最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

リライト式ポイントカード秘密保持契約事件

東京地裁平成20.10.30平成18(ワ)17608損害賠償等請求事件(損害賠償等請求本訴,手数料支払請求反訴事件)PDF

東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官      関根澄子
裁判官      古庄研

*裁判所サイト公表 11/13

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■事案

セルフ式ガソリンスタンド向け顧客情報、精算システムの共同開
発に際して締結した秘密保持契約、覚書を巡って債務不履行が
争われた事案

原告(反訴被告):顧客管理カードに関するソフトウェア企画開発会社
被告(反訴原告):ガソリンスタンド業界向け精算機器開発販売会社

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■結論

請求一部認容(本訴・反訴ともに)

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■争点

条文 民法415条、1条2項

1 本件機密保持契約上の義務違反の有無
2 本件覚書2条1項の約定違反の有無
3 本件共同開発における信義則上の義務違反の有無
4 本件覚書3条1項に基づく約定紹介手数料請求権の成否
5 本件覚書3条2項に基づく約定分配金請求権の成否(反訴請求)

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■判決内容

<経緯>

H15.3     原被告間でシステム共同開発を合意
H15.5.1    被告保有の情報に関する機密保持覚書締結
H15.6.23   原告保有の情報に関する機密保持契約書締結
         (本件秘密保持契約書)
H15.7     システム初期バージョン完成
H15.7.14   共同で意匠登録出願
H15.9.1    共同で特許出願 
H15.11.7   共同で商標登録出願
H17.2     新バージョン開発開始
H17.4.1    システムの販売方法、手数料に関する覚書締結(本件覚書)
H17.10    被告が独自開発システムを販売(〜H18.10)
H17.12.28   原告が機密保持契約違反を通知
H18.2.9    被告が未払い分配金の支払いを請求
H18.2.27   本訴提起
H18.5.13   反訴提起

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<争点>

1 本件機密保持契約上の義務違反の有無

(1)第3条違反性

「第3条(類似する商品の開発)
 乙は,本件製品と類似する製品について,別途開発を行う
 場合は,甲に事前に通知する。」

 (甲:原告 乙:被告)

原告保有の技術情報の保持を目的とした本件機密保持契約書の
第3条には、類似商品開発制限規定がありました。

原告は、被告が別途独自にシステム開発して類似商品を販売し
たことが、本条に違反すると主張しました。

この点、裁判所は、同条の意義について

同条項を設けた趣旨は,被告が,原告から開示を受けた原告の技術情報等を利用して原告及び被告が共同開発するシステムと類似する製品の開発を独自に行うことを制限することにあり,「本件製品」は,原告及び被告の本件共同開発に係るペセカシステムを意味するものと解される。

としたうえで、

1.被告が販売した商品には、原告のシステムの機器をその構成に含まない
2.被告商品はネット接続による顧客管理という原告システムの機能を持たない
3.本件磁気データ仕様をそのまま使用していない
4.技術的特徴の非独自性、外観の公知性

という諸点から、被告販売商品は、第3条「本件製品と類似する
製品」に該当しないと判断しました。
(38頁以下)

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(2)第4条1号、3号、6号違反性

「第4条(機密保持)
 1 乙は,事前に甲の書面による同意を得た場合を除き,甲から
 開示された情報,資料および,本契約の締結または履行に関連
 して知りえた技術上,業務上の秘密を第三者に漏洩してはなら
 ない。
 3 乙は,機密情報を所定の目的のみに使用し,また業務上これ
 を知る必要のある乙の従業員以外のものについて機密情報に関
 与させない。
 6 乙は,甲の事前の承諾なしに機密情報に含まれ,またはその
 一部をなす発明,考案,ノウハウ等(以下発明という)を所定
 の目的以外に使用しない。また,甲の著作権,工業所有権を侵
 害しない。」

 (甲:原告 乙:被告)

