最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

「写真で見る首里城」事件

那覇地裁平成20.9.24平成19(ワ)347著作権侵害差止等請求事件PDF

那覇地方裁判所民事第2部
裁判官 田邉実

*裁判所サイト公表 11/12

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■事案

写真集に掲載された写真の職務著作物性と発注納入先である
財団法人の過失が争われた事案


原告:写真家(被告会社元取締役)
被告:フォトライブラリー、マルチメディア制作会社
    (財)海洋博覧会記念公園管理財団

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■結論

請求一部認容

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■争点

条文 著作権法15条1項、19条、21条

1 原告の写真撮影の有無
2 職務著作の当否
3 本件原写真18の創作性
4 本件原写真18の著作権譲渡等の合意の有無
5 過失の有無
6 過失相殺の成否
7 損害論
8 謝罪広告、差止の必要性

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■判決内容

<経緯>

H6.6     被告会社が被告財団に写真集の企画を提案
H9.5.9    写真集(初版)2万部発行    
H9.8     原告が本件原写真18を撮影
H9.10.1   原告が被告会社に就職
H9.12.25  原告が被告会社の取締役に就任
H9.12.31  原告による撮影行為(〜H13.10.19)
H11.3.16  写真集(第2版)2万部発行
H13.9.20  業績不振で原告の役員報酬0に
H14.2.20  原告が取締役を退任
H14.3.29  写真集(第3版)2万部発行
H14.5.2   原告が就職前に持ち込んだ写真800点を返却
H17.6.30  写真集第4版(本件写真集)発行
 
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<争点>

1 原告の写真撮影の有無

本件写真集「写真で見る首里城(第4版)」に掲載されている18点の
写真の撮影時期と撮影者がまず判断されています。

結論として、18点すべてが原告の撮影によるもので、うち本件原写真
18の1点についてだけは、被告会社に就職する前に撮影されたことが
認定されています。
(22頁以下)

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2 職務著作の当否

次に、原告の撮影した写真の職務著作物性(著作権法15条1項)の成否
が争点となっています。


1.「法人等の業務に従事する者」

原告は、被告会社の従業員兼取締役として被告会社と雇用関係にあり
被告会社の業務に従事する者にあたる。
(45頁以下)

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2.「職務上作成する著作物」

被告会社の指示に基づき写真集を作成、納入する目的で原告は在職中
撮影行為を行っており、各撮影は職務上行われたものである。
(51頁)

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3.「法人の発意」

被告会社の指示に基づき、その業務の一環として撮影したものであり
被告会社の発意による。
(51頁)

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4.「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」

第2版、第3版の巻末の奥付きには、編集制作者として被告会社の商号
が表示されていたことなどから、公表名義性も具備する。
(51頁以下)

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5.「別段の定め」

原告と被告会社との間に原告が著作者となるという合意が認められない。
(52頁以下)


以上から、原告が就職する前に撮影された写真1点(本件原写真18)以外
の写真はすべて職務著作が成立して、被告会社がこれら写真の著作者と
判断されました。

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3 本件原写真18の創作性

座喜味城跡を地上から撮影した本件原写真18について、創作性が争点
となっていますが、同じアングルから被告会社の従業員によって撮影さ
れた写真との対比からも相違が認められることなどから、創作性が肯定
されています。
(55頁以下)

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4 本件原写真18の著作権譲渡等の合意の有無

本件原写真18の著作権の譲渡の合意や複製の許諾の有無、また第4版
には撮影者として原告の氏名が表示されていなかったことから氏名表示
権不行使の合意の有無が争点となっています。

裁判所は、複製についての原告による黙示の許諾の余地を認めながらも、
原告の氏名の表示をしない出版形式での複製の許諾は無かったと判断。
結論としては、原被告間で譲渡合意、複製許諾、氏名表示権不行使合意
はなかったと判断し、複製権侵害、氏名表示権侵害を肯定しています。
(56頁以下)

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5 過失の有無

被告会社の過失と共に、写真集の制作を発注し、納入先となった被告財
団の過失も認められています。そして、出版に関する複製権侵害行為に
ついて被告らの共同不法行為性が肯定される結果となっています。
(63頁以下)

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6 過失相殺の成否

被告財団は、原告の過失を巡り過失相殺を主張しましたが、認められて
いません。
(64頁)

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7 損害論

本件原写真18の複製権侵害の部分(財産権侵害)として、2.5万円、氏名
表示権侵害の部分(慰謝料)として10万円、弁護士費用2.5万円の合計15
万円が損害額として認定されました。
(65頁以下)

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8 謝罪広告、差止の必要性

本件原写真18が写真集の最終ページに掲載された9点のうちの1点にすぎ
ないこと、写真集制作の経緯などから謝罪広告の必要性を否定しています。
(66頁以下)

また、出版差止についても権利の濫用として認めていません。
(67頁以下)

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■コメント

写真で見る首里城





画像は、(財) 海洋博覧会記念公園管理財団サイトより
首里城公園(しゅりじょう) 琉球王国の栄華を物語る真紅の世界遺産トップページ

問題となったのは首里城公園のショップなどで販売されていたオリジナル
写真集です。

写真集の発注納入先である被告財団についても、写真集掲載の写真につ
いてその著作者等の確認に関して相当の注意義務が課されることを裁判
所は認めています(63頁以下)。

財団としては、写真集の編集制作業務を制作業者に発注しており、写真
の権利処理についてはその制作会社に任せていたわけですが、業者を
信頼しているだけでは発注者は責任を回避できないのは、最近の事例で
いえば八坂神社祇園祭ポスター事件(東京地裁平成20.3.13平成19(ワ)
1126損害賠償請求事件)などと同じです。

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■過去のブログ記事

2008年3月16日記事
八坂神社祇園祭ポスター事件

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