最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
外国人児童向け漢字教材事件
★東京地裁平成20.10.23平成19(ワ)25428損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 瀬田浩久
*裁判所サイト公表 10/31
--------------------
■事案
東京外国語大学公式サイトに掲載された外国人児童向け漢字教材に関して
著作権侵害および著作者人格権侵害性が争われた事案
原告:帰国・外国人教育相談室教材開発グループ所属者ら4名
被告:東京外国語大学
東京外大多言語・多文化教育研究センター元勤務者E
別紙1PDF
別紙2PDF
別紙3PDF
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 著作権法2条1項1号、27条
1 著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無
--------------------
■判決内容
<経緯>
H13.3.23 教材80を原告らと被告Eが共同で創作したうえ発行
H14.9.25 教材160を原告らと被告Eが共同で創作したうえ発行
H18.3.20 教材200を原告らと被告Eが共同で創作したうえ発行
H19.1 被告らが被告教材試作品を東京外大公式サイトに掲載
H19.4.1 被告らが被告教材を東京外大公式サイトに掲載
--------------------
<争点>
1 著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無
原告教材に対する改変行為の翻案権侵害性の判断について、
『著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。』
『そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分について,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,既存の著作物の翻案に当たらないと解するのが相当である(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)』
として、江差追分事件最高裁判決を前提に原告教材と被告教材の
類似点について検討。
原告が主張する原告教材と被告教材・被告教材試作品との間の類
似点が、いずれも
(1)表現それ自体ではなく、アイデアにおいて共通するにすぎない
(2)表現部分についても、文章の表現自体が短文で平凡かつ
ありふれたものであって記述者の個性が現れていない
(3)アイデアの表現方法が限定されている部分の表現についても、
記述者の個性が現れていない
ということから、被告の教材作成行為はそもそも著作物の翻案に
あたらず著作権侵害及び著作者人格権侵害の成立が否定されて
います。
(10頁以下)
--------------------
■コメント
問題となった双方の教材の目次やコンテンツを眺めると、
「似ている項目立て、内容だなあ」
というのが最初の印象です(別紙1〜3参照)。
目次(左:原告教材 右:被告教材)
内容(アイデアの類似にすぎない 左:原告教材 右:被告教材)
内容(短文で個性がない 左:原告教材 右:被告教材)
教育教材の開発では、どうしても競合他社の内容に類似して
しまう(他社製品の印象に引っ張られる)のでまったくの新規
案件として一から創作するよりかえって手間がかかる場合も
多いかと思います。
共同創作者のひとりが、問題となった教材の開発案件に携わ
っているわけですから、似通った教材になってしまうのも分から
ないではありません。
どれだけ似させないかが、教材開発者の腕の見せ所になります。
この教材もアイデアの盗用に終わっているといえばそうなので
すが、著作権法上の保護は受けないとしても、共同で創作した
著作物の成果をそのうちの一人が独り占めするような事態が仮
に認定できるのであれば(共同創作者に経済的損害が生じている)、
一般不法行為(民法709条)などの余地も考えていっていいのか
もしれません(著作権侵害性を否定しつつ一般不法行為を肯定
した後掲「通勤大学事件」知財高裁判決参照)。
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■過去のブログ記事
2006年3月29日記事(通勤大学事件)
法律書籍事件控訴審
2008年2月14日記事
営業ノウハウ書籍事件
2008年2月20日記事
パズル書籍事件
2008年6月19日記事
数霊占術書籍事件
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■参考文献
山根崇邦「著作権侵害が認められない場合における一般不法行為の成否-通勤大学法律コース事件-」
『知的財産法政策学研究』18号(2007)221頁以下
山本隆司、井奈波朋子「創作性のない表現をデッドコピーした場合における不法行為の可否」
『小松陽一郎先生還暦記念論文集 最新判例知財法』(2008)658頁以下
三浦正広「著作権侵害と不法行為法理の機能-著作権の保護と競争秩序の維持」
『現代社会と著作権法 斉藤博先生御退職記念論集』(2008)361頁以下
外国人児童向け漢字教材事件
