最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
ロクラク事件(控訴審)
★知財高裁平成21.1.27平成20(ネ)10055著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲
*裁判所サイト公表 09/1/28
--------------------
■事案
国内放送番組を海外でもネットで視聴可能にするハウジングサービス
(「ロクラク?ビデオデッキレンタル」)がテレビ局の著作権、著作隣接権
を侵害するかどうかが争われた事案の控訴審
控訴人・附帯被控訴人:株式会社日本デジタル家電
被控訴人・附帯控訴人:NHK、東京放送、静岡放送など10社
--------------------
■結論
原判決控訴人敗訴部分取り消し
--------------------
■争点
条文 著作権法21条、30条1項、98条
1 控訴人による複製行為の有無
--------------------
■判決内容
<争点>
1 控訴人による複製行為の有無
サービス提供事業者(控訴人)が、テレビ局の番組や放送に係る
音楽又は影像の複製行為を行っているのか、あくまで利用者が複
製を行っているのか、という複製行為の主体性について、
(1)本件サービスの目的
(2)機器の設置・管理
(3)親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理
(4)複製可能なテレビ放送とテレビ番組の範囲
(5)複製のための環境整備
(6)事業者が得ている経済的利益
という諸点について裁判所は検討を加えています(25頁以下)。
そのうえで、テレビ局側の主張する各事情は、事業者自身が複製
を行っていると認められる事情ということはできないと判断。
『控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。』
(27頁以下)
さらに、
『 かつて,デジタル技術は今日のように発達しておらず,インターネットが普及していない環境下においては,テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後,これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが,当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら,我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し,国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中,デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して,海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして,技術の飛躍的進展に伴い,新たな商品開発やサービスが創生され,より利便性の高い製品が需用者の間に普及し,家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても,利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから,かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく,もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない。』
(31頁以下)
として、知財高裁としての政策的価値判断を明確に表明。
また、クラブキャッツアイ事件とは事案を異にすることにも言及
しています(33頁)。
--------------------
■コメント
テレビ番組のネットを利用した視聴サービスとしては、昨年、
まねきTV事件で事業者側が勝訴していましたが、今回のロク
ラク事件でも事業者が逆転勝訴という結果となりました。
ロクラク事件は、ソニー製ロケーションフリー機器を利用した
同種サービスであるまねきTV事件よりも事業者の関与の度合
いが強いため、不適法なサービスと判断された録画ネット事件
に近い位置づけにあったと考えられますが(*)、知財高裁は、
著作権が技術革新とその利益享受を阻害してはならないとい
う政策的価値判断(32頁)を明確に示すことで、ネット関連
事業者の新規サービスを擁護する判断を下しています。
(*)たとえば、録画ネット事件とロクラク事件では、
放送データの複製があるのに対して、まねきTV事
件では複製はされていない。前二者とまねきTVと
では、転送機器の汎用製品性の違いや所有権の
帰属の有無が大きいと指摘するものとして、小倉
後掲書206頁以下参照。
録画ネット事件での知財高裁の判断(平成17年11月15日決定)
から3年余り。
ネット環境、技術の進展が、ロクラク事件でのサービスが利用
者による私的複製として許容できる範囲を超えない複製である
(テレビ局の利益を不当に害さない)との認識の変化を裁判所
に生じさせた結果の判決です。
フェア・ユースの議論のなかでも中山先生が、ネット事業での
リスクの取り方とスピード感の衡量について言及されておいで
ですし(「著作権研究」35号(2008)164頁以下参照)、今回の
知財高裁の判断は、著作権法のあり方に関する昨今の議論を
裁判所が敏感に受け止めたもので、ネット事業と著作権の問題
