最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ニンテンドーDSマジコン事件
★東京地裁平成21.2.27平成20(ワ)20886等不正競争行為差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 宮崎雅子
*裁判所サイト公表 09/3/9
--------------------
■事案
携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」、「ニンテンドーDS Lite」本体
とDSカードの組合せ以外での使用を可能にする機器(マジコン)
の輸入等の不正競争行為性が争われた事案
原告:任天堂
ソフトウェア制作会社ら56社
被告:ソフトウェア等取扱業者ら5社
--------------------
■用語
*被告装置(R4 Revolution for DS / マジコン):
本件吸い出しプログラムや自主制作ソフト等をmicroSDカード
に格納し,microSDカードを挿入した被告装置をDS本体のス
ロットに挿入すると,DS本体は,これらのプログラム等を実行
する(4頁)。
*吸い出しプログラム:
DSカードのゲームソフトの複製物(3頁)。
吸い出しとは、ゲームのデータをDSカードから読み取ること。
吸い出しに使われるソフトはダンパー(dumper)などと云われ
る。
*マジコン/マジックコンピューター:
マジコンとは、テレビゲームのROMイメージをバックアップ
したり、またそのバックアップをゲーム機で起動させるため
の機械の総称。
語源の由来は、スーパーファミコン用のバックアップツール
「マジックコンピューター」。これはフロッピーディスクにデータ
を移すもので、パソコンによってセーブデータのバックアップ
を管理したり、同人ゲームのベースに流用したりなどもされ
た(ウィキペディア(Wikipedia)より)。
--------------------
■結論
請求一部認容
--------------------
■争点
条文 不正競争防止法2条1項10号、2条7項
1 「技術的制限手段」(2条1項10号、2条7項)の意義
2 「のみ」(2条1項10号)の意義
3 営業上の利益の侵害
--------------------
■判決内容
<争点>
1 「技術的制限手段」(2条1項10号、2条7項)の意義
任天堂の携帯型ゲーム機は、DS本体とDSカードから構成され
ていて、DS本体にDSカードを挿入すると、DSカードに記録され
ている本件特定信号1〜4を本体が受信し、それぞれの信号ご
とに特定の反応をしてDSカードのプログラムを実行するような
仕組みになっていました。
DSカードのゲームソフトの複製物を使用しても反応を得ること
ができず、本体において使用することができないことになります。
こうした、DS本体とDSカードの組になって本件特定信号1〜4
を使用してプログラムの実行を制限していることが(この仕組み
を「原告仕組み」といいます)、不正競争防止法2条1項10号、
2条7項の「技術的制限手段」に該当するかどうかが争点と
なっています。
被告側は、「技術的制限手段」には、自主制作ソフト等の実行
も制限する結果となる「検知→可能方式」(信号を検知した
場合にプログラム等実行を制限する方式)のものは含まれず、
「検知→制限方式」(信号を検知した場合にプログラム等の
実行を可能にする方式)のものに限られると主張しました。
裁判所は、(1)平成11年改正法の立法趣旨、(2)平成11年改
正著作権法との比較、(3)平成11年改正当時の技術的制限
手段などについて検討のうえ、
『上記(1)〜(3)によれば,不正競争防止法2条1項10号は,我が国におけるコンテンツ提供事業の存立基盤を確保し,視聴等機器の製造者やソフトの製造者を含むコンテンツ提供事業者間の公正な競争秩序を確保するために,必要最小限の規制を導入するという観点に立って,立法当時実態が存在する,コンテンツ提供事業者がコンテンツの保護のためにコンテンツに施した無断複製や無断視聴等を防止するための技術的制限手段を無効化する装置を販売等する行為を不正競争行為として規制するものであると認められる。』
『そして,上記(3)のとおり,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は,「(a)コンテンツに信号又は指令を付し,当該信号又は指令に機器を一定のルールで対応させる形態」と「(b)コンテンツ自体を暗号化する形態」の2つの形態を包含し,前者の例として「無許諾記録, 物が視聴のための機器にセットされても,機器が動かない(ゲーム)」が挙げられているが,この例は,本判決の分類では,検知→可能方式である。そして,同立法当時,規制の対象となる無効化機器の具体例としてMODチップが挙げられているが,このMODチップは,本判決の分類にいう検知→可能方式のものを無効化するものであり,当初から特殊な信号を有しない自主制作ソフト等の使用も可能とするものであった。』
『以上の不正競争防止法2条1項10号の立法趣旨と,無効化機器の1つであるMODチップを規制の対象としたという立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」とは,コンテンツ提供事業者が,コンテンツの保護のために,コンテンツの無断複製や無断視聴等を防止するために視聴等機器が特定の反応を示す信号等をコンテンツとともに記録媒体に記録等することにより,コンテンツの無断複製や無断視聴等を制限する電磁的方法を意味するものと考えられ,検知→制限方式のものだけでなく,検知→可能方式のものも含むと解される。』
