最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
「新しい歴史教科書」出版差止事件
★東京地裁平成21.8.25平成20(ワ)16289書籍出版等差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 舟橋伸行
*裁判所サイト公表 09/09/02
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■事案
「新しい歴史教科書をつくる会」の会員らが執筆した中学校歴史教科書などについて出版許諾契約の終了を根拠に出版販売差止を求めた事案
原告:「新しい歴史教科書をつくる会」会員ら
被告:出版社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、12号
1 原告らの有する著作権の対象及び内容
2 本件許諾契約における発行期間についての合意内容
3 本件許諾契約の合意解約の有無
4 本件許諾契約が解除により終了するか否か
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■判決内容
<経緯>
H9 原告らにより「つくる会」結成
H11 教科書の執筆、編集を開始
H13.4 教科書検定決定(検定合格)
H13.6 教科書の市販本発行
H16.3 改訂版原稿完成
H17.3 改訂版検定決定
H17.8 改訂版の市販本発行
「つくる会」で内紛、分裂
H18.11.21 原告が被告に継続発行の申入れ
H19.2.26 被告が原告に回答書交付
H19.6.13 原告が被告に著作権使用許諾打ち切り通知
H20.3.28 原告が被告に著作権使用許諾打ち切り通知
H20.4.8 被告が原告に継続発行・供給を通告
H21.3.17 原告による仮処分申立却下
H21.4 自由社版教科書検定決定
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<争点>
1 原告らの有する著作権の対象及び内容
保守的な歴史教科書の普及を目指す「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)の原告会員ら4名が、本文やコラムなど執筆した記述が掲載された中学校用歴史教科書等の出版について、記述した部分に関する出版許諾契約が平成22年3月をもって終了したとして被告出版社に対して平成22年3月1日以降の教科書等の出版、販売及び頒布の差止を求めました。
まず、出版許諾契約の対象となる本件記述の著作物性について検討が加えられています。
1.本件記述の著作物性
本件記述の著作物性について、裁判所は著作権法2条1項1号(著作物)の意義を述べた上で、
『本件教科書(本件書籍)が,中学校用歴史教科書としての使用を予定して作成されたものであることから,その内容は,史実や学説等の学習に役立つものであり,かつ,学習指導要領や検定基準を充足するものであることが求められており,内容や表現方法の選択の幅が広いとはいえないものの,表現の視点,表現すべき事項の選択,表現の順序(論理構成),具体的表現内容などの点において,創作性が認められるというべきである。』
(51頁以下)
として、本件記述の著作物性を肯定しています。
なお、82個の単元やコラム、課題学習については、教科書の他の部分と分離して利用することが可能であり、各単元やコラムが一体としての共同著作物(著作権法2条1項12号)ではなく、結合著作物であると判断しています(52頁)。
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2.本件記述の著作者等
次に、本件記述の著作者等について、裁判所は、原告ら4名は少なくとも著作者の一人であって、著作権を有すると認めています(52頁以下)。
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2 本件許諾契約における発行期間についての合意内容
教科書の発行期間(使用期間)についての当事者間の合意内容(口頭で締結された出版許諾契約の内容)について、裁判所は、
1 発行期間について特に話し合われたことがない
2 当事者意思
3 異なる取扱いの合意がない
4 教科書発行者の一般的な取扱い
5 原被告間の一連の経緯
などの点から、
『本件許諾契約締結当時,当事者間においては,本件教科書(本件書籍)の発行期間につき,本件教科書の改訂が行われ,改訂された新しい教科書が発行されるまで,と定められていたと認めるのが相当である』
と判断しています(54頁以下)。
結論として、平成20年に改訂された学習指導要領が平成24年度に施行されることとの関係から、本件書籍の発行期間は平成23年度(平成24年3月末日)までであるとされています(63頁)。
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3 本件許諾契約の合意解約の有無