★東京地裁平成20.10.23平成19(ワ)25428損害賠償等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人
裁判官 瀬田浩久
*裁判所サイト公表 10/31
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■事案
東京外国語大学公式サイトに掲載された外国人児童向け漢字教材に関して
著作権侵害および著作者人格権侵害性が争われた事案
原告:帰国・外国人教育相談室教材開発グループ所属者ら4名
被告:東京外国語大学
東京外大多言語・多文化教育研究センター元勤務者E
別紙1PDF
別紙2PDF
別紙3PDF
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 著作権法2条1項1号、27条
1 著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無
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■判決内容
<経緯>
H13.3.23 教材80を原告らと被告Eが共同で創作したうえ発行
H14.9.25 教材160を原告らと被告Eが共同で創作したうえ発行
H18.3.20 教材200を原告らと被告Eが共同で創作したうえ発行
H19.1 被告らが被告教材試作品を東京外大公式サイトに掲載
H19.4.1 被告らが被告教材を東京外大公式サイトに掲載
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<争点>
1 著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無
原告教材に対する改変行為の翻案権侵害性の判断について、
『著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。』
『そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分について,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,既存の著作物の翻案に当たらないと解するのが相当である(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)』
として、江差追分事件最高裁判決を前提に原告教材と被告教材の
類似点について検討。
原告が主張する原告教材と被告教材・被告教材試作品との間の類
似点が、いずれも
(1)表現それ自体ではなく、アイデアにおいて共通するにすぎない
(2)表現部分についても、文章の表現自体が短文で平凡かつ
ありふれたものであって記述者の個性が現れていない
(3)アイデアの表現方法が限定されている部分の表現についても、
記述者の個性が現れていない
ということから、被告の教材作成行為はそもそも著作物の翻案に
あたらず著作権侵害及び著作者人格権侵害の成立が否定されて
います。
(10頁以下)
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■コメント
問題となった双方の教材の目次やコンテンツを眺めると、
「似ている項目立て、内容だなあ」
というのが最初の印象です(別紙1〜3参照)。
目次(左:原告教材 右:被告教材)
内容(アイデアの類似にすぎない 左:原告教材 右:被告教材)
内容(短文で個性がない 左:原告教材 右:被告教材)
教育教材の開発では、どうしても競合他社の内容に類似して
しまう(他社製品の印象に引っ張られる)のでまったくの新規
案件として一から創作するよりかえって手間がかかる場合も
多いかと思います。
共同創作者のひとりが、問題となった教材の開発案件に携わ
っているわけですから、似通った教材になってしまうのも分から
ないではありません。
どれだけ似させないかが、教材開発者の腕の見せ所になります。
この教材もアイデアの盗用に終わっているといえばそうなので
すが、著作権法上の保護は受けないとしても、共同で創作した
著作物の成果をそのうちの一人が独り占めするような事態が仮
に認定できるのであれば(共同創作者に経済的損害が生じている)、
一般不法行為(民法709条)などの余地も考えていっていいのか
もしれません(著作権侵害性を否定しつつ一般不法行為を肯定
した後掲「通勤大学事件」知財高裁判決参照)。
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■過去のブログ記事
2006年3月29日記事(通勤大学事件)
法律書籍事件控訴審
2008年2月14日記事
営業ノウハウ書籍事件
2008年2月20日記事
パズル書籍事件
2008年6月19日記事
数霊占術書籍事件
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■参考文献
山根崇邦「著作権侵害が認められない場合における一般不法行為の成否-通勤大学法律コース事件-」
『知的財産法政策学研究』18号(2007)221頁以下
山本隆司、井奈波朋子「創作性のない表現をデッドコピーした場合における不法行為の可否」
『小松陽一郎先生還暦記念論文集 最新判例知財法』(2008)658頁以下
三浦正広「著作権侵害と不法行為法理の機能-著作権の保護と競争秩序の維持」
『現代社会と著作権法 斉藤博先生御退職記念論集』(2008)361頁以下