業界に属する個別企業や当該業界全体の売上高やその動向などの実態を把握するために,「売上高」,「増減率」,「決算期」,「主要商材」という素材を選択することは,一般的に行われており,ありふれたものと認めることができる。

また、

「PC+携帯売上高」,「携帯売上高」は,インターネットによる通信販売の事業を行っている企業にとって基本的な営業情報であり,インターネットによる通信販売の業界に属する個別企業や業界全体の売上高やその動向などの実態を把握するために,これらの素材を選択することは,一般的に行われており,ありふれたものと認めることができる。

として、素材の選択について、ありふれたものと判断。さらに、

前記の選択した各素材について,各社の売上高に応じて順位を付して,売上高の大きいものから順に並べて配列することは,広く一般的に行われている配列であり,ありふれたものと認めることができる。

として、配列についてもありふれたものと判断しています。

その上で、被告図表1における原告図表1の利用は、原告図表1の編集著作物としての創作性を認めることができない部分のみを利用しているとして、著作権侵害性を否定しています。

そのほかの原告各図表(円グラフや棒グラフなど)についても、結論として編集著作物性を否定しています。

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2 被告各図表の掲載は引用にあたるか

前記1で原告各図表の編集著作物性が否定されましたが、『念のため』として原告各図表が編集著作物性を有すると仮定した上で、被告各図表を被告書籍に掲載した被告の行為が、著作権法上の権利制限規定である引用(著作権法32条1項)に当たるかどうかが検討されています(40頁以下)。

この点について、裁判所は、パロディモンタージュ写真事件最高裁判決(最判昭和55.3.28)に言及した上で「主従関係」要件について検討しています(「明瞭区別性」については争われていません)。

結論としては、筆者の執筆部分が主、被告各図表が従という「主従関係」があるとして、他の要件の充足も含め引用の成立を肯定しています。

結局、編集著作物性が否定され、さらに引用の余地も肯定されたことから、著作権侵害性は否定されています。

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■コメント

原告の月刊誌「ネット販売」は、

「インターネット時代のダイレクトマーケター」に贈る国内唯一の実用専門誌/インターネットの登場により激変が予想される通販業界の健全発展を促進/通販事業者にとって有益な情報を常に公平な視点で提供し、大胆に問題提起 「月刊ネット販売」 編集方針

というコンセプトの雑誌のようです。

被告書籍の著者は、被告書籍刊行当時、原告雑誌の編集人でした。
被告書籍の刊行について、原告へ筆者から口頭で報告があって話がついていたと思われましたが、その後、被告書籍の題名に「カラクリ」の用語が用いられている点が判明、暴露本のような印象を与える体裁は困るとして原告が強く反発したようです(29頁参照)。

今回の提訴が業界向けに筋目を通す意味合いの訴訟だったのか(30頁参照)、良く分かりませんが、不正競争行為(営業秘密の持ち出しや営業誹謗行為)や一般不法行為(フリーライドなど)の成立を争うような原告側主張内容とはなっていません。

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■過去のブログ記事

最近の編集著作物に関する判例について、
2009年09月09日記事 手あそび歌出版差止事件

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■参考判例

パロディモンタージュ写真事件
最高裁昭和55.3.28判決昭和51(オ)923損害賠償請求事件

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■参考文献

古典的編集物(詩など)と事実的編集物(データなど)の違い、事実的編集物の情報検索ツールとしての保護の必要性、アイデア表現二分論との関係など、編集著作物性を通して「創作性」概念を再検討するものとして、
横山久芳「編集著作物概念の現代的意義ー「創作性」の判断構造の検討を中心としてー」『著作権研究』30号(2003)139頁以下