最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
シェ・ピエールワイン事件
★東京地裁平成21.5.14平成20(ワ)2305不正競争行為差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 山門優
裁判官 柵木澄子
*裁判所サイト公表 09/06/02
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■事案
ワインのラベルなどに使用された商品表示の周知性が争点となった事案
原告:フランス料理店
被告:サントリーワインインターナショナル
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 不正競争防止法2条1項1号
1 各原告表示の周知性の有無
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■判決内容
<経緯>
S43 原告レストラン代表者のシェフAが来日
S48 青山にレストラン「シェ・ピエール」開店
S60 乃木坂に店舗移転
H5 フランス カステル社がフランスで「Chez Pierre」商標登録
H18.12.20 被告が「Chez Pierre」商標登録出願
原告が特許庁に情報提供(商標法施行規則19条、商標法4条1項10号)
H19.3 被告がフランス カステル社からワインを輸入、販売
H19.9 被告の「Chez Pierre」商標登録(5077069号)
H20.9.2 原告による登録異議申立について登録維持決定
原告表示:「シェ・ピエール」「Chez Pierre」など
被告表示:「シェ・ピエール」「Chez Pierre」など
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<争点>
1 各原告表示の周知性の有無
被告表示の使用が不正競争防止法2条1項1号(商品・営業主体混同行為)に該当する不正競争行為に該当するかどうかについて、まず原告表示の周知性(需要者間に広く認識されていること)の有無が判断されています。
1.需要者
被告商品であるワインは、「家庭で気軽に楽しむワイン」という商品コンセプトの下に開発された商品であり、全国的で一般的な消費者を需要者とする商品である(43頁以下)。
そうすると、本件において各原告表示が周知であるといえるためには、被告商品の需要者である全国的な一般消費者に広く認識されているものであることを要する(なお、『原告は,「東京都心部に居住ないし通勤・通学し,フランス料理に関心がある一般人の間」における各原告表示の周知性を問題とするのではなく,各原告表示が全国の一般消費者に対する周知性を獲得している旨を主張しており,この点において原告の立場は上に説示したところと異ならないといえる。』としています。44頁参照)。
2.営業地域
原告のレストランは乃木坂店1店であること、またワインの提供はレストランの顧客にとどまっており、原告の営業地域はレストラン所在地及びその周辺地域に限定される(44頁)。
3.名称の識別力
顕著な特徴を有する語ではなく、レストラン名としてはありがちな名称である(44頁以下)。
4.レストランガイドや雑誌、TVでの記述や紹介
原告レストランがレストランガイドや雑誌、TV番組などで紹介されていましたが、多くのものが原告レストラン名について読者や視聴者の注意を強く惹くものとはいえない、として原告表示の周知性を立証するに足りる証拠であるとはいえないとされています(45頁以下)。
結論として、各原告表示に接する者の範囲はきわめて限定されており、各原告表示が被告商品の需要者である全国的な一般消費者の間に広く認識されているものであることを認めるに足りない、として周知性が否定されています。
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■コメント
自社の営業標識の保護にあたり、商標登録の重要性が伝わる事案です。
一見ありふれた標準文字のブランド名を保護するために不正競争防止法を争点として争うとなると、なかなかにハードルが高くなってしまいます。
なお、原告は「シェ・ピエール」ブランドについて地域密着型(東京都心部など)の周知性ではなく、全国的な周知性の獲得を前提に差止請求の範囲について地域的な範囲の限定をしていませんでした(7頁参照)。
判旨では、相手方の営業地域(全国)にまで周知性が及んでいないことは明らかにしていますが、東京乃木坂界隈での周知性についてもそもそもあったかどうか、微妙なところです。
ところで、不正競争防止法で周知性を要求している趣旨が、信用が化体した商品等表示についてその信用の限度で保護を与えるところにあるので、周知の範囲は、一定の地域で足りると判例上考えられています(小松後掲書201頁以下)。したがって、周知の地域外では当該商品等表示に信用が化体されていないので1号では保護されないことになります。
飲食店のように営業活動が地域的に制約を持っている場合は、表示が周知となっている地域的範囲が問題となりますが、一方で一流店については、グルメガイドなどを介して店舗のない地域でも知られやすい状況があります。そこでこうした一流店として知られた場合は、周知性の有無での判断よりも、「その周知の程度、表示の強弱(ありふれた名称か否か)、業種業態、顧客層などを含めて混同判断の問題として検討する方が、混同防止という法の趣旨に即するように思われる」(同書203頁)との指摘もされています。
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■参考文献
小松一雄編著「不正競業訴訟の実務」(2005)201頁以下
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)250頁以下
田村善之「不正競争法概説第二版」(2003)36頁以下
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■参考サイト
原告サイト
シェ・ピエール
被告関連サイト
サントリーワイン|特集|シェピエール