最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
光ファイバーセンサーCAD図面事件
★大阪地裁平成21.7.9平成19(ワ)13494著作権侵害差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 北岡裕章
裁判官 山下隼人
*裁判所サイト公表 09/7/17
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■事案
CAD化された製品の設計図への取り込みを可能にすることを目的として作成された製品CAD図面の著作物性が争点となった事案
原告:メカトロニクス生産設計、モデリングソリューション会社
被告:センサー、測定器製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、民法709条
1 本件CAD図面の著作物性
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■判決内容
<経緯>
H9.13.19 P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.0」CD-ROM納品
H9.5.8 P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.1」CD-ROM納品
H10.3 P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.1」CD-ROM増刷納品
H10.7 被告が「CAD図面ライブラリVer2.0」CD-ROMを顧客に頒布
H10.11.26 P1が原告会社を設立
H14.1 被告がCAD図面を顧客にネット配信
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<争点>
1 本件CAD図面の著作物性
P1が被告から委託を受けて光電スイッチ、光ファイバーセンサー等の被告製品についてCAD図面を作成。CD-ROMに収録したうえで納品していました。
原告(P1が設立した会社で事業上の権利をP1から承継取得)は、被告が本件CAD図面を原告に無断でCD-ROMに複製のうえ顧客に頒布し、さらにダウンロード提供しているとして、本件CAD図面の複製権侵害や公衆送信権侵害を争いました。
この点、そもそも本件CAD図面に創作性(著作権法2条1項1号)があるかどうかが争われています(17頁以下)。
原告は、創作性の根拠を「立体物を数値を有する図形として平面上に表現した」など15点に分類したうえで主張しました。
しかし、裁判所は、創作性の根拠として分類されたうち7点の主張は、「アイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎ」ないとして創作性の根拠を否定(25頁)。その他の事項、たとえば「製品の機能や形状を作者の意図で取捨選択し図形形成した」などについては個別の本件CAD図面に検討を加えています。
そして、本件CAD図面が被告製品(カタログに描かれているものや現物)に依拠して作成されたものであることから、カタログの図面との対比をするのが当然であること(25頁以下)、また、
『本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要がある』ことから、
『具体的な表現に当たってP 1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。』(26頁)
という点を前提として、P1の個性の現れた部分を具体的に検討。
結論としては、本件CAD図面はいずれもアイデアであったり、ありふれた表現であったり、カタログの図面を一部省略したにすぎないとして創作性を否定。
本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であるとの原告の主張は容れられませんでした。
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■コメント
「CAD図面ライブラリ」CD-ROMの製作発注が打ち切られてしまったことから、原告が作成したCAD図面の著作権を足掛かりとして使用料相当額を被告に請求した事案です。
カタログや広告の印刷委託業務取引などでは昨今よく聞かれる状況で、「今後は内製化するので、データをすべて渡して欲しい」といった具合で委託先から次年度以降の契約を打ち切られることになります。
現在の経済状況からするといままでの円満な契約慣行が続く保証は全くなくて、どの制作会社さんもどうすれば自社の利益を確保していけるか、自社の著作権を含めた知財や契約関係の見直し・保護に必死です。
そもそも委託を受けた制作物に著作権が発生するか、委託先への著作権全部譲渡条項になっていても契約文言にスキはないか、著作者人格権からのアプローチはできないか、など検討項目はいくつもあります。大口取引先との折衝はたいへんだとは思いますが、次のステップのためにも営業の現場の方々には、契約書、とりわけ著作権規定についての基礎知識は付けておいていただきたい事項です。
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■参考判例
工作機械設計図事件
大阪地裁平成4.4.30昭和61(ワ)4752損害賠償等請求事件
別紙1
蒸気システム制御機器チャート事件
東京地裁平成17.11.17平成16(ワ)19816
別紙1
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■参考文献
本山雅弘「工業製品設計図の著作物性-スモーキングスタンド等設計図事件-」『著作権研究』26号(2000)285頁以下
玉井克哉「工作機械の設計図-図面の著作権」『著作権判例百選第二版』(1994)54頁以下
