最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
スイブルスイーパー事件
★大阪地裁平成21.9.17平成20(ワ)1606商標権侵害差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章
*裁判所サイト公表 09/9/24
--------------------
■事案
電気掃除機のデッドコピー商品の並行輸入、販売などについて、商標権侵害性、不正競争行為性が争われた事案
原告:電気掃除機独占的販売権限保有会社
電気掃除機国内独占的販売権限保有会社
被告:雑貨品等販売会社
本件商標:SWIVEL SWEEPER(登録番号5078868号)
・電気掃除機製造会社(訴外米国法人:ライセンサー)
↓
・独占的販売権限保有会社(原告:ライセンシー)
↓
・日本国内独占的販売権限保有会社(原告:サブライセンシー)
--------------------
■結論
請求一部認容
--------------------
■争点
条文 不正競争防止法2条1項1号、5条2項、商標法25条
1 商標権侵害性
2 不正競争行為性
3 損害論
--------------------
■判決内容
<経緯>
H17.8 原告商品販売開始
H18.1 被告商品販売開始
H18.1.20 原告商標出願
H18.10.28 原告が被告に通告
H19.9.21 原告商標登録
H20.2.20 訴状送達
------------------
<争点>
1 商標権侵害性
原告ライセンシーとの関係で電気掃除機本体や包装箱、充電池などに付された被告標章の商標権侵害性が争点となっています。
原告ライセンシー保有の本件商標は標準文字で「SWIVEL SWEEPER」で、取引では「スイブルスイーパー」と称呼されていました。
被告標章は「スイブルスイーパー」(赤色、白色)、「SWIVEL SWEEPER」(赤色、白色)といった4種類で、被告商品本体に付したり包装箱に付したりして使用していました。
原告ライセンシーとの関係で争点となった3点の被告標章について、裁判所は原告商標との類否に関していずれも類似すると判断しています。
結論として、商標権侵害が肯定されて被告商品等の販売差止、廃棄が認められています。
------------------
2 不正競争行為性
原告サブライセンシーとの関係では、電気掃除機本体や包装箱、充電池などに被告標章4点を付して広告宣伝や販売されていた点について不正競争行為性(不正競争防止法2条1項1号 営業主体混同行為)が争点となっています。
1.周知性
原告商品表示3点のうち、原告商品表示3「スイブルスイーパー」についてのみ、周知性が肯定されています(19頁以下)。
原告商品の広告宣伝は、主としてテレビショッピング番組で行われており、平成17年12月が放送時間のピークでした。また、同時期が販売台数のピークでもありました。これに対して被告商品は平成18年1月からインターネットで販売が開始され、同年3月に販売台数のピークを迎えました。
被告の広告において「TV通販で大人気!!!」など原告商品と同じものであることが謳われ、その知名度が利用されていることや、被告商品の売り上げの急伸さなどから、裁判所は被告商品の販売が開始された平成18年1月時点で「テレビショッピングで話題のスイブルスイーパー」といえば原告商品のことであると理解されるほどに需要者に知られていたと判断しています。
もっとも、周知性を獲得した商品表示は、欧文字やデザイン自体ではなく、「スイブルスイーパー」との片仮名表記のみとされています。
------------------
2.原告商品表示と被告各標章の類否
原告商品表示3「スイブルスイーパー」(灰色)と被告各標章(4点)の類似性が肯定されています(22頁以下)。
------------------
3.誤認混同のおそれ
原被告商品はいずれも家庭用電気掃除機で需要者は一般消費者であり、テレビショッピング及びインターネットでの通信販売は共に一般消費者に広く普及しているから需要者層に違いはない。
称呼、観念の類似などから結論として需要者には被告各標章の使用によって商品の出所につき誤認混同のおそれが生じると裁判所は判断しています(24頁)。
------------------
4.故意又は過失
被告商品の販売開始時期や被告各標章の使用状況などから誤認混同惹起について被告の故意が認定されています(24頁以下)。
------------------
5.被告各標章は普通名称の使用にあたるか
被告は、被告各標章をヘッド部分が自由に回転する掃除機の普通名称(SWIVEL SWEEPER=回転する 掃除機)として使用したにすぎないとして、他人の商品等表示性を欠くと反論しました。
しかし、裁判所は、日本の英語教育水準からして欧文字を品質表示として認識されるとは認めがたいこと、被告も商品名として使用していることから、被告の反論を容れていません(25頁、18頁)。
結論として、営業主体混同行為性が肯定されて被告商品等の販売差止、廃棄が認められています。
------------------
3 損害論
1.原告サブライセンシーの損害
