最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
GLAY著作権事件
★東京地裁平成21.10.22平成19(ワ)28131著作権確認等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 舟橋伸行
*裁判所サイト公表 09/11/5
*キーワード:著作権譲渡契約、弁済の提供、解除、印税、短期消滅時効
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■事案
音楽著作権印税支払い遅延を理由とする著作権譲渡契約の解除の成否及び音楽著作権の帰属などが争点となった事案
原告:GLAYメンバーの音楽事務所、音楽出版社ら
被告:元専属音楽出版社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 民法541条、704条、493条但書、174条2号
1 著作権譲渡契約の解除の成否
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■判決内容
<経緯>
GLAYメンバー:B、C、D、E 4名
H8.10.4 原告エクストリーム設立、Bの版権管理業務開始
H9.11.25 原告ストロー設立、Eの版権管理業務開始
H9.12.11 原告パイロッツ設立、Cの版権管理業務開始
H10.2.16 原告スパイク設立、Dの版権管理業務開始
H10.6.1 GLAYメンバーと被告が専属契約締結
H16.1.9 原告エクストリームが被告に9億円を貸付
H16.9.1 被告が原告エクストリームに原盤権へ譲渡担保権設定
H17.5 被告が印税支払い遅延
H17.5.30 「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」締結
H17.5.31 専属契約終了
H17.6.1 被告が原告エクストリームに原盤権一切を譲渡
H17.7.13 原被告間で精算の打ち合わせ
H17.10.18 原告らが被告に支払いの催告
H17.10.20 原告ラバーソウル設立
原告ラバーソウルと原告らがマネジメント業務委託契約
H17.11.7 被告が5億4429万円余の受領催告
GLAYメンバーらが原告らに著作権譲渡、原告らが原告ラバーソウルに著作権譲渡
H17.11.9 GLAYメンバーらが著作権譲渡契約の解除意思表示
<契約関係>
【専属契約】
専属料50万円
出演料、商品化許諾料等20%
【著作権譲渡契約書】
著作権印税割合 原告:被告=2/3:1/3
【合意内容】
著作権印税配分 作曲5/16(実際の作曲者)、その他のメンバー1/16
作詞5/16(実際の作詞者)、その他のメンバー1/16
【原盤契約】
原告エクストリーム原盤印税:
小売価格×倉庫出荷数量80%×ジャケット代控除率15%×原盤印税率15%
【GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書 第1条】
甲(判決注・被告)は,乙(判決注・原告エクストリーム)に対し,平成17年6月1日(以下「基準日」という)付をもって,甲が所有する同年3月末日までに制作し完成された「GLAY」(以下「本アーティスト」という)の日本を含む全世界における,原盤および原版(以下,併せて「原盤等」という。),本件原盤等に係るすべての権利(複製権,譲渡権,頒布権,上演権,上映権,送信可能化権,著作隣接権,二次使用料請求権,貸与報酬請求権,私的録音録画補償金請求権を含む著作権法上の一切権利,所有権を含む)ならびに,本アーティストに関する商標権,知的財産権,及び商品化権を含む一切の権利(以上について,以下「本件権利」という。)を完全に譲渡し,甲は,本件原盤等の所有権及び本件権利を喪失するものとする。
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<争点>
1 著作権譲渡契約の解除の成否
音楽著作権がGLAYメンバー(作詞、作曲)→GLAYメンバーの原告音楽事務所ら→原告ラバーソウル(現在の音楽出版社)という流れで移転し、現状で原告ラバーソウルに帰属していることの確認の前提として、GLAYメンバーらと被告音楽出版社との間の従前の著作権譲渡契約が有効に解除され、音楽著作権がGLAYメンバーに帰属していたかどうかが争点となっています。
楽曲の著作権譲渡契約の解除については、約定の支払期限が経過し、債務(印税)の提供がなく、催告の上解除の意思表示がされていることから有効に解除は成立。そして、著作権譲渡契約の規定(19条、21条)に基づき音楽著作権がGLAYメンバーに帰属したと裁判所は判断しています(32頁以下)。
結論として、原告ラバーソウルの著作権帰属の確認請求を認容、金銭債権についても合計6億7097万円余を認めています。
なお、履行遅滞や解除に対する被告の抗弁として、
(1)弁済の提供(民法492条、493条但書)があったこと
(2)解除権の濫用(民法1条3項)であること
(3)消滅時効(労働基準法115条)「賃金」2年間で短期時効消滅
(4)消滅時効(民法174条2号)「演芸を業とする者の報酬」等1年間で短期時効消滅
これらの点を挙げましたが、いずれも裁判所に容れられていません(34頁以下)。
