最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
黒澤明監督作品格安DVD(対角川)損害賠償請求事件
★東京地裁平成21.4.27平成20(ワ)6848損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 坂本三郎
裁判官 松井俊洋
*裁判所サイト公表 09/5/11
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■事案
黒澤明監督「羅生門」「静かなる決闘」映画作品の保護期間をめぐり映画の著作者が黒澤監督なのか映画会社であるのかが争われた事案の損害賠償請求別訴
原告:角川映画株式会社
被告:格安DVD製造販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、114条3項、旧法6条
1 映画の存続期間の満了時期-映画の著作者はだれか
2 原告は映画の著作権を有するか
3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無
4 損害の有無及びその額
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■判決内容
<争点>
1 映画の存続期間の満了時期-映画の著作者はだれか
1.本件各映画の著作者
「羅生門」「静かなる決闘」の著作者が監督であれば、映画の著作権保護期間は平成48年12月31日までとなり、逆に映画製作会社の著作名義となると平成12年までには保護期間が満了しているので、平成19年頃の被告による本件DVD輸入行為が保護期間内に行われたものかどうかが問題となります(15頁以下)。
この点について、裁判所は、
『旧著作権法における著作物とは,新著作権法と同様,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,また,旧著作権法における著作者とは,このような意味での著作物を創作する者をいうと解される』
『そして,思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると,旧著作権法においても,著作者となり得るのは,原則として自然人であると解すべきである』
としたうえで、
『旧著作権法においても,新著作権法16条と同様,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である』(20頁)
と説示。
結論として、黒澤監督が本件映画の監督を務め、脚本の作成に参加するなどしていることが認められることから、本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認される、として少なくとも黒澤監督が本件各映画の著作者の一人であると認められています。
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2.本件各映画の著作名義
本件各映画には、映画を製作した旧大映の表示「大映株式會社製作」とあったことから、旧著作権法6条(団体名義の著作物の保護期間)の適用があるかどうかが次に問題とされています(21頁以下)。
結論としては、「監督A」との表示があり、著作者であるA(黒澤明)の実名が表示されたものであり、創作者が判別できない著作物ではないとして旧著作権法6条の団体名義の著作物には該当せず、本条の適用はないと判断されています。
本件各映画の著作権の保護期間はしたがって、黒澤監督が死亡した平成10年の翌年から起算して38年後の平成48年12月31日までと判断されました。
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2 原告は映画の著作権を有するか
映画を製作した旧大映が本件各映画の公表されたころまでに黒澤監督から本件映画の著作権を承継取得し、その後原告がこれら著作権を全部取得していると認定されています(25頁以下)。
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3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無
被告が本件DVDを国内で頒布する目的でもって輸入した行為は、原告の著作権を侵害する行為とみなされ(著作権法113条1項1号)、過失についても、
『被告は,本件各映画の著作権が存続している可能性があることを予見することができ,これについて十分調査すべきであったにもかかわらず,十分な調査を行うことなく,著作権の存続期間について自己に都合のよい独自の解釈に基づき本件DVDの輸入を行ったものと認められるから,被告には,少なくとも過失があったというべきである』
として、これが肯定されています(26頁以下)。
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4 損害の有無及びその額
1.損害の有無
被告が本件DVDを輸入する行為は、原告の著作権を侵害するものとみなされる(著作権法113条1項1号)から、原告には使用料相当額の損害が生じていると判断されています(31頁)。
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2.損害の額
原告は、原告DVDの標準小売価格4700円(/1本)、4万本輸入、使用料率20%の合計3760万円を損害額として主張しました(著作権法114条3項)。
しかし、裁判所は被告の本件DVD1本あたりの使用料相当額として、本件DVD小売価格の20%に相当する額とされ、2000本の輸入販売(小売価格1800円/1本)とされたことから、合計72万円が損害額と認定するにとどまっています(31頁)。
