最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

「真説猟奇の檻」アドベンチャーゲーム事件

東京地裁平成20.12.25平成19(ワ)18724損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      関根澄子
裁判官      古庄研

*裁判所サイト公表 09/1/6

   --------------------

■事案

アダルト向けアドベンチャーゲーム(AVG)の「映画の著作物」性や
翻案権侵害性が争われた事案

原告:コンピュータソフトウェア開発販売会社
被告:アニメーション作画、ゲーム企画制作会社

   --------------------

■結論

請求棄却

   --------------------

■争点

条文 著作権法2条3項、10条1項7号、27条

1 本件ゲームソフトが映画の著作物に該当するか
2 本件ゲームソフトの影像の著作権の帰属
3 翻案の有無

   --------------------

■判決内容

<経緯>

H7.8.25  日本プランテック社が本件ゲームソフト「猟奇の檻」をPC-9800
        シリーズ(PC98)向けに販売開始
H9.6.20   被告会社設立、Bが現在被告会社の代表取締役
H16.12.17 被告が被告ゲームソフト「真説猟奇の檻」をWin向けに販売開始

「猟奇の檻」
シナリオ:A 原画:B 開発:ゼロシステム 発売元:日本プランテック
「真説猟奇の檻」
シナリオ:A 原画:B 開発:スタジオライン 発売元:スタジオライン

   ----------------------------------------

<争点>

1 本件ゲームソフトが映画の著作物に該当するか

本件ゲームソフトのリメーク版として被告ゲームソフトが被告により製作、
販売されたことから、原告が製作した本件ゲームソフト又は(著作権譲渡
を受けたとする)本件ゲームソフトの脚本(シナリオ)の翻案権侵害を理由
として損害賠償を被告に対して請求しました。

原告は、本件ゲームソフトの著作者(著作権者)が原告であるとする前提
として、原告が映画の著作物である本件ゲームソフトの製作に携わった
(本件ゲームソフトの影像の全体的形成に創作的に寄与した者である)等
主張しました。

まず「映画の著作物」性については、著作権法2条3項に

この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的
又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定され
ている著作物を含むものとする。


とあるところ、裁判所は、

「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味する
(14頁)

と説示したうえで、本件ゲームソフトの影像は多数の静止画像の組合せ
によって構成されているのもので静止画像の画面ごとに音楽や台詞が加
えられていて、台詞の終了の際にクリックすることで画面が変わるものの、
動きのある連続影像が存することを認めることができない、として本件
ゲームソフトの映画の著作物性を否定しました。
(13頁以下)

   ----------------------------------------

2 本件ゲームソフトの影像の著作権の帰属

原告は、本件ゲームソフトの影像の全体的形成に創作的に寄与した者で
ある、あるいは、本件ゲームソフトの販売元である日本プランテック社との
合意により著作権を取得した旨主張しましたが、裁判所に容れられてい
ません(16頁以下)。

原告の本件ゲームソフトへの関わり方について、裁判所は

原告は,本件ゲームソフトの原画,音楽,シナリオ記載の会話文等をデジタルデータ化し,これらのデジタルデータを本件ゲームソフトのシナリオに従ってプログラミングし,プログラムを創作し,本件ゲームソフトを完成させたことが認められる。
としたうえで、
上記認定事実によれば,原告は,本件ゲームソフトのプログラミングの過程で,シナリオに従って原画(画像),音楽,会話文等のデジタルデータを統合する作業を行ったことが認められるが,上記作業は,シナリオに従って行われたプログラムの創作行為そのものであり,本件ゲームソフトの影像の著作物の創作行為であると認めることはできない。
(18頁)

として、プログラムの創作行為と影像の創作行為を峻別。結論として、
画像や文字表示等で画面上に表現される本件ゲームソフトの影像の具体
的な創作行為に原告又は原告代表者が関与したとまでは認められないと
して、本件ゲームソフトの影像の著作権の原告への帰属を否定しています。
(16頁以下)

なお、本件ゲームソフトの著作権について販売元の日本プランテック社
との権利関係で日本プランテック社と原告との著作権帰属に関する合意
の事実が認められていません(19頁以下)。
原画とシナリオの著作権については、原告と被告が二重譲渡関係に立つ
可能性もありましたが(5頁、7頁)、そこまで踏み込んだ判断とはなりま
せんでした。