原告サブライセンシーの逸失利益について、裁判所は、
『不正競争防止法5条2項にいう「利益の額」とは,純利益ではなく限界利益であると解するのが相当であり,その算定にあたっては,不正競争行為に直接必要な変動経費は控除の対象となるが,当該行為をしなくても発生する費用は控除の対象とすべきではない。』
としたうえで、仕入額と輸入諸経費を控除。変動費である広告費と人件費については検討の上控除を否定しています。
結論として、原告サブライセンシーの逸失利益として5470万円余り、弁護士費用150万円の損害額が認定されています(25頁以下)。
------------------
2.原告ライセンシーの損害
原告ライセンシーは、原告商品の製造元から独占的販売権を付与され、サブライセンシーに現実に原告商品を供給(販売)していたことから、商標権侵害により原告ライセンシーにも販売数減少による逸失利益があると判断。
本件商標の登録日以降の損害として45万円余り、弁護士費用25万円が損害額として認定されています(28頁以下)。
なお、原告らの損害賠償請求権のうち、45万円余りの部分は重複するので連帯債権となります。
--------------------
■コメント
テレビショッピングとインターネット通販で100万台も売り上げた電気掃除機「スイブルスイーパー」。

原告サイト
「ショップジャパン」より
本件ではそのデッドコピーの並行輸入商品が問題となっていますので、不正競争防止法の関係では2条1項3号(商品形態模倣)の適否がまず考えられますが、3号の主張はなく、すでに3年の保護期間を経過している(19条1項5項イ)などの事情があったのかもしれません。
なお、不正競争防止法2条1項3号に関連する論点としては、独占的販売権を許諾された者が本号の請求権者となり得るかという点があります(田村善之「不正競争法概説第二版」(2003)319頁以下、小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)283頁以下、小野昌延編「新注解不正競争防止法新版(上)」(2007)488頁以下参照)。
いずれにしても、本件で被告は貿易商から並行輸入品の取扱いを勧誘され販売するようになった(12頁)のですが、真正品の並行輸入品であるかどうかを調査しておらず、輸入品の販売業者としては帰責性が認められても仕方がないところです(25頁)。
--------------------
■参考文献
寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編集「知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務」(2008)128頁以下
スイブルスイーパー事件
★大阪地裁平成21.9.17平成20(ワ)1606商標権侵害差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章
*裁判所サイト公表 09/9/24
--------------------
■事案
電気掃除機のデッドコピー商品の並行輸入、販売などについて、商標権侵害性、不正競争行為性が争われた事案
原告:電気掃除機独占的販売権限保有会社
電気掃除機国内独占的販売権限保有会社
被告:雑貨品等販売会社
本件商標:SWIVEL SWEEPER(登録番号5078868号)
・電気掃除機製造会社(訴外米国法人:ライセンサー)
↓
・独占的販売権限保有会社(原告:ライセンシー)
↓
・日本国内独占的販売権限保有会社(原告:サブライセンシー)
--------------------
■結論
請求一部認容
--------------------
■争点
条文 不正競争防止法2条1項1号、5条2項、商標法25条
1 商標権侵害性
2 不正競争行為性
3 損害論
--------------------
■判決内容
<経緯>
H17.8 原告商品販売開始
H18.1 被告商品販売開始
H18.1.20 原告商標出願
H18.10.28 原告が被告に通告
H19.9.21 原告商標登録
H20.2.20 訴状送達
------------------
<争点>
1 商標権侵害性
原告ライセンシーとの関係で電気掃除機本体や包装箱、充電池などに付された被告標章の商標権侵害性が争点となっています。
原告ライセンシー保有の本件商標は標準文字で「SWIVEL SWEEPER」で、取引では「スイブルスイーパー」と称呼されていました。
被告標章は「スイブルスイーパー」(赤色、白色)、「SWIVEL SWEEPER」(赤色、白色)といった4種類で、被告商品本体に付したり包装箱に付したりして使用していました。
原告ライセンシーとの関係で争点となった3点の被告標章について、裁判所は原告商標との類否に関していずれも類似すると判断しています。
結論として、商標権侵害が肯定されて被告商品等の販売差止、廃棄が認められています。
------------------
2 不正競争行為性
原告サブライセンシーとの関係では、電気掃除機本体や包装箱、充電池などに被告標章4点を付して広告宣伝や販売されていた点について不正競争行為性(不正競争防止法2条1項1号 営業主体混同行為)が争点となっています。
