最高裁判所HP 知的財産裁判例集より
TOKYU営業表示事件
★東京地裁平成20.9.30平成19(ワ)35028営業表示使用差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研
*裁判所サイト10/1公表
--------------------
■事案
地方の建設会社がウェブサイトで表示していた「TOKYU」「tokyu」が
東急電鉄の営業表示と類似するかどうかが争われた事案
原告:東京急行電鉄株式会社
被告:藤久建設株式会社
--------------------
■結論
請求棄却
--------------------
■争点
条文 不正競争防止法2条1項1号、2号
1 営業表示の著名性(2条1項2号)
2 営業表示としての使用
3 営業表示の類似性
--------------------
■判決内容
<争点>
1 営業表示の著名性(2条1項2号)
まず、「東急」の営業表示の著名性について、原告及び原告を中核と
する東急グループは297社9法人(平成17年3月時点)で構成されて
いて原告の営業表示は全国的に取引者、需要者の間に広く知られて
いることが認められているとして、「他人の著名な商品等表示」(2号)
に該当すると判断されています。
(9頁以下)
----------------------------------------
2 営業表示としての使用
被告の営業表示について、先代の屋号「藤久材木店」のころ(昭和42年〜)
から「とうきゅうざいもくてん」と読まれており、被告藤久建設の商号
(昭和51年〜)は、「とうきゅうけんせつ」と読まれていました。
こうした商号で被告は宮城県石巻市とその周辺で建物建築工事や
ガーデニング工事を請負う取引を行っていました。
被告はウェブサイトで「TOKYU CONSTRUCTION ON THE WEB」、
「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」を表示、またドメイン名に続く
フォルダ名部分やEメールアドレスに「tokyu」の表示をしていました。
この点について、裁判所は、URL部分とEメールアドレス部分の「tokyu」
表示は、営業主体の識別機能があるとして被告はこれを営業表示として
使用したものと認めました。
また、「TOKYU」の表示については、「TOKYU CONSTRUCTION ON
THE WEB」の「TOKYU」表示部分についてだけ営業表示としての
使用を肯定しています。
なお、「藤久建設株式会社」の直下に小さく記載された「TOKYU
CONSTRUCTION CO.,LTD」の表示については、「TOKYU」だけを
取り出して判断することを認めませんでした。
(11頁以下)
----------------------------------------
3 営業表示の類似性
裁判所は、
『ある営業表示が不正競争防止法2条1項2号にいう他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁判所昭和58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)』
と日本ウーマン・パワー事件上告審判決を示したうえで、
(1)外観
「東急」と「TOKYU」「tokyu」は、外観が異なる。
(2)称呼
「とうきゅう」の称呼が生じる点で共通する。
(3)観念
「TOKYU」「tokyu」が原告の広報誌やショッピングセンター、東急ハンズ
などで表示されているものの、これらの語から直接原告や東急グループの
観念が生じると認めることは未だ困難である。
また、「とうきゅう」の称呼に基づく観念についても、広辞苑には「東急」
が記載されていない、ほかの営業主体を想起する場合もあることなどから、
「TOKYU」「tokyu」の語から「とうきゅう」という称呼を通じて原告や東急
グループの観念が生じるとまで断ずることはできない。
結論として、称呼において「とうきゅう」の読みが共通するにとどまり
取引者、需要者が「東急」と「TOKYU」「tokyu」の営業表示を全体的
に類似のものとして受取るおそれがあるとまではいえないとしました。
(13頁以下)
以上から、両社の営業表示が2号の「類似のもの」にあたらず、また1号
の「類似」も欠くことになることから被告の不正競争行為性は否定され
ることとなりました。
----------------------------------------
■コメント
朝日新聞10月1日付朝刊東京14版38頁には、藤久社員のコメントとして
「うちは石巻周辺でしかやってない、10人ぐらいしかいない会社。
東急と競合関係もないのに、相手は何を考えているのか……」
とありました。
わたしの住んでいる世田谷、田園都市線沿線ですと、あちこちに
「TOKYU」の表示があって、それこそ「TOKYU」=「東急」でしか
ないのですが、地域が違えば、昔から類似の営業表示を使うほかの
企業もあることでしょうし、そうした企業がドメインの一部にローマ字
表記を使う場合もあることだと思います。
2号(著名表示冒用行為)の趣旨からすれば被告側の営業表示の
使用がフリーライド(ただ乗り)の意図によるものであったり、ダイ
リューション(稀釈化)、ポリューション(イメージの汚染)などを惹起
させるものでないかぎり当該営業表示の使用を認めてもいいことに
なります(なお、ドメイン名での不法占拠、いわゆるサイバースクワ
ッティングについては、12号参照)。
類似性の要件のほか、営業上の利益の侵害性要件で調整することも
できた事案でした(3条1項、4条)。
なお、東急といえば、タレントの芸名で使用された「高知東急」の
使用差止事件(東急芸名訴訟事件 不正競争防止法2条1項1号
請求認容)を思い出します。
(東京地判平成10.3.13平成9(ワ)3024芸名使用差止請求事件)
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■参考サイト
被告会社 社長のブログ(2008.10.01記事)
東急VS藤久の行方〜朝日新聞掲載 - どうする?宮城・石巻・東松島の良い家づくり→しあわせ家族実現
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■参考文献
田村善之「不正競争法概説第2版」(2003)76頁以下、246頁以下
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)398頁以下
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■追記(08/10/05)
社長さんがブログ記事をまとめておいでです。
08/10/05記事
東急VS藤久 訴訟の経過を記す
No.1
「週刊朝日に記事」
同じアルファベットのつづりの方は要注意
No.2
「週刊朝日掲載 訴訟報告2」(東急VS藤久とはしていない)
訴状が届く、なんでなの?素朴な疑問を持つ
No.3
「週刊朝日掲載 訴訟報告3」(東急VS藤久とはしていない)
なんで?なんで?