次に、本件磁気データ仕様が原告の機密にあたるかどうか、
第4条所定の機密保持義務違反の成否が問題となっています。


この点について、裁判所は、

本件機密保持契約が保護の対象とする機密は,原告が保有する技術情報等,すなわち本件共同開発前に原告が保有していた技術情報等に係るものであって,本件共同開発の成果(「本開発の成果」)に係る技術情報等の機密を直接保護の対象とするものではないと解される(仮に本件機密保持契約が本件共同開発の成果に係る技術情報等の機密を保護の対象とするのであれば,本件契約書に,原告及び被告の双方がその機密の保護義務を負うことが明示されてしかるべきであるが,本件契約書にはそのような双方が機密の保護義務を負うことを規定した条項は存在せず,かえって,機密保持に関する本件契約書4条各号は,被告が原告に対して一方的に負う義務として規定している。)。
(46頁以下)

としたうえで、東洋エレクトロニクス社が作成した本件磁気データ
仕様は原被告保有の技術情報から派生した情報(本開発の成果)
であり、かつ原被告のいずれかに帰属するものと決することができ
ない性質のものであるとして、原告の機密該当性を否定。

結論として、被告の本件機密保持契約上の義務違反性を否定して
います。

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2 本件覚書2条1項の約定違反の有無

本件覚書
 「前文
 株式会社デナロ(以下甲という。)と株式会社エム・エス・ピー
 (以下乙という。)は,互いに協力してペセカシステム(以下商
 品という。)を販売するに当たり,その販売方法並びに手数料に
 つき,以下の通り覚書を締結した。
 1条
 商品の内容を,石油の精算システム(以下機械という。),ポイ
 ントカードシステム,ロイコカード,販売促進企画の4個に分類
 し,それぞれの販売方法及び手数料を規定する。
 2条1項
 機械を甲が販売し,ポイントカードシステム,ロイコカード及び
 販売促進企画は乙が販売する。」

 (甲:被告 乙:原告)

被告の販売行為が、システムの販売方法及び手数料に関する覚書
2条1項に違反しないかどうかが争点となりました。

この点について、裁判所は、原被告が現に販売していたペセカ
システムが対象であってこれとは異なる商品は、本件覚書2条1項
の対象外である。そして、被告販売商品は同一ではないとして
約定違反はないと判断しています。
(49頁以下)

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3 本件共同開発における信義則上の義務違反の有無

被告の開発販売行為が共同開発における信義則上の義務違反となら
ないかどうかがさらに争点となっています。
この点について、

1.ペセカシステムと被告商品は、同一または類似の商品とは認められない
2.顧客の苦情を踏まえたうえでの開発
3.本件磁気データ仕様の特定業者以外の第三者への開示が認められない
4.原告も別途開発販売行為をしている

などから、被告の債務不履行は認められませんでした。
(50頁以下)

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4 本件覚書3条1項に基づく約定紹介手数料請求権の成否

「3条
 1 甲が乙の紹介により,乙が管轄するユーザーに機械を
 販売した場合,甲はその販売価格の5%を手数料として
 乙に支払う。」

 (甲:被告 乙:原告)

給油料金精算システム3店舗分販売の紹介手数料の成否もあわせて
争点となっていますが、3店舗分の紹介手数料合計135万円の被告の
支払義務が認められています。
(51頁以下)

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5 本件覚書3条2項に基づく約定分配金請求権の成否(反訴請求)

「3条
 2 乙が販売するロイコカードについては,販売価格と仕
 入れ価格の差額の50%を乙は甲に支払う。」

 (甲:被告 乙:原告)

反訴請求部分については、販売利益の分配金に関し被告の原告に
対する214万円余の分配金請求権の取得を認定しています。
(56頁以下)

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■コメント

カーショップに行くとリライト式のポイントカードを発行してくれ
ていつ来店したか、ポイント数、車種、整備状況などを管理して
くれるのでとても便利です。
こうしたポイントカードシステムとセルフ式ガソリンスタンドでの
給油料金精算システムを連動させたシステムの共同開発案件
で今回紛争が生じました。

いずれの会社も技術、ノウハウがあって共同開発案件とは別個
独自の開発案件をそれぞれ手がけることになりましたが、既存
の共同開発案件とのかねあいは常に微妙な問題を孕むことにな
ります。

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■追記(08.11.20)

事例検討されたものとして、

ライセンス第1委員会第2小委員会「戦略に応じた秘密保持条項の留意点」
知財管理』58巻10号(No.694 2008)1339頁以下参照