(25頁以下)
結論として、「検知→可能方式」により本件吸い出しプログラム
の実行を制限している原告仕組みも不正競争防止法2条7項
の技術的制限手段に該当し、同法2条1項10号の営業上用い
られている技術的制限手段によりプログラムの実行を制限する
との点にも該当すると判断されています。
----------------------------------------
2 「のみ」(2条1項10号)の意義
被告側は、自主制作ソフト等の実行を可能とする装置を規制
することは、「成長の著しいコンテンツ提供事業における不正
な取引を防止するための必要最小限の規制を導入するとい
う観点に立って」(後掲改正解説書202頁)制定された不正競
争防止法2条1項10号の趣旨に反すると主張しました。
この点について、裁判所は、
『不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然「妨げる機能」を有している場合を除外していると解釈することができ,これを具体的機器等で説明すると,MODチップは「のみ」要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は「のみ」要件を満たさないと解釈することができる。』
としたうえで、被告装置(マジコン)の使用実態もあわせて考
慮されたうえで、結論として被告装置は不正競争防止法2条
1項10号の「のみ」要件を充足していると判断されています
(26頁以下)。
----------------------------------------
3 営業上の利益の侵害
原告らには、本来販売できたであろうDSカードが販売できな
くなったり、任天堂には、DS本体の製造販売業者としてマジ
コン対策にあたらなくてはならないとして現実に営業上の利
益が侵害されていると判断。
被告装置の輸入・販売等の差止、廃棄の必要性が認められ
ています(30頁以下)。
--------------------
■コメント
被告側は、自主制作ソフトなどの利用を不当に制限しない
ような不正競争防止法上の条文解釈を求めましたが、被害
総額が全世界で3000億円以上との報道(MSN産経ニュース
「ニンテンドーDS 被害は3000億円超との試算も」
2009.2.27 13:35記事)もされるなか、裁判所は、違法な複
製物の流通の現状を前に現実的な判断を下しています。
ところで著作権法改正案として、著作権を侵害する自動公
衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、そ
の事実を知りながら行う場合は、私的使用のための複製に
あたらない、という方向で検討がされていますが、
無断配信コンテンツのダウンロードは違法に - 著作権法改正案を閣議決定
(マイコミジャーナル(2009/03/10記事)
不正競争防止法の改正議論(今回は営業秘密保護関連で
すが)やさらに今後の著作権法での違法ソフトのダウンロード
違法化議論(録音録画物以外)とあわせて立法での違法
複製物の流通阻止への対応を注視したいところです。
--------------------
■参考ブログ記事
被告代理人弁護士小倉秀夫先生のブログ
Benli
(2009.2.27記事)
条文の文言など気にしない裁判官
(2009.3.9記事)
早熟の天才は不要
(2009.3.10記事)
プログラム開発の自由を阻害する動きに対する寛大さ
(2009.3.10記事)
著作権法改正案2009
任天堂プレスリリース(2009.2.27)
ニンテンドーDS用機器に対する差止訴訟に関する東京地裁判決について
--------------------
■参考文献
文化庁著作権法令研究会、通産省知財政策室編
「著作権法不正競争防止法改正解説 デジタル・コンテンツの法的保護」
(1999)190頁以下
田村善之「不正競争防止法概説 第二版」(2003)394頁以下
----------------------------------------
■追記(09.3.11)
アンチパテント(2009.3.11記事)
■[知財]マジコンの件
第171回国会における文部科学省提出法律案
(国会提出日平成21年3月10日)
著作権法の一部を改正する法律案:文部科学省
第171回通常国会経済産業省提出法律案
不正競争防止法の一部を改正する法律案について
----------------------------------------
■追記(09.5.6)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]マジ?こんな判決あり?と叫びたくなる瞬間。
------------------
■追記09.12.04
松島淳也「IT法務ライブラリ」[2009/12/02記事]
IT事業と知的財産権法[14]著作権法上の技術的保護手段と不正競争防止法上の技術的制限手段:ITpro
ニンテンドーDSマジコン事件
★東京地裁平成21.2.27平成20(ワ)20886等不正競争行為差止請求事件PDF
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官 市川正巳
裁判官 大竹優子
裁判官 宮崎雅子