No.4
「週刊朝日掲載 訴訟報告4」
正当判決を貰うために、マスコミさんの協力を・・
No.5
「週刊朝日掲載 訴訟報告5」
同じく、訴訟されているA社長と話す
No.6
「東急VS藤久の行方〜朝日新聞掲載」
勝った!新聞社から電話取材を受ける
No.7
「東急VS藤久 判決」
判決文を抜粋紹介
No.8
「東急VS藤久 で気づいたこと」
どんな会社なの?コンプライアンスを検証する
*ブログ記事にあるように、警告書の通知もなくいきなり
訴訟手続をとって、相手に応訴の負担をかけるというのは、
どういうつもりなのでしょうか。
商標管理、ドメインでのブランド保護は重要でしょうし、
シャネル社の方針と同様コツコツと訴訟をすることも必要
でしょう。
ただ、相手のあることです。正月に訴状の送達を受けるだ
けで一年の最初を汚されるようで、わたしだったら許し難
いきもちになりそうです。
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■追記(08/10/05)
企業法務戦士の雑感さんのブログ記事より
[企業法務][知財]東京の常識、地方の非常識
TOKYU営業表示事件
★東京地裁平成20.9.30平成19(ワ)35028営業表示使用差止等請求事件PDF
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研
*裁判所サイト10/1公表
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■事案
地方の建設会社がウェブサイトで表示していた「TOKYU」「tokyu」が
東急電鉄の営業表示と類似するかどうかが争われた事案
原告:東京急行電鉄株式会社
被告:藤久建設株式会社
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■結論
請求棄却
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■争点
条文 不正競争防止法2条1項1号、2号
1 営業表示の著名性(2条1項2号)
2 営業表示としての使用
3 営業表示の類似性
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■判決内容
<争点>
1 営業表示の著名性(2条1項2号)
まず、「東急」の営業表示の著名性について、原告及び原告を中核と
する東急グループは297社9法人(平成17年3月時点)で構成されて
いて原告の営業表示は全国的に取引者、需要者の間に広く知られて
いることが認められているとして、「他人の著名な商品等表示」(2号)
に該当すると判断されています。
(9頁以下)
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2 営業表示としての使用
被告の営業表示について、先代の屋号「藤久材木店」のころ(昭和42年〜)
から「とうきゅうざいもくてん」と読まれており、被告藤久建設の商号
(昭和51年〜)は、「とうきゅうけんせつ」と読まれていました。
こうした商号で被告は宮城県石巻市とその周辺で建物建築工事や
ガーデニング工事を請負う取引を行っていました。
被告はウェブサイトで「TOKYU CONSTRUCTION ON THE WEB」、
「TOKYU CONSTRUCTION CO.,LTD」を表示、またドメイン名に続く
フォルダ名部分やEメールアドレスに「tokyu」の表示をしていました。
この点について、裁判所は、URL部分とEメールアドレス部分の「tokyu」
表示は、営業主体の識別機能があるとして被告はこれを営業表示として
使用したものと認めました。
また、「TOKYU」の表示については、「TOKYU CONSTRUCTION ON
THE WEB」の「TOKYU」表示部分についてだけ営業表示としての
使用を肯定しています。
なお、「藤久建設株式会社」の直下に小さく記載された「TOKYU
CONSTRUCTION CO.,LTD」の表示については、「TOKYU」だけを
取り出して判断することを認めませんでした。
(11頁以下)
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3 営業表示の類似性
裁判所は、
『ある営業表示が不正競争防止法2条1項2号にいう他人の営業表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁判所昭和58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)』
と日本ウーマン・パワー事件上告審判決を示したうえで、
(1)外観
「東急」と「TOKYU」「tokyu」は、外観が異なる。
(2)称呼