   ----------------------------------------

3 翻案の有無

映画の著作物又は複合的著作物としての本件ゲームソフトの翻案性に
ついては争点1、2の判断からこれを否定。
また、シナリオの翻案性については、本件ゲームソフトのシナリオ及び
被告ゲームソフトのいずれもが証拠として提出されていないため、シナ
リオの具体的内容や翻案権侵害の判断対象・基準となるシナリオにおけ
る思想又は感情の表現上の本質的部分がどこにあるのか証拠上明かで
なく、そのため依拠性や直接感得性を判断できないとしてこの点について
も否定しています。
(20頁以下)

   --------------------

■コメント

PC98時代のゲームソフトのリメイク版として製作された「真説猟奇の檻」
は、企画・脚本が佐野一馬さん、原画が横田守さん(被告会社代表取締役)
の作品です(Windows版コマンド選択式マップ移動型アドベンチャーゲーム)。

旧作の脚本も佐野さんで原画も横田さんですから、原告が押さえられる権
利としては製作したプログラムの著作権部分のほかは、シナリオや原画の
法人著作や著作権譲渡、ゲームソフトが映画の著作物ならば映画監督のよ
うなモダンオーサーとしての地位(16条)、あるいは映画製作者としての
地位(29条)に原告が立つのであれば映画の著作物としてのゲームソフト
(影像)自体の著作権、さらには影像製作部分での原告独自の新たな創作
行為を捉えてその点での著作権が考えられます。
しかし、結局のところゲーム製作上の原告のプロデューサー的な立ち位置
(資金の一部提供、基本骨格のアイデア提供、編集統括)、プログラム開発
会社の立場からは、原告はゲームソフト(影像)自体の著作者・著作権者と
までは認められるに至りませんでした。

ところで、ロールプレイングゲーム(RPG)自体わたしはやったことがない
ので、原画などがどのように展開表示されるものなのか正確には分からな
いのですが、下記のサイト(CALIGULA Official Web Site)を見ると原画の
色遣いの華やかさはとても印象的です。

旧作「猟奇の檻」のリメイク版として「真説猟奇の檻」が製作されましたが、
旧作は10年近くも昔のゲームソフト。契約上の縛りがあったり、旧作のシリ
ーズが原告側でいまでも展開中ならばともかく、判決文を読む限り原告の
主張・立証には厳しいものがあった印象です。

   --------------------

■参考判例

ゲームソフトの映画の著作物性について、
「中古ゲームソフト」販売差止事件
最高裁平成14.4.25平成13(受)952著作権侵害行為差止請求事件判決PDF

シュミレーションゲームの映画の著作物性が否定された事案について、
「三国志3」事件
東京高裁平成11.3.18平成7(ネ)3344PDF

ビデオゲームの映画の著作物性について、
「パックマン」事件
東京地裁平成6.1.31平成4(ワ)19495PDF

ゲームのプログラム著作物の保護と影像著作物の保護の個別性について、
ディグダク事件(東京地裁昭和60.3.8昭和59(ワ)12619)

   --------------------

■参考文献

ゲームソフトの映画の著作物性、頒布権について、
藤田康幸、藤本英介、小倉秀夫「著作権と中古ソフト問題」(1998)43頁以下
泉 克幸「ゲームソフトの譲渡制限と頒布権」『紋谷暢男教授還暦記念 知的財産法の現代的課題』(1998)509頁以下
小倉秀夫「優越的地位ないし頒布権を利用したゲームソフトの中古販売規制の可否」中山信弘編『知的財産権研究4』(1999)169頁以下
岡 俊邦「最新判例62を読む 著作権の事件簿」(2007)254頁以下
ゲームの著作権、非映画的ゲームに言及するものとして、
内藤篤・升本喜郎著、福井健策編「映画・ゲームビジネスの著作権」(2007)122頁以下、136頁以下

   --------------------

■参考サイト

猟奇の檻 - Wikipedia

CALIGULA Official Web Site

-MY'factory-横田守