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■コメント
すでに角川映画は、被告に対して著作権侵害差止請求控訴事件で勝訴していて(知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10082)、本訴は損害賠償請求訴訟となっています。
著作権法114条(損害の額の推定等)の規定は、単純化すると
1項:侵害者の譲渡数量×著作権者等の利益の額
2項:侵害者の譲渡数量×侵害者の利益額
3項:侵害者の譲渡数量×使用料相当額
と表現されますが(「著作権法コンメンタール3」439頁参照)、114条3項の判断にあたって格安DVDのように正規品と販売価格に差がある商品での基礎価格をどうするか、使用料率をどう算定するかの点が実務上参考となります。
この点、チャップリンの「モダンタイムス」など9作品の格安DVD販売が問題となった後掲チャップリン事件では、裁判所は使用料相当額についてライセンス料率25%、被告DVDの販売価格500円を基礎に算定しています。
なお、後掲対松竹差止請求事件控訴審では、損害賠償請求附帯控訴部分で著作権法114条1項により損害額の算定が行われています。
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■過去のブログ記事
2008年3月8日記事
モダンタイムス事件(控訴審)
2008年8月2日記事
対角川事件(控訴審)
2009年2月19日記事
対松竹事件(控訴審)
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■参考判例
同一被告が関係する事案
チャップリン事件
東京地裁平成19.8.29平成18(ワ)15552
知財高裁平成20.2.28平成19(ネ)10073
対角川差止請求事件
東京地裁平成19.9.14平成19(ワ)11535
知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10082
対東宝差止請求事件
東京地裁平成19.9.14平成19(ワ)8141
知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10083
対松竹差止請求事件
東京地裁平成20.1.28平成19(ワ)16775
知財高裁平成21.1.29平成20(ネ)10025等
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■参考文献
寒河江孝允(監)永野周志・矢野敏樹(編)『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)179頁以下
吉田正夫、狩野雅澄「旧著作権法下の映画著作物の著作者の意義と保護期間-チャップリン映画DVD無断複製頒布事件及び黒澤映画DVD無断頒布事件の知財高裁判決-」『コピライト』(2009)573号30頁以下
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黒澤明監督作品格安DVD(対角川)損害賠償請求事件
★東京地裁平成21.4.27平成20(ワ)6848損害賠償請求事件PDF
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官 清水節
裁判官 坂本三郎
裁判官 松井俊洋
*裁判所サイト公表 09/5/11
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■事案
黒澤明監督「羅生門」「静かなる決闘」映画作品の保護期間をめぐり映画の著作者が黒澤監督なのか映画会社であるのかが争われた事案の損害賠償請求別訴
原告:角川映画株式会社
被告:格安DVD製造販売会社
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 著作権法2条1項2号、21条、113条1項1号、114条3項、旧法6条
1 映画の存続期間の満了時期-映画の著作者はだれか
2 原告は映画の著作権を有するか
3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無
4 損害の有無及びその額
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■判決内容
<争点>
1 映画の存続期間の満了時期-映画の著作者はだれか
1.本件各映画の著作者
「羅生門」「静かなる決闘」の著作者が監督であれば、映画の著作権保護期間は平成48年12月31日までとなり、逆に映画製作会社の著作名義となると平成12年までには保護期間が満了しているので、平成19年頃の被告による本件DVD輸入行為が保護期間内に行われたものかどうかが問題となります(15頁以下)。
この点について、裁判所は、
『旧著作権法における著作物とは,新著作権法と同様,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,また,旧著作権法における著作者とは,このような意味での著作物を創作する者をいうと解される』
『そして,思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると,旧著作権法においても,著作者となり得るのは,原則として自然人であると解すべきである』
としたうえで、
『旧著作権法においても,新著作権法16条と同様,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である』(20頁)
と説示。
結論として、黒澤監督が本件映画の監督を務め、脚本の作成に参加するなどしていることが認められることから、本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認される、として少なくとも黒澤監督が本件各映画の著作者の一人であると認められています。
