最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

映画「嵩山少林寺」事件

東京地裁平成20.12.4平成20(ワ)2106損害賠償請求事件PDF

東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官      平田直人
裁判官      柵木澄子

*裁判所サイト公表 12/8

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■事案

映画「嵩山少林寺」、「CHARON(カロン)」などのビデオグラム化権契約を
巡ってその成否、内容が争われた事案


原告:映画製作配給販売、企画開発会社
被告:映画、ビデオ、CD製作配給販売会社
    CD、DVD、ソフトレンタル販売会社

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■結論

請求棄却

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■争点

条文 民法415条、民法709条

1 債務不履行による損害賠償請求権の有無
2 著作権(複製権・頒布権)侵害による損害賠償請求権の有無

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■判決内容

<経緯>

H15    映画「嵩山少林寺」製作(監督:原告代表者Z)
       原告が映画「嵩山少林寺」のビデオグラム化権取得
H16    映画「CHARON(カロン)」製作(監督:原告代表者Z)
       原告が映画製作者として映画「CHARON(カロン)」の著作権取得
H17.12.8 原告がアジアシネマギルドにビデオグラム化権販売代理権授与
       原被告間でビデオグラム化権使用許諾契約を代理人を通して交渉
H18.1.11 被告が350万円を、原告は原盤を代理人に交付
H18.3   被告が映画DVDの販売予告(4/21)を雑誌広告に掲出
       「嵩山少林寺」DVDの他社販売の事実(H16ころ)が判明
H18.3.31 被告がDVDの販売中止を告知

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<争点>

1 債務不履行による損害賠償請求権の有無

映画「嵩山少林寺」と「CHARON(カロン)」「ポチの告白」などの
ビデオグラム化権(映画をDVDやビデオとして出版する権利)を保有
する原告は、これらの映画のビデオグラム化権の譲渡契約について
被告と契約が成立している(代金2800万円 最低保証金額)にもかか
わらず、被告が代金を支払わないとして被告の債務不履行を主張しま
した。しかし、

(1)交渉の内容や経緯、発言が曖昧かつ不明確
(2)合意書面案提示時期での交渉内容の矛盾
(3)合意書面不作成同意の不合理性

などの点から、結論としてビデオグラム化権譲渡契約締結の事実が
認定されず、原告の主張は容れられていません。
(12頁以下)

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2 著作権(複製権・頒布権)侵害による損害賠償請求権の有無

原告は、映画DVDの販売予告を掲載した雑誌広告やWebへの掲出
行為の著作権(複製権、頒布権)侵害性をさらに主張しました。
この点について裁判所は、

(1)原告は、ビデオグラム化権の譲渡(映画の複製・頒布の許諾)に
   ついてアジアシネマギルドに代理権授与していた
(2)原告は、代理人を通して被告から350万円を受領
(3)被告は、代理人を通じて原告から映画の原盤を受領

こうした事情から、仮に原被告間で複製頒布許諾について明確な合
意があったとは認められないとしても被告らに過失はないとして、
雑誌広告掲出行為の不法行為性を否定。
また、Web掲出行為についても、被告らの行為性自体が否定されて
います。
(15頁以下)

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■コメント

少林寺武術をテーマにしたドキュメンタリー映画「嵩山少林寺(すうざん
しょうりんじ)」とスタイリッシュロードムービー「CHARON(カロン)」
(いずれも高橋玄監督作品)。

映画製作者とDVD製作販売会社との間でビデオグラム化に向けて映画
の原盤の引き渡しがあり、また350万円の現金の授受がありましたが、
契約書の取り交わしがなかったことからビデオグラム化権の許諾契約
の成否、内容を巡り紛争となりました。

合計7本の映画のビデオグラム化権譲渡の対価として2800万円という
のは高額に過ぎるという認識は、原被告ともにあって(14頁参照)、
2800万円の実質を考えると原告が製作中の映画「妻と拳銃」への出
資という性質の資金となると考えられたわけですが、いずれにしても
あいまいな出資話となりました(のちに「妻と拳銃」は製作中止)。
また、映画「嵩山少林寺」については他社から既にDVDで販売されて
いたことから、ビデオグラム化権の許諾関係にも疑義が生じています。

なお、映画作品の契約(覚書)を巡る紛争としては、最近では、映画
「久高島」事件がありました。
(東京地判平成20.7.16平成19(ワ)11418著作権侵害差止等請求事件)

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■過去のブログ記事

2008年7月23日記事
映画「久高島」事件

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■参考サイト

グランカフェ・ピクチャーズ


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■追記08.12.10

高橋玄監督より詳しい訴訟の経緯に関するメールを拝受いたしました。
ここではその内容を詳しくは記載しませんが、映画「嵩山少林寺」のビデオ
グラム化については、既販売部分の契約はすでに終了していて被告との
契約上は問題がない状況だったそうです。
一審の訴訟代理人を交代して控訴審に臨まれるとのこと、控訴審の行方
に注目したいと思います。