原被告間では何通かの通知書でのやりとりがありましたが、その通知書によって出版許諾契約が合意解約されたものかどうかが争われました。
しかし、結論としては、合意解約は認められていません(64頁以下)。
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4 本件許諾契約が解除により終了するか否か
契約解除の成否について、原告に信義則上解除権を認めるべき事情の変更があったとは認められないとして、解除権行使による出版許諾契約の終了を裁判所は認めていません(66頁)。
結論として、原告らが求めた平成22年3月1日以降の本件記述を含む教科書等の出版、販売及び頒布の差止は認められませんでした。
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■コメント
教科書検定制度や教科書の「寿命」(使用期間)が良く分かる事案です。
教科書作りにあたって当事者間では口頭で出版契約が締結されていましたが、使用期間(発行期間)については業界慣行などから次期改訂教科書発行までと判断されました。
「つくる会」は、会長人事などを巡って混乱し、有力メンバーの一部が分裂して「日本教育再生機構」を設立したことから、被告出版社(扶桑社)は従来通りの教科書編集出版作業をすることができなくなってしまい、改訂版の取扱いについては別会社(育鵬社)を立ち上げるなど対応に追われることとなりました。
既存の教科書は扶桑社で、今後の新しい教科書については、「つくる会」は自由社で、「日本教育再生機構」は育鵬社で出版するカタチとなったわけです。
いずれにしても、執筆者がヘソを曲げると教科書関連書籍である教師用指導書や副教材(ドリル)などの制作にも影響が生じるでしょうから、出版社も大変です。
なお、「つくる会」は本件訴訟について控訴しないことを表明しています(後掲「新しい歴史教科書をつくる会」ウェブサイト参照)。
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■参考サイト
新しい歴史教科書をつくる会
「つくる会が採択結果について「声明」を発表 「つくる会歴史教科書」が2万冊を突破! 著作権訴訟は大局的見地から「控訴せず」」
つくる会Webニュース第264号 平成21年9月3日記事
教科書改善の会
教科書改善の会 中学校教科書採択結果を受けてコメントを公表(2009年9月4日記事)
日本教育再生機構
日本教育再生機構
育鵬社
育鵬社>育鵬社通信>トピックス>メッセージ>藤岡信勝氏らによる当社歴史教科書の出版差し止め訴訟の判決に関する扶桑社のコメント(平成21年8月26日)
「新しい歴史教科書」出版差止事件
★東京地裁平成21.8.25平成20(ワ)16289書籍出版等差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 柵木澄子
裁判官 舟橋伸行
*裁判所サイト公表 09/09/02
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■事案
「新しい歴史教科書をつくる会」の会員らが執筆した中学校歴史教科書などについて出版許諾契約の終了を根拠に出版販売差止を求めた事案
原告:「新しい歴史教科書をつくる会」会員ら
被告:出版社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、12号
1 原告らの有する著作権の対象及び内容
2 本件許諾契約における発行期間についての合意内容
3 本件許諾契約の合意解約の有無
4 本件許諾契約が解除により終了するか否か
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■判決内容
<経緯>
H9 原告らにより「つくる会」結成
H11 教科書の執筆、編集を開始
H13.4 教科書検定決定(検定合格)
H13.6 教科書の市販本発行
H16.3 改訂版原稿完成
H17.3 改訂版検定決定
H17.8 改訂版の市販本発行
「つくる会」で内紛、分裂
H18.11.21 原告が被告に継続発行の申入れ
H19.2.26 被告が原告に回答書交付
H19.6.13 原告が被告に著作権使用許諾打ち切り通知
H20.3.28 原告が被告に著作権使用許諾打ち切り通知
H20.4.8 被告が原告に継続発行・供給を通告
H21.3.17 原告による仮処分申立却下
H21.4 自由社版教科書検定決定
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<争点>
1 原告らの有する著作権の対象及び内容
保守的な歴史教科書の普及を目指す「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)の原告会員ら4名が、本文やコラムなど執筆した記述が掲載された中学校用歴史教科書等の出版について、記述した部分に関する出版許諾契約が平成22年3月をもって終了したとして被告出版社に対して平成22年3月1日以降の教科書等の出版、販売及び頒布の差止を求めました。
