最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

ピンク・レディーパブリシティ権侵害事件(控訴審)

知財高裁平成21.8.27平成20(ネ)10063損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官      本多知成
裁判官      浅井憲

*裁判所サイト公表 09/08/28

原審
東京地裁平成20.7.4平成19(ワ)20986損害賠償請求事件PDF

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■事案

ピンクレディーの写真をダイエット記事に使用したことが、ピンクレディー2名のパブリシティ権を侵害するかどうかが争われた事案

原告(控訴人) :ピンクレディーメンバー2名
被告(被控訴人):出版社

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 民法709条

1 パブリシティ権侵害の有無

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■判決内容

<経緯>

H18頃   振付けダイエットが流行
       講談社から「ピンク・レディーフリツケ完全マスターDVD」発売
H19.2.13 週刊誌「女性自身」にダイエット記事掲載

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<争点>

1 パブリシティ権侵害の有無

ピンク・レディーのメンバー2名に許諾を得ることなく、彼女達の写真をダイエット記事に転載した行為が、彼女達のパブリシティ権を侵害するかどうかが争われました。

(1)いわゆるパブリシティ権に係る検討

この点について裁判所は、

著名人については,その氏名・肖像を,商品の広告に使用し,商品に付し,更に肖像自体を商品化するなどした場合には,著名人が社会的に著名な存在であって,また,あこがれの対象となっていることなどによる顧客吸引力を有することから,当該商品の売上げに結び付くなど,経済的利益・価値を生み出すことになるところ,このような経済的利益・価値もまた,人格権に由来する権利として,当該著名人が排他的に支配する権利(以下,この意味での権利を「パブリシティ権」という。)であるということができる。』(11頁)

としてパブリシティ権を定義したうえで、言論、出版、報道等の表現の自由の保障などとの利益衡量からパブリシティ権は一定の制限を受ける。利益衡量論として、

その氏名・肖像を使用する目的,方法,態様,肖像写真についてはその入手方法,著名人の属性,その著名性の程度,当該著名人の自らの氏名・肖像に対する使用・管理の態様等を総合的に観察して判断されるべき

としたうえで、

一般に,著名人の肖像写真をグラビア写真やカレンダーに無断で使用する場合には,肖像自体を商品化するものであり,その使用は違法性を帯びるものといわなければならない

と一般論を説示しています(11頁以下)。

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(2)本件写真の使用とパブリシティ権侵害の有無

つぎに被告週刊誌のダイエット記事での14枚のピンク・レディーの写真の使用について、

1.本件記事は、ブームの当時の思い出などを語る記載である
2.写真のサイズがさほど大きなものではない
3.写真が本件記事の中心となっているわけではない

という点から、本件写真の使用は、ピンク・レディーの楽曲に合わせて踊ってダイエットをするという本件記事に関心を持ってもらい、あるいはその振り付けの記憶喚起のための利用であり、パブリシティ権を侵害されているということはできないと判断しています(13頁以下)。
また、ステージ写真やリハーサル写真を使用する本件記事について、実質的にピンク・レディーの肖像そのものを鑑賞するグラビア記事にはあたらないとされています(17頁)。

結論として、パブリシティ権侵害を否定しています。

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■コメント

大家教授が原審の評釈のなかで、原審のパブリシティ権の定義に対して異議を述べられておいでですが(後掲判例評釈168頁以下)、控訴審では、この点についてはっきりと「人格権に由来する権利で当該著名人が排他的に支配する権利」と示されているので、大家教授の見解(おニャン子クラブ事件高裁判決、キング・クリムゾン事件高裁判決同旨)に沿った内容となっています。

ピンクレディーの写真の著作権については、被告出版社側のカメラマンが撮影した写真で、被告出版社が保管等していたものを再利用したものではないかとうかがわれる(控訴審判決文15頁)ということで、ピンクレディーや所属事務所に写真の著作権は帰属しておらず、写真の著作権からの争点とはなりにくかったようです。

ピンクレディーの肖像権を争点とする余地やパブリシティ権の及ぶ範囲について、大家後掲判例評釈170頁以下参照。

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■参考判例

おニャン子クラブ事件
東京高裁平成3.9.16平成2(ネ)4794損害賠償請求控訴事件
キング・クリムゾン事件
東京高裁平成11.2.24平成10(ネ)673損害賠償等請求控訴事件

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■参考文献

大家重夫「芸能人の歌唱時の振付けを利用したダイエット記事において、記事中に当該芸能人が写っている写真を使用したことが、当該芸能人のパブリシティ権を侵害する不法行為には当たらないとされた事例-「ピンク・レディ」パブリシティ権侵害事件」『判例時報』2042号(2009)167頁以下
小野田丈士「タレントならびにプロダクションにとっての『ブブカスペシャルvol.7』東京高裁判決の意義について」『コピライト』576号(2009)28頁以下
大家重夫「雑誌の記事や写真に「パブリシティ権」を認めた判決-『ブブカ・スペシャル7』事件」『コピライト』548号(2006)35頁以下
大家重夫「肖像権 新版」(2007)168頁以下
内藤篤、田代貞之「パブリシティ権概説 第2版」(2005)
内藤篤「俳優の氏名・肖像-マーク・レスター事件」『著作権判例百選 第三版』(2001)192頁以下
大家重夫「芸能人の肖像-おニャン子クラブ事件」同上書194頁以下
豊田彰「書籍への利用-キング・クリムゾン事件」同上書196頁以下
龍村全「スポーツ選手の氏名・肖像-中田英寿事件」同上書198頁以下
桑野雄一郎「動物の名称-競争馬名パブリシティ権事件」同上書200頁以下

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■参考

長島事件(パブリシティ権譲渡、譲渡先の当事者適格性を肯定した事例)
東京地裁平成17.3.31平成15(ワ)10744損害賠償請求事件(判例タイムズ1189号267頁以下)


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