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光ファイバーセンサーCAD図面事件
★大阪地裁平成21.7.9平成19(ワ)13494著作権侵害差止等請求事件PDF
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 北岡裕章
裁判官 山下隼人
*裁判所サイト公表 09/7/17
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■事案
CAD化された製品の設計図への取り込みを可能にすることを目的として作成された製品CAD図面の著作物性が争点となった事案
原告:メカトロニクス生産設計、モデリングソリューション会社
被告:センサー、測定器製造販売会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、21条、23条、民法709条
1 本件CAD図面の著作物性
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■判決内容
<経緯>
H9.13.19 P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.0」CD-ROM納品
H9.5.8 P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.1」CD-ROM納品
H10.3 P1が被告に「CAD図面ライブラリVer1.1」CD-ROM増刷納品
H10.7 被告が「CAD図面ライブラリVer2.0」CD-ROMを顧客に頒布
H10.11.26 P1が原告会社を設立
H14.1 被告がCAD図面を顧客にネット配信
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<争点>
1 本件CAD図面の著作物性
P1が被告から委託を受けて光電スイッチ、光ファイバーセンサー等の被告製品についてCAD図面を作成。CD-ROMに収録したうえで納品していました。
原告(P1が設立した会社で事業上の権利をP1から承継取得)は、被告が本件CAD図面を原告に無断でCD-ROMに複製のうえ顧客に頒布し、さらにダウンロード提供しているとして、本件CAD図面の複製権侵害や公衆送信権侵害を争いました。
この点、そもそも本件CAD図面に創作性(著作権法2条1項1号)があるかどうかが争われています(17頁以下)。
原告は、創作性の根拠を「立体物を数値を有する図形として平面上に表現した」など15点に分類したうえで主張しました。
しかし、裁判所は、創作性の根拠として分類されたうち7点の主張は、「アイデアそのものであって表現に当たらないものであるか,表現であっても極めてありふれたものにすぎ」ないとして創作性の根拠を否定(25頁)。その他の事項、たとえば「製品の機能や形状を作者の意図で取捨選択し図形形成した」などについては個別の本件CAD図面に検討を加えています。
そして、本件CAD図面が被告製品(カタログに描かれているものや現物)に依拠して作成されたものであることから、カタログの図面との対比をするのが当然であること(25頁以下)、また、
『本件CAD図面は,主として,CADによって設計業務を行う際にCAD化された被告製品の設計図への取込みを可能にすることを目的として作成されたものであるから,被告製品の形状,寸法等を把握できるよう,通常の作図法に従い正確に描かれている必要がある』ことから、
『具体的な表現に当たってP 1が個性を発揮することができる範囲は広くないといえる。』(26頁)
という点を前提として、P1の個性の現れた部分を具体的に検討。
結論としては、本件CAD図面はいずれもアイデアであったり、ありふれた表現であったり、カタログの図面を一部省略したにすぎないとして創作性を否定。
本件CAD図面が著作権法上保護される著作物であるとの原告の主張は容れられませんでした。
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■コメント
「CAD図面ライブラリ」CD-ROMの製作発注が打ち切られてしまったことから、原告が作成したCAD図面の著作権を足掛かりとして使用料相当額を被告に請求した事案です。
カタログや広告の印刷委託業務取引などでは昨今よく聞かれる状況で、「今後は内製化するので、データをすべて渡して欲しい」といった具合で委託先から次年度以降の契約を打ち切られることになります。
現在の経済状況からするといままでの円満な契約慣行が続く保証は全くなくて、どの制作会社さんもどうすれば自社の利益を確保していけるか、自社の著作権を含めた知財や契約関係の見直し・保護に必死です。
そもそも委託を受けた制作物に著作権が発生するか、委託先への著作権全部譲渡条項になっていても契約文言にスキはないか、著作者人格権からのアプローチはできないか、など検討項目はいくつもあります。大口取引先との折衝はたいへんだとは思いますが、次のステップのためにも営業の現場の方々には、契約書、とりわけ著作権規定についての基礎知識は付けておいていただきたい事項です。
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■参考判例
工作機械設計図事件
大阪地裁平成4.4.30昭和61(ワ)4752損害賠償等請求事件
別紙1
蒸気システム制御機器チャート事件
東京地裁平成17.11.17平成16(ワ)19816
別紙1
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■参考文献
本山雅弘「工業製品設計図の著作物性-スモーキングスタンド等設計図事件-」『著作権研究』26号(2000)285頁以下
玉井克哉「工作機械の設計図-図面の著作権」『著作権判例百選第二版』(1994)54頁以下
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