「とうきゅう」の称呼が生じる点で共通する。
(3)観念
「TOKYU」「tokyu」が原告の広報誌やショッピングセンター、東急ハンズ
などで表示されているものの、これらの語から直接原告や東急グループの
観念が生じると認めることは未だ困難である。
また、「とうきゅう」の称呼に基づく観念についても、広辞苑には「東急」
が記載されていない、ほかの営業主体を想起する場合もあることなどから、
「TOKYU」「tokyu」の語から「とうきゅう」という称呼を通じて原告や東急
グループの観念が生じるとまで断ずることはできない。
結論として、称呼において「とうきゅう」の読みが共通するにとどまり
取引者、需要者が「東急」と「TOKYU」「tokyu」の営業表示を全体的
に類似のものとして受取るおそれがあるとまではいえないとしました。
(13頁以下)
以上から、両社の営業表示が2号の「類似のもの」にあたらず、また1号
の「類似」も欠くことになることから被告の不正競争行為性は否定され
ることとなりました。
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■コメント
朝日新聞10月1日付朝刊東京14版38頁には、藤久社員のコメントとして
「うちは石巻周辺でしかやってない、10人ぐらいしかいない会社。
東急と競合関係もないのに、相手は何を考えているのか……」
とありました。
わたしの住んでいる世田谷、田園都市線沿線ですと、あちこちに
「TOKYU」の表示があって、それこそ「TOKYU」=「東急」でしか
ないのですが、地域が違えば、昔から類似の営業表示を使うほかの
企業もあることでしょうし、そうした企業がドメインの一部にローマ字
表記を使う場合もあることだと思います。
2号(著名表示冒用行為)の趣旨からすれば被告側の営業表示の
使用がフリーライド(ただ乗り)の意図によるものであったり、ダイ
リューション(稀釈化)、ポリューション(イメージの汚染)などを惹起
させるものでないかぎり当該営業表示の使用を認めてもいいことに
なります(なお、ドメイン名での不法占拠、いわゆるサイバースクワ
ッティングについては、12号参照)。
類似性の要件のほか、営業上の利益の侵害性要件で調整することも
できた事案でした(3条1項、4条)。
なお、東急といえば、タレントの芸名で使用された「高知東急」の
使用差止事件(東急芸名訴訟事件 不正競争防止法2条1項1号
請求認容)を思い出します。
(東京地判平成10.3.13平成9(ワ)3024芸名使用差止請求事件)
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■参考サイト
被告会社 社長のブログ(2008.10.01記事)
東急VS藤久の行方〜朝日新聞掲載 - どうする?宮城・石巻・東松島の良い家づくり→しあわせ家族実現
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■参考文献
田村善之「不正競争法概説第2版」(2003)76頁以下、246頁以下
小野昌延編「新注解不正競争防止法新版」(上)(2007)398頁以下
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■追記(08/10/05)
社長さんがブログ記事をまとめておいでです。
08/10/05記事
東急VS藤久 訴訟の経過を記す
No.1
「週刊朝日に記事」
同じアルファベットのつづりの方は要注意
No.2
「週刊朝日掲載 訴訟報告2」(東急VS藤久とはしていない)
訴状が届く、なんでなの?素朴な疑問を持つ
No.3
「週刊朝日掲載 訴訟報告3」(東急VS藤久とはしていない)
なんで?なんで?
No.4
「週刊朝日掲載 訴訟報告4」
正当判決を貰うために、マスコミさんの協力を・・
No.5
「週刊朝日掲載 訴訟報告5」
同じく、訴訟されているA社長と話す
No.6
「東急VS藤久の行方〜朝日新聞掲載」
勝った!新聞社から電話取材を受ける
No.7
「東急VS藤久 判決」
判決文を抜粋紹介
No.8
「東急VS藤久 で気づいたこと」
どんな会社なの?コンプライアンスを検証する
*ブログ記事にあるように、警告書の通知もなくいきなり
訴訟手続をとって、相手に応訴の負担をかけるというのは、
どういうつもりなのでしょうか。
商標管理、ドメインでのブランド保護は重要でしょうし、
シャネル社の方針と同様コツコツと訴訟をすることも必要
でしょう。
ただ、相手のあることです。正月に訴状の送達を受けるだ
けで一年の最初を汚されるようで、わたしだったら許し難
いきもちになりそうです。
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■追記(08/10/05)
企業法務戦士の雑感さんのブログ記事より
[企業法務][知財]東京の常識、地方の非常識