最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

オートバイレース写真職務著作事件(控訴審)

知財高裁平成21.12.24平成21(ネ)10051損害賠償請求控訴事件判決PDF

知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官      今井弘晃
裁判官      真辺朋子

*裁判所サイト公表 10/1/21
*キーワード:職務著作、創作者主義、利用許諾、著作者人格権

   --------------------

■事案

フリーカメラマン撮影のオートバイレース写真の職務著作物性が争点となった事案の控訴審

控訴人 :フリーカメラマン
被控訴人:オートバイ商品販売会社

   --------------------

■結論

控訴棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法15条1項、18条、19条、20条

1 職務著作性の有無
2 利用許諾の有無
3 著作者人格権侵害の有無

   --------------------

■判決内容

<争点>

1 職務著作性の有無

オートバイレース参加者向けに写真撮影をして即売する事業で撮影を依頼した事業者側と撮影業務を受託したフリーのカメラマンとで撮影された写真の著作権の帰属関係について明確な合意がなかったことから、その帰趨が争点となりました。

被告は、原告カメラマンの写真撮影が職務著作(著作権法15条1項)にあたるとして、写真の著作権の被告側への原始取得を主張しました。原審では、被告の主張が認められて職務著作の成立が肯定されていました。

これに対して、知財高裁は、まず、

職務著作について定めた著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とすると定めているところ,「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実体にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものと解される(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。』(12頁)

として、RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件最高裁判決を示した上で本件事案において原告カメラマンが「法人等の業務に従事する者」に該当するかどうかを検討。

原告が個人写真事務所経営者であること、プロのカメラマンとして撮影を実施していたことやクレジット挿入要求などの点から、

これらを総合勘案すれば,控訴人は基本的には被控訴人との契約に基づきプロの写真家として行動していた者であり,被控訴人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできな
い。


として、「法人等の業務に従事する者」要件の充足性を否定。原審の判断とは反対に職務著作の成立を否定しました(12頁以下)。

   ------------------

2 利用許諾の有無

写真の著作権については職務著作物性が否定されたことから、原則として(譲渡などがない限り)撮影者である原告カメラマンに写真の著作権が帰属することとなりましたが、次に被告が撮影データを走行会の主催者に交付し、主催者がそのホームページや告知用ポスターに本件写真を掲載した行為の著作権侵害性(契約関係として原告の利用許諾があったかどうか)が争点となっています。

原告カメラマンは、撮影された写真について即売会での販売目的提供以外に主催者ホームページや告知用ポスター利用目的には被告側と合意していないと主張していました。

この点について、裁判所は、

(被告代表者である)『Aは,平成17年3月の合意の際,控訴人に対し,本件業務において扱った写真データは,後日走行会の主催者側に販売以外の目的,具体的にはホームページ上での写真の掲載及び告知用ポスターへの掲載を目的として記録媒体により無償で提供することを説明し,控訴人はこれを承諾したと認めるのが相当である。』(14頁)

として、結論として原告カメラマンはあらかじめ被告に対してその利用許諾をしていたとして著作権侵害の成立は否定されています(13頁以下)。

   ------------------

3 著作者人格権侵害の有無

ホームページや告知用ポスターに掲載される際に画像サイズが縮小されたりした等として、原告カメラマンは著作者人格権侵害(公表権、氏名表示権、同一性保持権の各点)を主張しました(14頁以下)。
結論としては、著作者人格権侵害性も否定されています。

以上から、原審と異なり職務著作物性は否定されたものの、棄却の結論は異なりませんでした。

   --------------------

■コメント

裁判所サイトに原審判決と同日に控訴審判決も公表されました。

原審の職務著作物性肯定の判断に対して、知財高裁はこれを否定。フリーカメラマンに写真の著作権の帰属を認めたものの、契約関係として無償での写真の利用許諾などがあったことを認めて、結論としては原審と同様、棄却の判断となっています。

RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件最高裁判決の射程については議論がありますが(後掲入門90頁参照)、今回、知財高裁は、最高裁判決を前提にしつつ雇用関係に拘ることなく指揮監督下での労務の提供という実態の有無から「法人等の業務に従事する者」要件を判断しています。

原審での職務著作の判断内容については、価値判断的に職業カメラマン/写真家の地位を貶めるものでした。棄却の当否はともかく、知財高裁の職務著作に関する判断は妥当な処理と考えます。

   --------------------

■過去のブログ記事

2010年1月22日記事 原審

  --------------------

■参考判例

・RGBアドベンチャー外国人デザイナー事件最高裁判決を前提にしつつ、雇用関係が明確に否定される場合にも(1)指揮監督下での労務提供という実態性と(2)金銭の労務提供対価性から「業務従事者」性を判断する知財高裁判例として、
燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ事件
知財高裁平成18.9.13平成17(ネ)10076著作物利用差止等請求控訴事件

・フリーのシナリオライターが共同執筆したゲームシナリオの職務著作物性を肯定したものとして、
PCゲーム「グリーン・グリーン」事件
東京高裁平成15.7.10平成15(ネ)546著作権侵害差止等請求控訴事件

・フリーライター執筆のインタビュー記事の職務著作物性を肯定したものとして、
SMAP大研究事件
東京高裁平成11.5.26平成10(ネ)5223

   --------------------

■参考文献

島並 良、上野達弘、横山久芳『著作権法入門』(2009)87頁以下
上野達弘「職務著作における「法人等の業務に従事する者」-RGBアドベンチャー事件」『小野昌延先生喜寿記念 知的財産法最高裁判例評釈大系3』(2009)396頁以下

   ------------------

■追記10/2/14

企業法務戦士の雑感(2010-01-24記事 2/14アップ)
[企業法務][知財]「職務著作」をめぐる判断の揺れ

先日、日本写真家協会の常務理事のかたとお話をさせて戴きましたが、今回の判決について「地裁、高裁ともに現場のことを知らない」との感想をお持ちでおいででした。

原告の写真家さんとしても、事の重要性を慮って一審の管轄の選択を東京地裁にして欲しかったところです。