*裁判所サイト公表 09/3/9
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■事案
携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」、「ニンテンドーDS Lite」本体
とDSカードの組合せ以外での使用を可能にする機器(マジコン)
の輸入等の不正競争行為性が争われた事案
原告:任天堂
ソフトウェア制作会社ら56社
被告:ソフトウェア等取扱業者ら5社
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■用語
*被告装置(R4 Revolution for DS / マジコン):
本件吸い出しプログラムや自主制作ソフト等をmicroSDカード
に格納し,microSDカードを挿入した被告装置をDS本体のス
ロットに挿入すると,DS本体は,これらのプログラム等を実行
する(4頁)。
*吸い出しプログラム:
DSカードのゲームソフトの複製物(3頁)。
吸い出しとは、ゲームのデータをDSカードから読み取ること。
吸い出しに使われるソフトはダンパー(dumper)などと云われ
る。
*マジコン/マジックコンピューター:
マジコンとは、テレビゲームのROMイメージをバックアップ
したり、またそのバックアップをゲーム機で起動させるため
の機械の総称。
語源の由来は、スーパーファミコン用のバックアップツール
「マジックコンピューター」。これはフロッピーディスクにデータ
を移すもので、パソコンによってセーブデータのバックアップ
を管理したり、同人ゲームのベースに流用したりなどもされ
た(ウィキペディア(Wikipedia)より)。
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■結論
請求一部認容
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■争点
条文 不正競争防止法2条1項10号、2条7項
1 「技術的制限手段」(2条1項10号、2条7項)の意義
2 「のみ」(2条1項10号)の意義
3 営業上の利益の侵害
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■判決内容
<争点>
1 「技術的制限手段」(2条1項10号、2条7項)の意義
任天堂の携帯型ゲーム機は、DS本体とDSカードから構成され
ていて、DS本体にDSカードを挿入すると、DSカードに記録され
ている本件特定信号1〜4を本体が受信し、それぞれの信号ご
とに特定の反応をしてDSカードのプログラムを実行するような
仕組みになっていました。
DSカードのゲームソフトの複製物を使用しても反応を得ること
ができず、本体において使用することができないことになります。
こうした、DS本体とDSカードの組になって本件特定信号1〜4
を使用してプログラムの実行を制限していることが(この仕組み
を「原告仕組み」といいます)、不正競争防止法2条1項10号、
2条7項の「技術的制限手段」に該当するかどうかが争点と
なっています。
被告側は、「技術的制限手段」には、自主制作ソフト等の実行
も制限する結果となる「検知→可能方式」(信号を検知した
場合にプログラム等実行を制限する方式)のものは含まれず、
「検知→制限方式」(信号を検知した場合にプログラム等の
実行を可能にする方式)のものに限られると主張しました。
裁判所は、(1)平成11年改正法の立法趣旨、(2)平成11年改
正著作権法との比較、(3)平成11年改正当時の技術的制限
手段などについて検討のうえ、
『上記(1)〜(3)によれば,不正競争防止法2条1項10号は,我が国におけるコンテンツ提供事業の存立基盤を確保し,視聴等機器の製造者やソフトの製造者を含むコンテンツ提供事業者間の公正な競争秩序を確保するために,必要最小限の規制を導入するという観点に立って,立法当時実態が存在する,コンテンツ提供事業者がコンテンツの保護のためにコンテンツに施した無断複製や無断視聴等を防止するための技術的制限手段を無効化する装置を販売等する行為を不正競争行為として規制するものであると認められる。』
『そして,上記(3)のとおり,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は,「(a)コンテンツに信号又は指令を付し,当該信号又は指令に機器を一定のルールで対応させる形態」と「(b)コンテンツ自体を暗号化する形態」の2つの形態を包含し,前者の例として「無許諾記録, 物が視聴のための機器にセットされても,機器が動かない(ゲーム)」が挙げられているが,この例は,本判決の分類では,検知→可能方式である。そして,同立法当時,規制の対象となる無効化機器の具体例としてMODチップが挙げられているが,このMODチップは,本判決の分類にいう検知→可能方式のものを無効化するものであり,当初から特殊な信号を有しない自主制作ソフト等の使用も可能とするものであった。』
『以上の不正競争防止法2条1項10号の立法趣旨と,無効化機器の1つであるMODチップを規制の対象としたという立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」とは,コンテンツ提供事業者が,コンテンツの保護のために,コンテンツの無断複製や無断視聴等を防止するために視聴等機器が特定の反応を示す信号等をコンテンツとともに記録媒体に記録等することにより,コンテンツの無断複製や無断視聴等を制限する電磁的方法を意味するものと考えられ,検知→制限方式のものだけでなく,検知→可能方式のものも含むと解される。』
