最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

BRAHMAN事件(控訴審)

知財高裁平成21.3.25平成20(ネ)10084実演家の権利侵害差止請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      中平健
裁判官      上田洋幸

*裁判所サイト公表 09/3/26

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■事案

ロックバンドBRAHMAN(ブラフマン)がCD原盤を製作したインディ
レーベルに対してCDの製造、販売の差止を求めた事案の控訴審

原告(被控訴人):BRAHMANバンドメンバー4名
被告(控訴人) :有限会社イレブンサーティエイト(レーベル)

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■結論

控訴棄却

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■争点

条文 著作権法91条1項、95条の2第1項、112条1項

1 原告らと被告との間で、原告らが本件レコードに対する
   実演家の著作隣接権を譲渡又は放棄することを内容と
   する合意が成立したか

2 著作権者の意向に反して、著作隣接権に基づく差止は
   認められないか

3 原告らの差止請求権の行使は権利濫用にあたるか
4 弁論再開の許否

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■判決内容

<経緯>

H8.5   原告が本件楽曲の著作権をヴァージン・ミュージック・ジャパンに譲渡
      その後、ヴァージンと被告が共同出版契約締結、被告が原盤製作
H9.10.1 ミニアルバム「Wait And Wait」発売
       (イレブンサーティエイト/ホイップ・レコード)
H10.9.1 アルバム「A MAN OF THE WORLD」発売(イレブンサーティエイト)
H11    TOY'S FACTORYと契約
       シングル「deep/arrival time」でメジャーデビュー
H11     「原盤供給契約書」ドラフト交付、未締結
H19.2.5  原告から被告に対して契約解除の通知
H19.3.23 被告が原告に「回答書兼支払要求書」送付
H19.4   タクティクスレコーズより被告に内容証明書送付

原審、控訴審判旨のほか、ウィキペディア「BRAHMAN」参照。

*アルバム「A MAN OF THE WORLD」のパッケージ表示
 制作・発売 TACTICS RECORDS/1138 CO,.LTD
 PRODUCED&ARRANGED BY BRAHMAN
 A&R  1138CO,.LTD

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<争点>

1 原告らと被告との間で、原告らが本件レコードに対する
  実演家の著作隣接権を譲渡又は放棄することを内容と
  する合意が成立したか


本件レコード(2つのCD)に関して原告らと被告との間で、原告らが
本件レコードに対する実演家の著作隣接権を譲渡又は放棄することを
内容とする合意(口頭契約)が成立していたかどうかが争点となって
います。

この点について、裁判所は、被告レーベル代表者の陳述書提出にみら
れる訴訟活動の経緯や原告からの内容証明郵便、被告からの通知書の
内容などから合意の成立を認めていません(5頁以下)。

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2 著作権者の意向に反して、著作隣接権に基づく差止は
  認められないか


控訴審でも原審同様、被告レーベルの主張を認めていません(7頁)。

 被告は,演奏家は,当該楽曲の著作権者に演奏契約上の顕著な違反又は人格権の侵害がない限り,当該楽曲の著作権者の意向に反して,著作隣接権の行使として,演奏を固定したレコードの製造の差止めを求めることはできないと主張する。
 しかし,演奏したことにより有する演奏家の著作隣接権と著作したことにより有する著作権とは,それぞれ別個独立の権利であるから,演奏家の著作隣接権が,当該レコードに係る楽曲について有する著作権によって,制約を受けることはない。実演家は,当該楽曲の著作権者等から演奏の依頼を受けて演奏をした場合であっても,著作隣接権に基づいて,当該楽曲の著作権者に対して,当該演奏が固定されたレコードの製造,販売等の差止めを求めることができることは明らかであり,被告の上記主張は,主張自体失当である。


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3 原告らの差止請求権の行使は権利濫用にあたるか

権利濫用の点についても、原審同様被告レーベルの主張は認められて
いません(7頁以下)。

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4 弁論再開の許否

被告レーベルは、本件口頭弁論終結後に「被告が原告らの有する著作
隣接権に基づいてレコードの製造,販売につき許諾を受けた」趣旨の
抗弁を追加するため口頭弁論の再開を求める趣旨の上申書(平成21年
1月29日付)を提出していましたが、結論的には、裁判所は弁論の再開
を認めていません(8頁以下)。