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■コメント
音楽アーティストさんが専属事務所や専属出版社から離れる場合、出版権(音楽著作権)と原盤権(著作隣接権)を全てアーティストさん側が回収する場合と、それらの権利(一部又は全部)を残したまま移籍する場合など様々なケースがあるかと思います。
契約途中で出版権もアーテストさん側に取り戻すとなると、それこそ出版社側とハードな交渉(移籍料なども含め)になると想像するに難くないところです。
ところで、専属契約上の債務不履行を根拠に解除をした場合は、音楽著作権譲渡契約への影響(牽連性)やどこまで権利を回復できるか(解除の効果)、アーティストさんと専属先との最初の契約書内容がそれこそ肝心となります。
もっとも、GLAY事件では、印税支払い遅延があって、音楽著作権譲渡契約書(19条-契約違反-、21条-契約終了後の著作権の帰属-の規定振りから、たぶん、MPAフォーム利用)に基づく債務不履行解除をしたというシンプルな事案ですので、契約論としては(抗弁事由はともかくとして)あまり複雑ではありません。
インディーレーベルで、契約書がなかったり、専属契約と著作権譲渡契約と原盤契約がごちゃまぜになっている契約書があるときの移籍や解除、合意解約が要注意となります。
なお、GLAY事件の交渉の過程で作成された「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」に関して、その記載内容が争点となってしまっていますが(被告の抗弁-解除権の濫用-35頁以下)、被告からの原案提案とはいえ(24頁)、合意文書として著作権(楽曲)と著作隣接権(原盤)を区別して明記できなかったのか、ちょっと判然としないところです。
本判決の実務上参考になる点としては、金銭債権の消滅時効に関連して専属契約上の報酬が「賃金」にあたらない事例であったこと(GLAYの労働者性否定)、専属報酬、著作権印税、原盤印税などの金銭債権が短期消滅時効(1年間)にかからない性質の債権(商事債権で5年)であるとの判断が挙げられるかと思います。
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■過去のブログ記事
2006年8月10日記事
GLAY楽曲著作権紛争
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■参考サイト
GLAY HAPPY SWING SPACE SITE(音が出るので注意)
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GLAY著作権事件
★東京地裁平成21.10.22平成19(ワ)28131著作権確認等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 舟橋伸行
*裁判所サイト公表 09/11/5
*キーワード:著作権譲渡契約、弁済の提供、解除、印税、短期消滅時効
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■事案
音楽著作権印税支払い遅延を理由とする著作権譲渡契約の解除の成否及び音楽著作権の帰属などが争点となった事案
原告:GLAYメンバーの音楽事務所、音楽出版社ら
被告:元専属音楽出版社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 民法541条、704条、493条但書、174条2号
1 著作権譲渡契約の解除の成否
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■判決内容
<経緯>
GLAYメンバー:B、C、D、E 4名
H8.10.4 原告エクストリーム設立、Bの版権管理業務開始
H9.11.25 原告ストロー設立、Eの版権管理業務開始
H9.12.11 原告パイロッツ設立、Cの版権管理業務開始
H10.2.16 原告スパイク設立、Dの版権管理業務開始
H10.6.1 GLAYメンバーと被告が専属契約締結
H16.1.9 原告エクストリームが被告に9億円を貸付
H16.9.1 被告が原告エクストリームに原盤権へ譲渡担保権設定
H17.5 被告が印税支払い遅延
H17.5.30 「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」締結
H17.5.31 専属契約終了
H17.6.1 被告が原告エクストリームに原盤権一切を譲渡
H17.7.13 原被告間で精算の打ち合わせ
H17.10.18 原告らが被告に支払いの催告
H17.10.20 原告ラバーソウル設立
原告ラバーソウルと原告らがマネジメント業務委託契約
H17.11.7 被告が5億4429万円余の受領催告
GLAYメンバーらが原告らに著作権譲渡、原告らが原告ラバーソウルに著作権譲渡
H17.11.9 GLAYメンバーらが著作権譲渡契約の解除意思表示
<契約関係>
【専属契約】
専属料50万円
出演料、商品化許諾料等20%
【著作権譲渡契約書】
著作権印税割合 原告:被告=2/3:1/3
【合意内容】
