最高裁判所HP 知的財産裁判例集より

土地宝典事件(控訴審)

知財高裁平成20.9.30平成20(ネ)10031損害賠償請求控訴事件PDF

知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官      齊木教朗
裁判官      嶋末和秀

*裁判所サイト9/30公表

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■事案

法務局備付けの土地宝典(地図)の著作物性や国の無断複製行為性が争われた事案の控訴審

控訴人(一審被告)  :国
被控訴人(一審原告):不動産鑑定事務所ら

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■結論

一部変更

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■争点

条文 著作権法21条、民法719条2項

1 作成者から原告への著作権の譲渡の成否
2 国による著作権侵害行為性
3 作成者の黙示の包括的許諾の有無
4 不当利得の成否
5 損害論

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■判決内容

<争点>

1 作成者から原告への著作権の譲渡の成否

原審同様、本件土地宝典の著作権は、譲渡契約と同時に土地宝典制作者から一審原告へ移転したと判断されています。
(13頁以下)

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2 国による著作権侵害行為性

法務局窓口で土地宝典の貸出しを受けた不特定多数の第三者のした無断複製行為について、国はこれを幇助したとして法務局内のコインコピー機の設置管理をしていた民事法務協会と共に民法719条2項の共同不法行為者として損害賠償義務を負うと判断されています。
(14頁以下)

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3 作成者の黙示の包括的許諾の有無

法務局窓口での貸出しや第三者による複写行為について、土地宝典制作者による黙示の包括的許諾があったのかどうかが争点となっていましたが、原審同様、許諾の存在は認められていません。
(17頁)

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4 不当利得の成否

国や民事法務協会が土地宝典の複製行為によって民法703条の「利益」を得ていたかどうかについて、

(1)設置使用料

国は民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を得ていましたが、

当該使用料は,国有財産(建物の一部)を占有させたことによる対価の性質を有するものであって,使用許可を受けた民事法務協会が,コインコピー機を設置し,不特定多数の第三者に本件土地宝典の複製をさせることによって受けるコピー代金に関連して得たものではない(乙20)。
(17頁以下)

として、コピー代金と設置使用料の関連性を否定しています。

(2)コピー代金

また、民事法務協会が不特定多数の第三者から受けるコピー代金は、当該第三者によるコピー機使用の対価であって、土地宝典著作権使用料にかかわるものではないからそもそも民事法務協会についても土地宝典の複製行為によって民法703条の「利益」を得たとはいえないとしています。

結論として、被告の国は、原告の損失と因果関係を有する利益を得ていないので不当利得は成立しないとしました。

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5 損害論

原審では、使用料相当額の損害について侵害期間4年分として、1冊1年当たり1万円として120冊分120万円で損害額を積算していました(合計480万円)。
この4年のうち、1年6月は消滅時効成立による不当利得の損失部分として、また2年6月を著作権侵害の不法行為による損害として算定していました。
(原審50頁以下)

これに対して、控訴審では、不当利得が成立しない1年6月を除く2年6月部分全体で1冊1万円として120冊分120万円の損害を認めるにとどまりました(合計120万円)。
(19頁以下)

なお、弁護士費用も96万円から12万円に減額されてます。

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■コメント

原審同様、国の責任を肯定してます。

原審と異なるところは、大きく2点となります。

(1)侵害主体性
原審(設楽コート)では、国と民事法務協会の共同侵害を認め、国の共同侵害主体性を明らかにしていましたが、控訴審(飯村コート)では、民法719条2項の幇助行為の検討にとどまっています。

原審では、

各法務局がコインコピー機の使用に関し,民事法務協会と共に直接これを管理監督していたものと認められ,各法務局についても,不特定多数の一般人による本件土地宝典の複製行為について,単なる幇助的な立場にあるとみるよりは,民事法務協会と共に共同正犯的な立場にあるとみるのが相当である。
(原審45頁)

として、本件土地宝典の複製行為について、民事法務協会と国とが共同侵害主体であると評価されていましたが、控訴審では原告側のいわゆる「カラオケ法理」の適用によって被告の行為の侵害主体性を判断するべきであるとの考え(10頁)を容れず、民法719条2項で処理できる以上、侵害主体性の判断は不要と断じています(17頁)。

控訴審では、民法719条2項で教唆・幇助者は共同不法行為者とみなされて共同不法行為者と同様の責任を認められる以上、国自らが不法行為者であるか否かを判断する必要はなく、国が教唆または幇助した者であるかどうかを判断すれば足りるとしたうえで、国は違法複製がされないよう相応の対応を図るべき注意義務を怠った過失があるとして民法719条2項の共同不法行為責任が肯定されるという構成をとっています。

(2)不当利得の否定
不当利得の否定、損害額大幅減額の結果となっています。


損害賠償請求訴訟の事案処理として、いわゆる間接侵害論(著作権法112条1項の解釈論)などの侵害主体性判断に踏み込みませんでした。

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■参考文献

教唆・幇助による著作権侵害に言及する最近の論文として
山本隆司「教唆・幇助による著作権侵害の成否」野村豊弘・牧野利秋編『現代社会と著作権法 斉藤博先生御退職記念論集』(2008)261頁以下

不法行為法からの視点として
潮海久雄「著作権侵害の責任主体-不法行為法および私的複製・公衆送信権の視点から」同書203頁以下

演繹的な侵害主体評価の困難性について
平嶋竜太「著作権侵害主体の評価をめぐる議論について-私的利用領域の拡大と差止範囲画定の視点から」同書246頁以下 参照

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■過去のブログ記事

2008年02月05日記事
「土地宝典」事件〜著作権 損害賠償請求事件判決〜

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■追記08.11.27

参考文献

本山雅弘「地図の著作物性と規範的な侵害主体による不当利得の成否ー土地宝典事件」『L&T』41号(2008)110頁以下
作花文雄「行政機関における著作物の利用と権利侵害の様相」『コピライト』566号(2008)30頁以下

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■追記11.5.22

参考文献

時井 真「法務局から土地宝典の貸出を受け、法務局内の複写機で無断複製を行った利用者の行為につき、国に損害賠償責任等が認められた事例 −土地宝典事件−」『知的財産法政策学研究』31号(2010)163頁以下
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