について大きな転換点に立つ判断といえます。
なお、知財高裁は、複製行為主体性判断において、「(私的使用目的
複製として許容される利用者の)かかる適法行為を基本的な視点と
しながら」(32頁)として利用者(直接行為者)と事業者(間接行為者)
の比較衡量の方法を採用していることからすれば、利用者と事業者の
利用主体の択一的判断を要求しないカラオケ法理を採用したクラブ
キャッツアイ事件とは事案を異にするとの言及部分も筋が通ると考え
られます(この点については、茶園後掲論文712頁以下参照)。
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■過去のブログ記事
2008年5月29日記事
ロクラク事件(原審)
2008年6月23日記事
まねきTV事件(本案)
2008年12月21日記事
まねきTV事件(控訴審)
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■参考判例
ロクラク事件原審PDF
東京地裁平成20.5.28平成19(ワ)17279著作権侵害差止等請求事件PDF
録画ネット事件抗告審PDF
知財高裁平成17.11.15平成17(ラ)10007著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件
まねきTV事件控訴審PDF
知財高裁平成20.12.15平成20(ネ)10059著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
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■参考文献
・録画ネット事件について、
帖佐 隆「録画ネット事件」『著作権研究』33号(2008)173頁以下
茶園成樹「テレビ番組録画視聴サービスにおける複製の主体」
『最新判例知財法 小松陽一郎先生還暦記念論文集』(2008)
705頁以下
・まねきTV事件について、
小倉秀夫「まねきTV事件」中山信弘編『知的財産権研究?』(2008)
195頁以下
中野圭二「テレビ番組送信サービス「まねきTV」事件」『パテント』
61巻8号67頁以下 論文PDF
吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」田村善之編著『新世代知的
財産法政策学の創成』(2008)253頁以下
田村善之「著作権の間接侵害」第二東京弁護士会知的財産権法研究会編
『著作権法の新論点』(2008)259頁以下
藤原宏高、大塚一郎、斉藤浩貴、津田幸宏「著作権の間接侵害の法理と
その限界」同上書393頁以下
潮海久雄「著作権侵害の責任主体-不法行為法および私的複製・公衆送
信権の視点から」野村豊弘、牧野利秋編『現代社会と著作権法 斉藤博
先生御退職記念論集』(2008)197頁以下
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論について-私的利用領域
の拡大と差止範囲画定の視点から」同上書228頁以下
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」同上書261頁以下
デジタルコンテンツ委員会編「コンテンツ利用者向けサービスにおける
著作権侵害の問題- 誰が侵害者となるのか?-」『知財管理』58巻3号
(2008)399頁以下
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■参考サイト
株式会社日本デジタル家電 ロクラク伝言板(09/1/28)
レンタルロクラクに関する知財高等裁判所・1月27日判断について
企業法務戦士の雑感(2009-01-28記事)
[企業法務][知財]ついに潮目が変わったか?
出戻り知財業務雑感(2009/01/29記事)
ロクラク事件控訴審
benli(01/29/2009)
ロクラク?事件
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■追記09/1/30
壇弁護士の事務室(09.1.28記事)
ロクラク事件高裁判決
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■追記09/2/17
2009年02月16日時事ニュースを読み解く “津田大介に聞け!!”(アスキー)
テレビ局はなぜ負けた? 津田氏に聞くロクラク事件
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■追記09/4/20
企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財]見方を変えれば結論も変わる。
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■追記09/5/22
作花文雄「放送番組の録画・配信サービスと著作権制度-私的利用と業的利用の境界領域の秩序形成-」『コピライト』576号(2009)33頁以下
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■追記09/9/15
TKC速報判例解説(2009/9/7掲載)
今村哲也「テレビ番組録画視聴サービスにおける複製の主体について争われた事例」PDF
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■追記09/10/12