(25頁以下)
結論として、「検知→可能方式」により本件吸い出しプログラム
の実行を制限している原告仕組みも不正競争防止法2条7項
の技術的制限手段に該当し、同法2条1項10号の営業上用い
られている技術的制限手段によりプログラムの実行を制限する
との点にも該当すると判断されています。
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2 「のみ」(2条1項10号)の意義
被告側は、自主制作ソフト等の実行を可能とする装置を規制
することは、「成長の著しいコンテンツ提供事業における不正
な取引を防止するための必要最小限の規制を導入するとい
う観点に立って」(後掲改正解説書202頁)制定された不正競
争防止法2条1項10号の趣旨に反すると主張しました。
この点について、裁判所は、
『不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然「妨げる機能」を有している場合を除外していると解釈することができ,これを具体的機器等で説明すると,MODチップは「のみ」要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は「のみ」要件を満たさないと解釈することができる。』
としたうえで、被告装置(マジコン)の使用実態もあわせて考
慮されたうえで、結論として被告装置は不正競争防止法2条
1項10号の「のみ」要件を充足していると判断されています
(26頁以下)。
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3 営業上の利益の侵害
原告らには、本来販売できたであろうDSカードが販売できな
くなったり、任天堂には、DS本体の製造販売業者としてマジ
コン対策にあたらなくてはならないとして現実に営業上の利
益が侵害されていると判断。
被告装置の輸入・販売等の差止、廃棄の必要性が認められ
ています(30頁以下)。
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■コメント
被告側は、自主制作ソフトなどの利用を不当に制限しない
ような不正競争防止法上の条文解釈を求めましたが、被害
総額が全世界で3000億円以上との報道(MSN産経ニュース
「ニンテンドーDS 被害は3000億円超との試算も」
2009.2.27 13:35記事)もされるなか、裁判所は、違法な複
製物の流通の現状を前に現実的な判断を下しています。
ところで著作権法改正案として、著作権を侵害する自動公
衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、そ
の事実を知りながら行う場合は、私的使用のための複製に
あたらない、という方向で検討がされていますが、
無断配信コンテンツのダウンロードは違法に - 著作権法改正案を閣議決定
(マイコミジャーナル(2009/03/10記事)
不正競争防止法の改正議論(今回は営業秘密保護関連で
すが)やさらに今後の著作権法での違法ソフトのダウンロード
違法化議論(録音録画物以外)とあわせて立法での違法
複製物の流通阻止への対応を注視したいところです。
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■参考ブログ記事
被告代理人弁護士小倉秀夫先生のブログ
Benli
(2009.2.27記事)
条文の文言など気にしない裁判官
(2009.3.9記事)
早熟の天才は不要
(2009.3.10記事)
プログラム開発の自由を阻害する動きに対する寛大さ
(2009.3.10記事)
著作権法改正案2009
任天堂プレスリリース(2009.2.27)
ニンテンドーDS用機器に対する差止訴訟に関する東京地裁判決について
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■参考文献
文化庁著作権法令研究会、通産省知財政策室編
「著作権法不正競争防止法改正解説 デジタル・コンテンツの法的保護」
(1999)190頁以下
田村善之「不正競争防止法概説 第二版」(2003)394頁以下
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■追記(09.3.11)
アンチパテント(2009.3.11記事)
■[知財]マジコンの件
第171回国会における文部科学省提出法律案
(国会提出日平成21年3月10日)
著作権法の一部を改正する法律案:文部科学省
第171回通常国会経済産業省提出法律案
不正競争防止法の一部を改正する法律案について
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■追記(09.5.6)
企業法務戦士の雑感
■[企業法務][知財]マジ?こんな判決あり?と叫びたくなる瞬間。
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■追記09.12.04
松島淳也「IT法務ライブラリ」[2009/12/02記事]
IT事業と知的財産権法[14]著作権法上の技術的保護手段と不正競争防止法上の技術的制限手段:ITpro