1.周知性
原告商品表示3点のうち、原告商品表示3「スイブルスイーパー」についてのみ、周知性が肯定されています(19頁以下)。
原告商品の広告宣伝は、主としてテレビショッピング番組で行われており、平成17年12月が放送時間のピークでした。また、同時期が販売台数のピークでもありました。これに対して被告商品は平成18年1月からインターネットで販売が開始され、同年3月に販売台数のピークを迎えました。
被告の広告において「TV通販で大人気!!!」など原告商品と同じものであることが謳われ、その知名度が利用されていることや、被告商品の売り上げの急伸さなどから、裁判所は被告商品の販売が開始された平成18年1月時点で「テレビショッピングで話題のスイブルスイーパー」といえば原告商品のことであると理解されるほどに需要者に知られていたと判断しています。
もっとも、周知性を獲得した商品表示は、欧文字やデザイン自体ではなく、「スイブルスイーパー」との片仮名表記のみとされています。
------------------
2.原告商品表示と被告各標章の類否
原告商品表示3「スイブルスイーパー」(灰色)と被告各標章(4点)の類似性が肯定されています(22頁以下)。
------------------
3.誤認混同のおそれ
原被告商品はいずれも家庭用電気掃除機で需要者は一般消費者であり、テレビショッピング及びインターネットでの通信販売は共に一般消費者に広く普及しているから需要者層に違いはない。
称呼、観念の類似などから結論として需要者には被告各標章の使用によって商品の出所につき誤認混同のおそれが生じると裁判所は判断しています(24頁)。
------------------
4.故意又は過失
被告商品の販売開始時期や被告各標章の使用状況などから誤認混同惹起について被告の故意が認定されています(24頁以下)。
------------------
5.被告各標章は普通名称の使用にあたるか
被告は、被告各標章をヘッド部分が自由に回転する掃除機の普通名称(SWIVEL SWEEPER=回転する 掃除機)として使用したにすぎないとして、他人の商品等表示性を欠くと反論しました。
しかし、裁判所は、日本の英語教育水準からして欧文字を品質表示として認識されるとは認めがたいこと、被告も商品名として使用していることから、被告の反論を容れていません(25頁、18頁)。
結論として、営業主体混同行為性が肯定されて被告商品等の販売差止、廃棄が認められています。
------------------
3 損害論
1.原告サブライセンシーの損害
原告サブライセンシーの逸失利益について、裁判所は、
『不正競争防止法5条2項にいう「利益の額」とは,純利益ではなく限界利益であると解するのが相当であり,その算定にあたっては,不正競争行為に直接必要な変動経費は控除の対象となるが,当該行為をしなくても発生する費用は控除の対象とすべきではない。』
としたうえで、仕入額と輸入諸経費を控除。変動費である広告費と人件費については検討の上控除を否定しています。
結論として、原告サブライセンシーの逸失利益として5470万円余り、弁護士費用150万円の損害額が認定されています(25頁以下)。
------------------
2.原告ライセンシーの損害
原告ライセンシーは、原告商品の製造元から独占的販売権を付与され、サブライセンシーに現実に原告商品を供給(販売)していたことから、商標権侵害により原告ライセンシーにも販売数減少による逸失利益があると判断。
本件商標の登録日以降の損害として45万円余り、弁護士費用25万円が損害額として認定されています(28頁以下)。
なお、原告らの損害賠償請求権のうち、45万円余りの部分は重複するので連帯債権となります。
--------------------
■コメント
テレビショッピングとインターネット通販で100万台も売り上げた電気掃除機「スイブルスイーパー」。

原告サイト
「ショップジャパン」より
本件ではそのデッドコピーの並行輸入商品が問題となっていますので、不正競争防止法の関係では2条1項3号(商品形態模倣)の適否がまず考えられますが、3号の主張はなく、すでに3年の保護期間を経過している(19条1項5項イ)などの事情があったのかもしれません。
なお、不正競争防止法2条1項3号に関連する論点としては、独占的販売権を許諾された者が本号の請求権者となり得るかという点があります(田村善之「不正競争法概説第二版」(2003)319頁以下、小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)283頁以下、小野昌延編「新注解不正競争防止法新版(上)」(2007)488頁以下参照)。
いずれにしても、本件で被告は貿易商から並行輸入品の取扱いを勧誘され販売するようになった(12頁)のですが、真正品の並行輸入品であるかどうかを調査しておらず、輸入品の販売業者としては帰責性が認められても仕方がないところです(25頁)。
--------------------
■参考文献
寒河江孝允監修、永野周志・矢野敏樹編集「知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務」(2008)128頁以下