奥邨弘司「著作権の間接侵害-日米裁判例の動向と実務への影響、今後の課題-」『コピライト』582号(2009)2頁以下
ロクラク事件(控訴審)
★知財高裁平成21.1.27平成20(ネ)10055著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲
*裁判所サイト公表 09/1/28
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■事案
国内放送番組を海外でもネットで視聴可能にするハウジングサービス
(「ロクラク?ビデオデッキレンタル」)がテレビ局の著作権、著作隣接権
を侵害するかどうかが争われた事案の控訴審
控訴人・附帯被控訴人:株式会社日本デジタル家電
被控訴人・附帯控訴人:NHK、東京放送、静岡放送など10社
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■結論
原判決控訴人敗訴部分取り消し
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■争点
条文 著作権法21条、30条1項、98条
1 控訴人による複製行為の有無
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■判決内容
<争点>
1 控訴人による複製行為の有無
サービス提供事業者(控訴人)が、テレビ局の番組や放送に係る
音楽又は影像の複製行為を行っているのか、あくまで利用者が複
製を行っているのか、という複製行為の主体性について、
(1)本件サービスの目的
(2)機器の設置・管理
(3)親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理
(4)複製可能なテレビ放送とテレビ番組の範囲
(5)複製のための環境整備
(6)事業者が得ている経済的利益
という諸点について裁判所は検討を加えています(25頁以下)。
そのうえで、テレビ局側の主張する各事情は、事業者自身が複製
を行っていると認められる事情ということはできないと判断。
『控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。』
(27頁以下)
さらに、
『 かつて,デジタル技術は今日のように発達しておらず,インターネットが普及していない環境下においては,テレビ放送をビデオ等の媒体に録画した後,これを海外にいる利用者が入手して初めて我が国で放送されたテレビ番組の視聴が可能になったものであるが,当然のことながら上記方法に由来する時間的遅延や媒体の授受に伴う相当額の経済的出費が避けられないものであった。しかしながら,我が国と海外との交流が飛躍的に拡大し,国内で放送されたテレビ番組の視聴に対する需要が急増する中,デジタル技術の飛躍的進展とインターネット環境の急速な整備により従来技術の上記のような制約を克服して,海外にいながら我が国で放送されるテレビ番組の視聴が時間的にも経済的にも著しく容易になったものである。そして,技術の飛躍的進展に伴い,新たな商品開発やサービスが創生され,より利便性の高い製品が需用者の間に普及し,家電製品としての地位を確立していく過程を辿ることは技術革新の歴史を振り返れば明らかなところである。本件サービスにおいても,利用者における適法な私的利用のための環境条件等の提供を図るものであるから,かかるサービスを利用する者が増大・累積したからといって本来適法な行為が違法に転化する余地はなく,もとよりこれにより被控訴人らの正当な利益が侵害されるものでもない。』
(31頁以下)
として、知財高裁としての政策的価値判断を明確に表明。
また、クラブキャッツアイ事件とは事案を異にすることにも言及
しています(33頁)。
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■コメント
テレビ番組のネットを利用した視聴サービスとしては、昨年、
まねきTV事件で事業者側が勝訴していましたが、今回のロク
ラク事件でも事業者が逆転勝訴という結果となりました。
ロクラク事件は、ソニー製ロケーションフリー機器を利用した
同種サービスであるまねきTV事件よりも事業者の関与の度合
いが強いため、不適法なサービスと判断された録画ネット事件
に近い位置づけにあったと考えられますが(*)、知財高裁は、
著作権が技術革新とその利益享受を阻害してはならないとい
う政策的価値判断(32頁)を明確に示すことで、ネット関連
事業者の新規サービスを擁護する判断を下しています。
(*)たとえば、録画ネット事件とロクラク事件では、
放送データの複製があるのに対して、まねきTV事
件では複製はされていない。前二者とまねきTVと
では、転送機器の汎用製品性の違いや所有権の
帰属の有無が大きいと指摘するものとして、小倉
後掲書206頁以下参照。
録画ネット事件での知財高裁の判断(平成17年11月15日決定)
から3年余り。
ネット環境、技術の進展が、ロクラク事件でのサービスが利用
者による私的複製として許容できる範囲を超えない複製である
(テレビ局の利益を不当に害さない)との認識の変化を裁判所
に生じさせた結果の判決です。
フェア・ユースの議論のなかでも中山先生が、ネット事業での
リスクの取り方とスピード感の衡量について言及されておいで
ですし(「著作権研究」35号(2008)164頁以下参照)、今回の
知財高裁の判断は、著作権法のあり方に関する昨今の議論を