著作権印税配分 作曲5/16(実際の作曲者)、その他のメンバー1/16
作詞5/16(実際の作詞者)、その他のメンバー1/16
【原盤契約】
原告エクストリーム原盤印税:
小売価格×倉庫出荷数量80%×ジャケット代控除率15%×原盤印税率15%
【GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書 第1条】
甲(判決注・被告)は,乙(判決注・原告エクストリーム)に対し,平成17年6月1日(以下「基準日」という)付をもって,甲が所有する同年3月末日までに制作し完成された「GLAY」(以下「本アーティスト」という)の日本を含む全世界における,原盤および原版(以下,併せて「原盤等」という。),本件原盤等に係るすべての権利(複製権,譲渡権,頒布権,上演権,上映権,送信可能化権,著作隣接権,二次使用料請求権,貸与報酬請求権,私的録音録画補償金請求権を含む著作権法上の一切権利,所有権を含む)ならびに,本アーティストに関する商標権,知的財産権,及び商品化権を含む一切の権利(以上について,以下「本件権利」という。)を完全に譲渡し,甲は,本件原盤等の所有権及び本件権利を喪失するものとする。
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<争点>
1 著作権譲渡契約の解除の成否
音楽著作権がGLAYメンバー(作詞、作曲)→GLAYメンバーの原告音楽事務所ら→原告ラバーソウル(現在の音楽出版社)という流れで移転し、現状で原告ラバーソウルに帰属していることの確認の前提として、GLAYメンバーらと被告音楽出版社との間の従前の著作権譲渡契約が有効に解除され、音楽著作権がGLAYメンバーに帰属していたかどうかが争点となっています。
楽曲の著作権譲渡契約の解除については、約定の支払期限が経過し、債務(印税)の提供がなく、催告の上解除の意思表示がされていることから有効に解除は成立。そして、著作権譲渡契約の規定(19条、21条)に基づき音楽著作権がGLAYメンバーに帰属したと裁判所は判断しています(32頁以下)。
結論として、原告ラバーソウルの著作権帰属の確認請求を認容、金銭債権についても合計6億7097万円余を認めています。
なお、履行遅滞や解除に対する被告の抗弁として、
(1)弁済の提供(民法492条、493条但書)があったこと
(2)解除権の濫用(民法1条3項)であること
(3)消滅時効(労働基準法115条)「賃金」2年間で短期時効消滅
(4)消滅時効(民法174条2号)「演芸を業とする者の報酬」等1年間で短期時効消滅
これらの点を挙げましたが、いずれも裁判所に容れられていません(34頁以下)。
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■コメント
音楽アーティストさんが専属事務所や専属出版社から離れる場合、出版権(音楽著作権)と原盤権(著作隣接権)を全てアーティストさん側が回収する場合と、それらの権利(一部又は全部)を残したまま移籍する場合など様々なケースがあるかと思います。
契約途中で出版権もアーテストさん側に取り戻すとなると、それこそ出版社側とハードな交渉(移籍料なども含め)になると想像するに難くないところです。
ところで、専属契約上の債務不履行を根拠に解除をした場合は、音楽著作権譲渡契約への影響(牽連性)やどこまで権利を回復できるか(解除の効果)、アーティストさんと専属先との最初の契約書内容がそれこそ肝心となります。
もっとも、GLAY事件では、印税支払い遅延があって、音楽著作権譲渡契約書(19条-契約違反-、21条-契約終了後の著作権の帰属-の規定振りから、たぶん、MPAフォーム利用)に基づく債務不履行解除をしたというシンプルな事案ですので、契約論としては(抗弁事由はともかくとして)あまり複雑ではありません。
インディーレーベルで、契約書がなかったり、専属契約と著作権譲渡契約と原盤契約がごちゃまぜになっている契約書があるときの移籍や解除、合意解約が要注意となります。
なお、GLAY事件の交渉の過程で作成された「GLAYに関する原盤等権利の譲渡契約書」に関して、その記載内容が争点となってしまっていますが(被告の抗弁-解除権の濫用-35頁以下)、被告からの原案提案とはいえ(24頁)、合意文書として著作権(楽曲)と著作隣接権(原盤)を区別して明記できなかったのか、ちょっと判然としないところです。
本判決の実務上参考になる点としては、金銭債権の消滅時効に関連して専属契約上の報酬が「賃金」にあたらない事例であったこと(GLAYの労働者性否定)、専属報酬、著作権印税、原盤印税などの金銭債権が短期消滅時効(1年間)にかからない性質の債権(商事債権で5年)であるとの判断が挙げられるかと思います。
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■過去のブログ記事
2006年8月10日記事
GLAY楽曲著作権紛争
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■参考サイト
GLAY HAPPY SWING SPACE SITE(音が出るので注意)
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