なお、原告側から被告との間のレコードの製造、販売等に関する許諾
契約を承継した有限会社タクティスレコーズ(平成11年設立 原告Aが
代表者)は、被告から印税が支払われなかったため許諾契約を解除し
たことなどを主張して印税の支払を求める別訴を提起しており、東京
地方裁判所に係属しているようです(12頁参照 東京地裁平成20年
(ワ)5569、同年(ワ)33049)。

結論として、レーベルの控訴は棄却となりました。

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■コメント

原審の判決内容が薄くて(5頁)、原審の段階では紛争の状況がよく
分かりませんでしたが、控訴審で提出された被告レーベル代表者の
陳述書(乙4号証、5号証)やアーティスト側の反論(3頁以下)から、
原盤製作契約書の取り交わしや口頭での契約の存否に関する経緯
について、事情が少しみえてきました。

以前、メジャーレーベルで発表しているシンガーソングライターの
アーティストさんとわたしが話をした際に、「音楽出版社も僕の原盤
に関する契約書は作ってない」と言っていましたので、比較的大手
でもアーティスト印税を含めて原盤まわりは口約束で回っていると
いったところでしょうか。

原盤製作契約書面を作成するのであれば、そこでは、プロデューサ
ー印税やアーティスト(実演家)さんにアーティスト印税(歌唱印税)
をいくら支払うとかを想定して、CD増刷(増製)の場合の印税率や原
盤権の持分とかを規定したりするわけですが、アーティスト印税が著
作隣接権譲渡の対価なのか、利用許諾の対価なのかはアーティスト
さんとレーベルとの間の契約内容の全体(原盤製作契約のほかにマ
ネジメント契約/専属契約の内容も勘案)から判断されます。

インディだったら、著作隣接権も事務所(レーベル)にざっくり譲渡
していて、その結果として、アーティスト印税は著作隣接権譲渡の
対価としての性質として捉えることになりますが、そうでなければ、
著作隣接権はアーティストさんの手元に残っていて、アーティスト
印税は原盤の利用許諾の対価となり、アーティストさんはCD増刷
に対するコントロールも準物権的にできることになります。

ただ、現実問題としては、事務所移籍などで原盤を残して旧事務所
(レーベル)を去る場合、原盤製作契約について書面でのやりとり
がないからといって、過去にレーベルが原盤製作費用を負担して制
作されたCD原盤の利用にまで縛りをかける(極端な場合は、廃盤と
なってしまう=レーベルは投下した費用が回収できない)となると
どうにも移籍問題解決について双方落としどころがなくなるので、
アーティストさんにも原盤の取扱いについては譲歩が求められる場
面が出てくるかとは思われます。
(なお、被告レーベルは、アーティスト側の契約解除通知に対して、
「回答書兼支払要求書」を送付しているので、原盤買取りなどの要
求をレーベルはしていたのかもしれません。)

今回、原審、控訴審ともにアーティストさんの実演家としての主張が
認められていて、レーベルが原盤についてなんらかの権利(原盤に関
するレコード製作者としての著作隣接権その他)を保有していてもア
ーティストさんの許諾(実演家の著作隣接権)がない限りこれら2枚の
CD原盤は使えず事実上廃盤となってしまうわけですが、レーベルが原
盤製作の費用を負担していたとすれば(3頁参照)、裁判の結果は、そ
の後の影響も考えると(特にリクープ前だと)アンバランスにも思えます。
(但し、利用許諾の存否については、別訴での判断の余地を控訴審は
ちゃんと残しています。12頁参照。)
レーベルが平成16年分以降のアーティスト印税を不払にしていた(4頁、
12頁参照)ということが紛争の背景にあるのかもしれませんが、なお
現状では事情がよく分からないところです。

アーティスト印税不払に関する別訴の行方も注目したいところです
(特に継続的契約の性質をもつ原盤利用許諾契約の解除によって
原盤権自体のゆくえがどうなるか(そもそもレコード製作者は誰なの
か、原盤権の「内実」も含めてアーティストさんが「原盤権を戻せ」と
いえるか)は、その点も争点となっていれば裁判上先例がない点か
もしれません)。

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■過去のブログ記事

2008年10月27日記事
BRAHMAN事件(原審)

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■参考文献

福井健策編、前田哲男・谷口元著「音楽ビジネスの著作権」(2008)177頁以下
佐藤雅人「音楽ビジネス著作権入門」(2008)52頁以下
安藤和宏「よくわかる音楽著作権ビジネス実践編3rdEdition」(2005)15頁以下

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■追記09/06/16

BRAHMAN TOSHI-LOW インタヴュー
New Audiogram PREMIUM BRAHMAN

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