まず、出版許諾契約の対象となる本件記述の著作物性について検討が加えられています。
1.本件記述の著作物性
本件記述の著作物性について、裁判所は著作権法2条1項1号(著作物)の意義を述べた上で、
『本件教科書(本件書籍)が,中学校用歴史教科書としての使用を予定して作成されたものであることから,その内容は,史実や学説等の学習に役立つものであり,かつ,学習指導要領や検定基準を充足するものであることが求められており,内容や表現方法の選択の幅が広いとはいえないものの,表現の視点,表現すべき事項の選択,表現の順序(論理構成),具体的表現内容などの点において,創作性が認められるというべきである。』
(51頁以下)
として、本件記述の著作物性を肯定しています。
なお、82個の単元やコラム、課題学習については、教科書の他の部分と分離して利用することが可能であり、各単元やコラムが一体としての共同著作物(著作権法2条1項12号)ではなく、結合著作物であると判断しています(52頁)。
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2.本件記述の著作者等
次に、本件記述の著作者等について、裁判所は、原告ら4名は少なくとも著作者の一人であって、著作権を有すると認めています(52頁以下)。
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2 本件許諾契約における発行期間についての合意内容
教科書の発行期間(使用期間)についての当事者間の合意内容(口頭で締結された出版許諾契約の内容)について、裁判所は、
1 発行期間について特に話し合われたことがない
2 当事者意思
3 異なる取扱いの合意がない
4 教科書発行者の一般的な取扱い
5 原被告間の一連の経緯
などの点から、
『本件許諾契約締結当時,当事者間においては,本件教科書(本件書籍)の発行期間につき,本件教科書の改訂が行われ,改訂された新しい教科書が発行されるまで,と定められていたと認めるのが相当である』
と判断しています(54頁以下)。
結論として、平成20年に改訂された学習指導要領が平成24年度に施行されることとの関係から、本件書籍の発行期間は平成23年度(平成24年3月末日)までであるとされています(63頁)。
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3 本件許諾契約の合意解約の有無
原被告間では何通かの通知書でのやりとりがありましたが、その通知書によって出版許諾契約が合意解約されたものかどうかが争われました。
しかし、結論としては、合意解約は認められていません(64頁以下)。
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4 本件許諾契約が解除により終了するか否か
契約解除の成否について、原告に信義則上解除権を認めるべき事情の変更があったとは認められないとして、解除権行使による出版許諾契約の終了を裁判所は認めていません(66頁)。
結論として、原告らが求めた平成22年3月1日以降の本件記述を含む教科書等の出版、販売及び頒布の差止は認められませんでした。
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■コメント
教科書検定制度や教科書の「寿命」(使用期間)が良く分かる事案です。
教科書作りにあたって当事者間では口頭で出版契約が締結されていましたが、使用期間(発行期間)については業界慣行などから次期改訂教科書発行までと判断されました。
「つくる会」は、会長人事などを巡って混乱し、有力メンバーの一部が分裂して「日本教育再生機構」を設立したことから、被告出版社(扶桑社)は従来通りの教科書編集出版作業をすることができなくなってしまい、改訂版の取扱いについては別会社(育鵬社)を立ち上げるなど対応に追われることとなりました。
既存の教科書は扶桑社で、今後の新しい教科書については、「つくる会」は自由社で、「日本教育再生機構」は育鵬社で出版するカタチとなったわけです。
いずれにしても、執筆者がヘソを曲げると教科書関連書籍である教師用指導書や副教材(ドリル)などの制作にも影響が生じるでしょうから、出版社も大変です。
なお、「つくる会」は本件訴訟について控訴しないことを表明しています(後掲「新しい歴史教科書をつくる会」ウェブサイト参照)。
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■参考サイト
新しい歴史教科書をつくる会
「つくる会が採択結果について「声明」を発表 「つくる会歴史教科書」が2万冊を突破! 著作権訴訟は大局的見地から「控訴せず」」
つくる会Webニュース第264号 平成21年9月3日記事
教科書改善の会
教科書改善の会 中学校教科書採択結果を受けてコメントを公表(2009年9月4日記事)
日本教育再生機構
日本教育再生機構
育鵬社
育鵬社>育鵬社通信>トピックス>メッセージ>藤岡信勝氏らによる当社歴史教科書の出版差し止め訴訟の判決に関する扶桑社のコメント(平成21年8月26日)