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2.本件各映画の著作名義
本件各映画には、映画を製作した旧大映の表示「大映株式會社製作」とあったことから、旧著作権法6条(団体名義の著作物の保護期間)の適用があるかどうかが次に問題とされています(21頁以下)。
結論としては、「監督A」との表示があり、著作者であるA(黒澤明)の実名が表示されたものであり、創作者が判別できない著作物ではないとして旧著作権法6条の団体名義の著作物には該当せず、本条の適用はないと判断されています。
本件各映画の著作権の保護期間はしたがって、黒澤監督が死亡した平成10年の翌年から起算して38年後の平成48年12月31日までと判断されました。
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2 原告は映画の著作権を有するか
映画を製作した旧大映が本件各映画の公表されたころまでに黒澤監督から本件映画の著作権を承継取得し、その後原告がこれら著作権を全部取得していると認定されています(25頁以下)。
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3 被告の故意又は過失による侵害行為の有無
被告が本件DVDを国内で頒布する目的でもって輸入した行為は、原告の著作権を侵害する行為とみなされ(著作権法113条1項1号)、過失についても、
『被告は,本件各映画の著作権が存続している可能性があることを予見することができ,これについて十分調査すべきであったにもかかわらず,十分な調査を行うことなく,著作権の存続期間について自己に都合のよい独自の解釈に基づき本件DVDの輸入を行ったものと認められるから,被告には,少なくとも過失があったというべきである』
として、これが肯定されています(26頁以下)。
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4 損害の有無及びその額
1.損害の有無
被告が本件DVDを輸入する行為は、原告の著作権を侵害するものとみなされる(著作権法113条1項1号)から、原告には使用料相当額の損害が生じていると判断されています(31頁)。
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2.損害の額
原告は、原告DVDの標準小売価格4700円(/1本)、4万本輸入、使用料率20%の合計3760万円を損害額として主張しました(著作権法114条3項)。
しかし、裁判所は被告の本件DVD1本あたりの使用料相当額として、本件DVD小売価格の20%に相当する額とされ、2000本の輸入販売(小売価格1800円/1本)とされたことから、合計72万円が損害額と認定するにとどまっています(31頁)。
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■コメント
すでに角川映画は、被告に対して著作権侵害差止請求控訴事件で勝訴していて(知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10082)、本訴は損害賠償請求訴訟となっています。
著作権法114条(損害の額の推定等)の規定は、単純化すると
1項:侵害者の譲渡数量×著作権者等の利益の額
2項:侵害者の譲渡数量×侵害者の利益額
3項:侵害者の譲渡数量×使用料相当額
と表現されますが(「著作権法コンメンタール3」439頁参照)、114条3項の判断にあたって格安DVDのように正規品と販売価格に差がある商品での基礎価格をどうするか、使用料率をどう算定するかの点が実務上参考となります。
この点、チャップリンの「モダンタイムス」など9作品の格安DVD販売が問題となった後掲チャップリン事件では、裁判所は使用料相当額についてライセンス料率25%、被告DVDの販売価格500円を基礎に算定しています。
なお、後掲対松竹差止請求事件控訴審では、損害賠償請求附帯控訴部分で著作権法114条1項により損害額の算定が行われています。
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■過去のブログ記事
2008年3月8日記事
モダンタイムス事件(控訴審)
2008年8月2日記事
対角川事件(控訴審)
2009年2月19日記事
対松竹事件(控訴審)
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■参考判例
同一被告が関係する事案
チャップリン事件
東京地裁平成19.8.29平成18(ワ)15552
知財高裁平成20.2.28平成19(ネ)10073
対角川差止請求事件
東京地裁平成19.9.14平成19(ワ)11535
知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10082
対東宝差止請求事件
東京地裁平成19.9.14平成19(ワ)8141
知財高裁平成20.7.30平成19(ネ)10083
対松竹差止請求事件
東京地裁平成20.1.28平成19(ワ)16775
知財高裁平成21.1.29平成20(ネ)10025等
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■参考文献
寒河江孝允(監)永野周志・矢野敏樹(編)『知的財産権訴訟における損害賠償額算定の実務』(2008)179頁以下
吉田正夫、狩野雅澄「旧著作権法下の映画著作物の著作者の意義と保護期間-チャップリン映画DVD無断複製頒布事件及び黒澤映画DVD無断頒布事件の知財高裁判決-」『コピライト』(2009)573号30頁以下
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