最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

東証投資事業有限責任組合名称差止事件

東京地裁平成21.8.31平成21(ワ)3556名称使用差止等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官      坂本三郎
裁判官      岩崎慎

*裁判所サイト公表 09/09/14

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■事案

投資事業有限責任組合が「東証」の名称を使用したことから不正競争行為性(周知表示混同惹起行為性)が争点となった事案

原告:株式会社東京証券取引所
被告:東証投資事業有限責任組合

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■結論

請求認容

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■争点

条文 不正競争防止法2条1項1号、2号、3条

1 不正競争防止法2条1項1号該当性

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■判決内容

<経緯>

H17.9.1   被告組合契約効力発生
H17.9.16   被告組合登記
H20.9     被告組合が井上工業の第三者割当増資の引受け
H20.12.19  原告が通知書送付

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<争点>

1 不正競争防止法2条1項1号該当性

被告組合の名称「東証投資事業有限責任組合」が、原告名称である「東京証券取引所」の略称「東証」と重なることから営業主体混同行為性(不正競争防止法2条1項1号)が争点となりました。

 1.「東証」の周知性

原告である株式会社東京証券取引所の略称である「東証」は、遅くとも被告名称が使用された時点で原告の営業表示として、需要者の間において広く認識されていたと認められています(6頁以下)。

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 2.名称の類似性

被告名称のうち「投資事業有限責任組合」の部分は、投資事業有限責任組合契約に関する法律5条1項により名称中に使用することが義務付けられる文字であり、それのみで識別力を有しないから、自他識別力を有する部分は「東証」であり、原告の営業表示と同一であることから類似することは明らかであるとされています(7頁)。

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 3.混同惹起行為性

「混同を生じさせる行為」について、裁判所は、

不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも包含し,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解される(前記最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決,前記最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決等参照)』(7頁)

最高裁判例を示したうえで、営業表示の類似性、業務内容の密接関連性から、原告被告間に直接の競争関係があるとはいえないとしても、両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させるものであることは明らかであるとして混同惹起行為性を肯定しています。

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 4.営業上の利益を侵害されるおそれ

原告が被告に対して平成20年12月19日付通知書により被告名称の抹消登記等を求めた後も回答が無く、被告名称の使用継続があることから、被告名称使用により少なくとも営業上の利益を侵害されるおそれ(差止請求権 不正競争防止法3条)があると認められると判断されています(8頁)。


以上から、原告請求である(1)名称使用禁止、(2)抹消登記手続、(3)名刺・パンフレット等での名称表示抹消が認められました。

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■コメント

被告は、これといった反論もしていないので、あっさりした判決内容となっています。
なお、9月15日8:33AM現在、被告組合の登記事項の変更は確認できませんでした。

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■参考判例

フットボールシンボルマーク事件
最判昭和59.5.29昭和56(オ)1166不正競争行為差止等本訴、損害賠償反訴
スナックシャネル事件
最判平成10.9.10平成7(オ)637

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■参考サイト

日経BPネット(2008年10月17日記事)
総合建設の井上工業、破産手続き開始、負債額125億円 企業・経営:ニュース・解説 nikkei BPnet 〈日経BPネット〉