最高裁判所HP 下級裁判所判例集より

デジタルテレビ用ソフトウェアライセンス契約違反事件

東京地裁平成20.9.18平成19(ワ)7222原状回復等請求事件PDF

東京地方裁判所民事第14部
裁判長裁判官 孝橋宏
裁判官      関根規夫
裁判官      飯田佳織

*裁判所サイト公表 10/17

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■事案

デジタルテレビ用ソフトウェアを組み込んだデジタルテレビ用
モジュール及びその関連電子機器の独占的販売ライセンス契約
にライセンサーが違反したかどうかが争われた事案

原告:電子機器卸販売代理会社(ライセンシー)
被告:電子部品販売会社(ライセンサー)

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■結論

請求認容
(なお、平成20年10月7日付で和解)

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■争点

条文 民法415条、709条

1 被告による被告製品の直販の契約違反性
2 被告が第三者にライセンス付与することの契約違反性
3 本件製品の範囲
4 原告による解除の成否
5 不返還条項の解釈

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■判決内容

<経緯>

H16.9.16 原被告間で秘密保持契約締結、交渉開始
H17.1.14〜 会議を週1回程度おこなう
H17.3.22 合意書起案
H17.3.28 原告合意書案を被告に送付
H17.3.29 被告が案を修正
H17.3.30 被告が案を修正
H17.3.30 原告取締役会で契約承認
       「製品取引に関する合意書」を締結
H17.3.31 合意書に基づき原告が許諾料1億500万円を支払う
H17.4.1  被告とケイテック社が製造許諾契約締結、その後解消
H17.5.10 被告が17年3月期連結業績予想を上方修正
H17.6.27 原告が被告に懸案事項についてメール送信
〜H18.2.3
H18.3.7  担当者会議
H18.10.16 トップ会談
H18.11.20 被告の契約違反についての通知書送付
H18.11.24 原被告訴訟代理人間で会議
H18.12.7  原告が被告に回答書送付
H18.12.18 被告が原告に照会書送付
H19.1.15  原告が和解案を提示
H19.3.2   被告が通知書送付
H19.3.23  原告が本件訴訟を提起
H19.4.6   訴状送達、原告が解除の意思表示
H19.5.31  被告が原告に対して別訴を提起

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 【合意書の内容】

 前文
 第1条 製品の範囲
 第2条 販売地域及び販売期間 
 第3条 ソフトウェア・ライセンスの再使用許諾権料
      不返還条項
 第4条 協議事項

 別紙1  販売地域
 別紙2  許諾権料

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<争点>

1 被告による被告製品の直販の契約違反性

被告が被告製品を直販することが、原告による独占的な販売の許諾
を内容とする本件合意書の規定に違反するかどうかについて、裁判
所は、以下の3点からこれを肯定しています。

(1)本件製品の販売は、すべて原告を介して行うことが前提とされていた

合意書の規定の解釈として、

被告の直販を認める場合にはその旨の条項が別途設けられるのが通常であると考えられるところ,本件合意書中には,本件製品を被告が直接第三者に販売することを前提とした条項は存在しない。

また、事実関係としても、

本件契約を締結した原告と被告が予定していたビジネススキームは,被告が生産協力会社に委託して生産させた本件製品を一元的に原告を通じて販売することにより,原告と被告との間で販売利益を配分するというもので,被告による直販は予定されていなかったことが推認される。
(34頁以下)

と判断しています。

(2)原告が被告に支払った1億円は、本件製品の販売に関して原告が特別の地位に付くことの対価としての実質がある

(3)事実関係として、本件製品の独占的販売権に関する原告の主張を被告が否定しなかった

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2 被告が第三者にライセンス付与することの契約違反性

被告は、合意書規定の解釈として、「販売を第三者に代理させまたは
委託すること」(第2条2項)のみ禁止されており、ソフトウェアのライセン
ス付与には言及されていないと反論しました。
しかし、裁判所は、ソフトウェア・ライセンスの再使用許諾の権利を
被告は原告に認めている(第2条1項)こと、ソフトウェアを組込んだ
製品の独占的販売許諾である以上、契約の目的達成からすればソフト
ウェア・ライセンスの第三者付与も禁止されていると判断しています。
(40頁以下)

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3 本件製品の範囲

被告は、本件合意書の対象となる製品の範囲は原告と被告が協力して
生産する製品に限定されると主張しましたが、合意書に生産協力義務
条項がないこと、原告は商社であって製品開発・製造を行うものでは
ないことなどから、被告の主張は容れられていません。
(41頁以下)

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4 原告による解除の成否

被告による被告製品の直販や他社へのソフトウェアライセンス付与が
本件合意書に違反する債務不履行にあたり、原告は被告に対して是正
を求めた上で解除の意思表示をしているとして、原告により本件契約
が解除されたと判断しています。
(43頁以下)

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5 不返還条項の解釈

被告は、本件許諾料がイニシャル・ライセンス・フィーであることを
示すために不返還条項を規定したとして、原告に対する本件許諾料
の返還義務を被告は負わないと主張しました。
しかし、裁判所は、本件契約自体が被告の債務不履行によって解除
されている以上、本件許諾料の返還を免れることはできないと判断
しています。
(44頁以下)


結論として、原告の請求が全部認容となりました。

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■コメント

平成20年10月7日付で和解(7000万円分割支払)が成立して
います。

被告:株式会社ゼンテック・テクノロジー・ジャパン プレスリリース
「訴訟終了に関するお知らせ」PDF(平成20年10月7日付)

被告会社が秘密情報の不正使用を理由に原告を提訴していた
別訴(東京地方裁判所平成19年5月31日平成19年(ワ)第13697号
不正競争損害賠償等請求事件)についてもあわせて和解とな
ったと伝えています。

原告:株式会社エクセル ニュースリリース
「当社被告の訴訟事案の終了に関するお知らせ」PDF(平成20年10月7日付)

かたや東証一部上場、かたやヘラクレス上場の企業ですが、
独占的販売許諾契約について4条程度の内容の合意書の取り
交わしとなっていて、協力関係、本件製品の最低販売量や
最低販売額条項などもないとりあえずの合意書。
原告起案の合意書でしたが、急ぎの案件(被告会社の3月期
決算対策)であったことやアジアでの販売戦略上の柔軟性
が求められていた点もあったとはいえ、ポイントをおさえてい
ない(いちばんして欲しくないことを明確に表現していない)
契約書を作成した結果となっています。

ところで、(財)ソフトウェア情報センターが裁判外紛争解決
(ADR)機関として法務省より2008年7月28日認証取得しており
ソフトウェア分野専門の「仲裁」又は「和解あっせん」を行う
こととなりました。
今回の紛争のような1億円程度の案件については、企業にとって
も使い勝手が良い手続かもしれません。

SOFTIC ソフトウェア紛争解決センター