最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

マットレス形態模倣事件

大阪地裁平成22.1.19平成20(ワ)8486不正競争行為差止等請求事件PDF

大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官      北岡裕章
裁判官      山下隼

*裁判所サイト公表 10/01/22
*キーワード:形態、商品等表示性、営業秘密、営業誹謗行為、債務不履行、黙示の解約合意、著作物性、創作性

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■事案

マットレスやクッションの形態模倣行為性やカタログ掲載説明図の著作物性が争点となった事案

原告:ベッド、マットレス製造販売会社ら
被告:福祉用装身具販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、7号、14号、2条6項、著作権法2条1項1号、民法415条

1 原告各商品の形態に係る周知商品表示性
2 顧客情報・ジェル製法の営業秘密性及び不正使用の有無
3 本件書面記載の営業誹謗行為性
4 本件取引契約関係に係る債務不履行の有無
5 原告説明図の著作物性等

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■判決内容

<経緯>

H11.10  原告P社が「インテリジェル商品」販売
H14.8   原告P代表者、被告代表者、Bで被告会社設立
H15.4.1  原告P社と被告が独占販売許諾取引契約1締結
H16.8   原告P社が原告J社を設立
H16.9   原告J社が「ジェルトロンマットレス」等販売
H17.10.11 原告J社と被告が取引契約2締結
H18.4   被告が「ピタ・シートクッション」製造販売
H18.12.26 原告J社が取引契約2の解除の意思表示

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<争点>

1 原告各商品の形態に係る周知商品表示性

原告らは、周知の商品表示である原告各商品の形態と類似する被告各商品を製造販売する被告の行為が不正競争防止法2条1項1号(商品等主体混同惹起行為)の不正競争に当たると主張。
原告のマットレスとクッションの形態の「商品等表示性」がまず争点となっています。

商品の形態と商品等表示性について、裁判所は、

商品の形態は,それ自体として,直ちに当該商品の出所を表示するものではないが,当該商品の形態が他の商品とは異なる独自の特徴を有しており,かつ,その形態が特定の者によって長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも極めて強力な宣伝広告活動や圧倒的な販売実績等があって,需要者において当該形態が特定の事業者の出所を表示するものとして周知となっている場合には,当該商品等の形態をもって,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」として,同法の保護の対象となると解される。』(44頁)

として従来の判例の立場を踏襲。そのうえで、形態上の特徴と形態に係る周知性を検討。

マットレスやクッションに立体格子状形態を用いること自体は原告各商品に特別顕著な特徴であるとは認めがたく、また、周知性についても販売数量、宣伝広告の観点から需要者の間で広く認識されていたとは認めることはできないとして、形態の商品等表示性を否定しています(44頁以下)。

結論として、不正競争防止法2条1項1号の成立を否定しています。

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2 顧客情報・ジェル製法の営業秘密性及び不正使用の有無

次に、原告側は、被告との取引契約に基づいて自らの営業秘密である顧客名簿及びジェルの製法を開示したが、これらを被告は不正目的で使用しているとして不正競争防止法2条1項7号の不正競争(保有営業秘密の不正使用)に当たると主張しました(52頁以下)。

しかし、結論としては、顧客情報・ジェルの製法情報ともに秘密管理性を欠き(不正競争防止法2条6項)、また、不正使用も認められないとして、裁判所は、不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為性を否定しています。

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3 本件書面記載の営業誹謗行為性

被告が取引先に原告商品と被告商品の生産方法、品質及び耐久性の違いなどに触れた書面を郵送送付した行為の営業誹謗行為性(不正競争防止法2条1項14号)がさらに争点となっています(53頁以下)。

結論としては、本件書面記載は、各表現を個別に見ても被告らに対する違法な信用毀損行為とは認められないとして営業誹謗行為性が否定されています。

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4 本件取引契約関係に係る債務不履行の有無

被告は、原告P社、原告J社と取引契約を各別に締結していましたが、P社との契約(介護福祉用品に於ける国内独占的販売許諾契約:本件取引契約1)とJ社との契約(非独占的販売許諾契約:本件取引契約2)の関係、また、P社やJ社との契約関係についての債務不履行の有無がさらに争点とされています(60頁以下)。

特許出願拒絶を契機とする原告P社らによる原告J社の設立などの経緯を踏まえ、裁判所は、本件取引契約2の成立により本件取引契約1を解約するとの黙示の合意があったと認定。その上で、本件取引契約1の解約後の残存規定に関する債務不履行の有無を検討。
結論的には、本件取引契約1に関する債務不履行は否定されています。

次に、本件取引契約2に関する債務不履行の有無についても検討がされていますが、結論としては、本件取引契約2に関しても債務不履行の成立は否定されています(66頁以下)。

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5 原告説明図の著作物性等

原告P社が発行したカタログに商品の説明図としてマットレスの上に模式化された人が、頭を右側にして仰向けに横たわっている図(原告説明図)が掲載されていました。

【原告説明図の内容】

・3分割された立体格子型グミ状ジェルの格子形状を表現
・3分割された立体格子型グミ状ジェルそれぞれに彩色を施している
・3分割された立体格子型グミ状ジェルを組合わせたものを立体的に表現
・これらの特長を表現したマットレスの上に人が仰向けに横たわり,肩部,臀部,脚部に対し,3分割された立体格子型グミ状ジェルがどのように対応しているかが表現されている


この原告説明図が無断で被告の被告各商品に係るカタログで被告商品1の説明図として掲載されているとして、使用差止とカタログの廃棄が求められていました(73頁以下)。

この点について、そもそも原告説明図に創作性(著作権法2条1項1号)があるかどうかが争点となっています。

結論としては、ありふれた表現であるとして創作性が否定されており、原告のこの点の主張は裁判所に容れられていません。

以上から、原告の各主張は容れられず、請求棄却となっています。

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■コメント

最高裁判所ウェブサイトに公表された判例のうち、2010年最初(1月19日判決言渡)の著作権あるいは不正競争防止法関連の知財判例となります。
不正競争防止法上の争点をベースに著作権法の争点(著作物性)も少し係わった事案です。
紛争当事者が当初から契約関係に密接に係わっているので、利害関係を巡る内紛の様相です。

契約関係が解約や解除、期間満了などを契機として終了する場合、個別の規定について、たとえば、機密保持規定や個人情報保護規定、裁判管轄などの規定の効力は存続する旨の残存規定を契約書に置くことがあります。
今回の事案では、解約や解除後の明確な存続規定がありませんでしたが、個々の規定の性質から解除などの後も効力が存続するものについて検討がされているので(64頁以下)、この点の判断は参考になります。

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■参考文献

著作物性について、
三山裕三『著作権法詳説-判例で読む16章 第8版』(2010)36頁以下

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■参考サイト

株式会社パシフィックウエーブ(2008/07/14)
商品の類似品並びに虚偽説明のご注意とお知らせ 「ピタ」の販売差し止めに関する訴状提出のお知らせ

ジェイスリープ株式会社(2008年7月)
コピー・類似商品にご注意 「ピタ」の販売差し止めに関する訴状提出のお知らせ