裁判所が敏感に受け止めたもので、ネット事業と著作権の問題
について大きな転換点に立つ判断といえます。
なお、知財高裁は、複製行為主体性判断において、「(私的使用目的
複製として許容される利用者の)かかる適法行為を基本的な視点と
しながら」(32頁)として利用者(直接行為者)と事業者(間接行為者)
の比較衡量の方法を採用していることからすれば、利用者と事業者の
利用主体の択一的判断を要求しないカラオケ法理を採用したクラブ
キャッツアイ事件とは事案を異にするとの言及部分も筋が通ると考え
られます(この点については、茶園後掲論文712頁以下参照)。
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■過去のブログ記事
2008年5月29日記事
ロクラク事件(原審)
2008年6月23日記事
まねきTV事件(本案)
2008年12月21日記事
まねきTV事件(控訴審)
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■参考判例
ロクラク事件原審PDF
東京地裁平成20.5.28平成19(ワ)17279著作権侵害差止等請求事件PDF
録画ネット事件抗告審PDF
知財高裁平成17.11.15平成17(ラ)10007著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件
まねきTV事件控訴審PDF
知財高裁平成20.12.15平成20(ネ)10059著作権侵害差止等請求控訴事件PDF
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■参考文献
・録画ネット事件について、
帖佐 隆「録画ネット事件」『著作権研究』33号(2008)173頁以下
茶園成樹「テレビ番組録画視聴サービスにおける複製の主体」
『最新判例知財法 小松陽一郎先生還暦記念論文集』(2008)
705頁以下
・まねきTV事件について、
小倉秀夫「まねきTV事件」中山信弘編『知的財産権研究?』(2008)
195頁以下
中野圭二「テレビ番組送信サービス「まねきTV」事件」『パテント』
61巻8号67頁以下 論文PDF
吉田克己「著作権の「間接侵害」と差止請求」田村善之編著『新世代知的
財産法政策学の創成』(2008)253頁以下
田村善之「著作権の間接侵害」第二東京弁護士会知的財産権法研究会編
『著作権法の新論点』(2008)259頁以下
藤原宏高、大塚一郎、斉藤浩貴、津田幸宏「著作権の間接侵害の法理と
その限界」同上書393頁以下
潮海久雄「著作権侵害の責任主体-不法行為法および私的複製・公衆送
信権の視点から」野村豊弘、牧野利秋編『現代社会と著作権法 斉藤博
先生御退職記念論集』(2008)197頁以下
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論について-私的利用領域
の拡大と差止範囲画定の視点から」同上書228頁以下
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」同上書261頁以下
デジタルコンテンツ委員会編「コンテンツ利用者向けサービスにおける
著作権侵害の問題- 誰が侵害者となるのか?-」『知財管理』58巻3号
(2008)399頁以下
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■参考サイト
株式会社日本デジタル家電 ロクラク伝言板(09/1/28)
レンタルロクラクに関する知財高等裁判所・1月27日判断について
企業法務戦士の雑感(2009-01-28記事)
[企業法務][知財]ついに潮目が変わったか?
出戻り知財業務雑感(2009/01/29記事)
ロクラク事件控訴審
benli(01/29/2009)
ロクラク?事件
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■追記09/1/30
壇弁護士の事務室(09.1.28記事)
ロクラク事件高裁判決
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■追記09/2/17
2009年02月16日時事ニュースを読み解く “津田大介に聞け!!”(アスキー)
テレビ局はなぜ負けた? 津田氏に聞くロクラク事件
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■追記09/4/20
企業法務戦士の雑感
[企業法務][知財]見方を変えれば結論も変わる。
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■追記09/5/22
作花文雄「放送番組の録画・配信サービスと著作権制度-私的利用と業的利用の境界領域の秩序形成-」『コピライト』576号(2009)33頁以下
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■追記09/9/15
TKC速報判例解説(2009/9/7掲載)
今村哲也「テレビ番組録画視聴サービスにおける複製の主体について争われた事例」PDF
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■追記09/10/12
奥邨弘司「著作権の間接侵害-日米裁判例の動向と実務への影響、今後の課題-」『コピライト』582号(2009)2頁以下